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<概要>
 国際熱核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)は、ITER理事会の下にITER機構が建設・運転等の実施主体となり、日本、米国、EU、ロシア、中国、韓国、インドの国内機関と連携して計画を進めている。ITERのトカマクを構成する主要機器は磁場コイル、真空容器、ダイバータ、加熱機器、ブランケット、遠隔保守ロボット等である。これらの機器の役割や性能等の概要を紹介する。
<更新年月>
2014年03月   

<本文>
 国際熱核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)は、ITER理事会の下にITER機構が建設・運転等の実施主体となり、日本、米国、EU、ロシア、中国、韓国、インドの国内機関と連携して計画を進めている。ITERのトカマクを構成する主要機器とその調達分担は図1に示すとおりである。この主要機器の概要を以下に示す。
1.磁場コイル
1)トロイダル磁場コイル
 トロイダル磁場(TF)コイルは、ドーナツ状のプラズマと鎖交するように配置され、高温のプラズマを閉じ込めるためにトロイダル(トーラス)方向に強い磁場を発生させるコイルである。ITERのTFコイルは、高さ14m、幅9m、重さ300トンの世界最大のD型コイルである(図2)。コイル導体は高い磁場を発生できる超伝導材ニオブ・スズ(Ni3Sn)を用い、導体電流68kA、最大経験磁場11.8テスラ(T)で設計されている。導体には、単位長さ当たり最大約80トンの電磁力がかかるため、900本の超伝導素線と522本の銅線から構成される撚線をステンレス(ジャケット)内に挿入した構造である。また、TF導体をD型に巻いていく時に、大きな電磁力を支持するためラジアルプレート(RP)と呼ばれるステンレス鋼の板の溝に導体は納められ、この巻線部がさらにステンレス鋼の構造物で補強される。ITERでは、参加各極の協力により、予備1個を含め、合計19個のTFコイルが製作される予定である。TF導体は、日、EU、韓、ロシア、米、中の6極が製作を担当し、日本はその25%(約5コイル分)を分担する。TF構造物は、19個全量を日本が分担し、TF巻線の製作とコイル一体化については9コイル分を日本が分担、残り10コイル分をEUが分担する。TFコイルの詳細な製造方法は文献2に示されている。
2)中心ソレノイドコイル
 中心ソレノイド(CS)コイルは図3に示すようにTFコイルの中心部に設置されたニオブ・スズ(Ni3Sn)の超伝導コイルである。CSコイルは変圧器の原理でプラズマの電流を流すためのコイルで、CSコイルが変圧器の1次巻線に、プラズマが2次巻線に相当している。ITERのCSコイルは、導体電流42kA、最大経験磁場13.5Tで設計されており、6個のコイルモジュールから成り立っている。1個のコイルモジュールの大きさは、外形4m、高さ2m、重さ115トンである。CS導体はTF導体と同様に超伝導素線と銅線から構成される撚線をステンレス(ジャケット)内に挿入した構造で、日本が全量の製作を担当し、この導体を米国に輸送してコイル巻線が製作される。
3)ポロイダル磁場コイル
 ポロイダル磁場(PF)コイルは、プラズマ断面の形状と安定性を維持するために水平に配置された円形のコイルで、ITERでは図4に示すように6本がTFコイルの外側に設置される。ITERのPFコイルは最大経験磁場6Tのため、TFコイルやCSコイルと異なりニオブ・チタン(NiTi)の超伝導コイルである。しかし、その直径は一番大きなコイルで26mある。このため、5本のPFコイルの巻線は、カダラッシュのITERサイトに建設された長さ257mのPFコイル建屋で行われる。
2.真空容器
 ITERの真空容器は、プラズマを閉じ込める容器であり、プラズマが生成されていないときは超高真空の状態になっている。真空容器は図5に示すようにD型の形状でTFコイルの内側に設置される。ITERのプラズマの大きさは高さ約7m、外径約16m、体積約800m3もあり、このプラズマを閉じ込めるための真空容器は高さ約11m、外径約19m、重さは5000トンに達する。容器は2重の壁から構成されており、その壁の間を冷却水が流れる。また、プラズマ側の壁には遮蔽ブランケットが設置されている。真空排気や計測器のためのポートは水平方向に17個、上部に18個、下部に9個設置されている。
3.ダイバータ
 ダイバータは、核融合反応を長い時間維持するために、反応の結果生じるヘリウム粒子や壁から混入する微量の不純物をプラズマから排出するために用いられる機器である。ダイバータは、粒子を排出しやすいように、プラズマを閉じ込める磁力線と交差する位置に設置されるため、その磁力線に沿って流入するプラズマからの熱や高エネルギー粒子を冷却する役割も担い、真空容器内に設置される機器の中で最も高い熱負荷にさらされる。ITERにおいては定常的に1m2当り10MW、プラズマの立ち上げ時などには最大20MWが機器表面に流入する設計である。軽水炉の燃料棒の表面最大熱流束が1m2当り1MW程度であることを考えると、ダイバータが処理すべき熱負荷は従来の工学機器より一桁も高い値となる。このように非常に高い熱負荷を処理するため、ITERのダイバータは図6に示すようなカセットに垂直ターゲット、ドームといった複数のプラズマ対向機器(プラズマに対面して用いられる機器)を設置する。日本はこれらのうち、最も熱負荷要求が高い、外側垂直ターゲットの調達(予備品6個を含め合計60個)を分担している。内側垂直ターゲットはEU、ドームはロシアが分担している。この外側垂直ターゲットの基本構造は、プラズマに面する表面をタングステン材の保護タイルで覆い、多数の保護タイルは中央部を貫通する銅合金製冷却管に接合され(この部分を受熱ユニットという)、約70度の加圧水の流動で冷却される。さらに冷却管の除熱性能を向上させるため、管内にねじりテープを挿入し、冷却水を旋回させて伝熱促進を図っている(文献3)。
4.加熱機器
 核融合反応を起こすためには、プラズマを1億度以上に加熱する必要があるが、その手段としてITERでは高エネルギーの中性粒子と高周波を用いることとしている。
1)中性粒子入射(NBI)装置
 NBI装置は、プラズマ温度よりはるかに高いエネルギーの中性粒子をプラズマ中に入射し、そのエネルギーをプラズマに与えて加熱するものである。ITERでは33MWの入射パワーを予定しており、このため2基のNBI装置を設置する。1基のNBI装置はエネルギー1MeV、電流40A(電流密度は200A/m2)の負イオビームを3600秒間生成する。装置の構成を図7に示す。まず、高電圧電源から絶縁導入器(HVブッシング)を介して、負イオン源と加速器に必要な電力を供給する。負イオン源は重水素負イオンを生成し、これを5段の静電加速器で加速して1MeVの重水素負イオンビームを生成する。ここまでは基本的に線形加速器と同じ原理であるが、強力な磁場によりイオンのままではプラズマに入射できないため、負イオンビームを中性化セルで中性ビームに変換してプラズマに入射する。詳細な状況及び日本の分担については文献4を参照していただきたい。
2)高周波装置
 高周波加熱装置は、電子レンジで食物を温めるのと同じ原理で、高周波の波でプラズマを加熱するものである。ITERでは周波数170GHzの電子サイクロトロン加熱による入射パワー20MW、及び40-55MHzのイオンサイクロトロン加熱による入射パワー20MWを予定している。電子サイクロトロン加熱装置の構成を図8に示す。高周波発振源であるジャイロトロン、高周波をプラズマ近傍まで伝送する伝送系、さらにプラズマにパワーを入射させる結合系(水平ポートランチャー)から構成される。日本はジャイロトロン8本と水平ポートランチャーを調達する。ジャイロトロン1本あたりの出力は1MWで、パルス幅は1000秒以上という仕様である。詳細は文献5を参照していただきたい。
5.遮蔽ブランケット
 ブランケットは、真空容器内にプラズマを取り囲むように設置され、中性子の運動エネルギーの大部分を回収・除熱するとともに、真空容器やコイルへの放射線を遮蔽し、さらに中性子を利用して燃料のトリチウムを生産する機器である。ITERでは、十分な除熱・遮蔽性能と電磁力耐久性をもつ遮蔽ブランケットを使用する計画である。 また、燃料の増殖機能と熱エネルギーの取り出し機能を持つ増殖ブランケットについては、モジュール規模の試験ブランケットで機能評価試験を実施する計画である。遮蔽ブランケットは、必要な分解保守や製作性を確保するため、全体で約420個のモジュールと呼ばれるユニットに分割され、真空容器に取り付けられる。モジュールは、概ね幅1.6m、高さ1.2m、厚さ0.45m、重さ約4トンである。モジュールは、プラズマに面する第一壁パネル(厚さ約0.1m)とその背後のステンレス鋼性の遮蔽ブロックから成る(図9)。第一壁パネルと遮蔽ブロックはボルトで固定され、必要に応じて真空容器内で交換できるような構造となっている。第1壁パネルは、除熱のための冷却管を内部にもつ銅合金の熱シンク材を、ステンレス鋼基板の前面に接合し、さらに熱シンク材の表面に、プラズマに対する保護材として、厚さ約10mmのベリリウムを接合する構造である。
6.遠隔保守装置
 ITERの運転が開始されるとダイバータ、ブランケット等、真空容器内に設置される容器内機器は核融合反応で発生する中性子により放射化され、人のアクセスによる保守作業は不可能となる。このため、容器内機器が損傷した場合には、ロボットによる保守が必要となる。遠隔保守ロボットは人に代わって高い放射線環境下で容器内機器の点検・検査・交換などの保守作業を行うツールであり、ITERではブランケット遠隔保守装置の調達を日本、ダイバータ遠隔保守装置の調達をEUが担当する。ブランケット遠隔保守装置のロボットは、真空容器に設置される二つのキー構造体に重さ約4トンのブランケットを0.5mm以下の精度で取り付ける必要があり、保守ロボットには、大型で大重量の構造物を高い精度で取り扱うハンドリング技術が要求される。ブランケット保守ロボットの構成を図10に示すが、保守ロボットは、真空容器内にリング状に敷設された軌道上を移動可能なビークルと、軌道回りに回転が可能で最大6mまで伸縮が可能なマニピュレータからなり、真空容器内の全てのブランケットにアクセスして交換作業を行うことが可能である。軌道は、ブランケットの交換保守時に円弧状に分割された軌道を保守ポートからドーナツ状の真空容器内に展開してリングを形成する。
<図/表>
図1 ITERの主要機器と機器調達の国際分担
図1  ITERの主要機器と機器調達の国際分担
図2 ITER TFコイルの構成
図2  ITER TFコイルの構成
図3 ITERのCSコイル
図3  ITERのCSコイル
図4 ITERのPFコイル
図4  ITERのPFコイル
図5 ITERの真空容器
図5  ITERの真空容器
図6 ITERダイバータの構成
図6  ITERダイバータの構成
図7 ITERNBI装置の構成
図7  ITERNBI装置の構成
図8 ITERの電子サイクロトロン加熱装置の構成
図8  ITERの電子サイクロトロン加熱装置の構成
図9 ITERの遮蔽ブランケット構造
図9  ITERの遮蔽ブランケット構造
図10 ITERブランケット遠隔保守ロボットの構成
図10  ITERブランケット遠隔保守ロボットの構成

<関連タイトル>
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
国際熱核融合実験炉(ITER)の概要 (07-05-03-01)
ITER計画の経緯−計画全体の経緯と日本の実験炉計画− (07-05-03-03)
ITER計画の経緯−工学設計活動における詳細設計− (07-05-03-04)
ITER計画の経緯−工学設計活動(延長期:1998-2001年)、コンパクトITER− (07-05-03-05)
ITER計画の経緯−最終設計− (07-05-03-06)

<参考文献>
(1)ITER機構:http://www.iter.org/
(2)核融合研究開発部門編集チーム:ITER超伝導コイル製作、エネルギーレビュー 2011-10 (2011) 60.
(3)核融合研究開発部門編集チーム:ITERダイバータダイバータ製作、エネルギーレビュー 2011-12 (2011) 54.
(4)核融合研究開発部門編集チーム:ITER NBI装置開発、エネルギーレビュー 2012-7 (2012) 52.
(5)核融合研究開発部門編集チーム:ITER高周波加熱装置製作、エネルギーレビュー 2011-11 (2011) 54.
(6)核融合研究開発部門編集チーム:ITERブランケット製作、エネルギーレビュー 2012-1 (2011) 50.
(7)核融合研究開発部門編集チーム:ITER用保守ロボット開発、エネルギーレビュー 2012-2 (2011) 52.
(8)文部科学省:http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/021.htm
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