<本文>
原子炉施設の解体では、放射性廃棄物として取扱う必要のない多量の廃棄物(クリアランス対象物)に加え、低レベル放射性廃棄物が、比較的短期間の解体作業で大量に発生する特徴を有している(
表1)。これらの解体廃棄物の処理・処分は、放射能レベル区分に応じて安全かつ合理的に実施することを基本方策としている。JPDRの解体廃棄物の処理・処分の流れを
図1に示す。また、東海発電所
廃止措置で発生する廃棄物の処理の概念フローを
図2に示す。わが国における低レベル放射性廃棄物の処分概念を
図3に示す。
1.クリアランスレベル以下の対象廃棄物
原子炉施設の解体対象物の設置場所、使用履歴等から、
放射性物質による汚染のないもの、又はクリアランスレベル以下の対象廃棄物は、一般の産業廃棄物と同等の処理・処分が可能であり、有効利用できるものにあっては再利用も可能である。コンクリート解体物の場合には、破砕処理して埋立材、路盤材、コンクリート用骨材などに再利用する方法が考えられる。また、金属、機器類の場合には、再利用またはそのまま再使用することが考えられる。これらの処理・処分を円滑に行うためには、材料別に適切に分別しておく必要がある。
原子炉等規制法の改正(2005年5月)により
クリアランス制度が導入された。東海発電所の廃止措置では、解体物の一部(金属)を原子力産業界で再利用する計画が進んでいる。
2.極低レベル放射性廃棄物
原子炉施設解体廃棄物のうち、極低レベル放射性廃棄物に区分されるコンクリート等の廃棄物は、そのまま容器に固形化せずに処分することができる。この場合の処分施設は、人工構築物を設置しない簡易な形態で埋設を行う浅地中処分(素掘りトレンチ処分)とすることができる。その安全確保の考え方は、埋設処分した廃棄物の放射能は、時間の経過に伴って低減することから、その放射能レベル等に応じて廃棄物の管理を行う段階管理の考え方が適用される。極低レベルの場合、管理期間は、埋設した廃棄物に起因する
被ばくが低い
線量となるまでの期間として設定することになり、50年程度内に管理を終了する。この段階管理の内容は、以下のようなものである。
(1)埋設段階:放射性物質の生活環境への移行を抑制し、監視する必要のある段階
(2)保全段階:廃棄物を掘り返すなどの特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階
日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構)の試験研究炉である動力試験炉(JPDR)の解体から発生した廃棄物のうち、極低レベル放射性廃棄物であるコンクリート1,670トンは、埋設実地試験として「素堀りトレンチ処分」された(
図4)。この処分では、埋設を1996年3月に終了し、保全段階の終了は2025年を予定している。その後は管理を必要としない。
3.低レベル放射性廃棄物
原子炉施設解体廃棄物のうち、低レベル放射性廃棄物に区分される廃棄物は、運転中に発生した廃棄物と同様に、ドラム缶に安定化処理(固形化、又は開口部の密閉等の処理(固形化が困難な場合))をして浅地中処分することとなる。固形化処理にあたっては、液体状、粉体状(焼却灰など)および粒状(イオン交換樹脂等)の廃棄物をセメント、アスファルト又はプラスチックを用いて容器に固形化する方法が採られる。また、固体状の廃棄物は、容器にセメントを充填する方法により固形化する必要がある。
なお、わが国では、フランス、米国等で解体・撤去廃棄物等に用いる大型容器等を参考に、5m
3容器等を検討中である。
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターでは、
原子力発電所の廃止措置に伴い発生した解体廃棄物も人工構築物(
コンクリートピット)に受け入れられる(コンクリートピット処分)。この処分における安全確保の考え方としては、放射性廃棄物に含まれる放射能が時間の経過に伴って減衰し、放射能レベルが安全上支障のないレベル以下になるまでの間、
人工バリアと周辺土壌等の
天然バリアを組み合わせた段階的管理を行い、人間の生活環境から放射性廃棄物を隔離する。このピット処分では、4段階の段階管理が行われ、約300年で管理を終了する。この段階管理の内容は以下のようなものである。
(1)第1段階:放射性物質が外へ漏出することを防止し、監視する必要のある段階
(2)第2段階:放射性物質の生活環境への移行を抑制し、監視する必要のある段階
(3)第3段階:廃棄物を掘り返すなどの特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階
(4)第4段階:処分された廃棄体は、放射性物質として拘束を考慮しない、
放射性核種の閉じこめ性能は考慮せず、特定行為の禁止等の措置を必要としない無拘束段階
4.放射能濃度の比較的高い廃棄物
原子炉施設解体廃棄物のうち、炉内構造物等の放射能濃度の比較的高い廃棄物の埋設施設として、台地の地表面から約100m程度の深さに設けたトンネル型あるいはサイロ型のような地下空洞の内部にコンクリート構造物を設置し、廃棄物を収納して埋め戻す余裕深度処分の形態が考えられている(
図5)。この処分に関し大型廃棄体による埋設概念が検討されている。この大型廃棄体の概念を
図6に示す。余裕深度処分対象廃棄体の製作方法については日本原子力学会の標準委員会で検討中(2007年7月現在)である。
この余裕深度処分の形態に係る調査として、日本原燃では、次期埋設施設本格調査を六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター近辺で実施し(
図7)、2006年3月に終了した。
埋設施設は、一般的な地下利用に十分余裕を持った深度(例えば地表から50〜100m程度)に設け、廃棄物の搬入時には廃棄物からの
放射線管理、定置作業中には人工バリアの健全性確認、埋め戻し後には、環境への移行の監視などを行う必要がある。また、このような管理の期間は放射性物質の濃度の減少を考慮して、数百年行う必要がある。なお、廃棄物の発熱による処分施設に与える影響については、放射能濃度を考慮しても特別な対策は必要がないものと考えられている。
なお、
原子力安全委員会は、「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る濃度上限値について」(21/5/2007)を承認したので、炉規制法施行令第十三条の九に記載する埋設処分(トレンチ、ピットおよび余裕深度処分)における重要核種の濃度上限値に対し、線量換算係数等の新知見を取り入れた推奨値が提示された。。(注:原子力安全委員会は
原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射性廃棄物 (05-01-01-01)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状 (05-01-03-21)
原子力施設の廃止によって発生する大量の放射性廃棄物の処理処分対策 (05-01-04-06)
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)
<参考文献>
(1)原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会報告書:現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物処分の基本的考え方について(1998年10月)
(2)原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会報告書:低レベル放射性廃棄物の安全規制に関する基本的考え方について(1985年10月)
(3)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂9版 原子力安全委員会安全審査指針集、「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」、大成出版(1998年7月)
(4)原子力規制関係法令研究会(編著):原子力規制関係法令集2006年版、大成出版(2005年11月)
(5)伊藤真一、吉森道郎:解体廃棄物の管理および廃棄物埋設実地試験、原子力工業(1996年12月)
(6)山本龍美:進む東海発電所廃止措置、エネルギーレビュー(2005年10月)
(7)原子力安全委員会:低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る濃度上限値上限値について(2007年5月21日)
(8)日本原燃:低レベル放射性廃棄物の次期埋設施設本格調査の概要についてのHP、
http://www.jnfl.co.jp/cycle-maisetsu/research/index.html
(9)小野文彦:施設設計の考え方、第22回バックエンド部会夏期セミナー資料集(2006年7月27-28日)
(10)資源エネルギー庁:放射性廃棄物のHP
(11)総合エネルギー調査会:原子力部会報告書、商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて(1997年1月)
(12)放射性廃棄物安全規制専門部会:資料第23−4号(平成10年11月19日)
(13)日本原子力研究開発機構原子力科学研究所バックエンド技術部:パンフレット、原子力科学研究所の廃棄物埋設事業の概要について(平成17年10月)