<大項目> 基礎基盤研究および先端的研究
<中項目> 原子力利用分野拡大に関する研究開発
<小項目> 新概念の原子力システム
<タイトル>
低減速炉の技術開発の進捗と課題 (07-02-01-16)

<概要>
 低減速炉は、経験および実績が豊富な軽水炉技術をベースにして、炉心の燃料棒配列を稠密化して高速炉心化することによりウランからプルトニウムへの転換比の増大を図り、プルトニウムのマルチ(多重)リサイクルや増殖によるウラン・プルトニウム資源の格段の利用率向上を目指す原子炉概念である。従って、プルサーマルの次の段階のプルトニウム利用に柔軟性と効率性を与える選択肢であり、軽水炉技術に立脚しているために、比較的早期に低開発コストで実用化できる可能性も高い。一方、稠密な燃料棒配置を使用するため、除熱性能や正になりやすいボイド係数など、稠密炉心に関連した固有の技術課題を含んでいる。
 1990年代後半以降、日本の軽水炉メーカーや研究機関で積極的に研究開発が行われ、炉心設計の詳細化や稠密炉心での除熱性能の把握等の課題に関する技術開発が進展した。これまでの技術の進捗と研究開発上の課題について述べる。
<更新年月>
2007年08月   

<本文>
1.炉概念の特徴
 低減速炉は、将来の持続的かつ長期的なエネルギー供給の実現に貢献することを目指し、発電炉としての経験・実績が豊富な軽水炉技術をベースにプルトニウムのマルチリサイクルや増殖を可能にする原子炉概念として基盤的な研究開発が進められている(文献参照)。「低減速」という名称は、核分裂で発生する高速中性子の減速をできる限り低く抑える、という炉物理的な特徴に由来する。この点が、核分裂で発生する高速中性子を減速材兼冷却材である水によって十分に減速させて使用する通常の軽水炉と異なる点であり、その高速中性子の利用が天然ウランの大部分を占める238Uから核分裂性の239Puへの変換効率を高める方策となっている。このため、炉心内で中性子を減速させる効果を持つ水の割合を、燃料棒の除熱が可能な限界まで低減した稠密炉心概念が設計の基本となっている。図1に炉心の中性子スペクトルの比較を示す。現行軽水炉のスペクトルに現れる特徴的な熱中性子のピークは低減速炉においては現れず、ナトリウム冷却FBRに近づいた高速スペクトルを有している。
 また、炉心部分はこのように現行軽水炉とは異なって燃料棒が稠密に配置された高速炉心となっているが、炉心以外のプラントシステム部分についてはできる限り既存の軽水炉のものを活用し、新たな部分はその特徴である炉心を中心として炉内構造物や圧力容器までに留めることを基本的な設計上の考え方としている。このことから、研究開発対象は炉心関連部分に限定され、また研究開発項目も明確であり、研究開発に必要な投資や期間は他の新技術を駆使するものに比べて少なくて済むと期待されている。
 低減速炉の研究開発は、1990年代後半からわが国の軽水炉メーカーや研究機関において着実に進められており、それぞれに異なった幾つかの炉心設計概念が提案されるとともに、国の公募型研究テーマとしても採択されて各種の技術開発が進められてきた。また、それぞれの開発者によって低減速スペクトル炉や低減速軽水炉等の呼び名が使われることもある。
 なお、過去に実施された関連する研究として、軽水炉から高速増殖炉への効果的な繋ぎを行う新型炉との位置づけで1980年代に欧州や日本で進められた高転換軽水炉の研究があり、炉物理のみならず熱流動の分野でも多くの基礎的な研究がなされた。そこでは、軽水炉(主としてPWR)の炉心を単純に稠密・短尺化することによって比較的容易に0.9程度の転換比を実現する設計が得られるとの予測から出発してその可能性が検討されたが、単純な稠密化だけでは除熱やボイド反応度係数の悪化による制限等から高い転換比の達成が難しいことが示された。これに対して、持続的なプルトニウムリサイクルの達成を目指す低減速炉の研究では、その高い目標の実現のために炉心の大幅な変更も含めて新たな種々の炉心設計上の工夫がなされている。
2.炉心設計の概要
 低減速炉の設計においては種々の概念が提案されているが、炉心に対して以下に述べる2つの主要な設計目標を一般的に設定されている。まず、持続的なプルトニウムのマルチリサイクルを可能とするには、1.0以上の高い転換比を達成する必要が有り、これが第1の設計目標となる。また、現行軽水炉は、何らかの原因で出力が異常に増加したり燃料棒の除熱が異常に低下したりして発熱が除熱を上回るような状況になっても、自然に炉出力が低下するという安全上の観点から優れた特長を有するが、この特長を生み出す特性である負のボイド反応度係数の達成を低減速炉でも目指し、それを第2の設計目標としている。さらに、経済性向上の観点から、高燃焼度や長期サイクルの達成も重要であるが、これらを目指すためにプルトニウム富化度を増加させると、それによりボイド反応度係数や転換比を悪化させるというトレード・オフの関係が存在することから、それらのバランスを考慮した適切な設計を図る必要がある。
 このように、低減速炉心の一般的な設計目標は、1.0以上の高転換比と負のボイド反応度係数を同時に達成することである。高転換比の達成には、中性子の減速効果を持つ冷却材である水の割合を出来る限り少なくして高速中性子の割合を高くすることが重要であり、このために、燃料集合体において燃料棒を稠密な三角格子配列に配置するとともに、燃料棒の間隔は現行軽水炉に比べて大幅に狭めた1mm程度にしている。このほかに、太径の燃料棒を用いたり、BWR型炉心においては、冷却水を高ボイド率状態とすることなどにより、水と燃料の体積割合(Vm/Vf)を0.5以下に大幅に減少させる方策も併せて用いる場合もある。また、PWR型炉心では、冷却材として重水を使用して転換比の向上を図る概念も検討されている。一方、燃料棒の間隔は、冷却材である水による除熱上の限界等も考慮して決定しなければならない。この点で、冷却水中にボイドを含むBWR型炉心の方が、PWR型炉心よりも広い燃料棒間隔でも同等のVm/Vfを達成でき、低減速炉心の設計上においては有利な点となっている。
 また、負のボイド反応度係数を達成するためには、冷却材中にボイドが発生あるいは増加する状況において炉心からの中性子のロスが大きくなるような設計上の工夫が必要となる。このため、炉心を短尺・扁平にして中性子の炉心外への漏れを増加させる設計を基本とし、さらに、適切に配置した中間ブランケット等による中性子吸収を利用する方法、あるいは中性子がストリーミングによって漏れやすい炉心構造とする方法などが用いられている。しかし、転換比の増加を目指して炉心の稠密度を増加させたり、燃焼度を増加させたりすると、ボイド反応度係数は正に向かって増加する傾向を有し、これらのトレード・オフの関係が存在する点に留意して設計することが必要である。
 以上の基本的な設計方法を組み合わせて、上記の2つの主要な設計目標を満足させる複数の炉心概念がこれまでの研究で報告されている。BWR型およびPWR型炉心のどちらでも上記設計目標を基本的には達成可能ではあるが、これまでの結果として、BWR型炉心の方が単純な炉心構成で高い炉心性能が達成可能との知見が得られている。
 炉心概念の設計例を、参考文献(1)に基づいて図2に紹介する。その主要な特徴および性能を表1に示す。上述の2つの設計目標を同時に達成した1,356MWe大型BWR型炉心の概念で、プルトニウムのマルチリサイクル平衡状態を達成した設計である。図の左側が炉心全体の概念を示す鳥瞰図で、右側が1燃料集合体単位の断面図である。BWR型炉心概念であることを活用し、炉心部の平均ボイド率を70%まで高めて転換比の向上を図っている。燃料集合体は、外径13.7mmの太径の燃料棒217本が1.3mm間隔で三角格子状に配列され、それに最適な六角形のチャンネルボックスに納められる構成であり、その外側にY字型制御棒が燃料集合体3体にほぼ1本の割合で配置されている。各燃料棒には平均核分裂性プルトニウム富化度18%のMOX燃料と劣化ウランを使用したブランケットのペレットが図に示す高さ方向の構成で詰められている。すなわち、2か所に分けたMOX領域は各々高さが約20cmで、その間に中間ブランケット領域を設けた構成で炉心部を形成し、さらに上下にブランケット領域を付加して、全体の高さが1.3m程度の短尺な扁平二重炉心構造となっている。
 核分裂性プルトニウム残存比で定義した転換比は1.04で、ボイド反応度係数は負の値を達成している。中間ブランケットを含む炉心部の平均燃焼度は65GWd/tで、連続運転期間は15か月である。平均燃焼度をさらに高めた設計も可能ではあるが、その場合には低減速炉心特有のトレード・オフの関係によって転換比の多少の低下を余儀なくされる。
 本炉心概念に対しては、低減速炉の重要な検討項目である燃料の多重リサイクル性についても検討が行われている。燃料リサイクル性の検討に当たっては、どのような再処理法を想定するかが炉心特性に大きな影響を及ぼす。現在、再処理コストの大幅削減を目指してプロセスを単純化した先進的再処理法も種々提案されている。これらの中には、低除染再処理と呼ばれ、プロセスの単純化に伴って核分裂生成物(FP)やマイナー・アクチニド(MA)を含む燃料を生み出すものも存在し、この場合には炉心性能の低下も懸念されるが、低除染先進湿式再処理法の下でMAが全量リサイクルされる場合を想定しても、転換比1.03や炉心部平均燃焼度54GWd/tを達成する炉心設計が構築可能と報告されている。
3.関連する要素技術の研究開発
 低減速炉の開発に関連した主要な要素技術の研究課題とその現状は、以下の通りである。燃料棒の間隔1mm程度の稠密格子炉心における除熱の確保は、最も重要な課題である。これに関しては、実機と同じ高温・高圧下での除熱限界実験が数多く実施され、扁平二重炉心の出力分布を模擬した37本バンドルの大規模テスト部を用いた実験も実施されており、稠密炉心の除熱の可能性が確認されている。
 また、稠密な高富化度MOX炉心体系に対する炉物理実験データは非常に少ないことから、国内の臨界実験装置FCAやNCAを用いて低減速炉心体系を模擬した臨界実験が実施され、前者では高富化度MOX炉心体系が模擬された。得られた実験データを用いて核計算の精度評価等を行う核特性予測技術の開発が進められた。
 原子炉システムや安全に関しては、主要な過渡事象や事故事象等の安全性の評価が実施され、上記BWR型炉心概念ではABWRと同程度の安全性を有するとの評価結果が得られている。また、炉内構造物への中性子照射量評価や制御棒寿命の検討も実施され、特別の問題が無いことが確認されている。
 さらに、低減速炉の燃料棒は、現行軽水炉での使用範囲を超えて高速中性子束および燃焼度の遙かに高い条件で長期に亘って使用されることから、燃料被覆管はそれらに十分耐える能力を持つことが要求される。この被覆管候補材として、電力会社等により軽水炉用に開発が進められている改良ジルコニウム合金に加え、これまで研究開発が進められてきた強度の高いステンレス系高性能被覆管材に関しても被覆管材としての特性データの取得が行われている。並行して、高富化度MOX燃料の照射時のふるまいに関して、軽水炉燃料評価コードに改良を加えて燃料棒の温度履歴や内圧変化、被覆管の歪み量変化等の検討がなされているが、今後、評価結果を検証するための照射データの取得が必要である。
<図/表>
表1 大型BWR型炉心の主要諸元と特性例
図1 中性子スペクトルの比較
図2 大型BWR型炉心の全体概念および燃料集合体断面概略例

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
BWRの炉心設計 (02-03-02-01)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)
フルMOX-ABWRの炉心設計 (02-08-02-07)
高速増殖炉 (03-01-01-01)
低減速軽水炉の研究開発 (03-04-11-10)

<参考文献>
(1)大久保努、他:低減速炉の技術開発の進捗および課題、日本原子力学会誌、48[7]、484−489(2006)
(2)岩村公道、他:革新的水冷却炉「低減速軽水炉」の研究開発、日本原子力学会誌、45[3]、184(2003)
(3)竹田練三、他:エネルギー長期安定供給に対応した軽水炉の開発(I)−RBWRの主要諸元とエネルギー安定供給シナリオ−、日本原子力学会1994年秋の大会要旨集、G2(1994)
(4)K.Hibi,S.Shimada,T.Okubo,T.Iwamura,S.Wada:”Conceptual designing of reduced-moderation water reactor with heavy water coolant”,Nucl. Eng. Design,Vol.210,p.9-19(2001)
(5)石川信行、他(編):革新的水冷却炉研究会(第9回)に関する報告書、JAEA-Review 2006-020(2006)、p.17
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