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<概要>
 日本には2004年12月末現在で保障措置対象の研究用および研究開発段階にある原子炉(臨界実験装置を含む)が合計25基あるが、「常陽」、「もんじゅ」などを除いて一般に核物質の使用量や保有量が少なく、炉心に接近し易い施設が多いので、通常査察業務量は発電炉よりも少ない。保障措置は、計量管理と封じ込めおよび監視によって実施されるが、通常、物質収支区域(MBA)は施設当たり1つで、流れと在庫の主要測定点(KMP)は複数設定される。一般に、核燃料物質の外部との出し入れは少ない。特に、臨界実験装置の場合にはこれが顕著であり、燃料の燃焼が無いに等しいので燃料の組成変化も考えなくてよい。したがって、主な転用仮定は、施設内の燃料移動に伴うものと考えられる。しかし、高速炉臨界実験装置(FCA)のようにプルトニウムや高濃縮ウランの保有量の多い施設では、通常査察業務量が大きい。日本に対しては、2004年9月から統合保障措置が導入され、ランダムに選ばれた施設で、ランダムに選ばれた日に中間査察が行われるとともに、ランダムに選ばれた施設で棚卸し査察が行われるなどの変更が行われ、年間査察業務量の効率化が図られた。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 日本の原子炉等規制法では、試験研究の用に供する原子炉(試験研究用原子炉)および研究開発段階にある原子炉(研究開発段階原子炉)を「研究炉」として規制している。この研究炉には、後述の「臨界実験装置」が含まれている。しかし、IAEAの分類では、「常陽」、「ふげん」(2003年3月に運転終了)および「もんじゅ」は発電炉と同じ動力炉に分類されており、定常臨界実験装置(STACY)および過渡臨界実験装置(TRACY)は、溶液系臨界施設(SCF)として「その他」に分類されている。また、すでに役目を終えたJRR−2を含む3施設がまだ研究炉等として登録されている。本データでは、試験研究用原子炉と研究開発段階原子炉に該当する原子炉を、(1)臨界実験装置を除く「研究炉」と(2)「臨界実験装置」の2つに分けて説明する。
 2004年12月末現在、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の対象になっている研究炉および臨界実験装置は世界に160施設あるが、これら施設のほとんどがスイミング・プール型の原子炉である。同じく2004年12月末現在、IAEAの保障措置の対象になっている日本の研究炉は16施設、臨界実験装置は9施設で、合計25施設となっている。表1−1表1−2および表2に、それぞれの施設の内、実稼動中の施設の名称等を示す。研究開発段階原子炉として区分されている研究炉で、日本原子力研究開発機構が所有する高速実験炉「常陽」および高速増殖炉原型炉「もんじゅ」があるが、以下の説明ではこれら以外の研究炉等を中心に述べる。
1.研究炉の保障措置
 研究炉の多くは燃料体として、ウラン濃縮度が約90%の高濃縮ウランを含むアルミニウム−ウラン合金燃料を使用していた。しかしながら、この型の燃料は1977年に開始されたINFCE(International Fuel Cycle Evaluation)の結果に基づき、国の原子力研究開発機関の研究炉において濃縮度が20%未満の低濃縮ウランを含むアルミニウム−ウラン・シリサイド分散型燃料に置き換えられた(京都大学研究用原子炉KURは、2006年2月まで93%濃縮ウランを用いていたが、これ以降、低濃縮ウランに移行することとなっている)。研究炉の燃料として高濃縮ウランが使用される場合でも、通常、研究炉の出力は発電炉に比較してはるかに小さいので燃料の総在庫量も小さく、1有意量(SQ;用語解説参照)以下であることが多い。また、スイミング・プール型の研究炉では、測定・査察のために炉心を見たり、炉心に接近することが容易である。これらの状況から、可能性の高い転用仮定として、燃料集合体の移動があり、また隠蔽のための文書の偽造や移動燃料のダミーによる置換といった手段が考えられる。しかしながら、仮に炉心の全燃料が転用されれば、それは容易に探知できるし、また、それでも1有意量(SQ)にならない場合が多い。その他の転用仮定としては、例えば、熱出力が25MWを超える研究炉の場合、報告されない照射試料によるプルトニウムの生成等が仮定されるが、有意量のプルトニウムを生成するためには多量の親物質を照射する必要があるので、照射試料の炉心への挿入・取出しの監視等によって探知できると考えられている。したがって、この転用仮定に対抗するためのIAEAの手段は、封じ込め・監視手段を適用するか、あるいは燃料の使用状況を分析し評価することでもよいと考えられている。他方、日本原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR:50MW)のように出力の大きい炉並びに多量のプルトニウムを燃料に用いている「常陽」および「もんじゅ」では、核燃料物質の保有量が大きいので査察業務量はかなり大きい。詳細は、下記「統合保障措置」の項を参照のこと。
 研究炉の保障措置も、計量管理を基本とし、封じ込め・監視を補助手段として実施される。
(i)計量管理(Material Accountancy)
 物質収支区域(MBA)は通常1施設1区域であり、主要測定点(KMP)には流れのKMPと在庫のKMPがある。流れのKMPは核物質のMBAへの受入れ又は払出し等の経路での測定点であり、在庫のKMPは核燃料物質の貯蔵庫等での在庫量の測定点である。
(ii)封じ込め・監視手段(Containment and Surveillance:C/S)
 研究炉における封じ込め・監視の役割は大きい。
(iii)査察(Inspection)
 イ)IAEAによる国際査察:IAEAによる通常査察の回数と業務の内容および業務量については、施設の核物質保有量又は年間移転量に応じて、日本政府とIAEAとの「保障措置協定」および「補助取極」に従い、個々の施設については「施設付属書」で定められている。表3に通常査察の内容を示す。IAEAの査察は、協定により、原則として国内査察の観察を通して実施することになっている。しかし、現在のところ、これを実現するための諸条件が整わないので、IAEAは、国内査察と同じ内容の査察を、国の査察官と協力しながら、独自に実施している。とはいえ、改善のための努力が続けられており、その一例として、国とIAEAが査察業務を分担して同時に実施することで、査察に要する人手と日数を短縮すること、従って、施設の負担を軽減すること、が検討されている。
 ロ)国内査察:国内保障措置制度(SSAC)に基づく活動は次のとおりである。
・流れの検認では、帳簿の確認、在庫変動の確認並びに封じ込めおよび監視の確認を行う。
・実在庫の検認(棚卸し検認)では、単位体(燃料要素等)の在庫の全数を確認することによって、使途不明の核物質の有無を明らかにする。査察内容を表3に示す。
 ハ)査察結果と査察基準:査察の結果について、国内査察に関しては、国から施設とIAEAに対して査察結果通知書が送付され、一方、IAEAの国際査察結果については、外務省を経て文部科学省に送付される。なお、IAEAからの報告書は、査察結果と査察結果の評価の2部で構成されている。
 IAEAは、査察が効率的で効果的に実施できるように保障措置クライテリア(Safeguards Criteria 1991-1995)を持っており、これに基づいて査察計画を作成するとともに、査察結果を評価してきた。しかし、統合保障措置では、国毎の核燃料サイクルの特性を反映した国レベルの統合保障措置アプローチと、これと整合性のある施設タイプ別統合保障措置アプローチに基づいて、査察計画が作成され、査察が実施され、結果が評価される。
2.臨界実験装置の保障措置
 2004年現在、世界には約20余りの臨界実験装置がIAEA保障措置の対象となっているが、その中に日本の8施設が含まれている。
 臨界実験装置は、熱出力がほとんど無いので、研究炉と異なり、熱除去装置を持たず、また限られた照射・遮蔽設備しか持っていない。炉心は、燃料配置の融通性が高いように、また、燃料格子の配列が研究し易いように設計されているので、臨界実験装置は、接近し易い構造と燃料を持っている。臨界実験装置の1つのタイプでは、核燃料物質を金属被覆内に密閉した燃料小板又は燃料ピンをドロワー(引出状)に組立てたものを計量の単位体としている。もう1つのタイプでは、金属被覆管に燃料ペレットを詰めて密封し封印された燃料棒の形で使用して、これを計量の単位体としている。さらに、JMTRC(1995年に閉鎖)のように、研究・試験炉と同じ燃料体を使用しているものもある。臨界実験装置では、燃料の燃焼は無視できる程度であるので、燃料組成は実際上不変とされ、また、一般に、安全に取り扱える。そして、燃料の総在庫量は通常一定であり、外部との燃料移転もほとんどない。一方、研究上の目的から、炉心燃料の配置変更は頻繁で、移動もかなりある。したがって、保障措置上の問題は主としてこの時に生ずると考えられる。また、高濃縮ウランやプルトニウムを金属又は酸化物の形で多量に保有している施設、例えば日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(FCA)は、国内で最も注意を要する施設となる。
(i)物質収支区域(MBA)、主要測定点(KMP)並びに封じ込めおよび監視の設定
 臨界集合体は、普通、単一のMBAと考えられ、普通、次のKMPを持っている。
 イ)在庫KMP:燃料貯蔵室、原子炉室、集合体組立区域
 ロ)流れKMP:燃料受入れ、燃料払出し
 ハ)封じ込め・監視を行う枢要箇所と手段:
・封印:適用可能な場合の炉心又は炉心の一部、貯蔵室、セル、貯蔵カセット、バードケージ(*)、ドロワー、燃料集合体(*:鳥かごの形をした核燃料物質の容器)
・自動監視装置:集合体組立区域、ただし自動監視装置は自動カメラ又は自動テレビである。なお、FCAでは、組立てたドロワーを検認する放射線モニターを設けている。
・封印と自動監視装置:貯蔵庫への接近経路、炉心への接近経路
 なおFCAでは、核燃料物質の炉室からの出入りをモニターすることのできるポータルモニターおよび貫通孔を監視するペネトレーションモニターを開発した。
(ii)転用分析
 仮定した転用経路と隠蔽方法および発生する異常、並びにこれらに対抗するための査察活動についての例を表4に示す。
(iii)査察目標
 査察目標は、1SQの転用を適時に探知することであり、1SQの内容は、施設によって様々である。1SQ以上の不明量を探知する時間の限界値は次のとおりである。
・プルトニウムおよび高濃縮ウランについては1か月以内
天然ウランおよび低濃縮ウランについては12か月以内
(iv)記録および報告
・施設における記録:出所の裏付けのある計量記録と操作記録の作成
・在庫変動報告書:在庫変動が発生した月の末日から30日以内にIAEAに提出(国への報告は15日以内)
・物質収支報告書と実在庫明細表:実在庫の確認後、30日以内にIAEAに提出する(国への報告は15日以内)。実在庫の確認は年に1回行う。なお、実在庫の検認は、実在庫の確認の際に行うが、単位体の数が多いので、サンプリング技術の適用が必要であり、また、同一の単位体が重複して数えられるのを防ぐために、実在庫検認の間に封印その他の封じ込めおよび監視手段が用いられる。
(v)通常査察(Routine Inspection)の計画
 大量のプルトニウム又は高濃縮ウランを含む臨界集合体におけるIAEAの典型的な査察計画を表5に示す。IAEAが目安としている大型臨界集合体の実際の年間通常査察業務量は170〜280人・日であり、保障措置協定で認められている最大通常査察業務量は年間600人・日に達する。
3.統合保障措置
 追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、在来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されてきた。2003年の日本におけるIAEAの保障措置活動の結果、核物質の転用がないことおよび未申告の核物質並びに原子力活動がないことの両者について肯定的な結論が得られたことから、2004年9月に統合保障措置が導入された。
 研究炉および臨界実験装置に対する統合保障措置アプローチでは、保有する核燃料物質の種類と量に依存して、施設が4つのグループに分類される。グループ1は、1SQ以上の未照射直接利用物質を保有する施設で、プルトニウムおよび高濃縮ウランを利用する施設である。この施設の場合には、従来通り年1回の実在庫検認と月毎の中間査察が行われるので、年間査察業務量の効率化は実現しない。グループ2は、未照射直接利用物質の在庫は1SQ未満であるが、どれかの種類の核燃料物質で1SQ以上の在庫を保有する施設である。この施設の場合には、従来通りの年1回の実在庫検認の他に、このグループに属する施設の内から20%の確率で選ばれた施設で(但し、年1施設は必ず選ばれる)、ランダムに選ばれた日に中間査察が実施される。従来は、年3回の中間査察が行われていたから、査察回数の大幅な低減となる。グループ3は、いずれの種類の核燃料物質の在庫も0.5SQ以上、1SQ未満の施設である。この施設の場合には、このグループに属する施設の内から50%の確率で選ばれた施設で実在庫の検認が行われる。従来は、100%であったから、業務量が半減することになる。グループ4は、いずれの種類の核燃料物質の在庫も0.5SQ未満の施設である。この施設の場合には、このグループに属する施設の内から20%の確率で選ばれた施設で実在庫の検認が行われる。従来は、25%であったから、業務量は若干減ることになる。この区分とは別に、熱出力が25MW以上の研究炉については、年1回、ランダムに選ばれた日に中間査察が追加して行われる。なお、ランダムに行われる中間査察の場合、査察実施の通告があってから3時間以内に査察が開始される。
[用語解説]
 有意量(SQ:Significant Quantity)とは、1個の核爆発装置の製造の可能性を排除できない核物質のおおよその量で、プルトニウム:8kg、ウラン233:8kg、高濃縮ウラン(濃縮度20%以上):ウラン235の量で25kg、低濃縮ウラン(濃縮度20%未満):ウラン235の量で75kgと定められている。
<図/表>
表1−1 IAEA保障措置の対象となっている日本の研究炉(1/2)
表1−1  IAEA保障措置の対象となっている日本の研究炉(1/2)
表1−2 IAEA保障措置の対象となっている日本の研究炉(2/2)
表1−2  IAEA保障措置の対象となっている日本の研究炉(2/2)
表2 IAEA保障措置の対象となっている日本の臨界実験装置
表2  IAEA保障措置の対象となっている日本の臨界実験装置
表3 国内通常査察の内容
表3  国内通常査察の内容
表4 臨界実験装置の転用分析の例
表4  臨界実験装置の転用分析の例
表5 臨界実験装置の査察計画例
表5  臨界実験装置の査察計画例

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置の対象となる物質と施設 (13-05-02-03)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
核物質転用分析 (13-05-02-06)
保障措置の有効性評価手法の開発 (13-05-02-07)
軽水炉を対象とする保障措置 (13-05-02-08)
高速増殖炉を対象とする保障措置 (13-05-02-10)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック2000年版(2000年7月18日)
(2)核物質管理センター(訳):IAEA保障措置用語集2001年版
(3)核物質管理センター:保障措置セミナー資料集(平成元年)
(4)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF5 IAEA 保障措置−保障措置技術および測定装置−
(5)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF6 IAEA 保障措置−核燃料サイクル施設における実施−
(6)核物質管理センターニュース:核物質管理センターが発行する月刊ニュース
(7)核兵器の不拡散に関する条約第3条1および4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定並びに当該協定への追加議定書
(8)IAEA(編):Directory of Nuclear Research Reactors(1995)
(9)IAEA(編):Nuclear Research Reactors in the World(1996.12)
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