<本文>
1.高速増殖炉の保障措置の特徴
現在、国際原子力機関(IAEA)が対象としている高速増殖炉は
液体金属で冷却される原子炉であり、将来もこれが主体になるものと思われる。日本には現在、高速
実験炉として原子力機構(旧 サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))の「常陽」が稼働中であり、
原型炉「
もんじゅ」が1994年4月5日に初臨界に達している。高速増殖炉は典型的な単位体施設であるが、代表的な軽水炉や運転中燃料交換可能発電炉(CANDU、RBMK)との主な相違点は、新燃料や炉心燃料中のプルトニウム量がかなり多いことで、時には高濃縮ウランの量も多い場合がある。したがって、
放射線が少なくかつ多量のプルトニウムを含む新燃料の転用には特に注意が必要である。さらに保障措置上はそれほど重要でない
天然ウランや
劣化ウランが
ブランケット燃料として用いられる場合には、これらが
照射によって転換される結果プルトニウムが生成される。ここで生成されるプルトニウムは軽水炉内で生成されるプルトニウムよりも核爆発目的に向いているので注意が必要である。
運転中燃料交換可能発電炉と同様に、高速増殖炉も検認目的のために炉心に接近することができない。そのうえ、炉心から
使用済燃料貯蔵プールへの燃料の経路にも接近できない。
燃料集合体は遠隔自動操作で取り扱われ、長期にわたってナトリウム中に浸されているうえ、洗浄および乾燥後、缶に密封されて水プール等に貯蔵されるので、目視による直接確認が困難である。したがってこの燃料集合体を缶に入れる前に番号による単位体の同定を行う。
高速増殖炉の保障措置手法では、燃料集合体の員数勘定方式を基礎とし、封じ込めおよび監視手段を拡大使用することによって補完する。又、炉心等の接近困難区域(Difficult-to-access-area)への流入の前には核燃料の検認が必要とされ、その区域への流入と流出はフローモニターによって自動検認されるよう設計する。
普通、新燃料集合体は燃料加工工場で念入りに検認されてから、封印して原子炉に送られる。新燃料集合体の単位体員数勘定、同定および非破壊測定は、接近可能な新燃料取扱区域内で実施される。接近困難な区域については適切な封じ込めおよび監視手段を適用するとともに、フローモニターによる
核物質の流入と流出の検認が行われる。この場合運転記録(挿入・取出し、運転、装荷パターン)のチェックも適用される。使用済燃料は払出前に、視覚的又は無作為抽出法に基づく非破壊測定によって検認した上で払出コンテナ(輸送用キャスク)に入れ封印する。適時性目標(1か月以内)の要求から、使用済燃料よりも新燃料の方を頻繁に査察をする必要がある。また特殊核分裂性物質であるプルトニウムの在庫量が多いので、軽水炉や運転中燃料交換発電炉に比べて必要とされる年間査察業務量は、フローモニターによる軽減効果はあるものの、なお多い。
2.高速増殖炉実験炉「常陽」の保障措置
高速増殖炉実験炉「常陽」は発電炉ではないが、プルトニウム燃料を使用し、ナトリウムを原子炉冷却材として使用する高速炉であるので、炉内の燃料を直接検認することができず、研究炉を対象とする保障措置の枠外とされ、核物質を燃料集合体あるいはそれを缶に収容した缶詰単位で管理する単位体取扱施設として保障措置が適用される。また炉心を含む領域は「接近困難区域」の指定を受け、フローモニターを一方の手段とする二重の封じ込めおよび監視が適用されることになった。
2.1 物質収支区域(MBA)と主要測定点(KMP)の設定
施設全体を1つのMBAとし、4個の流れのKMP(1、2、3、4)と6個の在庫KMP(A、B、C、D、E、F)から構成される。新燃料はKMP-1で受け入れ、その後、新燃料貯蔵庫(KMP-AおよびKMP-E)を経て炉心(KMP-B)に装荷される。この場合、核物質の種類と量には受入れ時のデータが用いられる。炉心から取り出された使用済燃料は集合体ごとにその核的生成と損耗が計算コードで算出される(KMP-2)。使用済燃料は一体ごとに缶に封入されて使用済燃料貯蔵水冷却プール(KMP-C,KMP-F)に貯蔵される。一部の燃料は
照射後試験のため、隣接する照射燃料集合体試験室(FMF)に払い出される(KMP−4)。その払出し方法は使用済燃料を輸送用キャスクに収容してトラックで搬出する方法と「常陽」のキャスクカーからFMFのキャスクカーを経由してそのままFMFのセル内に移送する方法がある。各種の照射後試験を終了した燃料はFMF内で缶に封入された後払い出され、「常陽」の使用済燃料貯蔵水冷却プールに貯蔵される。「常陽」は実験炉であるため、炉心の核物質装荷量は少ないが、使用済試験燃料の出入りがあるので、適用される保障措置は、発電炉よりもむしろ複雑である。
2.2 査察
現在実施されている査察は、中間査察が月1回、実在庫検認が年1回である。
(i)中間査察
イ)帳簿検査:施設側報告データ(在庫変動報告)と査察側記録との整合性チェック、ソースデータのチェック等
ロ)現場検認:新燃料集合体の員数勘定(全数)および抜取りによる集合体の溶接部写真照合による同定検認(KMP-A)、炉心用新燃料集合体収納容器の封印確認および交換とブランケット用燃料集合体収納容器の密封状況確認(KMP-E)、使用済燃料集合体(缶内に収納)の員数確認(全数)、監視カメラのフィルムおよび封印の交換等を行う。
ハ)流れの検認:プルトニウム燃料加工工場から新燃料集合体を受け入れた直近の中間査察時にロ)で述べた写真照合が行われる。使用済燃料のFMFへの払出しには監視カメラでの監視あるいはドアバルブ蓋に取り付けた封印による検認が実施される。
(ii)実在庫検認(棚卸し査察)
中間査察時の作業の他に、抜取りで新燃料集合体の非破壊測定(NDA)による測定(KMP-E)、使用済燃料のチェレンコフ光の観察およびNDAによる
中性子および
ガンマ線の測定を行う。
また「常陽」と燃料集合体検査施設との間の専用孔を用いた使用済燃料の受け払いについては、その都度、仕切り板の査察用封印のカットと取り付けが査察官によって行われる。
(iii)フローモニター等による検認
炉内燃料を検認できないという接近困難区域の問題を解決するため、炉内に入る新燃料と炉内から搬出される使用済燃料の流れを放射線モニターと監視カメラを使って検認することがIAEAとの間で合意され、1991年から実施されている。このフローモニターによる炉内燃料数の検認システムの概念を
図1に示す。また使用済燃料の検認については、炉から取出された燃料が先ず貯蔵される燃料貯蔵水冷却プール1(KMP-C)ではチェレンコフ光測定法を、長期間貯蔵保管される使用済燃料貯蔵水冷却プール2(KMP-F)ではIAEAが開発中の中性子/ガンマ線計測法(GRAND-1)およびチェレンコフ光測定法を採用して検認することになった。
3.高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の保障措置
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の保障措置については、1989年IAEAに設計情報質問書(Design Information Questionnaire)を提出し、その後IAEAとの間で施設付属書(Facility Attachment)も合意された。
高速炉特有の接近困難な原子炉内燃料数の検認のため、入り口および出口に放射線ゲートモニターおよび燃料出入設備(EVTM)に放射線モニター等のフローモニターを設置し、監視カメラの併用による二重の封じ込めおよび監視の下に置くことにした。入口モニター等は接近困難区域への核燃料の流入前に、義務付けられている検認(NDA)を兼ねている。
このように「もんじゅ」の保障措置においては、「常陽」で開発された成果がおおいに利用されている。
4.統合保障措置
追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、在来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されている。しかし、プルトニウム利用施設の場合には、年間査察業務量の大幅な効率化は期待できないと言われている。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
軽水炉を対象とする保障措置 (13-05-02-08)
転換施設および燃料加工施設を対象とする保障措置 (13-05-02-12)
再処理施設を対象とする保障措置 (13-05-02-14)
放射性廃棄物中の核物質の測定技術 (13-05-02-16)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)
<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター(訳):IAEA保障措置用語集(昭和63年)
(2)(財)核物質管理センター:保障措置セミナー資料集(平成元年)
(3)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF6 IAEA 保障措置−核燃料サイクル施設における実施−
(4)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース:核物質管理センター発行の月刊ニュース
(5)(財)核物質管理センター:核兵器の不拡散に関する条約第3条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定並びに当該協定への追加議定書、核物質管理ハンドブック 2001年版(2001年6月)
(6)INMM日本支部:第12回 核物質管理学会年次大会論文集(1991年6月)