<本文>
1.廃止措置に伴い発生する廃棄物
原子力施設等の廃止措置によって発生する廃棄物は、原子力施設等の解体撤去(改造等も含む)に係る金属廃棄物及びコンクリート廃棄物等の解体物が主で、放射能レベルの低いもの(低レベル放射性廃棄物等)を中心として比較的短期間に、大量発生するという特徴を有している。これら低レベル放射性廃棄物等の処理処分対策は、廃棄物を放射能レベル区分毎、あるいは発生施設区分毎に、廃棄物の特性に応じて適切に処理した後、廃棄物の特性及びレベルに応じた適切な処分が行われる。以下に、低レベル放射性廃棄物の処分を見据えた廃棄物区分を示す。
(1)低レベル放射性廃棄物:原子力施設等から発生する多様な放射性廃棄物を対象とし、余裕深度処分対象から浅
地層処分並びにクリアランス対象廃棄物までを含む広範囲な(発熱を有しない)放射性廃棄物の総称であり、廃止措置に伴う解体廃棄物の殆どが低レベル放射性廃棄物に相当する。これら解体廃棄物は、放射能レベルで区分され、それぞれ以下に示す方法で処分が行われる。
(i)現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物(余裕深度処分或いは地層処分との併置処分が想定されている)
(ii)低レベル放射性廃棄物(浅地中処分対象からクリアランス対象まで広範囲な廃棄物)
・低レベル放射性廃棄物(浅地中処分:ピット処分)
・極低レベル放射性廃棄物(浅地中処分:
トレンチ処分)
・放射性物質として扱う必要のないもの物(再利用及び一般廃棄物として処分)
また、原子力施設等において設置状況、使用履歴などから汚染がないことが明らかであるものについては、「放射性廃棄物でない廃棄物」として区分されている(一般の産業廃棄物と同様に処分)
(2)解体廃棄物量について
廃止措置に伴って発生する廃棄物量は、110万kWe級原子力発電所で、約50〜55万トンと推定されている(
表1参照)。JPDRの解体実地試験から発生した廃棄物量とその流れ等を
表2、
表3、
図1、
図2に示す。
また、解体廃棄物を大別すると、金属廃棄物、コンクリート廃棄物及びその他となり、放射能的には、原子力施設の運転廃棄物の「低レベル」として区分されている放射性廃棄物、低レベルよりも低いレベルの「極低レベル」廃棄物及び放射性廃棄物として取り扱う必要のない廃棄物(クリアランス対象物)に区分され、発電所廃棄物の廃棄物割合(
表1)は、およそ低レベル廃棄物(1):放射性廃棄物として取り扱う必要のないもの(2〜3):放射性廃棄物でない廃棄物(50)と推定され、殆どが一般産業廃棄物と同じように処分、再利用が可能な廃棄物が発生している。
この放射性廃棄物の下限値(クリアランスレベル)については平成17年11月に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令改正が行われた(
表4、
表5参照)。法令には、原子力安全委員会の検討を受けて、IAEAが提示した安全指針RS-G-1.7に示された数値が規定されている(ATOMICA「解体廃棄物の放射能レベル区分」<05-02-01-04> を参照)。
2.
放射性廃棄物処分の下限値について
廃止措置に伴って発生する解体廃棄物の大半は、前述したように放射性廃棄物として扱わなくともよい放射能濃度値、いわゆる下限値の設定は、廃止措置の実施上重要な意義をもつことになる。レベルの設定に関する経緯の概略を以下に示す。
1987年12月、放射線審議会基本部会は、「
放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」を決定した。これによれば、放射性固体廃棄物の浅地中処分において放射線障害防止の観点からの管理を規制除外する際には、その判断の基準とすべき線量(以下「規制除外線量」という)としては、ICRP及びIAEAにより提案されている個人線量に準拠して10μSv/年(1mrem/年)を提案した。
また、放射性廃棄物の下限値(規制除外濃度)は、放射性廃棄物としての特殊性を考慮しなくてよいレベルで、埋設処分に当たって廃棄物埋設事業の許可を受けなければならない放射性廃棄物の放射能濃度の下限値もその一つである。放射性廃棄物の下限値は、原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会の「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」(1985年10月)及び「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について(中間報告)」(1986年12月)に基づいて次のように報告されている。
(1)下限値は、廃棄物の種類(形態)ごとに、その廃棄物の処分に伴う放射線被ばく線量評価モデルを設定し、織り込まれるパラメータの値は適切に選択した上で、処分された廃棄物に起因する線量が被ばく管理の観点からは拘束する必要のない線量となる放射能濃度を計算することによって設定される。その際、自然界に定常的に存在する放射性核種の濃度も参考にすることが考えられる。
(2)下限値は、放射性核種の種類ごとに計算されるが、基準値として用いるためには、放射性核種のグループごとにまとめて設定し有意な単位数量当たりの値として定めるのが実際的である。
この濃度下限値の設定にあたっては、より慎重な対応を要することから、これまで、原子力安全委員会・放射性廃棄物安全基準専門部会において引き続き検討審議が進められてきている。1999年3月には、同専門部会において「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」、これまでの実績やデータを基に、固体状の物質を対象に、クリアランスレベルの具体的な数値を始めて算出し、その検討状況が報告された。引き続き、2001年7月には「重水炉、高速炉等におけるクリアランスレベルについて」、「原子炉施設におけるクリアランスレベル検認の在り方について」検討審議状況が報告され、わが国におけるクリアランスレベルの算出方法などの考え方が示された。
2004年12月には「原子炉施設及び
核燃料施設の解体に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について」(平成17年3月17日一部改正及び修正)が報告され、2004年8月に出版されたIAEAが提示した安全指針RS-G-1.7に示された
規制免除レベルは、「評価の保守性の観点からみれば、再評価値(原子力安全委員会の試算)とRS-G-1.7に示された規制免除レベルの計算値との間には有意な差は無いものと見なすことができ、その意味ではRS-G-1.7に示された規制免除レベルをわが国における原子炉解体廃棄物のクリアランスレベルにも採用することに不都合はないものと考えられ、したがって、国際的整合性などの立場からは、RS-G-1.7の規制免除レベルを採用することは適切と考えられる。」との報告が行われ、法令には、RS-G-1.7に示された規制免除レベルが採用された。
3.海外における動向
海外においてもクリアランスレベルに関する検討が行われており、ドイツ、イギリス、スウェーデン、フィンランドなどの一部の国ではクリアランス制度化が進められ、再利用、埋設処分が適用されている(
表6-1、
表6-2、
表6-3、
表6-4参照)。
廃棄物の再利用については、コンクリート類は土地造成時の埋め立て材等に使用し、金属配管等は素材として再利用することが考えられ、安全性、経済性の面から各国で検討がなされている。
国際原子力機関(IAEA)では1996年「
電離放射線に対する防護及び
放射線源のための国際基本安全基準〈以下BSS(International Basic Safety Standards for Protection against lonizing Radiation and for the Safety of Radiation Sources)〉」(ATOMICA「IAEAによる国際基本安全基準等の策定(BSSとINES)」<13-01-01-02> を参照)においてクリアランスの概念を導入するとともに、クリアランスレベルについて「放射線防護に係る規制の体系から外してもよい物を区分するレベル」と定義して、各国の規制当局の検討に委ねた。このBSSでは、少量クリアランスを規定し、大量の対象物には触れていないことから、安全指針「規制除外、規制免除及びクリアランスの概念の適用」として2004年8月に「IAEA安全指針RS-G-1.7:規制除外、規制免除及びクリアランスの概念の適用」が出版され、わが国においてもこれらの検討を取り入れて、2005年5月法令改正が行われ、同11月関係省令が改正されRS-G-1.7の値がクリアランスレベルとして適用され、わが国においてのクリアランス制度がスタートすることとなった(ATOMICA「各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向」<11-03-04-05> を参照)。
4.その他「放射性廃棄物でない廃棄物」
原子炉等規正法関係法令に「放射性廃棄物は、核燃料物質または核燃料物質によって汚染たれたもので廃棄しようとするもの」との定義があるが、原子力施設の現場において全ての廃棄物を一括して、放射性廃棄物とすることは、汚染されていないものまでも全ての廃棄物を放射性廃棄物として取り扱うことになり、放射性廃棄物の不用意な増大となることから、放射性物質により汚染された可能性のないもの、または自然界レベルとの間に有意な差が認められないものについて、処理処分の最適化や合理化を目的に、汚染の原因や、発生形態等の範囲を明確にし、確認を行うことにより放射性廃棄物と汚染されていないもの(「放射性廃棄物でない廃棄物」)を区分することが示されている。
この区分に関する基本的な考え方が以下のように示されている。
(1)二次的な汚染を考慮した場合:使用履歴や設置の状況から放射性物質の付着や浸透等による二次的な汚染がないことが明らかなもの、あるいは、汚染部分が限定されていることが明らかで、汚染部分が分離除去されたもの、いずれかに該当するものについては、「放射性廃棄物でない廃棄物」とすることができる。
(2)
放射化を考慮したコンクリート廃棄物の場合(一体的に含まれる鉄筋を含む):十分な
遮へい体により遮へいされていた等、施設の構造上、
中性子線による放射化の影響を考慮する必要がないことが明らかなもの。計算により中性子線による放射化の影響が一般のコンクリートとの間に有意な差が生じていないと評価されたもの、あるいは、汚染部分が分離除去されたもの、いずれかに該当するものについては、「放射性廃棄物でない廃棄物」とすることができる。
(3)放射化の汚染を考慮した金属廃棄物の場合:十分な遮へい体により遮へいされていた等、施設の構造上、中性子線による放射化の影響を考慮する必要がないことが明らかなもの。計算により中性子線による放射化の影響が一般の金属との間に有意な差が生じていないと評価されたもの、あるいは、汚染部分が分離除去されたもの、いずれかに該当するものについては、「放射性廃棄物でない廃棄物」とすることができる。
このように、原子炉施設のコンクリート構造物や大型機器等について、放射性同位元素で汚染された部分を
除染やはつり当で分離除去し、除染したものは放射性廃棄物として管理をして、一方、残された建物のコンクリートや大型機器等については、残留する放射能レベルがバックグランドレベルと有意な差がないことを測定により確認した後、
管理区域を解除して、一般の産業廃棄物として処分するとして取り扱うものであり、これは、クリアランスレベルの概念とは別の概念であることに留意する必要がある。また、廃止措置に伴う施設のサイト開放等については、わが国でも検討が開始されつつある。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
低レベル放射性廃棄物の処分 (05-01-03-02)
廃止方法 (05-02-01-03)
解体廃棄物の放射能レベル区分 (05-02-01-04)
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)
<参考文献>
(1)太田邦弘:原子炉廃止措置に伴う廃棄物の処理・処分、原子力工業、31(11)28(1985)
(2)吉田芳和:放射性廃棄物の規制除外及び再利用の基準に関する動向、日本原子力学会誌、31(8)18(1989)
(3)日本原子力産業会議:1988年版、放射性廃棄物管理ガイドブック(1988)、p.51
(4)原子力安全委員会:放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方(昭和63年3月)(平成5年1月一部改定)
(5)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について、第2次中間報告別添、原子力施設解体等に伴って発生する固体状の廃棄物のうち「放射性廃棄物でない廃棄物」の範囲に関する考え方(1992年2月)
(6)総合エネルギー調査会:原子力部会報告書、商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて(1997年1月)
(7)日本原子力研究所バックエンド技術部:原子炉解体技術開発成果報告−JPDRの解体と技術開発−、JAERI−Tech、97−001(1997年2月)
(8)原子力委員会バックエンド対策専門部会報告書、現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物の基本的考え方について(1998年10月)
(9)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:主な原子力施設におけるクリアランスレベルについて(1999年3月)
(10)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:重水炉、高速炉等におけるクリアランスレベルについて(2001年7月)
(11)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:原子炉施設におけるクリアランス検認のあり方について(2001年7月)
(12)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:核燃料使用施設(照射済燃料及び材料を取り扱う施設におけるクリアランスレベルについて)(2003年3月)
(13)原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会:原子炉施設及び核燃料施設の解体に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について(2004年12月)
(14)資源エネルギー調査会:原子力施設におけるクリアランス制度の整備について(2003年12月)
(15)日本原子力研究所東海研究所:廃棄物埋設事業許可申請書(平成6年11月一部補正)、p.2