<本文>
原子力施設の廃止措置方式は、密閉管理(ステージ1)や遮へい隔離(ステージ2)のように長期間にわたり施設を閉鎖し、
放射性核種をその内部に封じ込め保管する方式から、最終的に施設を解体撤去(ステージ3)する方式、または即時解体まで含まれ、その対象も商業用原子力発電所ばかりでなく、試験研究炉や再処理施設、核燃料加工施設まで広く及んでいる。日本の原子炉施設の廃止措置方式をIAEA、米国の分類と比較し、
表1に示す。
基本的な方式は、IAEAの提案するステージ1、ステージ2及びステージ3に分類することであり、諸外国、特に、EU諸国ではこのように分類する国が多い。
わが国では、
図1に示すように密閉管理、遮へい隔離及び解体撤去に分類されてきたが、諸外国の廃止措置の状況調査からステージ1とステージ2の区分が明確でないとし、日本の商業用原子力発電施設での廃止措置の標準工程を「安全貯蔵−解体撤去」としている。また、この安全貯蔵期間を、
軽水炉では5〜10年とするのが適当であるとしている。
英国では、2009年12月現在、22基の
ガス冷却炉(GCR)を停止し、長期安全貯蔵のための工事が進められている。この方式は、炉心部の解体に遠隔装置を使用せずに容易に解体できるまで、ステージ2の状態で約100年間安全貯蔵することである。この戦略について、あまりに長期にわたることから、米国のようにデコミッショニングを60年以内に完了すべきとの議論もある。
フランスでは、これまでステージ2+ステージ3の組み合わせが基本として選択されている。仏電力公社(
EDF)は、2000年末に、長期間のステージ2状態での管理について、発電所に関する情報が失われる
リスクが大きいとの仏原子力施設安全局(DSIN)の見解に基づき、解体を早めることを決定した。即ち、6基のマグノックス型ガス冷却炉を含む8基の第一世代原子炉を当初の計画よりも約25年間早め、2020年から2025年までに解体を完了させる計画である。このため、まず廃止措置等に伴い発生する極低レベル廃棄物の処分のための極低レベル廃棄物の埋設施設を2003年10月に開設した。さらに黒鉛処分対策等を最優先課題として2010年末を目標に中レベル廃棄物処分場計画を進めていたが、現在のところサイト選定が遅れている。
ドイツでは、雇用、人的資源の確保、課題を先送りしないことなどの理由により、ステージ3を選択、即ち、即時解体を原則としている。これまでに5基の解体を完了し、ヴュルガッセンなど13基の完全解体を目指して解体工事中である。グライフスヴァルト発電所サイトは、世界最大のデコミッショニング・プロジェクトである。VVER型8基の即時解体を選択し、2012年解体完了に向け工事を進めている。また、
高温ガス炉など2基は、ステージ2を選択している。ドイツでは、現在、コンラッド処分場の建設許可が下り建設も進められていることから、廃止措置に伴う
放射性廃棄物の処分も進むことが期待されている。
米国では、当初IAEAと同様に分類していたが、現在は即時解体(DECON)、安全貯蔵(SAFSTOR)、及び原位置遮へい隔離(ENTOMB、サイト内処分も含む)の中から設置者が合理的なものを選択し、原則として60年以内に廃止措置を完了することとしている。1990年代に入って、主に経済的な理由により米国の商業炉9基が閉鎖され、そのうち5基がDECONを選択している。さらに、これまでSAFSTOR中の多くの施設では、施設に精通した人的資源等が失われるリスクを考慮して計画を変更し、解体を再開している。また、最近、廃棄物処分施設の確保が徐々に困難になってきたことから、これまで原則としてENTOMBを認めないこととしていた方針を変えざるを得ないとの動きもある。このENTOMBは、
放射能レベルの高い部分(
炉内構造物)を先に撤去し、放射能レベルの低い残存構造物の放射能が減衰するまで原位置に遮へい隔離することで放射性廃棄物の発生量を大幅に減らす方法である。しかし、そのためには100年以上の遮へい隔離が必要になるため、これまでの規制を見直し、ENTOMBを認めることが検討されている。
諸外国の例では、密閉管理、遮へい隔離、解体撤去時期等について、敷地を更地にする契約に基づいて完全解体撤去するケース、完全解体撤去し施設を他の用途に全面又は部分的に転用するケース、財政措置等の観点から取りあえず密閉管理あるいは遮へい隔離を行うケースなど様々である。
停止された原子力発電施設は、2009年12月現在、全世界で1万kWe以上のパイロットプラントを含め、約124基に達する。そのうち解体撤去が完了したものは、米国のシッピングポート原子力発電所、日本の
JPDR、ドイツのニーダーライヒバッハ原子力発電所、米国のトロージャン、ヤンキロー、メインヤンキーなど約15基である。完全解体撤去を目指した解体プロジェクトは、現在、日本の東海発電所、英国のウインズケールWAGRなど、その数もだんだん多くなっている。商業用原子力発電所の大半は、これまで密閉管理あるいは遮へい隔離といった方式が採られていたが、米国、フランスなどでは、次世代に先送りするのは適当でないとし、また、廃止措置技術の向上と経済性から解体撤去を早める傾向にある。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
<参考文献>
(1)原子炉のデコミッショニングに関する技術報告、IAEA-179(1975年)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版、大蔵省印刷局(1995年2月)
(3)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1995年版、電力新報社(1995年2月)
(4)総合エネルギー調査会原子力部会原子炉廃止措置対策小委員会報告書、商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて−、(1997年1月)
(5)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック(2010年版)
(6)宮坂靖彦:原子炉デコミッショニングの計画管理、デコミッショニング技報、第24号(2001年9月)