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<概要>
 クリアランスに関して、IAEA、EUのEC委員会等の国際機関による検討が1980年代から行われている。クリアランスレベル(放射性核種濃度)を算出する線量の目安値は、「自然界の放射線レベルに比較して十分小さく、また、人の健康に対するリスクが無視できる」線量として、実効線量が年間約10マイクロシーベルト(μSv)が与えられている。この目安値に基づいてより実用的な基準として、クリアランスレベルが導出され、国際的な勧告値、EC委員会指針およびIAEA指針として提案されている。EC指針では、無制限クリアランスと制限付クリアランスレベルに区分して提案している。IAEAは、2004年、指針RS-G-1.7において無制限クリアランスのみ提案している。
 海外のドイツ、スウェーデン、フィンランド等では、クリアランスレベルが制度化され、実際に埋立処分および再利用に適用されている。
 日本でもICRP、IAEA等の考え方を取り入れ、年間個人線量で10μSvが妥当であるとしている。原子力安全委員会において、原子力施設放射性物質使用施設におけるクリアランスレベル濃度基準、原子炉施設におけるクリアランスレベル検認のあり方等について1997年5月から2005年3月にかけて検討が行われた。その後、2005年5月の原子炉等規制法の改正に伴いクリアランス認可制度が成立した。同12月施行規則には、IAEAの指針RS-G-1.7に示す値を基準値として取り入れた。
 なお、汚染ウラン廃棄物を対象とするクリアランスレベルは原子力委員会等で検討中である。
(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
<更新年月>
2007年02月   

<本文>
 有意なレベルの放射線は、人体に対して有害な影響を与える可能性があり、放射線源(放射性物質を含むもの、放射線を発生する装置など)の利用は規制されるべきであるとされている。しかしながら、極微量の天然起源の放射性物質は、人体や普通の自然環境にも含まれている(表1表2)。このため、非常に低いレベルの放射線源をも規制上の管理の対象とすることは合理的ではないとされている。
 どの程度のレベルであれば規制の対象としなくてよいかは、規制の対象外とすることによって人がどの程度の影響を受けるか、および、自然のバックグラウンド放射線の地域変動などを勘案して判断するのが適当であると考えられ、まず、指標となる線量レベルが検討された。実際的な状況への適用を考えると、対象物に含まれる放射性核種のレベルによって判断する方が実用的であり、指標となる線量レベルを基に、放射性核種濃度が導出された。
 規制の対象外となるものが国内だけで流通あるいは処分されるのであれば、各国それぞれに基準を決めればよいが、国際間の移動が考えられる場合には各国の基準に整合性が要求される。そのような基準の検討は国際機関を中心に行われてきた。
1.IAEAにおけるクリアランス等の検討
 IAEAでのクリアランス関連の検討経緯を表3に示す。
極微量、それも環境や人間に到底影響を及ぼすことがないと想定される量しか放射性物質を含まないような条件(状態)は、IAEAの検討では非放射性などの用語を使って表現されてきた。
 IAEAでは、1984年末まで「De Minimis(デミニミス)」という用語を用いてきたが、1985年以降「Exemption(免除)」という用語に切り換えた。この段階では、「免除」は、放射線防護上の規制体系に組み込むことを免除されること(規制の入口で対象外とすること)と、放射線防護上の規制下にあったものの規制を解除すること(規制の外に出すこと)の両方の意味をもつ概念であった。その後、1995年頃から両者の概念を分離して検討する必要上から、前者を「規制免除」、後者を「クリアランス」という用語で区別するようになった。このように規制の入口と出口とを区別すると、規制の出口を規定するクリアランスレベルは、規制の入口を規定する規制免除レベル以下でなければ矛盾を生ずる。
 IAEA上級専門家グループによる1985年の声明では、10か国10人の専門家によって規制の免除に関する助言をまとめ、IAEAにおける検討の基本的考え方を与えている。
 人が有意とみなさない重大な影響(リスク)の確率は、年当たり約100万分の1とされるとし、これに相当する年当たり線量は約100μSvとした。特定の行為の規制の免除にあたっては、規制の免除を受けた複数の行為から影響を受ける可能性を考慮して、個人の年間線量は、約10μSvを超えるべきではない。
 集団線量については、放射線防護上最適化されていること(他の選択肢と同等以上であること)の判断の指標となるものとして認識され、規制の免除を受けた行為1年当たりに預託される集団線量が1人・Svより小さいならば、詳細な最適化の検討を行わなくても規制の免除が正当化されると結論できる。
 規制免除とクリアランスの定義を明確にした1996年「電離放射線に対する放射線防護および放射線源の安全に関する国際基本安全基準」(安全シリーズNo.115)の最終報告書に放射性核種の規制免除レベルおよび規制免除量を付則Iに定めた。
 クリアランスに関しては、「固体物質中の放射性核種のクリアランスレベル−規制の免除の原則の適用−コメント用中間報告」(IAEA-TECDOC-855)1996年に出版され、クリアランスレベルが公表された。その後、各国の専門家による議論を経て、2004年、IAEA指針RS-G-1.7「規制除外、規制免除およびクリアランス概念の適用」が出版された。
 わが国の施行規則に取り入れられた指針RS-G-1.7の要点を表4に示す。
2.EUの欧州委員会指針
 欧州委員会(EC)では、1988年に域内の共通基準を意図し、再利用に関して、α核種とβγ核種に区分したクリアランスレベルを勧告している。EC委員会は、1990年のユーラトム条約31条の基に設置された専門家グループがEC指令を受け、行為とクリアランスの概念を「電離放射線からの危険に対する作業者と一般公衆の健康を防護のための基本安全基準(BSS)」1996年5月13日付欧州共同体理事会指令96/29タイトルIIIに定めている。規制除外により再利用される物品がEU域内を流通すると考えられることから、規制除外の統一的検討が行われ、1988年の勧告を再評価した金属リサイクルを対象にした指針RP89を1998年、勧告している(表5)。さらに、コンクリート等を対象にした指針RP-113、一般クリアランス用の指針RP-122 PartI等を勧告している。
 これらの指針の体系を図1に示す。また、上記指針のクリアランスレベル比較を表6に示す。
3.国際放射線防護委員会での検討
 国際放射線防護委員会(ICRP)は、主に放射線防護に関する基本的な考え方や、線量限度に関する勧告を行っている。規制の免除に関しては、ICRP Publication 46(Publ.77)「放射性固体廃棄物の処分に対する放射線防護の方策」(1985年)等でふれられており、規制の免除に関する線量基準を与えている。数値的な線量基準自体は、上述のIAEAのものとほとんど同等である。
4.各国におけるクリアランス等の規制および実施状況
 イギリスでは、クリアランスに相当する関係法令として放射性物質規制免除令(SoLA)〔1986年/1992年改定〕を適用している。
 ・0.4Bq/gを超えない固体廃棄物(密封線源を除く)。
 ・3Hまたは14C、もしくは両方を含むが、0.4Bq/mlを超えない有機廃液。
 ・成分核種の半減期が100秒を超えない気体。
 これに基づき、例えば、Capenhurstウラン濃縮工場の解体から発生したアルミなどの金属、建屋コンクリート廃棄物がクリアランスされている。
 ドイツでは、これまでの放射線防護委員会の勧告値に基づく実績、並びにEC委員会の各種指針に基づき、2001年放射線防護令が改正された。表7のように無制限クリアランスと制限付クリアランスレベルに区分して、実施されている。また、体積密度(Bq/g)および表面密度(Bq/cm2)で整理されており、利用者、検査当局に利用しやすい。汚染金属(60Co)の例をみると、無条件再利用0.1Bq/gに対し限定再利用の場合0.6Bq/gである。限定再利用のための金属溶融処理の実績は、2006年9月現在までに約2万tに達する。
 スウェーデンでは、原子力エネルギー施設から発生する可燃物を含む全ての固体廃棄物の管理規則(SSI FS 1996:2)を定めている。無条件クリアランス、条件付クリアランス等が規定されている。クリアランスの実績としては、認可された専業の金属溶解工場で既に9,000t以上を溶解処理してインゴットを作製し、約90%を一般市場に放出している。ウランで汚染された金属廃棄物に対しは、約625tのうち622tが溶融処理後に放出している。なお、スタズビック社の溶融能力は、年間約2,500tである。ウラン廃棄物のクリアランスレベルは、以前100Bq/kgであったが、現在、ECのRP-89基準を適用し、1,000Bq/kgを適用している。放射性レベルの極めて低いウラン廃棄物については、規制当局が認可した特定廃棄物処分場に埋設されている。リサンゲン処分場(Risangen)には、1991年からウラン含有率250ppm以下(18Bq/g)の廃棄物を2000年までに1,572t処分している。
 フィンランドでは、規制管理からの廃棄物のクリアランスについては、原子力令(161/1988)第10節と指針YVL8.2放射性廃棄物の規制管理からの免除に規定される。この中で放射性廃棄物や物品の無制限規制解除および制限付規制解除について定義している。
 フランスでは、極短寿命廃棄物(半減期100日以内)を減衰貯蔵後に一般廃棄物処分が行われている。無制限のクリアランス制度はなく、クリアランスレベルの値も決めてない。ただし、放射性廃棄物の低減対策として「ゾーン区分」を導入している。なお、100Bq/g以下の廃棄物については、極低レベル廃棄物処分場で処分している。
 米国では、原子力委員会(現・原子力規制委員会;NRC)が制定した規制ガイドRG1.86に沿って、ケースバイケースで運用されている。なお、RS-G-1.7を取り入れたNRC委員会スタッフ案がNRC委員会に2005年3月提出されたが、同年6月、採用延期が決定された。
 諸外国の規制および実施状況を表8−1および表8−2に示す。
5.日本におけるクリアランス制度の導入までの経緯
 原子力安全委員会等では、原子力施設・放射性物質使用施設におけるクリアランスレベル濃度の導出、原子炉施設におけるクリアランスレベル検認のあり方等について1997年5月から2005年3月にかけて検討が行われた。
 IAEA-TECDOC-855が1996年に出版され、これを契機に日本におけるクリアランスレベル検討の機運が熟し、1997年5月以来、原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会(2000年9月以降、原子力安全基準部会に引継ぎ)において、クリアランスレベルの検討が行われている。この検討において、ICRP、IAEA等の考え方を取り入れ、年間個人線量で10μSvが妥当であるとしている。
 その後、2005年5月、原子炉規正法等の改正を行い、同12月施行規則には、IAEAの指針RS-G-1.7採用を決定(各委員会での承認)後に経済産業省令第112号および文部科学省令第49号に取り入れた。
 原子力安全委員会評価のクリアランスレベルとRS-G-1.7およびTECDOC-855との比較を表9に示す。また、日本におけるクリアランス制度の導入までの経緯を表10に示す。
(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
(前回更新:2001年11月)
<図/表>
表1 土壌中のカリウム40、ウラン238、トリウム232の平均放射能質量濃度と地上1mの点での空気吸収線量率
表1  土壌中のカリウム40、ウラン238、トリウム232の平均放射能質量濃度と地上1mの点での空気吸収線量率
表2 器官と組織中のウラン238、トリウム232とそれらの壊変生成物の平均放射能質量濃度
表2  器官と組織中のウラン238、トリウム232とそれらの壊変生成物の平均放射能質量濃度
表3 IAEAにおける規制除外(クリアランスなど)の検討
表3  IAEAにおける規制除外(クリアランスなど)の検討
表4 IAEA指針RS-G-1.7の要点
表4  IAEA指針RS-G-1.7の要点
表5 EUで提案されている金属スクラップのリサイクルに対するクリアランスレベル
表5  EUで提案されている金属スクラップのリサイクルに対するクリアランスレベル
表6 EC委員会の主要な放射線核種に対するクリアランスレベルの比較
表6  EC委員会の主要な放射線核種に対するクリアランスレベルの比較
表7 ドイツの放射線防護令に示された規制免除およびクリアランスレベル(Anneexx III TableIの抜粋)
表7  ドイツの放射線防護令に示された規制免除およびクリアランスレベル(Anneexx III TableIの抜粋)
表8-1 諸外国におけるクリアランス制度整備状況(その1)
表8-1  諸外国におけるクリアランス制度整備状況(その1)
表8-2 諸外国におけるクリアランス制度整備状況(その2)
表8-2  諸外国におけるクリアランス制度整備状況(その2)
表9 原子力安全委員会評価のクリアランスレベルとRS-G-1.7およびTECDOC-855との比較
表9  原子力安全委員会評価のクリアランスレベルとRS-G-1.7およびTECDOC-855との比較
表10 原子力安全委員会等によるクリアランス制度導入までの最近の経過
表10  原子力安全委員会等によるクリアランス制度導入までの最近の経過
図1 EC委員会のクリアランス関連の放射線防護指針の体系
図1  EC委員会のクリアランス関連の放射線防護指針の体系

<関連タイトル>
クリアランスに対する米国の取組み (05-01-03-25)
放射性廃棄物としての規制免除についての考え方 (11-03-04-04)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)IAEA:Clearance Levels for Radionuclides in Solid Materials:Application of Exemption principles,Interim report for comment,IAEA-TECDOC-855(1996),p.1-70
(2)European Commission:Radiation Protection No.89(1998),p.1-42
(3)European Commission:Radiation Protection No.113(2000)
(4)European Commission:Radiation Protection No.122(2000)
(5)European Commission:Radiation Protection No.134(2000)
(6)原子力安全委員会、放射性廃棄物安全基準専門部会:主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて(1999年3月)、p.1-93
(7)原子力安全委員会、原子力安全基準専門部会:重水炉、高速炉等におけるクリアランスレベルについて(2001年7月)、p.1-29
(8)原子力安全委員会、原子力安全基準専門部会:核燃料使用施設(照射済燃料及び材料を取り扱う施設)におけるクリアランスレベルについて(2003年4月)
(9)原子力安全委員会、原子力安全基準専門部会:原子炉施設におけるクリアランスレベル検認のあり方について(2001年7月)、p.1-43
(10)IAEA:IAEA SAFETY STANDARDS SERIES,“Application of the Concepts of Exclusion,Exemption and Clearance”SAFETY GUIDE,No.RS-G-1.7(2004.08)
(11)原力安全委員会、放射性廃棄物・廃止措置専門部会:原子炉施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について(2004年10月)
(12)総合資源エネルギー調査会、原子力安全・保安部会、廃棄物安全小委員会:原子力施設におけるクリアランス制度の整備について(2004年9月)、改訂(同12月)
(13)原子力規制関係法令研究会(編):原子力規制関係法令集 2006年、(株)大成出版社(2005年11月)
(14)大越 実:欧州委員会(EC)におけるクリアランスレベルの検討状況、デコミッショニング技報、第26号、p.2-12(2002年11月)
(15)J.ローレンツェン:欧州における放射性金属廃棄物のフリーリリース“スウェ
デン・スタズビック社での17年間のフリーリリース経験”、日本原子力学会誌、Vol.46、No.9、p.624-628(2004年)
(16)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源・影響及びリスク“原子放射線の影響に関する国連科学委員会総会への1988年報告書 附属書付”、実業公報社(1990年3月)、p.55-148
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