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<概要>
 フランスの再処理の本格的推進は、1958年軍事用プルトニウム生産炉の燃料を処理するためマルクールに再処理工場UP1を稼働させたことに始まる。次にフランス電力庁(EDF)が展開した動力炉黒鉛減速ガス冷却炉)の金属ウラン燃料を再処理するため、ラ・アーグにUP2を建設、1966年に運転を開始した。発電が軽水炉路線に替わり酸化物燃料前処理施設をUP2に付設し、1976年から約4,500トンの軽水炉燃料を処理している。同サイトに1982年からUP3(800トン/年)の建設を始め、1990年に全面運転を開始した。
 また、1994年9月、UP2に新前処理施設等を付加し、UP2-800(800トン/年)の操業を開始した。UP1については1997年9月に運転を終了し、同年11月から廃止措置を開始している。2003年1月にはUP2-800およびUP3のそれぞれの再処理能力を1,000トンU/年に引き上げた。UP2およびUP3を合わせた2002年までの累積再処理量は約1万8,000トンに達する。2004年11〜12月にAREVA NC社(以前の仏核燃料公社(COGEMA/AREVA)はラ・アーグのUP2-800再処理プラントにおいて、軽水炉用の混合酸化物燃料(MOX)を初めて商業規模で再処理することに成功した。商業プラントにおけるMOX再処理実証試験は、1992年から以前のUP2-400再処理プラントで行われたが、第3世代の大型再処理プラントで、MOX使用済燃料を再処理したのは初めてのことである。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
 フランスの再処理工場施設一覧を表1に、フランスの核燃料サイクル関連施設のサイトを図1に示す。
1.初期の展開
 1945年、フランス原子力庁(CEA)が創設され、軍事を含む原子力全般の研究開発が推進されることになった。1949年ルブーシェで実験室的にプルトニウムが分離されて以来、1954年にはパリ近郊のフォンテネオローズ研究センターに溶媒抽出のパイロットプラントを設け、1958年これらの研究成果をもとにプロヴァンスのマルクールにプルトニウム生産炉G1、G2(軍事用)の照射済燃料再処理工場UP1を稼働させた。この工場は後にG3の他、ガス炉燃料用の前処理施設を付加し、フランス電力庁(EDF)の動力炉・黒鉛減速炭酸ガス冷却天然ウラン金属燃料発電炉(UNGG)の使用済燃料の再処理にも転用させた。なお、UP1は1997年9月に運転を終了し、1997年11月から廃止措置を開始している。図2にマルクールサイト施設配置図を示す。石油資源に乏しいフランスは、電力生産に原子力を大々的に導入する方針で、最初は、UNGGの展開を図り、その使用済燃料の再処理工場UP2をノルマンジーのラ・アーグの新サイトに建設することにした。
2.ラ・アーグのサイト
(a)UP2
 EDFの発電計画に対応してUNGG燃料1,000トン/年処理として設計された。セルラインには予備を持つなど、将来の増量も考慮されていた。
 燃料の黒鉛スリーブを除去してからアルミ被覆を回転刃による皮剥き法で脱被覆する。後に稀硝酸による化学的脱被覆も行われた。脱被覆した燃料は連続的に溶解槽に送られ硝酸で溶解される。溶解液はサンドフィルターを経て、30%TBP-ドデカン溶媒で核分裂生成物、ウラン、プルトニウムが抽出分離精製される。第一サイクルは共除染(ウラン、プルトニウムを含む液流から核分裂生成物を取り除くこと)であり、プルトニウムは第二サイクルで分離される。プルトニウムの還元には製品ウランの一部を電解還元して製造した四価のウランを使用する。ウラン、プルトニウムは、それぞれ第三サイクルで更に精製される。抽出装置は全てミキサセトラである。ウランを含む液流にはサイクル間濃縮を行い抽出器の大型化を防ぎ、かつ、除染係数の向上を図っている。
 ウラン製品は濃縮された硝酸ウラニル溶液であり、タンク車で別サイトの燃料転換工場に輸送される。プルトニウム製品は、シュウ酸プルトニウム沈澱を仮燒した酸化プルトニウムであるが、以前はカルシウム還元法で金属としていたこともあった。
 この工場は、UNGG燃料と次項で述べる軽水炉燃料との処理を適宜に行っていたが、1987年2月からUNGG燃料は全てUP1で処理されることになった。UP2の運転期間は1966年〜1987年。EDFの原子炉とスペインのVandellosから、4,895トンのガス黒鉛炉燃料を再処理を行った。
(b)UP2-400
 EDFは、1970年代に入ってPWR型の軽水炉で今後の商用発電を展開することに決めた。これを受けてUP2に酸化物燃料前処理施設(HAO)を付設し、1976年に運転を始めた。この施設は軽水炉燃料受入れ貯蔵を行うHAO/nと、燃料剪断溶解を行うHAO/sより成る。更に第一サイクルの前に予備除染工程(遠心抽出機)を付加、プルトニウム精製サイクルの補強、二酸化プルトニウム製造能力の増強等を行い、UP2がUNGGと軽水炉の燃料のいずれをも処理できるようにした。これをUP2-400と呼んでいる。
 剪断機は、燃料集合体を垂直に供給し、水平に動く剪断刃で切る方式であり、剪断された燃料片は分配器で2基の回分式溶解槽のバスケット(各2個)に供給される。溶解しない燃料被覆片(ハル)はバスケットの底を開いて専用容器に投入され、水圧で水中貯蔵サイロに送られる。1976年の運転開始初期の頃は、前処理部分で設計の最適化、処理対象物の特性把握等に未熟な点があり、又、UNGG燃料との並行処理ということもあり稼働率は伸びなかったが、問題点を克服して最近では1988年に345トン、1989年に460トンと公称能力400トンを超える実績を上げている。1995年までの累積処理量は約4,500トンにおよび軽水炉燃料処理では当時世界一であった。図3にHAOの前処理施設を示す。
 1978年、ラ・アーグ再処理工場の運営は、CEA直営からフランス核燃料公社(COGEMA社)(現AREVA NC社)に移管された。
(c)UP3
 フランスのCOGEMA社は1977年〜1978年にかけて、欧州および日本の電力27社の間でUP3事業化契約(EDFの他にドイツ、スイス、ベルギー、オランダ、日本の電力会社との再処理契約燃料約7,000トンを処理するというもの)を締結し、イギリスと同様に外国の使用済燃料を再処理する役務契約を持つ(表2参照)。COGEMA社はUP3の新設とUP2の増強をもって対応することにし、先ずUP3の建設を1981年から開始した。総工費278億フラン。UP3は1990年に燃料800トン/年で操業を開始し、2003年1月に年間の処理能力を1,000トンU/年に引き上げた(ただし、UP3、UP2-800両施設トータルの再処理能力は1,700トン/年)。ラ・アーグの燃料受入れ貯蔵は逐次増強されてきたが、NPH(湿式受入れ)、Pond-A、B(貯蔵プール)、TO(乾式受入れ)、Pond-C、D、E(貯蔵プール)、の諸施設で2003年1月に約14,000トンから18,000トンに増量した。UP3は、2001年半ばには契約量の10年間で7,000トンを達成した。その後は処理対象燃料が減るということで、処理量は800トン/年を下回っている。1995年以降UP3、UP2-800ともに順調な運転が行われ、両工場あわせて1,600トン/年で稼動した。図4にUP2、UP3における処理実績を示す。なお、UP3は2003年、MOXの再処理の認可を取得した。
 UP3は、T1(前処理)、T2(溶媒抽出第一サイクル、FP、プルトニウム分離)、T3(ウラン精製、濃縮)、T4(プルトニウム精製、転換)、T5(ウラン製品貯蔵)、T7(ガラス固化)、BSI(プルトニウム製品貯蔵)、BC(中央制御室、分析所、更衣所)の各施設から成る。図5にラ・アーグサイトのこれら施設の配置を示す。
 このプラントの技術上の主な特徴は、イ)燃料の乾式受入れ、ロ)回転式連続溶解槽、ハ)新型遠心清澄機、ニ)溶解液からのヨウ素除去、ホ)二重円筒型パルスカラム、ヘ)薄膜式蒸発缶による劣化溶媒処理リサイクル方式、ト)金属メタルーガラス固化、チ)コンピュータ利用の計装制御等である。なかでも連続溶解槽は多くの特色を持つ。溶解槽の材料にジルコニウム金属を用い耐蝕性を確保し、溶解槽の回転部分は剪断機と合わせて遠隔保守ができるように前処理施設の設計がなされている。
 図6に前処理施設を、図7に連続溶解槽を示す。前処理施設以外の施設は原則的には直接保守方式であるが、弁、ポンプ、計器等の一部はMERC(Mobile Equipment Replacement Cask)を使用して短時間に交換できる。
(d)UP2-800
 EDFの通常軽水炉燃料の他、MOX燃料も処理するために、UP2-400にR1(T1と類似の前処理施設)、R2(T2相当)、R7(T7相当、1989年6月、運転開始して既往の高レベル廃液貯蔵分を処理)、NCP1(FPの濃縮施設)、SPF5、6(FP濃縮液貯蔵施設)、BSTI(プルトニウム貯蔵施設、1983年既に運転開始)等を付加し、1994年8月に燃料800トン/年で操業を開始した。2003年にはUP2およびUP3のそれぞれの再処理能力を1,000トン/年に引き上げたが、両施設トータルの再処理能力1,700トン/年に変更はない。
 なお、UP2-800には、全く新しい遠心抽出器を使用するプルトニウム精製・酸化物転換施設(R4)が新設され、2002年から運転を開始。UP3の対応施設の半分の建屋規模で、性能には余裕があり、溶媒処理を含めて廃液量も著しく低減される。
(e)廃液処理等
 このサイトは、英仏海峡の潮流を利用して放射性廃液を拡散希釈させることにして、沖合い1.8kmまで放出管を敷設した(放出管は延長し、沖合い5,000メートルまで延長)。サイト開設時の放出限度は、トリチウム37,000TBq/年(現在:18,500TBq/年)、β、γ1,700TBq/年(現在:30TBq/年)、α1.7TBq/年(現在:0.1TBq/年)である。
 再処理の中レベル廃液は、STE1、2施設で、化学沈澱法により処理し、上澄み液を放流してきた。沈澱物はSTE3(化学沈澱法で100,000立法メートル/年の中、低レベル廃液を処理、アスファルト固化設備を含む施設)の完成(1989年)後は、アスファルト固化された。この施設は従来のSTE1、2の補強であり、今後、これらの施設は、極低レベル廃液の処理に使用される。
 1995年以降、中・低レベル廃液は、蒸発缶で処理後、凝縮液は回収してできるだけプロセスにリサイクルし、濃縮液はガラス固化工程に回すことにした。また、固体放射性廃棄物の処理、貯蔵のため、梱包、圧縮減容、コンクリート固化処理を行うED2、EDS、EDT等の施設がある。図8にラ・アーグサイトにおける放射能海洋放出と再処理量の変遷を、図9環境モニタリングの推移を示すが、放射能海洋放出量は再処理工場運転開始時と比較すると劇的に改善され、2006年にはトリチウム11,100TBq/年、βとγ5.24TBq/年、α0.025TBq/年である。また、作業従事者の被爆量もUP3、UP2-800の運転によりともに改善されている。
 高レベル廃液ガラス固化貯蔵施設AVM(Atelier de Vitrification Marcoule)は、1978年に実用規模施設のホット運転が開始され、現在も稼働中で、高レベル放射性廃液(HALW)を1,000m3以上を処理した実績がある(図10参照)。AVMはロータリキルン仮焼炉と誘導加熱溶融炉とからなる固化施設で、ガラス製造能力は15kg/hである。なお、フランスでは、海外で発生した使用済燃料を再処理して生じた放射性廃棄物は、発生国に返還することになっている(表2参照)。
3.研究開発
 再処理の生産部門の運営は1978年にCOGEMA社に移管されたが、研究開発部門はなおCEA(フランス原子力庁)が直営しており、その組織の一環である工業技術院(IRDI)の技術研究・産業開発局(DERDECA:再処理・廃棄物・応用化学研究局、DGR、DRDD、DCAEA、DIPの4部制)が担当している。DERDECAはフォンテネオローズ、サクレー、マルクール、グルノーブル、カダラッシュ等に研究センターを有し、基礎研究から応用研究まで、ラボラトリィ規模からパイロットプラント規模まで、コールド、ホット試験を実施してきた。
 UP3に例を取ると、DGR(放射能工学部)に属するSEP(プロセス研究、フォンテネオローズ)、SAP(パイロットプラント、マルクール)、SPI(実規模工学試験、マルクール)での関連研究の成果は、DIP(プロセス工業化部)で「PROCESS BOOK、プロセス方案、仕様書」にまとめられ、これを基にCOGEMAの子会社であるSGN社が、設計および建設管理のエンジニアリングを請け負い具体化した。UP3の連続溶解槽、遠心清澄機、二重管型パルスカラム、廃溶媒リサイクル設備等は、数年にわたって数次の原寸大プラント試験をPSIで実施して最終製作仕様を決めている。再処理機器材料の耐食性についてはDCAEA(応用、分析化学部)に属するSCECF(腐食、電気化学、溶液化学研究、グルノーブル)が、分析法についてはSEA(分析研究、フォンテネオローズ)がそれぞれ担当している。
 1990年代にはいって、再処理関係(高速炉燃料を含む)の研究開発はマルクールに集中することにし、パリ近郊のフォンテネオローズ研究所の関連研究施設はすべて移転、高速炉燃料の再処理施設APM(TOR)は1997年6月に運転を終了した。
 MOX使用済燃料の再処理研究に関しては、当初マルクールのパイロット施設APMで行われ、1992年11月にはラ・アーグのUP2-400再処理プラント(バッチ式溶解プロセス)で、4.7トンのドイツ(ウインターベーザー、オブリッヒハイム、ネッカル発電所)のMOX使用済燃料を再処理することに成功している。濃度6N(mol/l)の硝酸液で4時間かけて溶解が行われた。また、1998年にもUP2-400施設でフランスのショーAから4.9トンのMOX使用済燃料を再処理している。2004年11〜12月には、UP2-800再処理プラント(連続式回転溶解槽)においてドイツのグラーフェンラインフェルト発電所の約10トンのMOX使用済燃料集合体の再処理に商業規模で初めて成功した(表3参照)。MOX使用済燃料中にはプルトニウムとアクチノイドの含有量が多いため、計測設備、放射線防護、発熱対策、臨界管理などの面で技術改良が必要であり、第3世代の大型再処理プラントへの実証試験がさらに進められる。なお、フランスでは高速炉の開発が遅れる一方、再処理が順調に進んでいることから、再処理で得られる余剰プルトニウムはMOX燃料として利用されている。MOX燃料は1987年11月、Saint-Laurent B1号機に装荷されて以来、90万kW級軽水炉でリサイクルされている。
(前回更新:2004年10月)
<図/表>
表1 フランスの再処理施設一覧
表1  フランスの再処理施設一覧
表2 ラ・アーグにおける国別再処理処理量
表2  ラ・アーグにおける国別再処理処理量
表3 フランスにおけるMOX使用済燃料の再処理概要
表3  フランスにおけるMOX使用済燃料の再処理概要
図1 フランスの核燃料サイクル関連施設のサイト
図1  フランスの核燃料サイクル関連施設のサイト
図2 マルクールサイトの配置図
図2  マルクールサイトの配置図
図3 HAOの前処理施設
図3  HAOの前処理施設
図4 ラ・アーグ再処理工場における使用済燃料の再処理
図4  ラ・アーグ再処理工場における使用済燃料の再処理
図5 ラ・アーグサイトの施設配置図
図5  ラ・アーグサイトの施設配置図
図6 UP3の前処理施設
図6  UP3の前処理施設
図7 回転式連続溶解槽
図7  回転式連続溶解槽
図8 ラ・アーグサイトにおける放射能海洋放出と再処理量の変遷
図8  ラ・アーグサイトにおける放射能海洋放出と再処理量の変遷
図9 ラ・アーグサイトにおける環境モニタリング結果の推移
図9  ラ・アーグサイトにおける環境モニタリング結果の推移
図10 ラ・アーグのガラス固化貯蔵施設
図10  ラ・アーグのガラス固化貯蔵施設

<関連タイトル>
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
使用済燃料の受入、貯蔵 (04-07-02-01)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
フランスUP-1再処理施設の廃止措置 (05-02-05-10)
ラ・アーグ再処理工場をめぐる動き (14-05-02-10)

<参考文献>
(1)Proceedings of International Conference on Nuclear Fuel Reprocessing&Wastes Management,1987,in Paris,Vol.1,2,3,4,RECOD’87;SFEN
(2)F.Chenevier,C.Bernard:”Cogema expands La Hague”,Nuclear Engineering International,p.41-p.43,Aug.1987
(3)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成9年版(1997年10月)
(4)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2004年版(2003年11月)
(5)(社)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック 2007年版(2007年9月)
(6)Proceedings of International Conference on Nuclear Fuel Recycling,Conditioning and Disposal,“RECOD 98”, 1998, in Nice, VOL.I, p.11-18, p.27-33, p.45-53
(7)COGEMAパンフレット(1999年9月)、AREVAパンフレット(2005年)
(8)AREVA NC Used fuel treatmentホームページ:
(9)JNC:TJ1420 2003-001「プルトニウム利用に関する海外動向の調査(03)」
(10)JL.EMIN(COGEMA):MOX reprocessing:The success of the first industrial campaign on UP2-800 COGEMA Plant,
(11)IAEA:IAEA-TECDOC-1467, Status and Trends in Spent Fuel Reprocessing(2005.09),
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/te_1467_web.pdf
(12)IAEA:Nuclear Fuel Cycle Information System,France,

(13)CEA:パンフレット、Solid Waste Conditioning Facility
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