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<概要>
 国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動における詳細設計で、1996年に、装置の基本設計、全体システムの機能予測、運転方式などの詳細がほぼ確定した。最終設計報告(1998年)に向けて、設計の鍵となる部分の確証試験のための技術開発も並行して進められ、さらに、核融合炉が潜在的に持っている安全上の利点を生かし、国際的な安全基準に適合する安全設計・安全解析がなされた。
<更新年月>
2014年03月   

<本文>
1.はじめに
 ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)計画の目的は、核融合が現実にエネルギー源となり得ることを実証することであり、ITERはこの目的を達成するための実験炉である。
 ITERの概念設計活動(CDA)は1988年から1991年まで実施され、核融合実験炉が概念として成立することが示された。引き続いてITERを実際に建設するか否かの判断を下すのに足る十分な技術的データの提供を目的とした工学設計活動(EDA)が進められた。判断に必要な技術データには直ちに発注できる詳細な設計図、建設に必要な資金とマンパワー、安全解析・評価、環境への影響評価、などが含まれる。工学設計活動のスケジュールとマイルストーンは、図1に示す通りであった。
 詳細設計(コスト評価、安全解析を含む)は、概要設計、中間設計に続く第三のマイルストーンであった。中間設計の段階までに装置の大筋を固め、詳細設計では、各極においてなされた中間設計のレビューを通じて得られたコメントを踏まえて設計を詳細化した。これを受けて、1998年7月に最終設計が確定した。
2.詳細設計の内容
 トカマク本体は、径36m高さ30mのクライオスタットの中に納められ、外側のコンクリート遮蔽を含めた総重量は約5万トンである。詳細設計における主要パラメータは表1に示す通りである。これらのパラメータは、プラズマの閉じ込め性能などの物理的要請と、構造体の熱負荷や電磁特性などの工学的要請とのバランスを考慮して定められた。
 装置全体及びトカマク断面は図2図3に示す通りである。コイルは全て超伝導コイルを採用する。プラズマを閉じ込めるための20個のトロイダル磁場コイルをドーナツ状に配置し、円環状の磁力線を形成する。7個のポロイダル磁場コイルが作る垂直磁場を介してプラズマを制御し、1個の中心ソレノイドコイルで誘導電流をプラズマ中に発生させる。コイルと真空容器には強力な電磁力負荷が加わるので、コイルと真空容器との結合は荷重を全体として均衡させるよう単純な構造をとっている。超伝導コイルを外気から熱遮断するために、本体部分をクライオスタット容器内に納め、クライオスタット容器を建屋中の地下ピットに設置する。地震国に建設される可能性をも考慮して、免震構造が採用可能な設計となっている。免震対策を講じた建屋断面図を図4に示す。
 1996年7月に提出された中間設計報告書に、ITERの建設サイトの要件(最低限必要な事項:土地の広さ、供給電力、冷却水など)と設計仮定(設計を進める上で必要な仮定;仮想的なサイトの諸々の条件)が提示されている。図5にサイトのレイアウト、表2にサイト要件、設計仮定を示す。
 コストについては、中間設計の段階で5850kIUA(1kIUAは1989年の1M$に相当)と算定された。
 詳細設計において装置の組み立て手順も含めた基本的な設計が確定した。しかし、若干の設計オプション(中心ソレノイドコイルの分割、ブランケットモジュールの取り付け方法、磁場調整用フェライト鋼の挿入)が未決定で残され、その後、関連研究開発を集中的に実施し最終設計にて確定された。
3.運転シナリオ
 放電シナリオは、現在のトカマク型装置の通常シナリオとほぼ同様である。誘導方式により、立ち上げ後プラズマ電流が一定値(16MA)に達し、ジュール加熱(電流による加熱)により温度が2千万度〜3千万度となった時点で最大100MWの外部加熱を加えると、Hモードに遷移し温度が上昇して自己点火する。更に所定の出力(最大1.5GW)が得られるまで燃料を補給して密度を上昇させる。出力の制御、停止などは燃料補給、不純物供給、外部加熱、ポロイダル磁場制御などを組み合わせて行う。
 重照射実験に必要な高中性子束を得るための高出力運転は、現存のトカマク装置で実現されているELMyHモード放電方式を採用する。現在までに蓄積されているデータベースから、この標準運転モードでは1.5GWで1000秒、1GWで8000秒の運転が可能であると予測されるが、定常運転のシナリオは、ブートストラップ電流(自発電流)を利用した負磁気シアの形成により実施することを計画している。
4.プラズマ性能
 ITERの達成できるプラズマ性能の評価は、パワー出力と燃焼時間に関する物理的分野と、運転の信頼性と炉内機器の寿命に関する工学的分野とでなされた。物理評価では、燃焼反応を支配する主プラズマの物理と、容器壁と強い相関を持つ周辺プラズマの物理について詳細な検討がなされている。前者についてはプラズマの温度と圧力を決める事項(エネルギー閉じ込め時間、プラズマ密度限界、ベータ値など)、後者についてはプラズマから流出する大量の熱の除去に関する事項(不純物流入、ヘリウム排気、放射冷却など)、の評価がなされた。また、工学評価では、プラズマ生成と維持のための磁場配位や熱流束制御の方策、プラズマ不安定性による熱及び電磁力の影響への対応と緩和の方策などの評価がなされた。
 プラズマの主たる性能の予測は、エネルギー閉じ込め時間が幾つかの無次元パラメータの単純なべき乗則により表すことができるとの仮定に基づいている。この仮定は完全電離の理想的なプラズマでは正しいことが理論的に分かっているが、現実のプラズマで成立するかどうかは実験による検証が必要である。ITERのサイズを表す無次元量(ジャイロ半径を単位として測ったプラズマ半径)を除いては、ITERを見込める範囲において無次元量での一連の実験(飛行機の風洞実験に相当)が既存の装置で進められ、その結果は高い信頼性をもってITERへ外挿できることを強く示唆している。
5.技術開発
 実機大のモデルを製作し機能を実証する確証試験の技術開発が設計と並行して進められた。これらは3分野7プロジェクトの研究開発で「7大工学R&D」と呼ばれている。実機大モデルの完成までには多くの段階がある。この技術開発ではそれを各極が分担あるいは協力しながら製作し、最終的に共同で試験を行う方式を採用したので、この活動は、複数国を跨ぐ複雑な共同製作事業(ITERの建設はそうなると予想される)の先駆的事業として、ITER実機の制作のプロジェクト管理の先例となる重要な役割を果たした。
 超伝導磁石コイルの分野では、中心ソレノイド・モデルコイルとトロイダル・モデルコイルについて、超伝導素線の開発から始めてITERの実寸導体の製作、交流損失、熱処理、品質保証等のR&Dプログラムの統合及び総合試験が行われた。炉内機器の分野では、真空容器セクター、ブランケットモジュール、ダイバータカセットの実寸原型モデルを製作し、要求される精度を実現するための製作技法の確立や、負荷に耐える機械的強度などに関する性能試験が行われた。遠隔操作の分野では、ブランケットモジュールやダイバータカセットを遠隔操作によって脱着できることを実規模で実証することを目的とした。遠隔操作機器には、放射化された機器と発生する廃棄物の安全な取り扱いを確実にする役割も課せられた。ITERの組み立てや機器交換に用いる遠隔操作の道具立てや操作手順は、ITER運転終了後の除染及び解体にも適用される。
6.安全解析
 ITERは参加極のいずれにおいても建設できる設計でなければならないとの合意があった。しかし、安全性あるいは環境保護については各極それぞれに固有の規制があり、その審査の指針・基準は必ずしも同一ではない。そのため、詳細設計においては最小の設計変更を行うことによって建設極の規制に適合できることを保証するよう、安全解析・評価が行われた。ITER設計の安全性に関する基本的な考え方はALARAの原則に従うこと、深層防護の考えに則った安全設計を行うこと、であった。具体的に設計を進めるための基準は、設計チームが各極の基準を参照して自主的に作成しそれに基づいた評価を行った。建設極が決定すれば、建設極の指針・基準に適合するように設計を合わせることとされた。ITERの燃料は気体であるので供給を止めれば炉は停止するし、燃焼持続の条件が厳しいことから異常事象が生じても自動的に燃焼反応は停止する。さらに、中性子による誘導放射能崩壊熱密度は、緊急冷却を要するほどには大きくならない。燃料であるトリチウム、壁から発生する放射化ダスト、冷却水中の腐食生成物などの可動性の放射性物質について、設計チームは平常運転中及び想定された事故シークエンスにおける流失量や放出量を評価し、国際的に受け入れられている勧告値の範囲内に十分納まるとの結論を得た。
 ITERでは構造材に既存の材料で実績のあるステンレス鋼と銅合金を使用する。これらは、現時点では未だ基礎研究の段階にある理想的な材料(バナジウム合金、SiCなど)に比べれば大きな崩壊熱と長い半減期を持つ放射化生成物を作り出すことになるが、ITERの運転条件では超長半減期を持つような放射性物質を生成することはなく、放射化した物質は約100年後には極めて低いレベルにまで減衰する。
(前回更新:2006年3月)
<図/表>
表1 ITERの主要諸元
表1  ITERの主要諸元
表2 ITER建設サイトの要件および設計仮定
表2  ITER建設サイトの要件および設計仮定
図1 ITER計画スケジュール
図1  ITER計画スケジュール
図2 ITERのトカマク本体部全体図
図2  ITERのトカマク本体部全体図
図3 ITERのトカマク断面図
図3  ITERのトカマク断面図
図4 トカマク本体建屋断面図
図4  トカマク本体建屋断面図
図5 ITERサイトのレイアウト概要
図5  ITERサイトのレイアウト概要

<関連タイトル>
国際熱核融合実験炉(ITER)の概要 (07-05-03-01)
国際熱核融合実験炉(ITER)の装置概要 (07-05-03-02)
ITER計画の経緯−計画全体の経緯と日本の実験炉計画− (07-05-03-03)
ITER計画の経緯−工学設計活動(延長期:1998-2001年)、コンパクトITER− (07-05-03-05)
ITER計画の経緯−最終設計− (07-05-03-06)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所 核融合計画室/那珂研究所(編):核融合炉をめざして、(1997年11月)
(2)日本原子力研究所:第23回核融合研究成果報告会(要旨・スライド集)、平成9年12月3日
(3)ITER EDA Documenntation Series,No.7,Technical Interim Design Report,Cost Review and Safety Analysis p.2-45-52 and p.2-107(1996)
(4)特集ITER 工学設計、プラズマ・核融合学会誌78, Supplement (2002).
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