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<概要>
 燃料の破損を少なくするためには出力を一定にして運転することが望ましいが、原子力発電の経済性を増すためには、必要な電力を必要な時期に供給すること、すなわち負荷追従運転が望まれ、計画的な出力変動が必要になる。しかしこの変動は燃料棒PCI破損を生じやすくなり、燃料棒の健全性確保のためには重要な研究課題である。
 出力上昇時に起こる燃料のPCI破損を防止するためには、燃料棒の改良と運転モードに制限を課すことによって燃料の健全性を確保しているが、運転モードの制限は経済性を損なうので、耐出力変動性の良い燃料の開発が望まれる。
<更新年月>
2004年07月   

<本文>
 原子力発電の経済性を増すためには必要な電力を必要な時期に供給すること、すなわち負荷追従運転が望まれ、出力変動が必要になる。しかし、燃料棒の出力を上昇させると、燃料ペレットの熱膨張による被覆管の引張り応力が生じ、また腐食性FPのヨウ素が燃料ペレットから放出される。このため、被覆管は腐食性雰囲気中で引張り応力を受け、応力腐食割れが起こりやすくなる。このような条件下の燃料棒破損をPCI(ペレット・被覆管相互作用)破損と呼び、燃料棒の健全性確保のためには重要な問題である。
 応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)は、応力または腐食環境単独では被覆管が破損しない条件でも両者が共存すると破損に至る現象であり、応力腐食割れ防止のためには、応力または腐食環境の何れかが限界値を越えないようにすればよい。この限界値は材料によって異なるので、応力腐食割れに強い材料を選ぶのも有効な対策である。これらの理由により、燃料のPCI破損防止のためには、以下の3方法の内、少なくとも1つの対策を施せばよい。
(a)応力が少なくなる運転モードの選択、
(b)燃料ペレットと被覆管との間隙の腐食性ヨウ素濃度が少なくなるようにする、
(c)応力腐食割れ感受性の低い材料使用。
 現在行われているPCI破損対策は上記の何れもが対象となり、燃料棒の改良と運転モードの改善の2方法が施されている。
 燃料棒の改良では、UO2ぺレットにディッシュやチャンファー(図1参照)を施し、発生応力を軽減するようにしている。また、燃料棒を細く(PWR燃料集合体では17×17、BWR燃料集合体では9×9)して線出力を下げたり、ヘリウム充填ガス圧を高くすることによりギャップ熱伝達を改良し、ペレット中心温度を下げることも応力低減効果がある。
 被覆管では、SCC感受性の低い純ジルコニウムを内張りし、SCCを起こしにくくしている。図2は、純ジルコニウム内張りの有効性を示した実験例である。但し、内張りの被覆管が破損すると、耐食性の悪い純ジルコニウムが侵入した水で急速に腐食され、破損が拡大するという欠点がある。このほか、SCCを起こしにくい結晶集合組織にする方法が研究され、BWRでは純ジルコニウム内張り、PWRでは集合組織調整の被覆管を使用している。
 運転モードについては、出力を緩やかに上昇させることにより、UO2、ジルカロイ双方にクリープ変形を起こさせ、発生応力がSCCの限界応力を越えないようにする対策がある。一旦この運転処理を行うと、所定の出力に対応する被覆管変形が起こっているので、その後はその範囲内での出力変動速度を大きくとることができる。この運転処理をならし運転(PCIOMR:Pre−Conditioning Interim Operating Management Recommendation)と呼び、その具体的方法を図3に示す。しかし、この運転モードは経済性を損なうので、耐SCC性の強い燃料が開発できれば、採用したくない方法である。現在は、上述の燃料の改良によって、ならし運転の必要はなくなり、採用されなくなっている。
 負荷追従運転では出力変動の繰り返しが行われるが、繰り返しの影響を知っておく必要がある。図4は、予め20GWd/tまで定常(定出力)運転した燃料を日負荷(36〜18kW/m,110回)と自動周波数制御(36〜31kW/m,4万回)の運転し、定常運転を比較したものであり、影響を調べやすいペレットからのFPガス放出で示されている。サイクル初期は定出力運転で蓄積したFPガスが放出されて定常運転との差は大きくなるが、サイクル増加とともに差がなくなってくる。また新燃料(ベース照射なし)について通常運転と負荷追従運転を比較した場合を図5に示すが、両者に差は見られない。
 経済性向上のため、燃料の高燃焼度化によって使用済燃料の発生量を少なくする必要があるが、燃焼の進行とともに出力変動が燃料に与える負担が大きくなる。図6は出力急昇と燃料破損しきい値の関係に及ぼす燃焼度の影響を示したものであるが、燃焼度の増加とともに破損しきい値の低下が見られ、高燃焼燃料ほどPCI対策が重要になる。現在計画中の程度の負荷追従運転や燃料の燃焼度での燃料健全性は確認されているが、経済性改善のため、できればペレット、被覆管を含む燃料設計の一層の改良でSCC問題を解決することが望ましい。そのため、ペレットでは結晶粒を大きくしてFP放出を減少させたり、燃料棒の細徑化が行われている。BWRでは、高燃焼化のため、現行より細径の9×9の燃料集合体の実用炉での先行照射が1996年から始まったが、今後の取換燃料は全面的に9×9の集合体が採用される方向にある。PWRでも同様な傾向で17×17が増える方向であるが、15×15と17×17燃料集合体の寸法が異なるため、旧い炉では、細徑の燃料を使用できない。
 出力急昇問題に対する各国の取組みは一時期ほどの勢いはないが、各所で地道に行われている。日本ではJMTRのBOCA(沸騰水キャプセル)照射装置を用いて、BWR燃料の出力急昇試験を行ったり、外国の原子炉を利用して、改良燃料の照射試験を行っている。
<図/表>
図1 UO2ペレットの改良方法とその効果
図1  UO2ペレットの改良方法とその効果
図2 PCI対策候補燃料の出力急昇試験結果
図2  PCI対策候補燃料の出力急昇試験結果
図3 ならし運転(プリコンディショニング)の基本的ルール
図3  ならし運転(プリコンディショニング)の基本的ルール
図4 定常出力運転と負荷追従運転時におけるFPガス放出の比較
図4  定常出力運転と負荷追従運転時におけるFPガス放出の比較
図5 高燃焼度に至る定常運転時と負荷追従運転時のFPガス放出比較
図5  高燃焼度に至る定常運転時と負荷追従運転時のFPガス放出比較
図6 KWU社燃料の出力急昇試験時の破損しきい値
図6  KWU社燃料の出力急昇試験時の破損しきい値

<関連タイトル>
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)
ABWR燃料 (04-06-03-03)
燃料ペレットの照射挙動に関する研究 (06-01-01-01)

<参考文献>
(1)三島 良績ほか:軽水炉燃料のふるまい、原子力安全研究協会(1990)
(2)大久保 忠恒ほか(編):軽水炉燃料のふるまい、原子力安全研究協会(1998)
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