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<概要>
 燃料ペレット内では、原子炉運転中に核分裂生成物(FP)が生じるとともに、ペレットは高温下で中性子照射を受ける。これにより、燃料ペレット内では、熱膨張、焼きしまり、FPガスの蓄積と放出、スエリングスウェリング)等が生じる。高い線出力の下では、熱膨張によりペレット・被覆管力学的相互作用(PCMI)が生じ、応力腐食割れ(SCC)等により燃料棒の破損が起こることがあり、これはペレット・被覆管相互作用(PCI)破損と呼ばれている。最近では、ペレットおよび被覆管の改良などによりPCI破損は減少している。
 このほか、燃焼の進行とともに燃料ペレットの形態および組織が変化し、燃焼の特性に影響を及ぼす。これについても以下に述べる。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
1.はじめに
 燃料ペレットは、直径10μm程度のUO2粉末を焼結した円柱状(直径8〜10mm、長さ約10mm)のセラミックスであり、ウラン235の濃縮度は軽水炉の場合3〜5%である。
 原子炉運転中に、燃料ペレット内ではウラン235などが核分裂し発熱するとともに、核分裂生成物(Fission Product:FP)が生じる。このFPを燃料棒内に閉じこめておくことが安全性の点から重要である。燃料ペレット内では、原子炉運転中にFPが蓄積するとともに中性子吸収により超ウラン元素が生成してくる。また、燃料ペレットは高温下で中性子照射を受けた結果、焼きしまり、熱膨張、FPガスの生成と放出、スエリングなどの変化が生じる。さらに、燃焼の進行とともに燃料ペレットの形態や組織が変化し、燃料の照射挙動に影響を及ぼす。
2.焼きしまり
 焼きしまりは、約10MWd/kgUの燃焼度(原子炉内での約1年の照射に相当)までの運転初期に、中性子照射により燃料ペレットが収縮する現象である。以前は、この焼きしまりによって、燃料棒内の軸方向ギャップの形成とギャップ部での被覆管のつぶれ(特にPWR燃料で発生)および径方向ギャップの増加による燃料温度上昇などの問題が生じた。現在では、ペレットの高密度化(理論密度の95%以上)と焼結温度の改良、予加圧型PWR燃料棒の採用などにより、焼きしまりに伴う問題は解決されている。
3.ペレットの熱膨張およびPCI破損
 UO2は熱伝導度が小さいため、高出力運転時にはペレット中心温度が高くなる。その結果、ペレットの熱膨張により径方向ギャップが減少し、ペレット−被覆管力学的相互作用(Pellet Cladding Mechanical Interaction:PCMI)が生じて、被覆管に応力が発生する。燃料の燃焼度が10MWd/kgU程度以上に達した照射環境で、腐食性のFPが蓄積した状態で燃料棒の出力を上昇させると、強いPCMIが発生する。その結果、腐食性物質などの作用により被覆管の脆性割れが発生し、燃料棒が破損(PCI破損)する。この破損機構は、被覆管の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)であると考えられており、SCCの腐食性物質としては、FPのヨウ素などが有力視されている。一部には、照射による被覆管の脆化、または、組織変化が原因であるという説もある。このPCI破損の防止対策として、燃料の改良(燃料棒の細径化による線出力の低減、チャンファあるいはディッシュなどのペレット形状の改良、ジルコニウムライナー付き被覆管の採用など)と原子炉運転手順の改良(ならし運転、Pre-Conditioning Interim Operating Management Recommendation:PCIOMR)などが実施された結果、PCIによる燃料棒破損の問題は実質的には既に解決されている。
4.FPガス放出およびスエリング
 核分裂生成物(FP)は、燃焼度の増加とともにペレット内に蓄積してくる。大別すると、希ガスFP、揮発性FP、固体FPに分類される。このうち希ガスFPはXe、Krなどであり、ペレット内で生成した後、ガス気泡を形成しながら移動し、ペレットの体積膨張(スエリング)に寄与することがある。ペレット外に放出されると燃料棒内圧を上昇させるとともに、ギャップ熱伝達率を低下させて燃料温度を上昇させるなど、燃料の挙動に大きな影響を与える。揮発性FPはI、Csなどである。化学的に活性な物質が多く、高温で移動しやすくギャップなどの低温部に到達する。この内、ヨウ素はSCCの有力な腐食性物質候補と考えられている。固体FPはZr、Mo、希土類元素、Ru、Tc、Rh、Pdなどであり、希土類元素やZrは酸化物としてUO2固溶体を作る。MoやRuなどの貴金属元素は合金を作って白色金属粒として析出している。このような固体FPはペレット内にとどまるため、ペレットの体積膨張(スエリング)に寄与する。燃焼度とスエリング、すなわち密度の減少との関係を図1に示す。燃焼度当たりのスエリング率は0.03〜0.07%/MWd/kgU程度(UO2の場合、1020f/cc=3.38MWd/kgU)と推定されており、したがって現行の燃焼度30〜40MWd/kgUではその寄与は小さい。
 FPガス(特に希ガスFP)がペレット外に多量に放出されると燃料棒内圧が上昇する。特に、非加圧燃料棒の場合、ギャップ熱伝達率を低下させて燃料温度を上昇させる。また、この温度上昇でさらにFPガスが放出され、さらに燃料温度を上昇させるフィードバック効果(サーマルフィードバック効果)が生じる。このような燃料温度の上昇は、ペレットの熱膨張、それに伴って発生するPCMIなど、燃料挙動に大きな影響を与える。また、原則として燃料棒内圧は原子炉運転時に外圧を超えないよう規制されているため、特に高燃焼度でのFPガス放出を抑制することが安全上重要である。BWR燃料棒およびPWR燃料棒の燃焼度とFPガス放出率との関係をそれぞれ図2および図3に示す。BWR燃料棒のFPガス放出率は燃焼度約20MWd/kgU以上で1〜20%のばらつきを示しているのに対して、PWR燃料棒のFPガス放出率は燃焼度約40MWd/kgUまでは0.5%以下と小さく約60MWd/kgUでも3%以下である。この差は、BWR燃料棒では初期ヘリウム圧が0.1〜0.3MPaであるのに対して、PWR燃料棒では初期ヘリウム圧は約3MPaと大きいので、燃焼の伴うFPガス放出によるギャップ熱伝達率の低下が小さいためと考えられる。いずれにしても、現在実用化されている燃焼度の範囲(30〜40MWd/kgU)では、FPガス放出が燃料棒の健全性に重大な影響を与えるという報告はなされていない。高燃焼度でのFPガス放出については、国際協力によるプロジェクト(バッテル計画)により最大燃焼度約70MWd/kgU(ピーク燃焼度83MWd/kgU)までのデータが得られている。また、高燃焼度でのFPガス放出を抑えるために、大粒径ペレットなどの改良ペレットの開発が行われている。
 希ガスFPがペレット内に蓄積した場合、ペレットのスエリングを引き起こすが、このFPガス・スエリングは、燃焼度、照射温度、外部拘束力などに依存する。また、FPガス放出とFPガスの再溶解によりスエリングは減少するが、現行の燃焼度においては、FPガス・スエリングによる問題は生じていない。
 このような原子炉運転中の燃料棒のふるまいを定量的に予測できるように開発されたのが、燃料挙動解析コードである。代表的な燃料挙動解析コードとしては、有限要素法を用いたFEMAXI-3、FEMAXI-4、FEMAXI-5、FEMAXI-6などがある。燃料棒のPCMI挙動、FPガス放出率などの予測を行うことが可能であり、公開コードとして広く用いられている。
5.リストラクチャリング
 UO2ペレットには燃焼の進行とともにペレットの割れと並び換え(リロケーション)、および粒成長が起り、ペレットの形態や組織が変化する。これを総称してリストラクチャリングと呼ぶ。このほかに、照射欠陥の蓄積に起因したリム組織の形成も広い意味ではリストラクチャリングという。これらの形態、組織変化による燃料の照射挙動について以下に述べる。
 照射中、UO2ペレットは核分裂により発熱する。一方、UO2の熱伝導率は高くないことから、ペレット内には大きな温度分布が生じる。この温度分布にしたがい当然熱膨張が発生し、円柱状のペレットの中心部が高温で周囲が低温であるため、熱膨張を拘束する熱応力が発生することになる。この熱応力により、ペレット内に割れが発生する。ペレットの表面が破壊応力に達するに必要な線出力は約33W/cmと評価されており、ペレットは照射開始と同時に割れ、その割れ数は線出力とともに増加することになる。ペレット中心温度が1,800℃の場合、温度勾配に沿った気孔の移動によって柱状晶領域が形成される。一旦ペレットに発生した割れは、1,250〜1,500℃以上の高温領域では消滅(ヒーリング)する。割れが消滅した領域でも、出力下降時にUO2の熱収縮による引張応力が発生し再度ペレットに周方向の割れが発生する。
 照射初期に割れたペレットの破片は、被覆管とペレットのギャップ部へ移動し、リロケーションが起こる。ペレット内に生じた割れ空間は、被覆管とペレットのギャップ部が詰ることによって相殺される形となる。ギャップの変化は、UO2ペレットの温度やPCIに大きな影響を与える因子となる。
 軽水炉燃料の通常運転時の線出力密度は、高くても300〜350W/cm以下で運転されており、ペレット中心温度は1,400〜1,500℃を超えるようなことはない。1,600〜1,700℃までの温度域では結晶粒の成長が起こり、等軸晶領域を形成する。これよりもかなり高い出力を経験した軽水炉燃料や高速炉燃料では、図4の模式図に描かれているような、燃料内の空隙(ボイド)が温度勾配に沿って中心に移動してできる中心空孔と、ボイドが移動した後にできる柱状晶領域が見られることがある。
6.リム組織
 平均燃焼度が35〜40GWd/t以上のペレット最外周部で顕在化する特異な組織変化を、その発生場所に因んでリム組織と呼ぶことがある。このリム組織の特徴としては、(1)製造時結晶粒の細粒化、(2)粗大化気泡(この気泡には高圧のFPガスが保持されている)の形成による気孔率の増加、の2つが挙げられている。
 このリム組織にペレット製造時には存在しなかったサブミクロンからミクロンサイズの粗大化した気泡が新たに多数生成し、ペレット外表面に向かってその数が増加している。 軽水炉燃料では、燃焼にともなって238Uの熱外中性子の共鳴吸収によりペレット外周部で239Puが局所的に蓄積する、いわゆる核的リム効果によって、リム組織の局所燃焼度がペレット平均値より高くなる。35GWd/tのBWR燃料では、ペレット最外周部の239Puの蓄積量は平均値の約2〜3倍に達している(図5参照)。そのためリム組織が顕在化するペレット平均燃焼度35〜40GWd/tにおける最外周部の局所燃焼度は、約2倍の70〜80GWd/tに到達している。
 リム組織形成による照射挙動への影響として以下の3つが挙げられる。
・FPガス放出の増加
・ペレットスエリングの増加
・熱伝導率低下による燃料温度の増加
 通常運転条件では、先に示したように再結晶化にともなって生成した粗大化気泡は互いに孤立していることから、リム組織の形成に起因したFPガスの放出はほとんどない。しかし、4.FPガス放出の項でも指摘したように、粗大化気泡内に保持されているFPガスは反応度事故時のようにペレット外周部温度が急激に上昇するような状況では、ペレットの割れにより一部のFPガスがリム領域から放出される恐れがある。
 光学顕微鏡およびSEM観察によるリム組織領域の気孔率として、10〜25%の値が得られている。PWRペレットで得られているペレット径方向の気孔率分布の測定例を図6に示す。
 以上述べてきたように、燃料ペレット内では複雑な変化が生じるが、被覆管の破損が生じなければ、燃料安全性の面からは問題は生じない。このため、燃料の破損を防ぐために燃料の種々の改良が行われてきた。国内のBWR燃料およびPWR燃料の改良の変遷についてはそれぞれ表1および表2に示す。1982年のIAEA会議で発表された、燃料設計の改良によって得られた燃料破損の低減結果(世界のBWRのデータ)を表3に示す。7×7型BWR燃料の破損率は1%程度であり、その改良型の8×8R型燃料(レメデイー燃料)および8×8RP型燃料(加圧型レメデイー燃料)の破損率は0.002%となっている。また、最近の燃料の破損率は、日本では0.0007%以下であり、海外の国に比べて極めて小さい値となっており、日本の燃料製造技術と品質管理の優秀性を示している。
(前回更新:1999年3月)
<図/表>
表1 国内におけるBWR燃料の改良の経緯と今後の展望
表1  国内におけるBWR燃料の改良の経緯と今後の展望
表2 国内におけるPWR炉心燃料の改良と進歩
表2  国内におけるPWR炉心燃料の改良と進歩
表3 設計の改良に伴う燃料破損の低減状況(IAEA会議1982年)
表3  設計の改良に伴う燃料破損の低減状況(IAEA会議1982年)
図1 燃焼度とスエリング(ペレット密度の減少)の関係
図1  燃焼度とスエリング(ペレット密度の減少)の関係
図2 BWR燃料の燃焼度とFPガス放出率の関係(日本製BWR燃料)
図2  BWR燃料の燃焼度とFPガス放出率の関係(日本製BWR燃料)
図3 PWR燃料の燃焼度とFPガス放出率の関係(FRAGEMA社燃料、フランス製)
図3  PWR燃料の燃焼度とFPガス放出率の関係(FRAGEMA社燃料、フランス製)
図4 高出力で照射したUO
図4  高出力で照射したUO
図5 BWRペレット径方向のPu濃度分布
図5  BWRペレット径方向のPu濃度分布
図6 PWRペレット径方向の気孔率分布
図6  PWRペレット径方向の気孔率分布

<関連タイトル>
ペレット製造工程 (04-06-02-03)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)
ABWR燃料 (04-06-03-03)
原子炉の出力変動時の燃料挙動に関する研究 (06-01-01-02)

<参考文献>
(1)(財)原子力安全研究協会(編集・発行):実務テキストシリーズ No.3、軽水炉燃料のふるまい、第4版(1998年7月)
(2)(財)原子力安全研究協会(編集・発行):実務テキストシリーズ No.3、軽水炉燃料のふるまい、改定新版(1990年7月)
(3)Y.Hayashi et al.:BWR Fuel Performance and recent R&D Activities in JAPAN,ANS International Topical Meeting on LWR Fuel Performance,Avignion(1991)
(4)P.Melin et al.:Behaviour of FRAGEMA Fuel in Power Reactor,ANS International Topical Meeting on LWR Fuel Performance,Avignion(1991)
(5)H.Stehle:Atomwirtsh Atomtech.,15,450(1970)
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