<概要>
国が定めた
原子力船「むつ」に関する基本計画では、原子力船「むつ」は実験航海終了後直ちに関根浜港において解役することが定められていた。この基本計画に従って、原子力船「むつ」は実験航海終了後、約1年間
原子炉内で
使用済燃料を冷却した後、解役に係る工事が平成4年(1992年)9月から実施された。原子炉
廃止措置としては、原子炉室ごと船体から切り離し、陸上の保管建屋に保管する撤去隔離方式が採用された。保管建屋は一括撤去した原子炉室のほか、種々の「むつ」の記念品を展示した「むつ科学技術館」として一般の見学に供されている。原子炉室を撤去した船体は、大型海洋観測研究船「みらい」として改造され、運航を開始している。原子炉から取出した使用済燃料はサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)にて
再処理することとした。そのため、平成13年(2001年)に使用済燃料を東海研究所に輸送し、サイクル機構再処理工場での受入条件に適合するよう、使用済燃料の
解体・再組立を行うこととした。平成17年(2005年)3月現在、東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)にて解体再組立作業中である。
<更新年月>
2005年04月 (本データは原則として更新対象外とします。)
<本文>
昭和60年(1985年)3月31日に内閣総理大臣および運輸大臣が定めた「日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」に基づき、原子力船『むつ』は、実験航海終了後直ちに関根浜定係港において解役し、解役の方法、定係港施設の取扱い等については、別途具体的な措置を検討すると定められた。このため、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)は、内外における原子力船解役の事例の調査、「むつ」原子炉関係施設の廃止措置方法および解役後の「むつ」船体の後利用方法の検討を行なった。
その結果、原子炉の廃止措置としては、原子炉遮蔽体と合わせて原子炉室ごと一括撤去して陸上に保管する撤去隔離方式を採用し、「むつ」から撤去した原子炉室は新たに建設する保管建屋において安全に保管するとともに一般展示に供し、解役後の「むつ」船体は一般動力推進を用いた海洋観測船として利用する、等の基本方針を策定した。以来この基本方針に従って解役措置が進められた。解役工事は平成4年(1992年)9月に開始し、平成8年(1996年)3月に終了した。原子炉室を撤去した船体は世界最大の海洋観測研究船として改造され、運航を開始している。なお、原子炉から取出した使用済燃料はサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)にて再処理することとした。しかしながら、「むつ」
燃料集合体は通常の軽水炉燃料と構造,寸法,燃料濃縮度等の仕様が異なるため,そのままではサイクル機構再処理工場では受入,再処理ができない。このため,平成13年に使用済燃料を東海研究所(現日本原子力研究開発研究機構原子力科学研究所)に輸送し、同所実用燃料試験室にてPWR型軽水炉燃料集合体の仕様となるように解体・再組立を行うこととした。平成17年3月現在、解体再組立作業中である。
1.海外における原子力船の解役と後利用の調査
民生用の原子力船として建造されまたは建造中のものは、1959年にロシア連邦の砕氷船「レーニン号」が運航を開始して以来、世界で、「むつ」を含め13隻に達する。うち原子炉関係施設の解役措置を行ったことが明らかになっているものは、アメリカの「サバンナ号」およびドイツの「オットーハーン号」の2隻である。ロシアの「レーニン号」は燃料等を取出し、ムルマンスク船舶公社の岸壁に係留されており、近い将来サンクス・ペテルブルグにおいて、船ごと博物館として展示する計画である。
(1) 「サバンナ号」
イ.要目
用 途 貨客船
完 成 1962年
全 長 181.5m
排水量 21,990トン
原子炉 加圧水型(ル−プ型)、80MWt
ロ.原子炉関係施設の解役措置
1970年に解役され、燃料を取り出し後密閉された。ポンプ類等若干のものが陸揚げされたが、原子炉容器を含め大部分の機器およびパイプ類は船内に残されている。現在は展示船となって、サウスカロライナ州チャールストンにあるパトリオット・ポイント海洋博物館(ネイバル・アンド・マリタイム・ミュージアム)に、空母「ヨークタウン」等とともに係留されている。
(2) 「オットーハーン号」
イ.要目
用 途 鉱石運搬船
完 成 1968年
全 長 172m
排水量 25,790トン
原子炉 改良加圧水型(一体型)、38MWt
ロ.原子炉関係施設の解役措置
1979年に解役され、原子炉、汚染された機器、パイプ等は解体陸揚げされシュレスヴィツヒ・ホルスタイン州ゲーストハットにあるGKSS(ドイツ原子力船建造運航利用会社)の保管庫に収納されている。その後、船体は通常のコンテナ船(ディーゼル機関)に改造され、「ノーラシア・スーザン」と改名されて就航した。
2.原子力船「むつ」の解役措置
原子力船「むつ」の解役措置方法については、昭和57年(1982年)に原子力委員会廃炉対策専門部会が示した「密閉管理」、「遮へい隔離」および「解体撤去」をもとに、舶用原子炉が発電用原子炉とは規模、構造等において差異があることを考慮し検討した結果、「むつ」原子炉が小型炉であることと船体を後利用することを考え、「撤去隔離」の方式を採用することとなった。平成3年11月には「原子力船『むつ』の解役に係わる工事の安全性について」を、平成4年1月には「原子力船『むつ』の解役計画」を策定し、平成4年9月から本格的な解役工事が進められた。
図1に「むつ」解役工事の全体スケジュールを、
図2に「むつ」解役工事の主要な手順、および
表1に「むつ」解役工事の際の
放射線業務従事者の
実効線量当量を示す。
平成4年度には工事計画の作成、安全解析等を行ない、「解体届」等を行政庁に提出した。また、解役工事の第一段階として、使用済燃料の取出しおよび保管建屋建設の準備工事等を行なった。平成5年度には、燃料および
中性子源の取出しを行なった後、解役工事の第2段階として原子炉補機室等にある機器・配管類の解体撤去等を行なった。また、むつ事業所内の敷地に保管建屋の建設を進めると共に関根浜港の浚渫工事を行なった。平成6年度には、原子炉補機室等にある機器・配管類の解体撤去および
除染を終了し、保管建屋の一部を完成し
放射性廃棄物を保管した。また、港湾の浚渫工事を終了した。平成7年(1995年)度には、解役工事の第3段階として「むつ」船体を半潜水式バージに上架し、港内に曳航し、原子炉室を船体から切り離した後、原子炉室を海上クレーン船で吊り上げ保管建屋に移送した(
図3、
図4、
図5および
図6参照)。その後、保管建屋の建設工事を終了した。
3.使用済燃料の再処理の準備
原子力船「むつ」の燃料は,平成5年5月から7月にかけて原子炉から取り出され,燃料・廃棄物取扱棟(以下「燃廃棟」という。)に保管されていた。これらの使用済燃料は動燃事業団(元サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))において再処理することとした。そのため、茨城県及び東海村との輸送協定を締結した後、13年に3回に分けて、使用済燃料を東海研実用燃料試験室まで輸送した。
「むつ」使用済燃料は,通常の軽水炉燃料と構造,寸法,燃料濃縮度等の仕様が異なるため,そのままではサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)再処理工場では受入,再処理ができない。このため,15年から17年にかけて、東海研(実用燃料試験室)にて解体・再組立を行うこととした。平成17年3月現在、解体再組立作業中である。
4.「むつ」船体の後利用計画と「むつ科学技術館」の設立
原子炉室を撤去した後の船体については、海洋科学技術センターが改造を行ない、大型海洋観測研究船「みらい」として平成9年(1997年)度から運航を開始している(
図7参照)。
保管建屋は、「むつ科学技術館」として原子炉室を当分の間保管展示することにしている。また、この「むつ科学技術館」では、「むつ」の操舵室、制御室等、原子力船「むつ」の軌跡を展示するほか、科学技術の原理を会得し、自然の不思議さを体験できる一般展示や地元の魚等を展示するコーナー等が設けられており、平成8年(1996年)度から展示されている(
図8、
図9参照)。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力船「むつ」開発の概要 (07-04-01-01)
原子力船「むつ」の概要 (07-04-01-02)
原子力船「むつ」の安全性 (07-04-02-01)
原子力船「むつ」実験航海の成果 (07-04-02-02)
<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原子力船研究開発の現状1995、1995年2月
(2)日本原子力研究所:原子力船「むつ」解役の概要と安全性、1992年3月
(3)日本原子力研究所:原子力船「むつ」の解役について[工事方法と安全性]、1992年1月
(4)ロシア連邦大統領府:ロシア連邦領土に隣接する海洋への放射性廃棄物の投棄に関する事実と問題(仮訳)、1993年
(5)原子力船「むつ」の解役の主要作業が完了、港湾、72(812)p.42、1995年8月
(6)原子力船「むつ」の解役について、日本造船学会誌、第797号、1995年11月
(7)原子力船「むつ」の新たな出発、原子力工業、第42巻第2号、1996年2月