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JRR-3は、熱出力10MW、重水減速・冷却、タンク型の研究用として、国産技術により建設された国産1号炉である。1962年9月に初臨界に達して以来約20年間、ビ−ム実験、RI生産、燃料・材料の照射実験及びその他原子炉を利用した各種研究開発利用に供せられてきた。しかしながら、最近の研究炉の利用動向の変化並びに利用技術の進展に伴って、より高性能の研究用原子炉が望まれるようになり、これらのニ−ズに応えるべくJRR-3を撤去し改造することになった。このため、1983年には運転を終了し、原子炉施設の撤去工事を実施した。この撤去の工事方法は、原子炉建家をそのまま残し、原子炉本体を含む他の系統機器をすべて撤去する一括搬出工法である。
1.撤去工事の基本方針
(1)工事の効率化、短期化及び経済性を図る。
(2)
放射性物質の拡散防止と被ばく低減を図る。
(3)実証ずみの確立した工法を採用する。
(4)
放射性廃棄物の発生量の低減化を図り、その放射能レベルに応じた廃棄物を保管・管理する。
2.原子炉本体撤去の前準備
撤去工事に先だち、炉心内に装荷されていた燃料体及び
一次冷却材(重水)はすべて取り出し、実験孔、冷却系配管切断部等の原子炉本体の開口部をすべて密封溶接した。
撤去工事は、原子炉本体周辺の機器を撤去することから開始した。特に冷却系統施設の撤去工事では、汚染の拡大防止及び被曝低減化のため、重水を使用していた一次冷却系配管内面を作業開始前に水(軽水)で洗浄し、トリチウム等を除去した。また、切断等で内面を開放する際は、内面を湿らせた状態に保ち附着物の飛散防止を図ること等の処置をした。原子炉本体周辺機器の撤去がすべて終了した後に、原子炉本体を撤去した。
3.原子炉本体の撤去
原子炉本体の撤去方法は、工期、工費及び撤去した原子炉本体の管理等を考慮して、一括搬出工法を最適な撤去工法として採用した。この一括搬出工法は、原子炉施設の撤去方法としては世界で最初に実施されたものであり、主要な
炉内構造物を生体遮へい体(重コンクリ−ト)内に内蔵したまま、炉室と原子炉本体を連続コアボ−リング工法により切り離し、原子炉建家外に設けた大型廃棄物保管庫まで運搬して、保管廃棄するものである。
撤去工事概要を
表1 に示す。また、JRR-3原子炉一括搬出工法の概要を
図1 及び
図2 に示す。
この一括搬出工法は、コアボ−リングマシンを用いて床及び壁を連続的に水平及び垂直に穿孔し、原子炉建家床面と原子炉本体を切り離す工事から開始される。この際、原子炉本体荷重を安全に支えるため、原子炉本体下部に仮受支柱を設置した。
続いて吊り上げ時の支持架台とするため、原子炉本体を取り囲むように鉄骨のフレ−ムを組立てた。その上部には100トン級のセンタ−ホ−ルジャッキ36台を設置して約2200トンの原子炉本体を水平移動可能な高さ(約4m)まで吊り上げる。吊り上げた原子炉本体を吊りフレ−ムごと水平移動するためコンクリ−ト製の移動路盤にレ−ルを施設し、その上に直径80mmの鉄製コロを162本並べ、更にコロの上に鉄板を敷いて吊りフレ−ムを設置した。吊りフレ−ム内に吊りあげられた原子炉本体は、100トン級の水平加力ジャッキ4台により吊りフレ−ムと共にコロ上を7日間かけて約34m水平移動し、原子炉建家外側に設けた大型廃棄物保管庫内に収納された。
4.被曝と廃棄物発生量
撤去工事を通じての作業者の被曝は、冷却系施設の撤去工事に伴うものであり原子炉本体撤去工事による被曝はほとんどない。固体廃棄物についても発生量の60%余を占める原子炉本体を一括撤去とした事で撤去作業に伴う廃棄物発生量の低減に大きく寄与した。
5.一括搬出工法の特徴
このように、一括搬出工法は一般的な建築技術を巧みに組み合わせた信頼性の高いシステムであり、
(1)炉内構造物にはほとんど手をつけないので、環境への放射性物質の拡散を防止できる。
(2)生体遮へい体を被曝低減のための遮蔽体として積極的に利用でき、作業者の被曝が極めて少なく、撤去後の保管管理も容易である。
(3)発生する放射性廃棄物の量が少ない。
(4)システムを構成している技術要素は、主に土木、建設工事に一般的に用いられ、実証済みの確立した技術である。
(5)原子炉建家の再利用を可能にし、かつ、他の構造物に悪影響を及ぼさない。
(6)効率的に短期間で行うことができ、経済的である。
といったことが大きな特徴である。
<図/表>
<関連タイトル>
JRR-3(JRR-3M) (03-04-02-02)
研究炉の廃止措置 (05-02-04-01)
<参考文献>
日本原子力研究所・東海研究所・研究炉管理部(作成):JRR-3(原子炉の撤去)