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<概要>
 核燃料とは、原子炉の燃料として使用する物質で、核分裂性物質とその親物質との総称である。天然に存在する核分裂性物質は235Uだけである。238Uと232Thは親物質である。中性子を吸収して、238Uはプルトニウム239Pu、241Puなど)等、232Thは233U等の核分裂性物質に核変換する。原子炉の型式により核燃料が異なる。すなわちウランの濃縮度、化学形態、被覆等が異なる。軽水型原子力発電所に用いられるウラン燃料の235Uの濃縮度は3〜4%程度である。核燃料は、ウラン鉱石の採掘、製錬、転換、濃縮、加工の各工程を経て、燃料体として製造される。封じ込め設備等による内部被ばくの防止、遮へい設備による娘元素及び使用済燃料からの放射線に対する外部被ばくの防止など被ばく防止の管理がなされている。
<更新年月>
2011年02月   

<本文>
1.核燃料の種類
a)軽水炉燃料(図1参照)
 代表的な発電炉である軽水型発電炉には、加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉BWR)の2種類がある。各々の炉の燃料は、3〜4%程度の低濃縮ウランを使用しており、その化学形態は二酸化ウラン(UO 2)である。燃料棒はUO 2粉末を焼き固めて成形したペレットを約4m長のジルカロイ合金被覆管に封入したものである。核燃料の濃縮度を高めて燃焼度を高く(高燃焼度化)することにより、原子炉の運転サイクルの長期化が可能になる。さらに、高燃焼度化によって燃料集合体1体あたりに発生するエネルギー量が増加すれば、使用済燃料の発生量を減らせるため、核燃料費の再処理コスト等を低減化することが可能になる。このような背景のもとに、核燃料の高燃焼度化が進められている。
b)混合酸化物(MOX:Mixed Oxide Fuel)燃料(図2参照)
 再処理によって回収されたプルトニウムから、二酸化プルトニウム(PuO 2)を製造し、UO 2と混合して製造した燃料である。原子炉の型によって235Uの濃縮度とPuO2の混合率も異なるが、軽水炉、新型転換炉(重水減速型炉)、高速増殖炉においてMOX燃料が利用される。
c)高温ガス炉燃料(図3参照)
 日本の高温ガス炉(黒鉛減速ヘリウムガス冷却炉)用の燃料は、仁丹粒のようなUO2粒子(燃料核、濃縮度:3〜10%)を低密度と高密度の熱分解炭素及び炭化ケイ素を組み合わせて被覆し、これに黒鉛粉末を混合しプレス成形した(燃料コンパクト)ものである。
d)研究炉燃料(図4参照)
 研究炉で使用される燃料は、それぞれの研究炉の目的、炉型、規模等に応じて、材料、形状、濃縮度等は多種多様である。高中性子束を得るため、以前は濃縮度90%程度の高濃縮ウランが使用されていたが、核兵器不拡散防止のための政策上の要請から高濃縮ウラン燃料が使用できなくなり、特殊な目的を持った研究炉を除いて、20%濃縮ウランを使用したアルミナイド燃料、あるいはシリサイド燃料へ転換している。
e)ガス炉燃料
 英国で開発され日本では最初の商用原子力発電所である、東海発電所のマグノックス炉(黒鉛減速炭酸ガス冷却炉)に使用されていた燃料で、濃縮度0.72%(天然ウラン)の金属ウラン棒をマグノックスと呼ばれる被覆材で覆ったものである。この燃料の改良型を使用した炉がAGRである。
2.核燃料の製造工程と再処理
 核燃料の原料は、金属鉱山の採掘と同様に、天然のウラン鉱床から採掘される。ウラン鉱石からの核燃料の製造は、精錬、転換、濃縮、再転換成形加工、燃料組立の各工程を経て行われる。これらの燃料体は原子炉及び臨界実験装置に装荷され、燃料燃焼度の均一化のための配置替えや、反応度余裕を得るために新燃料との交換が行われる。使用済燃料は再処理工程に送られる。
 再処理の目的は、使用済燃料中の核分裂性物質(ウランとプルトニウム)を、個別に高純度で回収すること、及び核分裂生成物などの放射性廃棄物を分離することの二つがあげられる。わが国の再処理施設における再処理工程の概要を図5に示す。この工程においては、それぞれの工程を放射線源とみなして、適切な安全管理が実施されている。
 核燃料サイクルは、鉱石の採掘から燃料体の加工、再処理及び最終処分を含む一連の流れであり、図6-1(BWR)及び 図6-2(PWR)のように示される。核燃料が原子炉で使用される以前の過程を、アップ・ストリーム(またはフロントエンド)、原子炉で使用されてから後の過程を、ダウン・ストリーム(またはバック・エンド)と称している。
3.核燃料の取扱いに伴う放射線管理
 核燃料の取扱いにおいては、核燃料から放出される放射線に起因する外部被ばくの防止と、放射性物質の経口または吸入摂取に起因する内部被ばくの防止を考慮する必要がある。したがって、核燃料の製造から燃料体の成型加工までは、管理区域のなかに設置されたセル、ケーブ、グローブボックスなどの封じ込め設備内で取り扱われる。
 核燃料の取扱いに伴う放射線管理の主な内容は、作業者に対する個人被ばく管理、管理区域外への持ち出し物品等の表面汚染の管理、作業環境中の線量率・空気中の放射性物質の濃度・施設内の表面汚染などの管理及び施設からの排気、排水に伴う放出管理などである。核燃料サイクル施設の安全管理を図7に示す。
 核燃料から放出される放射線の特徴を考慮した、放射線防護上の留意事項は以下のとおり。
a)新燃料中のウランは、半減期が長いこと、比放射能が低く放出される放射線のエネルギーも低いため、外部被ばくは特に問題とならない。体内摂取された場合は問題となるが、ウランの化学形態によっては、内部被ばくの影響よりも化学的毒性の方が問題となることがある。
b)プルトニウムは、プルトニウム自体からの放射線はさほど強くないが、中性子線による被ばくに対する管理、及びプルトニウムが壊変して生成されるアメリシウムから放出される放射線による被ばくに対する管理を考慮する必要がある。プルトニウムは比放射能の高いアルファ放射体であるため、内部被ばくによる影響が大きく、防護マスクや防護衣の着用による身体の防護管理と、空気中濃度や表面汚染密度のモニタリングによる作業環境の管理が厳重に行なわれている。
c)新燃料は透過力の弱い放射線しか放出しないので特別な遮へいは必要としないが、使用済燃料は透過力の強い放射線を放出し、また放射能濃度が高いため、輸送の際には、容器から透過した放射線(ガンマ線、中性子線)が管理基準以下になるように遮へいされた容器に入れられる。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
図1 燃料集合体の構造と制御棒
図1  燃料集合体の構造と制御棒
図2 ウラン燃料とMOX燃料
図2  ウラン燃料とMOX燃料
図3 高温ガス炉の燃料体(例:HTTR)
図3  高温ガス炉の燃料体(例:HTTR)
図4 研究用原子炉の燃料体(例:JRR-3)
図4  研究用原子炉の燃料体(例:JRR-3)
図5 再処理の工程
図5  再処理の工程
図6-1 核燃料サイクル図(BWR)
図6-1  核燃料サイクル図(BWR)
図6-2 核燃料サイクル図(PWR)
図6-2  核燃料サイクル図(PWR)
図7 核燃料サイクル施設の安全管理
図7  核燃料サイクル施設の安全管理

<関連タイトル>
高速増殖炉 (03-01-01-01)
試験研究炉用ウラン燃料 (04-06-01-04)
発電炉用ウラン燃料 (04-06-01-05)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)
BWRにおける高燃焼度燃料 (04-06-03-06)
PWRにおける高燃焼度燃料 (04-06-03-07)
ロシア型軽水炉(VVER)燃料 (04-06-03-08)

<参考文献>
(1)菅野 昌義:原子力工学シリーズ 原子炉燃料、東京大学出版会、(1976年)
(2)(社)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2010年版(2010年9月)
(3)日本原燃ホームページ:原子燃料サイクルの概要、再処理事業、
(2002年1年17日)
(4)日本原子力文化振興財団(編):原子力の基礎講座5、核燃料と原子炉材料、日本原子力文化振興財団(1996年3月)
(5)電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集」2011年版、第5章 [原子力発電の安全性](2011年1月)、

(6) 電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集」2011年版、第7章 [原子燃料サイクル](2011年1月)、

(7)(独)日本原子力研究開発機構:核不拡散のため世界に先駆けた研究用原子炉の低濃縮ウラン燃料化、http://www.aesj.or.jp/awards/2008/2008-131-132.pdf
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