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<概要>
 国際熱核融合実験炉ITER)は、大型トカマク装置(日本のJT-60、EUのJET)の次の段階の核融合研究開発を進めるために、1988年に日本、米国、EU、ソ連(当時)の4極の国際協力で開始した計画である。その後、新たに中国、韓国、インドが参加し、2007年にITER協定が発効してITER機構が創設され、南仏カダラッシュでITERの建設が開始された。
 ITERは実燃料である重水素(D)と三重水素(トリチウム、T)を用い、少なくとも約50万kW(熱出力)、300-500秒の本格的なDT燃焼を世界で初めて試験すると同時に、大型超伝導コイルブランケット、中性子工学など将来の核融合炉で必要となる全ての工学技術要素を総合的に試験することを目的としている。
 ITER計画の運営は、ITER計画の全体に係る事項はITER理事会で決定され、ITERの建設・運転等の実施主体はITER機構となっている。一方参加各極は、各々国内機関を設けてITER機構と密接に連携して計画を推進している。ITER計画では、建設活動の約90%に当たる機器は、国内機関が物納することが大きな特徴である。おおよその目安として、ITER機構側が機器・システムの設計、調達仕様、品質保証の責任を有し、各国内機関は機器を調達・試験する。その後、完成した機器はサイトに納入され、ITER機構側がトカマク組み上げ・試験・運転の責務を持つ。
<更新年月>
2014年03月   

<本文>
1.はじめに
 国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor:ITERと称す)は、プラズマ加熱入力とプラズマ中での核融合反応による出力が等しくなる条件、いわゆる、臨界プラズマ条件を実現している大型トカマク装置(JT-60(日本)及びJET(EU))と、発電を実証する核融合原型炉との中間ステップに位置する装置である。ITER計画は1988年に日本、米国、EU、ソ連(当時)の4極の国際協力で開始され、1990年まで概念設計活動(CDA)、1992年から2001年までは工学設計活動(EDA)が実施され、2001年7月に建設に必要な技術的準備は概ね完了した。その後、ITERの国際枠組みや建設サイトを決める政府間協議と並行してITER移行措置(ITA)の活動が進められた。この活動では、建設活動をスムーズに立ち上げるためのさらなる改良を含めた詳細な設計を進めるとともに、工場製作及び現地工事に必要な主要技術の確認を行い、発注仕様書の準備を進めた。また、ITA活動がスムーズにITERの国際研究機構に引き継がれるための準備、及び将来のリスクを低く抑えるための対策及び検討を進めた。
 政府間協議は2001年に開始され、途中から日本、米国、EU、ロシアに加えて中国、韓国、インドが参加して、協定、物品調達の分担と調達方法、プロジェクト運営、建設サイト、ITER国際核融合エネルギー機構長等の人事などが協議された。この協議において、日本とEUが建設サイトの誘致を強く希望したためその決定に時間がかかったが、2005年に建設サイトが南仏カダラッシュに決定した。この決定と同時に、幅広いアプローチ活動を日本とEUの協力で進めることも決まった。2006年11月、ITER参加各極の閣僚級による会合がパリ・エリゼ宮(大統領府)で開催され、ITERの35年にわたる建設・運転・利用・廃止措置の共同実施に関する協定の署名が行われ、2007年10月に発効した。これによりITER国際核融合エネルギー機構(ITER機構)が創設され、ITERの建設活動が開始された。
2.目的と基本仕様
 ITERは、実燃料である重水素(D)と三重水素(トリチウム、T)を用いた本格的なD−T反応により核燃焼プラズマを生成し閉じ込めるトカマク装置であり、その計画目標は次のように定められている。
(1)定常状態を究極の目標とするD-Tプラズマの制御された自己点火と長時間核融合燃焼を実証すること。
(2)核融合炉に必要な技術を統合されたシステムにおいて実証すること。
(3)核融合の実用化に必要な高熱流束機器、核工学的機器の統合的試験を実施すること。
 ITERは、上記のミッションを達成するため次の基本的考え方で設計が進められた。
(1)現代のトカマク方式で達成されているプラズマの諸性能に基づいて設計すること。
(2)慎重な工学的手法と、妥当なコストを両立させつつ、装置のプラズマ物理面の性能に最大限の余裕をもたせること。
(3)装置に対し、実現可能な最大限の実験上、運転上の融通性をもたせること。
(4)設計上の仮定、基礎を実証するために、関連するプラズマ物理及び工学関係の研究開発を実施すること。
 より具体的な目標を詳細技術目標と呼んでいるが、その内容は、
・核融合パワー増倍率(Q、核融合出力/外部からの加熱及び電流駆動用入力パワー)が10以上のD-T燃焼を300-500秒
・非誘導電流駆動を用いる Qが5以上での定常(連続)運転
・平均中性子束0.5 MW/m2以上、平均中性子フルエンス0.3 MWa/m2以上でのコンポネントの照射試験などである。
 ITERの運転計画は、初めの10年間を基本性能段階として、累積数千時間の核融合燃焼運転を予定している。その後10年間の高性能段階には、0.3 MW×年/m2程度の時間積分中性子照射量の核融合燃焼運転により、ブランケット材料やトリチウム生産などの試験を予定している。
 ITERの主要パラメータは表1に示すとおりである。図1には、ITER装置の本体鳥瞰図を示す。核融合出力(熱出力)は約50万kW、プラズマ電流1500万Aで核融合燃焼時間300-500秒である。プラズマの主半径6.2m、プラズマ中心でのトロイダル磁場強度は5.3 テスラ(T)である。核融合実験炉の設備は一般的に、炉心構造系(真空容器と容器内機器等)、超伝導コイル系、加熱系、燃料循環処理系、電源系、冷凍・冷却系、計測制御系、遠隔保守系、廃棄物処理系、サイト・建屋系より構成される。このうち、特に炉心構造系は遠隔保守の必要性から、組立分解修理系との整合性に重点をおいて設計されている。また、いずれの設備も大きくなるので安全性を損なわない範囲で経済的な設備の設計が必要である。
3.ITER計画の組織・運営
 ITER計画の運営は、ITER協定に基づき図2の枠組みで進められている。ITER計画の全体に係る事項はITER理事会で決定され、ITER理事会の下に科学・技術的な事項を議論する科学技術諮問委員会と運営に係る事項を議論する運営諮問委員会、及び財政監査委員会とテストブランケットモジュール事業委員会が設けられている。ITER理事会の下、ITER機構が建設・運転等の実施主体となる。2013年夏現在、専門職約300人、サポート要員約260人の職員構成となっている。一方参加各極は、各々国内機関を設けてITER機構と密接に連携して計画を推進している。
 ITER計画では、建設活動の約90%に当たる機器は、国内機関が物納することが大きな特徴である。おおよその目安として、ITER機構側が機器・システムの設計、調達仕様、品質保証の責任を有し、各国内機関は機器を調達・試験する。その後、完成した機器をサイトに納入すると、ITER機構側がトカマク組み上げ・試験・運転の責務を持つ、という流れになる。図3に主な機器の国際分担と我が国の分担を示す。2013年夏時点で、建設に必要な機器の8割を超える部分について既にITER機構と各極とで調達取決が締結され、各極の国内機関で機器製作が進められている。サイトの整備としては2013年夏時点でITER機構本部、ポロイダル磁場コイル組立建屋が完成し、トカマク本体建屋は土台の建設が開始されている(図4)。また図5に建設、運転スケジュールを示すが、建設に10年、運転に20年、運転終了後の除染作業等に5年を予定している。
(前回更新:2006年03月)
<図/表>
表1 ITERの主要パラメータ
表1  ITERの主要パラメータ
図1 ITERの概念図
図1  ITERの概念図
図2 ITER計画の国際的枠組み
図2  ITER計画の国際的枠組み
図3 ITER機器調達の国際分担と我が国の分担
図3  ITER機器調達の国際分担と我が国の分担
図4 ITER建設サイトと主な建屋の整備状況(2013年夏時点)
図4  ITER建設サイトと主な建屋の整備状況(2013年夏時点)
図5 ITERのスケジュール
図5  ITERのスケジュール

<関連タイトル>
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
国際熱核融合実験炉(ITER)の装置概要 (07-05-03-02)
ITER計画の経緯−計画全体の経緯と日本の実験炉計画− (07-05-03-03)
ITER計画の経緯−工学設計活動における詳細設計− (07-05-03-04)
ITER計画の経緯−工学設計活動(延長期:1998-2001年)、コンパクトITER− (07-05-03-05)
ITER計画の経緯−最終設計− (07-05-03-06)

<参考文献>
(1)特集 ITER工学設計、プラズマ・核融合学会誌78, Supplement (2002).
(2)下村 安夫:ITER建設に向けて、プラズマ・核融合学会誌 86 (2005) 143.
(3)核融合研究開発部門編集チーム:カダラッシュでITER進展、エネルギーレビュー 2011-9 (2011) 50.
(4)文部科学省ホームページ:http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/021.htm
(5)ITER機構ホームページ:http://www.iter.org/
(6)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1997年版、原産(1997年10月)
(7)山本 賢三:核融合の40年−日本が進めた巨大科学、ERC出版(1997年11月)p.271
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