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<概要>
 世界には多種多様な研究炉(試験・研究用原子炉臨界実験装置など)が多数あり、その大多数が30年以上使用され、続々と廃止措置が行われている。廃止措置の方法はその国の方針、原子炉の構造、使用材料の種類等により様々である。わが国においては、これまで17基の試験・研究用原子炉と13基の臨界実験装置が建設・運転されており、そのうち、廃止措置完了・廃止措置中(検討中を含む))試験・研究用原子炉が10基及び臨界実験装置が9基ある。これまで実施された代表的な研究炉の廃止措置の例を示す。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
1.研究炉とその廃止措置
 原子炉は大きく分けて、発電を目的とした発電用原子炉とそれ以外の目的、例えば試験用、研究用、教育訓練用、RI生産用等を目的とした研究炉とに分類される。研究炉の分類方法は、使用目的、構造、使用材料、出力、設計担当社固有の名称等様々である。また、熱出力においても、ゼロWから十数万kW(百数十MW)の原子炉まである。
 IAEAの調査によると2015年現在、世界中で建設された研究炉は、約730基あり、その内、運転中が247基、停止したものが141基、廃止措置完了又は廃止措置中のものが340基ある。また、わが国には、17基の研究用原子炉と13基の臨界実験装置が建設・運転されており、その内、廃止措置完了・廃止措置中の試験・研究用原子炉が9基、臨界実験装置が7基ある。JRR-4、TCA及びTRACYは、2013年9月に高経年化、利用ニーズ等を考慮して閉鎖を決定し、現在、廃止措置計画を検討している(表1及び表2参照)。
 原子炉等の廃止措置に関する規制は、2005年12月の原子炉等規制法の改定により、廃止届から認可制に変更された。また、原子力学会が「試験研究炉及び核燃料取扱施設等の廃止措置の計画」に関する標準(改訂(2013年))を制定している。
2.研究炉の解体技術
2.1 施設特性と原子炉の分類
 原子炉の解体を行うにあたって、最初に原子炉構造の特徴、減速材及び冷却材の材料の種類、原子炉出力、運転履歴(燃料破損、汚染の有無を含む)、放射能量等が十分に調査される。この調査は「施設特性調査」と呼ばれ、この調査を基に機器の除染方法、設備・機器・建屋等の解体・撤去方法、解体工程、予算等が検討される。廃止措置の観点からみた研究炉の特徴を、原子炉構造と使用材料の種類に基づく分類に従い以下に示す。
2.2 原子炉構造の分類による原子炉解体の特徴
(1)プール型炉図1):軽水を満たしたプール内に炉心が設置されている型であり、世界の「研究炉」で最も多い型である。軽水により中性子が吸収されるため、生体遮へいコンクリートの放射化による汚染が低く、また、炉心構造材の交換が可能であることから、解体は容易で放射性廃棄物量も比較的少ない。
(2)タンク型炉(図2):容器内に重水又は軽水を満たしてその中に炉心を設置する型であり、中出力炉及び高出力炉にこの型が多い。重水を使用する炉はトリチウムが発生するため、密閉構造にする必要性からこの型となり、後の重水炉で述べるように、解体は難しく、廃棄物も多く発生する。
(3)タンク−イン−プール型:タンク型であるが、プールの中にタンク(原子炉容器)を設置し、タンク内を加圧した軽水で満たし、この中に炉心が設置されるため、近年はタンク−イン−プール型と呼ばれている。この型の原子炉は高出力であり、中性子束が高いことから、炉心構造物が照射損傷を受けるので、これらを容易に交換できるような構造としている。したがって、高出力であるが、次に述べる軽水を用いた炉でもあるため、解体は比較的容易である。
2.3 使用材料の分類による原子炉解体の特徴
(1)軽水を用いた炉:原子炉冷却材に純度の高い軽水を使用しており、先に述べたプール型、タンク−イン−プール型がこれに該当する。軽水が放射化されて発生する核種は、半減期が極めて短いため、原子炉解体に影響はなく、廃棄物としての処理・処分は容易である。また、軽水の中性子遮へいにより、生体遮へいコンクリートの放射化による汚染は小さい。したがって、軽水を用いた炉は高出力炉であっても解体が容易であり、出力あたりの廃棄物発生量は少ない。
(2)重水を用いた炉:原子炉冷却材及び中性子減速材に重水を使用している。重水の成分元素である重水素は中性子と反応して長半減期(約12.3年)のトリチウムを生成するため、重水炉は密閉構造のタンク型になる。トリチウムは生体遮へいに用いられるコンクリートに浸透するため、コンクリートはトリチウムで汚染される。このため、解体は難しく、また廃棄物量も多く発生する。さらに重水そのものもトリチウムで汚染されるため、取扱いが難しい。
(3)黒鉛を用いた炉:世界初の原子炉(CP-1)は、黒鉛を積み上げて臨界に達した炉である。臨界実験装置等の低出力炉が主であったが、ガス(炭酸ガスやヘリウム)を原子炉冷却材に用いる原子炉では高い出力が得られるため、発電用原子炉や高温ガス炉にも用いられる。また、黒鉛は、中性子反射効果及び減速効果が優れているため、黒鉛を用いた炉に限らず、プール型やタンク型炉の反射材や減速材に多く使用されている。黒鉛そのものは、エネルギーの低いβ線を放出するのみで、廃棄物は大量に発生するが、解体時の被ばく問題は小さい。
3.わが国の研究炉の廃止措置例
3.1 JRR-3の改造(一括撤去・遮へい隔離の例)
 日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所、以下、旧原研)のJRR-3は熱出力10MW、タンク型、天然ウラン燃料(後に低濃縮ウラン燃料に変換)、重水冷却・減速、黒鉛反射体の研究用原子炉である。JRR-3の撤去工事では、原子炉を放射線遮へい体と共に撒去する一括撤去工法が採用され、1986年2月に開始し、同年11月に終了した。重量約2300トンの原子炉本体は、原子炉建家に接して建設された大型廃棄物保管庫に移送された(図3)。JRR-3の原子炉本体が撤去された後、原子炉建屋内にプール型の新しいJRR-3M(20MW)を建設し、現在、共同利用施設として利用されている。
3.2 JPDRの廃止措置(解体撤去の例)
 旧原研のJPDRは、動力試験炉として開発され、1963年10月、日本初の原子力発電に成功した電気出力1.25万kWの沸騰水型炉であり、1976年3月に運転を停止した。将来の原子力発電所の廃止措置に必要な解体技術の開発と実地試験の施設とされ、旧科学技術庁(現、文部科学省)の委託を受け原子炉解体技術の開発が行われた。1981年度から研究開発に着手し、1996年3月に建屋の撤去と整地が完了した(図4)。解体によって発生した廃棄物量は放射性廃棄物約4,500トン、非放射性廃棄物約18,000トンであった。
3.3 原子力船「むつ」の解役(一括撤去・安全保管の例)
 原子力船「むつ」は、熱出力36MWの加圧水型炉を搭載した日本初の原子動力実験船であり、1974年8月に初臨界に達したが放射線洩れを起したため、遮へい体の改修工事を経て、1990年から出力上昇試験、数度にわたる洋上での出力上昇試験・実験航海を行い、原子動力実験船としての役目を果し1992年1月に解役された。
 「むつ」の解役は、1992年9月から開始され、まず岸壁で原子炉から使用済燃料と原子炉冷却材を撤去した後、原子炉を含む格納容器側部遮へい体の外側(原子炉建屋)を船体からの切り離した(図5)。原子炉と格納容器側部遮へい体の重量は約3,300トンあり、1995年6月、むつ港に隣接して建設された保管建家(むつ科学技術館)内に海上クレーンを用いて移送・保管され、現在一般に公開・展示されている。解役後の「むつ」の船体は、一般動力推進機関を搭載し、大型海洋観測研究船「みらい」として再利用されている。
3.4 JRR-2の解体(解体中原子炉の例)
 旧原研のJRR-2は、米国のCP-5型原子炉(重水減速冷却、高濃縮ウラン、タンク型、5MW)を原型としたタンク型、高濃縮ウラン燃料、重水減速・冷却、黒鉛反射体、熱出力10MWの原子炉である。1960年10月に初臨界に達した後、36年間にわたり共同利用され1996年12月19日に恒久停止した。
 JRR-2の解体は4段階に分けて工事が進められ、第1段階は1997年に着手してこの年に完了した。第2段階は1998年に開始して2000年3月に完了した。主な工事は、(1)一次冷却系重水のカナダへの搬出、(2)実験設備等の撤去、(3)原子炉本体の密閉措置、(4)高架水槽、冷却塔などの二次冷却設備撤去工事等である。第3段階では、(1)一次冷却系統機器類の除染試験、撤去、(2)使用済燃料プールの機器類撤去、(3)コンクリート等の試料採取、測定等が行われ、2004年3月に完了した。現在、原子炉本体は密閉措置をとった状態で維持管理され、原子炉建屋等は他の施設へ転用を進めている。
3.5 VHTRCの解体(解体中の黒鉛炉の例)
 旧原研は、1961年1月から黒鉛減速炉の炉物理実験に使用してきた半均質臨界実験装置(SHE)を、高温工学試験研究炉(HTTR)の核的安全性等の検証のため、1985年に炉心を改造して高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC、熱出力10W)として使用してきた。HTTRの臨界を機に閉鎖を決定し、2000年3月17日、解体届を提出、法改定に伴い2006年11月に廃止措置計画の認可を得ている。
 VHTRCの解体工事は、2段階に分けて行われた。第1段階は、原子炉の機能停止に係る措置、残存放射性物質評価のための試料採取を行い、計装装置、原子炉本体周辺の機器類、制御材駆動設備、原子炉本体の解体撤去を行って2001年3月に完了した。第2段階は、放射線遮へい体及び炉室建屋の解体撤去を行い、2009年度末に更地化して解体が完了した。
(前回更新:2009年1月)
<図/表>
表1 わが国の研究用原子炉の廃止措置
表1  わが国の研究用原子炉の廃止措置
表2 わが国の臨界実験装置の廃止措置
表2  わが国の臨界実験装置の廃止措置
図1 プール型炉の断面図
図1  プール型炉の断面図
図2 タンク型炉の断面図
図2  タンク型炉の断面図
図3 JRR-3の改造
図3  JRR-3の改造
図4 JPDR解体跡地
図4  JPDR解体跡地
図5 原子力船「むつ」の解役
図5  原子力船「むつ」の解役

<関連タイトル>
研究炉の概要 (03-04-01-01)
解体に伴う廃棄物の処理・処分の方法 (05-02-01-07)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
旧JRR-3(日本)の一括撤去 (05-02-04-08)
JPDRの解体 (05-02-04-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
JRR-2の解体計画と現状 (05-02-04-12)
武蔵工大炉のあゆみと廃止措置計画 (05-02-04-14)
原子力船「むつ」の解役と後利用計画 (07-04-03-01)

<参考文献>
(1)International Atomic Energy Agency Research Reactor Database Web Site:

(2)文部科学省 研究炉等安全規制検討会:試験研究用原子炉施設等の安全規制のあり方について(2005年1月)
(3)日本原子力学会標準:試験研究炉及び核燃料取扱施設等の廃止措置の計画:2013(AESJ-SC-A007:2013)2014年5月12日発行、

(4)原子力委員会:試験研究の用に供する原子炉施設の廃止措置に関する規制調査の結果について(2008年8月)
(5)日本電気教会新聞部:原子力ポケットブック 2014年版
(6)原子力施設デコミッショニング研究協会:原子力施設の廃止措置、科学技術庁
(7)日本原子力研究開発機構:原子力機構週報(2006年5月19日)
(8)中野正弘ほか:研究炉「JRR−2」廃止措置、デコミッショニング技報 第30号、p.11(2004年9月)
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