<本文>
1.低レベル放射性廃棄物の処分方式
低レベル放射性廃棄物の処分方法は、深海底に処分する
海洋投棄処分と、陸地環境に処分する陸地処分に大別される。海洋投棄は、1982年まで欧州諸国によって行われており、また、それ以前に米国でも行われていた。しかし、1993年にはすべての放射性廃棄物の海洋投棄を禁止するように
ロンドン条約が改正され、現在、諸外国でも実施されていない。
陸地処分は、処分される深度や処分施設の形態などによってさらに幾つかに分類されることがある。地表からあまり深くない地中に埋設する方式を
浅地中処分といい、IAEA(国際原子力機関)では地表下数十m以内の範囲をいうと定義している。浅地中処分は、人間の生活環境の近傍に処分するので海洋投棄、空洞処分、地層処分などと比較すると相対的に隔離の度合いは小さく、また数百年経過後は人間の活動が埋設した廃棄物や処分地にまで及ぶことを、安全評価上は想定することが避け難いものであるとされている。このため、浅地中処分方式で対象とする廃棄物は、短中寿命の
放射性核種を主に含有する低レベル放射性廃棄物であり、その中の長寿命核種の含有量を低く抑えるのが通例である。
浅地中処分は、地表を掘削した環境にそのまま直接廃棄体を埋設する簡単な方式(例えば、
トレンチ処分)と
コンクリートピットなどの工学的な施設を建設し、その中に廃棄体を埋設処分する工学施設方式とに分類される。
地表を溝状に掘削したトレンチ処分は、低レベル放射性廃棄物の中でも比較的レベルの低い廃棄物に適用されるのが通例である。また、処分サイトが不毛の乾燥地帯などで将来的にも利用の可能性が極めて低い場合などには、通常の低レベル放射性廃棄物に適用されることもある。
低レベル放射性廃棄物に属するが、長寿命核種を多く含み、放射能レベルがやや高い廃棄物に対しては空洞処分がスウェーデン、フィンランド等で実施されている。また、ドイツ、カナダでは、低中レベル放射性廃棄物の地層処分計画が進められている。
人間の生活環境と低レベル放射性廃棄物の処分環境とを隔離する機能を有するものをバリアという。バリアは以下のようなものから構成されている。
・工学バリア:廃棄物の固化媒質、容器、充てん材、囲壁構築物、遮水層
・
天然バリア:土壌、地層
トレンチ処分方式は主として天然バリアの機能によって、コンクリートピット方式は主として工学バリアおよび天然バリアの機能によって、また空洞処分および地層処分方式は主に天然バリアの機能によって、安全性を確保しようとするものである。
2.わが国の低レベル放射性廃棄物の処分の概況
わが国では、低レベル放射性廃棄物の処分は、放射能濃度に応じて3種類((1)放射能レベルが極めて低い廃棄物、(2)放射能レベルの比較的低い廃棄物、(3)放射能レベルの比較的高い廃棄物)に分類し、既に(1)および(2)の廃棄物の処分が実施されている。
放射能レベルが極めて低い廃棄物を対象としたトレンチ処分方式の浅地中埋設処分は、旧日本原子力研究所東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)の動力試験炉JPDRの
解体によって発生した非常にレベルの低いコンクリート等廃棄物の埋設実地試験の処分方式として採用されている。また、放射能レベルの比較的低い廃棄物を対象としコンクリートピットを設置した浅地中処分は、日本原燃(株)の六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて1992年12月以降実施している(ATOMICA六ケ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状(05−01−03−21)参照)。
放射能レベルの比較的高い廃棄物を対象にした余裕深度処分については、次期埋設計画として、現在、六か所村おいて本格調査が行われている。
3.諸外国における低中レベル放射性廃棄物の処分の概況
わが国で低レベル放射性廃棄物に該当するものを、IAEAおよび諸外国の多くでは低中レベル放射性廃棄物(LILW;Low Intermediate Level Waste)と区分している。
IAEAでまとめた世界各国の1996年における各国のLILW処分の現状を、すでに閉鎖されたもの、計画段階のものを含め、
表1−1、
表1−2、
表1−3および
表1−4に示す。
浅地中埋設は、米国、英国、フランス、スペイン等で実施されている。米国のバーンウエル処分場ではトレンチ型埋設施設に低中レベル放射性廃棄物を埋設している。フランスのオーブ処分場(コンクリートピット型)の概要および廃棄体の例を
図1に、スペインのエルカブリル処分場の処分施設概要を
図2に示す。フランスでは極低レベル放射性廃棄物(VLLW)を専用とするモルヴィリエ(Morvilliers)処分場を2003年から操業している(
図3)。スペインでも同様の極低レベル廃棄物処分施設をエルカブリル処分場サイトに併設して建設中で、操業準備段階にある。
一般的な土地利用に対して十分な離隔距離を有する深度処分の海外事例としては、スウェーデンのフォルスマーク原子力発電所の沖合の海底下約60m以深に建設され、1988年以来処分の操業を行っているSFR(原子炉廃棄物処分場:
図4)があり、フィンランドでもオルキルオト発電所サイトの地下に掘削した空洞に同様の処分を行っている(
図5)。これらの事例は大陸棚などの地下内部にトンネルおよびサイロを掘削した空洞内に廃棄物を定置処分する方式である。沿岸海底下あるいは沿岸部であるため地下水の大きな動水勾配は存在しないと考えられるので、放射性核種の地圏での移行に大きな役割を果たす地下水の移動速度が遅く、しかも一般的に陸から遠ざかる方向へ流れると推測されていること、また海底には飲料水用の井戸を掘ることは考えられないことなどから安全上有利とされている。
また、韓国では、慶州市のヤンブク面ポンギル里に低中レベル放射性廃棄物施設を建設する計画が2005年に決定され、許可手続き等、処分施設建設のための準備が進められている。その処分概念図を
図6に示す。第1フェーズ(ドラム缶換算10万本)では地下80mに6基のサイロ処分施設が建設される。
地層処分では、ドイツのアッセ岩塩鉱山廃抗(1967〜1978年)、コンラッド(鉄鉱山廃抗:
図7)や計画中のゴアレーベン(岩塩鉱山)、ドイツで旧東独時代の1978年から処分を実施していたバルテンスレーベン岩塩鉱山廃抗のモルスレーベン処分場(1998年以降閉鎖中)などの例がある。このうちコンラッド処分場の建設計画は、訴訟問題に決着がつき2008年5月から建設を開始し、操業を2014年に開始する計画である。
また、カナダでは、オンタリオ原子力発電会社の発電所廃棄物を対象にブルースサイトの地下660mの粘土質で透水性の低い地層に処分する計画が進めている。地質調査等を実施中で操業開始2017年を予定している。このLILW地層処分概念の計画を
図8に示す。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯 (05-01-03-03)
海外における放射性廃棄物処理処分の動向(IAEA報告) (05-01-03-12)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状 (05-01-03-21)
原子力施設の廃止によって発生する大量の放射性廃棄物の処理処分対策 (05-01-04-06)
廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約) (13-04-01-03)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:原子力発電核燃料サイクル廃棄物管理の現状 IAEA イヤーブック’97 IAEAブレティンから、原子力資料 No.296、p.55?78(1998年3月)
(2)(財)原子力環境整備センター:1998年版放射性廃棄物データブック
(3)阿部昌義、大越実、吉森道郎:極低レベルコンクリート廃棄物の埋設実地試験、デコミッショニング技報、第15号、p.50?58(1996年12月)
(4)ANDRA資料:Disposal Facility for Very−Low−Level Radioactive Waste(2001),Un Centre de stockage.pour les dechets tres fabliement radioactis(2003)
(5)酒井章浩、菊池三郎、圓山全勝:韓国の低中レベル放射性廃棄物施設の立地経緯及び現在の建設状況について、デコミッショニング技報、第38号、p.35?42(2008年11月)
(6)(独)25年を経てコンラッド処分場着工、ニュークレオニクス・ウィーク日本版p17(2008.5.22)
(7)P.Zuloaga,“New Developments in Low Level Radioactive Waste Management in Spain”,TopSeal2006(September,2006)
(8)F.K.King,“OPG’s Deep Geologic Repository for Low and Intermediate Level Waste−Recent Progress”,TopSeal2006(September,2006)