<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 世界では、過去半世紀の間に約20の再処理施設が建設されてきた。原子力発電の黎明期に天然ウラン金属燃料を使用したイギリスおよびフランスでは、発電量当たり多量に排出される使用済燃料の再処理のために大型再処理施設を建設・運営した。しかし、世界的に軽水炉が主流になるにつれて、その燃料再処理が計画され、米国、イギリス、フランス、日本、ドイツ、ベルギーで実証プラントが建設、運転され、商業規模施設への発展の基礎が築かれた。こうした中で、米国では再処理を行わない政策に転換したが、イギリス、フランスおよび日本が第2世代の大型商用酸化物燃料再処理工場を計画し、THORP(イギリス)、UP3(フランス)、UP2-800(フランス)、日本の六ヶ所再処理工場が建設された。UP3、UP2-800およびTHORPはすでに稼働中であり、六ヶ所工場は2010年操業開始を予定して、最終試験段階に入っている。
<更新年月>
2010年05月   

<本文>
1.世界の再処理工場
 2010年現在で、国内に再処理施設を持ち、原子力発電所の使用済燃料を再処理している国は、日本、フランス、イギリス、ロシア、インド、中国などがあるが、このうち大型の商業再処理工場があり、国際再処理市場で本格的に事業展開をしている国は、フランスとイギリスの2か国のみである。しかし世界中には、この半世紀間に約20の再処理施設が建設されてきた。それらの中には、既に運転を中止したものや稼働中のもの、改造等により当初の目的の変わったもの、完工したもののホット運転には至らず閉鎖されたもの等がある。表1にこれらの工場を国別に表示する。またOCED諸国における使用済燃料発生量の現状と今後の見通しを表2に示す。
 再処理工場は使用済燃料を処理する施設であるため、使用済燃料を発生する炉型の種類に応じて、その設計が異なってくる。数種の燃料を処理できるような汎用性の高い工場も考えられるが、歴史的に利用炉型の種類が整理されるなかで、専用化していった。現在使用されている発電炉を大別すると、以下のように分類される。かっこ内は開発された発電炉の具体例を示す。
イ)天然ウラン金属燃料黒鉛減速ガス冷却炉(イギリスのマグノックス炉、フランスのNUGG(総称してGCR、改良型がAGR))
ロ)天然ウラン酸化物燃料重水減速・冷却炉(カナダのCANDU)
ハ)低濃縮ウラン酸化物燃料黒鉛減速軽水冷却チャンネル炉(ロシアのRBMK(LWGR))
ニ)低濃縮ウラン酸化物燃料軽水減速冷却炉(米国その他のPWR、BWR、ロシアのVVER)
表3に世界における炉型別原子力発電所の稼動状況を示す。
 このうち使用済燃料の再処理が工業化の段階まで進んだ炉型は、イ)とニ)である。イ)のガス冷却炉は炉型としては既に古典的であり新設計画はないが、まだ稼働中のものが排出する使用済燃料を引き続き再処理しなければならない。ニ)の米国型軽水炉は広く世界各国で用いられており、軽水炉(酸化物)燃料を対象にする再処理工場としては6工場が操業している。
2.天然ウラン燃料(炭酸ガス冷却炉燃料)の再処理工場
 イギリスおよびフランスは、第二次大戦末期から軍事用のプルトニウム生産を目的に研究を開始し、やがてプルトニウム生産炉とプルトニウム回収工場をウインズケール(イギリス:現在セラフィード)およびマルクール(フランス)に建設した。発電を主とする実用炉としては、イギリスのコールダーホール炉で始まる一連のマグノックス被覆燃料炉が開発され(世界で37基建設)、輸出も行われた。フランスでは、フランス電力庁(EDF)が同系列の炉型(アルミニウム系被覆)を開発し、シノンに発電炉を建設して以来、数サイトにガス冷却炉が建設された。
 これらのガス冷却炉はいずれも数千MWd/tの燃焼度であり、発電量当たりの使用済燃料発生量が多い(ウラン量で軽水炉の10倍)ので、必要な再処理工場の規模(ウラン取扱量)は大きくなる。イギリスのセラフィールド第2工場(B-205)、およびフランスのラ・アーグのUP2はいずれも千トンウラン/年級の処理能力をもっている。しかし、取り扱う核分裂性物質(ウラン-235、プルトニウム等)および核分裂生成物の量と濃度は、後述の高燃焼度の軽水炉使用済燃料に比べてはるかに低いので技術的難度は低いと言える。B-205はなお稼働中であり、UP2はUP2-400として1987年から軽水炉燃料処理専用に改造されている。
 再処理の基本プロセスは、燃料を硝酸に溶解した後、溶媒抽出でウラン、プルトニウム、核分裂生成物を分離・精製する工程であり、これは、ガス冷却炉燃料でも軽水炉燃料でも類似したプロセスである(図1参照)。ガス炉燃料処理のこれら大型工場は、軽水炉燃料の再処理工場のよい先駆者となったといえる。技術の伝承という意味でも、サイトの定着という意味でも重要であった。
3.軽水炉燃料再処理工場の展開(第一期)
 濃縮ウラン利用を前提として米国で開発された軽水炉が、世界的に大規模な市場を獲得して建設されていくにつれて、軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発が開始された。
 開発の要点は、
 a)プルトニウム生産炉、金属燃料ガス炉等での低燃焼度燃料再処理で培った溶媒抽出法を軽水炉の燃焼度レベルまで適用可能とするプロセス、装置等の改良
 b)軽水炉燃料集合体の燃料部分を露出させて硝酸溶解液にする前処理工程の確立
 c)放射性物質の取扱量の増大に配慮して環境影響の低減化を図る
等である。
 米国では、オークリッジ国立研究所が中心となって技術開発が進められ、NFS社のウェストバレー工場(WVRP)として結実し、燃料集合体剪断・溶解(チョップアンドリーチ方式)+ピューレックス法溶媒抽出という軽水炉燃料再処理方式の原型を確立した。
 一方、1957年にヨーロッパ連合としてユーロケミック社が設立され、1955年のジュネーブ国際会議で公開された米国の再処理技術の発展と実用化が図られた。米国からの技術援助(情報提供等)もあり、同社はベルギーのモルに工場を計画し1966年に完成した。1974年までの運転を通して、ヨーロッパの再処理技術に貴重な経験が加えられた。モル工場は、その後ベルギーが中心になって材料試験炉燃料等の多目的工場としての存続も計画されたが、主なパートナーであるフランス、ドイツがそれぞれ自国に再処理工場建設計画を持ち、サイトの大規模化にも限界があったので、運転は中止された。
 米国では、1960年代から70年代にGE社によって新しい設計概念のミッドウェスト工場(MFRP)が建設されたが、コールド試運転中、ウランの脱硝フッ素化工程での技術的難点を解決できずに計画は1974年に中止になった。
4.軽水炉燃料再処理工場の展開(第二期)
 1960年代中頃より、発電炉の大部分が酸化物燃料に移行するのが明瞭になったことで、イギリスおよびフランスでは金属燃料ガス炉路線で構築されていた燃料サイクル関連技術の見直しが必要になった。再処理では特に前項b)の前処理技術の開発は、a)、c)とは異なり、従来技術の延長ではないので、イギリスは稼動中のB-205工場に、またフランスはUP2工場の前段部に付加するかたちで、酸化物燃料前処理施設(イギリスでは退役したB-204工場の建屋に前処理施設等を設置、フランスはHAOを新設)を自国技術で建設し、運転した。HAO(高放射性酸化物のフランス語頭文字)は幾多の改良を経て、UP2-400工場の前処理施設として1995年まで活躍した。
 動燃事業団(核燃料サイクル開発機構を経て現在は日本原子力研究開発機構)の東海工場は時間軸ではフランスのUP2-400に相当する。共にフランスのSGN社によって設計された。燃料集合体剪断と回分式溶解方式の前処理施設が採用されているが、両者の機器、配置、工程設計はかなり異なっている。
 この時期、米国では、NFS社のWVRPの拡張・更新計画(3トン/日)があり、またAGNS社のバーンウェル工場(BNFP、5トン/日)の建設があったが、共に稼働には至らなかった(1977年、カーター政権により核不拡散政策の一環として商業再処理禁止が策定された)。上述のc)項については、海洋放射能放出の低減化は東海工場において実現され、高放射性廃液のガラス固化技術の一方式がフランスにおいて確立された。マルクールガラス固化施設(AVM)がその実証プラントである。
 ドイツ(当時西ドイツ)では、カールスルーエ原子力研究所に隣接してWAK工場を建設し、小規模ながら広範囲に再処理技術の高度化研究に努力が傾注された。
5.軽水炉燃料再処理工場の展開(第三期)
 軽水炉から排出される使用済燃料の再処理の受託を目的として、再処理事業の国際合弁会社としてユナイテッドリプロセッサーズ(URG)社が1971年に設立された。URG社は、英国BNFLのTHORP工場とフランスCOGEMA(現AREVA NC社)のUP3を使用したが、後に合弁は解消され、BNFL、COGEMAとの個別契約となっている。
 THORPは、本来自国の改良型ガス冷却炉(AGR、低濃縮ウラン酸化物燃料、炭酸ガス冷却炉)の使用済燃料を対象にするが、上記の軽水炉燃料の受託分を考慮して、規模を1200トン/年とし、コストの低減を図った。1992年に建設を完了、1994年1月に操業を開始し、2001年までの累積再処理量は3,900トンである。
 COGEMA社のUP3(800トン/年)は、国外から受注した使用済燃料の処理が建前であるが、1989年末より部分的ホット試運転を開始し、1990年夏より全面的なホット運転に入っている。引き続いて自国内の使用済燃料の処理を目的とするUP2-800が1994年に運転を開始し、2002年までの累積再処理量は両施設あわせて18,000トンに達する。
 また、日本国内では軽水炉の使用済燃料再処理について、上記のイギリスおよびフランスの再処理工場に委託する一方、増加する再処理需要に対応するため、日本原燃(株)が青森県六ヶ所村に再処理工場(800トン/年)を建設中で、2010年の運転開始が予定されている。
 THORPおよびUP3工場は、今までの再処理技術の集大成としての商用施設として、特に安全設計に留意して慎重に企画設計されているが、後発の六ヶ所工場は対象燃料の燃焼度等に対応してより高度な仕様であり、フランスのUP3に続くUP2-800と比肩するものである。
 ドイツでは、WAW(WA-350)という再処理工場をバッカースドルフに建設することになっていたが、経済的理由により、この計画は1989年に中止になった(ATOMICAデータ<14-05-03-10> バッカースドルフ再処理工場建設計画の放棄参照)。
 中国は、商業再処理用多目的パイロットプラント(RPP)を甘粛省の蘭州核燃料サイクル施設に建設中である。使用済燃料400kg/日の規模である。この建設にはフランスが協力している。また、次の段階として、400〜800トン/年規模の商業再処理施設を2010年代に完成の予定と報じられている。
(前回更新:2004年10月)
<図/表>
表1 世界各国における再処理施設一覧
表1  世界各国における再処理施設一覧
表2 世界(OECD諸国)の使用済燃料発生量の推移
表2  世界(OECD諸国)の使用済燃料発生量の推移
表3 世界における炉型別原子力発電所の稼働状況
表3  世界における炉型別原子力発電所の稼働状況
図1 再処理の主要工程
図1  再処理の主要工程

<関連タイトル>
再処理技術開発の変遷(歴史) (04-07-01-04)
東海再処理工場 (04-07-03-06)
六ヶ所再処理工場 (04-07-03-07)
フランスの再処理施設 (04-07-03-08)
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
アメリカの再処理施設 (04-07-03-11)
中国の再処理施設 (04-07-03-12)
ロシア連邦の再処理施設 (04-07-03-18)
バッカースドルフ再処理工場建設計画の放棄 (14-05-03-10)

<参考文献>
(1)内藤 奎爾(監訳):原子力の技術、核燃料サイクル下、筑摩書房、p.344〜378(1987)
(2)Nuclear Power Technology, Vol.2 Fuel Cycle, UKAEA Oxford Press(1983)
(3)小泉 忠義:”転機を迎えた熱中性子炉燃料再処理”、原子力工業 p.37〜46、Vol.31、No.12(1985)、日刊工業新聞社
(4)(社)火力原子力発電技術協会:やさしい原子力発電(1990年6月)
(5)(社)火力原子力発電技術協会:原子燃料サイクルと廃棄物処理(1986年)
(6)(社)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック2009年版(2009年8月)、p.245〜246
(7)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成9年版(1997年10月)、p.153〜154, p.341〜342,p.284〜285
(8)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2004年版(2003年11月)、p.131
(9)住谷 寛ほか:再処理工場開発の現状−六ヶ所再処理工場施設の概要と安全性を探る−、原子力工業、38(10)、p.10〜32(1992)
(10)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1999年版、電力新報社(1999年10月)、p.181〜183
(11)Proceedings of 5th International Nuclear Conference on Recycling, Conditioning and Disposal, (RECOD 98), 1998, in Nice, France, p.19〜26, p.27〜33
(12)Nuclear Energy Data 2008, OECD/NEA, Table 8.2 Spent Fuel Arisings
(13)Nuclear Power Reactors in the World, 2009 Edition, IAEA, p.12
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ