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<概要>
 JPDRは、電気出力12.5MWeの我が国初の原子力による試験研究用沸騰水型原子炉で、1963年10月26日に臨界になり、1976年3月18日に運転を終了した。この間、我が国初の原子力発電炉として、運転保守の経験、各種の試験研究、燃料の照射試験、原子力発電の技術者の養成等を通じて、我が国の原子力発電の発展に貢献してきた。初期の役割を終えたJPDRは、国の方針により将来の商業用発電炉の廃止措置に備え解体撤去されることになった。この解体撤去では、作業者の受ける線量当量の低減等安全性の一層の向上を図るとともに費用の軽減を図る観点から、解体技術、除染技術、遠隔技術等を中心に既存技術の実証・改良及び新技術の開発を進めている。
<更新年月>
2001年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 我が国における原子炉の廃止措置の在り方及び対策については、1982年6月に原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」の中に、その基本計画が示された。それによると、運転を終了した原子炉は、敷地を原子力発電用地として引き続き有効利用するという考えにたって、運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則としている。その対策として、実際に原子力発電所の廃止措置が必要となる時期までに技術の向上、諸制度の整備を図るものとし、この一環として、既に役割を終えたJPDRを対象として、将来の原子力発電所の廃止措置において活用し得る解体技術の開発と実地試験を行うという方針が示された。日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))では、前述の方針に基づき、1981年度から約10年計画で科学技術庁(現文部科学省)の委託を受けて、原子炉の解体撤去に必要な技術の開発とその技術を適用したJPDRの解体実地試験を進めてきたが、諸般の事情により15年計画となった。 表1−1 および 表1−2 に解体実地試験の全工程を示す。
 JPDRの解体は、大きく二段階に分けられ、まず第一段階では原子炉の解体に必要と考えられる技術分野全体をカバーし、トータルシステムとしての原子炉解体技術の確立を目指した技術開発を行った。第二段階では開発した解体機器を実際にJPDRの解体に適用して解体実地試験を行う計画であり、1994年現在、開発した解体機器を使用して解体が進行中である。
 (1) 原子炉の解体に必要な技術開発項目
 a.解体作業を安全かつ経済的に行うために、計算処理により解体作業を体系的に分析評価する解体システムエンジニアリング
 b.解体作業を安全かつ円滑に行うために、原子炉施設のどの部分にどれだけの放射能が残留しているかを評価する内蔵放射能評価技術(この技術は解体、除染計画の立案及び廃棄物管理の基礎データとなる)
 c.解体作業着手前に、原子炉一次系の配管にどれだけの放射能が残留しているかを、配管を切断することなく評価する配管系内部放射能測定技術
 d.被ばく管理上、作業者が直接接近できない原子炉本体部を解体するための遠隔解体工法・解体機器システム
 e.作業者の被ばく低減及び資材の有効利用を図るための解体関連除染技術
 f.解体廃棄物の処理、保管及び処分技術
 g.解体で大量に発生する放射性廃棄物の区分管理測定装置及び作業雰囲気でのダスト濃度測定装置等の放射線管理技術
 h.多関節マニピュレータ式水中ロボット技術
 (2) 解体実地試験
 1986年12月4日からは、これら開発した技術を実際の原子炉解体に適用して第二段階の解体実地試験を開始した。 図1 にJPDRの解体で中心となる原子炉格納容器の断面を示す。
  a.解体の進捗状況
 解体を開始するにあたり、まず一日あたり200人程度の作業者が管理区域へ出入りできるよう管理区域出入室の拡張整備と仮設の出入室を準備作業として行った。これらの準備作業と並行して、解体作業は、原子炉圧力容器上蓋や原子炉周辺機器の解体から開始した。
 原子炉格納容器内では、原子炉周辺機器、炉内構造物、圧力容器接続配管、圧力容器および放射線遮へい体の解体、ならびに格納容器内のコンクリートの除染を終了し、1994年現在は残存汚染がないことを測定により確認中である。また、ダンプコンデンサ建家内の機器等の解体も解体着工と同時に開始され、現在当該建家内では、解体経験からさらに高度化すべき技術の試験中である。また他の建屋内における解体作業も、順調に進行し、ほとんどの建家のコンクリートの除染が終了している。
  b.現在までの主要な解体作業
  (a)ダンプコンデンサ建家内の機器撤去
   解体に伴って発生する解体廃棄物を一時保管する場所を確保するため、解体着工と同時に、この建家内機器の解体を開始し、機器の撤去は1987年12月に終了した。解体作業場所における線量当量率は、自然バッククランド程度と低いので作業者が解体物に接近して直接作業を行った。解体に使用した切断機器は、気中プラズマアーク切断機、ガス切断機、バンドソー等の一般的なものを使用した。機器撤去跡は、解体廃棄物の一時保管のほか、解体後機器除染作業、金属溶融試験等に利用した後、現在は前述の高度化試験を行っている。
  (b)原子炉周辺機器の撤去
   原子炉本体等は高放射化されているため、開発した種々の遠隔操作による解体機器で解体される。これらの解体機器を設置する場所を確保する目的で原子炉周辺機器の撤去作業は、解体開始の当初から行われた。最初に保安上必要な設備のみを残して解体撤去を行った。原子炉圧力容器上蓋も、この作業の一環として解体撤去した。その他の主要な撤去物は、強制循環ポンプ、非常用復水器、原子炉停止時熱交換器のポンプ、各種一次系ポンプ及び配管等である。これらの解体作業場所における線量当量率は、最大の場所でも0.1mSv/h以下であるので、作業者が解体物に接近して直接作業を行った。解体に使用した切断機器は、前述のダンプコンデンサ建家内機器の撤去で使用した物と同じく一般的なものである。なお、いずれの作業においても空気汚染が生ずる可能性のある作業では、ガス拡散防止カバー(グリンハウス)内で作業者は防塵マスクを着用して作業を行った。
  (c)燃料貯蔵建家内機器の撤去
   燃料貯蔵建家内機器の撤去は、撤去作業を一期及び二期に分けて行った。一期の作業は、この建家を高放射化廃棄物を収納した遮へい容器の一時保管場所として使用する目的で行った。したがって、撤去作業は、炉内構造物等の解体作業の進捗に支障のないよう1988年当初から開始し、同年8月に終了した。一期の作業は、プール内機器の撤去と遮へい容器を保管するためプール内を除染し乾燥し整備することである。主な撤去機器は、使用済燃料チャンネルボックス75体、燃料貯蔵ラック等のプール内機器及びプール設備に関連する系統機器である。線量当量率の最も高い解体物はチャンネルボックス(最大3mSv/h)であり、これを四分割に切断し厚さ235mmの鋳鉄製遮へい容器一個に収納した。この切断作業は、遠隔操作による水中プラズマアーク切断で行った。残りの解体撤去作業(二期作業)は、1991年下期に行った。
  (d)格納容器内のプール内機器の撤去
   格納容器内の燃料貯蔵プールは、炉内構造物の一次切断場所及び一次切断した炉内構造物を容器に収納する場所として利用する計画である。このため、プール内機器の撤去作業は、原子炉圧力容器内から炉内構造物を切断撤去する作業に先だって行った。このプール内には、使用済燃料を貯蔵するための本来の設備・機器等のほか、既に原子炉圧力容器内から搬出されていた制御棒、ライザー中枠、気水分離器等の一部の炉内構造物も保管されていた。本来の設備・機器、ライザー中枠及び気水分離器等の比較的線量当量率の低い機器は、ガス拡散防止カバー内で、エアラインマスクを着用した作業者が気中プラズマアーク切断法で切断を行った。制御棒、サンプルクーポンハンガー等の高放射化機器は、遠隔操作による水中プラズマアーク切断法で切断を行った。これらの切断片は、水中で遮へい容器に収納した。切断した機器の最大表面線量当量率は制御棒で10Sv/hであり、遮へい容器の表面最大線量当量率は0.25mSv/hであった。
  (e)炉内構造物の撤去
   図2 にマスト型ロボットを用いた炉内構造ぶつの切断概念を示す。炉内構造物の撤去は、圧力容器内が狭いため圧力容器内では一次切断(粗断)し、圧力容器につながる水路(キャナル)を通して使用済燃料プールに移動した後プール内で二次切断(細断)を行った。一次切断装置には、開発した7関節7自由度を有するマニピュレータ式ロボット及び5自由度を有するマスト型ロボットを使用し、水中プラズマアーク切断工法で切断を行った。いずれのロボットも極めて良好な作業性能を示した。1989年9月中旬には、すべての炉内構造物の解体撤去を終了した。
  (f)原子炉圧力容器接続配管の撤去
   図3 に圧力容器胴部切断の概念を示す。原子炉圧力容器には、放射線遮へい体の貫通口を通して種々の口径の配管が接続されている。これらの配管切断は、炉内構造物の撤去に引き続き1989年9月から12月の間に行われた。切断は、一部の12インチ及び 4インチの配管には開発したディスクカッター切断装置を、一部の 3インチ以下配管には開発した成型爆薬工法を使用した。その他の配管には、気中プラズマアーク切断工法を使用した。
  (g)原子炉圧力容器の撤去
   図3に圧力容器胴部切断の概念を示す。原子炉圧力容器の切断は、原子炉圧力容器接続配管の撤去に引き続き行われた。圧力容器胴部は、線量当量率が高いため圧力容器と放射線遮へい体の間に水槽を設置し、水中アークソー切断工法で切断した。下鏡部は、線量当量率が約0.2mSv/hと低いため三階フロアでガス切断及びバンドソーで切断した。胴部の切断は、圧力容器の円周に沿って垂直方向に8分割(フランジ部のみ9分割)、水平方向に8分割し、全体で65片に切断した。これらの作業は、水槽の設置を含め1990年2月から9月にかけて行われた。
  (h)タービン建家内機器の撤去等
   圧力容器の解体と並行して、タービン建家内機器の撤去を1990年6月から開始した。 (3) 今後の計画
 廃棄物処理建家内の機器の撤去は、原子炉周辺機器の解体と同様の方法で行われる。格納容器内では、放射線遮へい体高放射化部をダイヤモンドカッターとコアボーリングを組み合せた機械的切断工法と水ジェット工法でブロック状に切断して取り出し、低放射化部は制御爆破で放射能レベル毎に層状に解体することとしている。すべての機器が撤去された後に、建家の除染を行い汚染のないことを確認した後に建家は一般の建家と同様の方法で解体する。
<図/表>
表1−1 解体実地試験の全工程
表1−1  解体実地試験の全工程
表1−2 解体実地試験の全工程(続)
表1−2  解体実地試験の全工程(続)
図1 JPDR原子炉格納容器の断面
図1  JPDR原子炉格納容器の断面
図2 マスト型ロボットを用いた炉内構造物の切断概念
図2  マスト型ロボットを用いた炉内構造物の切断概念
図3 圧力容器胴部切断の概念
図3  圧力容器胴部切断の概念

<関連タイトル>
研究炉の廃止措置 (05-02-04-01)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
JRR-2の解体計画と現状 (05-02-04-12)

<参考文献>
(1)火力原子力発電所技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(平成2年6月)
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