<本文>
現在稼動しているまたは稼動予定の試験・
研究用原子炉に使用されている燃料をその材質から分類すると、ウラン・アルミニウム合金燃料、ウラン・アルミナイド−アルミニウムおよびウラン・シリサイド−アルミニウム分散型燃料、水素化ウラン・ジルコニウム燃料、ウラン酸化物燃料、ウラン−プルトニウム酸化物燃料、およびその他の燃料に区分される。以下に燃料の材質、形態等について述べるとともに、その特徴をまとめる。
1.ウラン・アルミナイド−アルミニウムおよびウラン・シリサイド−アルミニウム分散型燃料
素地がアルミニウムで構成されている板状燃料としては、かっては高濃縮度(濃縮度20%以上:45%、93%など)のウラン・アルミニウム合金が主流であったが、米国の低濃縮化政策の強い要請により、一部の研究炉を除いて、濃縮度20%のウラン・アルミナイド−アルミニウムまたはウラン・シリサイド−アルミニウム分散型燃料に替えられた。
高濃縮度から20%以下へ濃縮度を低減しながら、燃料の性能を維持するために、ウラン・アルミニウム合金(U-Al)燃料よりもウラン濃度を高くできるウラン・アルミナイド−アルミニウム分散型(UAlx-Al)燃料およびウラン・シリサイド−アルミニウム分散型(U
3Si
2-Al)燃料が開発された。製造方法も従来の溶解−鋳造−圧延プロセスから粉末冶金手法を用いた粉砕−混合−圧延プロセスに変えられた。
研究炉では、発電炉の
燃料集合体に相当するものを
燃料要素と呼んでいる。燃料要素は、1燃料要素あたり燃料板15枚から20枚で構成される。燃料板は、燃料心材をアルミニウム被覆でサンドウィッチにし、圧延加工したものであり、燃料の熱伝達を良くするため、板の厚さは約1.27〜1.52mmと極めて薄い。燃料心材には、寸法安定性、耐食性、組織安定性などから、U-Al、UAlx(ウラン・アルミナイド)、U
3Si
2-Al(ウラン・シリサイド)、U
3O
8などが用いられる。アルミニウムは、熱伝導度、展延性に優れていることおよび
中性子吸収断面積の小さいことから燃料心材の素地および被覆材に用いられている。
燃料要素の形状には、長方型、円環型、インボリュート型(渦巻状)などがある。平板長方型の分散型板状燃料要素の例を
図1(JRR-3M)および
図2(JMTR)に示す。円環型としては、1996年12月に閉鎖したJRR-2の円筒型燃料要素がある。また、特殊なインボリュート型燃料要素の例として、米国オークリッジ国立研究所にあるRI生産および材料照射を主目的とした大型研究炉HFIRの燃料がある。これは、93%濃縮U
3O
8-
Al分散型板状燃料を使用しており、渦巻形状の板状燃料で構成された円環型燃料要素2体を内外に組み合せて炉心を構成している(
図3参照)。炉心中央では、2X10
15n/cm
2・sの
熱中性子束および高速中性子束がそれぞれ得られる。オランダ・ペッテンにあるEURATOM所属の研究炉HFRでは、当初は93%濃縮U-Al合金板状燃料の長方型燃料要素が使用されてきたが、低濃縮化計画(RERTR)で20%濃縮ウランに変更されている。同種の高濃縮ウラン燃料は京大炉KURでも使用されていたが、低濃縮化計画に基づき2006年2月に運転を停止し、諸手続き・作業の後に文科省による諸検査に合格し、2010年5月から低濃縮ウランを用いた利用運転を再開した。
2.水素化ウラン・ジルコニウム合金燃料
日本原子力研究開発機構にある原子炉安全性研究炉(NSRR、300kW、パルス運転時23,000MW)は、通称TRIGAA型といわれ、GA社(米)が1950年代に開発した訓練、研究、RI生産用原子炉である。この炉の特徴は、燃料温度が上昇すると負のフィードバック効果が働き、上昇が過度の場合には炉が自己停止することである。これは、燃料に負の反応度温度係数を持たせる設計となっていることによる。すなわち、燃料に水素化ウラン・ジルコニウム合金が用いられ、この水素元素が、燃料温度の上昇とともに
中性子スペクトルを硬化させて熱中性子の漏れを増加させ、
核分裂反応を抑える。
ウラン濃縮度20%のU-Zr-H合金の円環状の
燃料棒を3本連結し、その上下に
黒鉛反射体を組み合せ、被覆材にはステンレス鋼を用い、燃料要素となる。
図4にNSRRの燃料要素を示す。近畿大炉(1W)および現在廃止措置中の立教大炉(100kW)と武蔵工大炉(100kW)にもこの燃料が使用されているが、パルス炉でないのでアルミニウム被覆の燃料である。
3.二酸化ウラン(二酸化プルトニウム)燃料
UO
2ペレットを積み重ねて棒状とした燃料棒または
燃料ピンは、研究開発段階の原子炉および臨界実験装置に広く用いられている。日本原子力研究開発機構の軽水臨界実験装置(TCA)およびすでに廃炉となった
原子力船「むつ」用原子炉(36MW)に使用されている。さらに、UO
2とPuO
2の混合酸化物(MOX)ペレットの形で、高速実験炉常陽(MK-III炉心:140MW)に使用されている。
図5に高速実験炉常陽の燃料集合体を示す。
4.被覆粒子燃料
この燃料は、研究炉用ではなく高温ガス炉(HTGR)用に開発されたものである。この燃料を使用する日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR、MW)が、試験研究炉の範疇に入るのでここに記述する。
この燃料は、上述の3燃料とは異なる形態をもっている。ウラン酸化物粒子(または炭化物粒子)を
核として高密度熱分解炭素(PyC)層および炭化珪素(SiC)層で三重に被覆し、つぎに、この被覆燃料粒子を黒鉛に埋め込んだ円筒状の燃料コンパクトを、黒鉛ブロックに装填して燃料体を作る。三重の被覆層が被覆管の役割を果たす。燃料粒子は、微球形(直径約1mm)をしているので、力学的にも強い構造となっている。この被覆粒子燃料は、すでに廃止措置がとられたFort St Vrain(米)やGA社(米)が開発中の
MHTGRに使用されている。
図6に高温工学試験研究炉(HTTR)の燃料体を示す。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
原子炉型別ウラン燃料 (04-06-01-03)
高速増殖炉燃料の実例(原型炉「もんじゅ」用燃料) (04-09-02-05)
JRR-2 (03-04-02-01)
JRR-3(JRR-3M) (03-04-02-02)
立教大炉(RUR) (03-04-03-01)
近畿大炉(UTR-KINKI) (03-04-03-02)
武蔵工大炉(MITRR) (03-04-03-03)
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック1995年版、日本原子力産業会議(1995年6月)
(2)日本原子力研究所研究炉管理部:JRR-3(改造炉)パンフレット
(3)日本原子力研究所大洗研究所:JMTRパンフレット(1996)
(4)G.F. Flanagan : Description of the High Flux Isotope Reactor and Future Upgrades, CONF-9505218, p.50(May, 1995)
(5)日本原子力研究所:日本原子力研究所原子炉施設の現状、1992年8月
(6)核燃料サイクル開発機構、高速実験炉「常陽」パンフ、p.17 (2003年6月)
(7)高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状−1996年、日本原子力研究所(平成8年10月)
(8)桜井文雄ほか:研究炉燃料の研究開発状況、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.285-304
(9)京都大学研究用原子炉KUR、
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/KURdiv/index.html, p.1