<本文>
(1) 前処理工程とは
燃料棒の機械的前処理、硝酸による燃料の溶解、不溶解残渣の除去および計量までの諸工程を前処理工程(
ヘッドエンド)という。この後に
核燃料物質(利用対象)と
核分裂生成物(廃棄対象)を分離する分離工程が続く。分離工程の直前には核物質の計量が必要である。
動燃東海工場(現日本原子力研究開発機構
核燃料サイクル工学研究所)の同施設の説明図を
図1 に示す。
(2) 機械的前処理工程
核燃料は、使用済燃料受入、貯蔵工程から前処理工程へ
燃料集合体という姿で入ってくる。燃料集合体では、核燃料は、
軽水炉の場合では
ジルコニウム合金、ガス炉の場合ではマグネシウム合金またはステンレス鋼の被覆管中に封じられているので、まずこれを開被する必要がある。この工程を機械的前処理工程という。考えられる方法として、燃料棒の直径方向の剪断または切断(剪断工程という)、軸方向の切裂きまたは押出し等(脱被覆工程ともいう)。
現在、軽水炉が主流であるので燃料集合体のまま剪断する方式が多用されている。この工程の対象となる各種の燃料集合体を
図2 に例示する。
(a) 燃料集合体剪断
この工程の細部は、対象となる燃料集合体の特性(構造、外型寸法等)により様々であるが、イ)水平に置かれた燃料集合体を送り機構で剪断のピッチ(3〜5cm)だけ押出す、ロ)集合体押え機構(ギャグ)で固定する、ハ)剪断刃(剪断力を分散させるため階段状のものが多い)の移動刃と固定刃で挟んで剪断する、ニ)剪断された燃料をシュートで溶解装置へ送るという点は、ほぼ共通している。
剪断の際、切口に近い燃料ペレットは砕けて被覆管から脱出し(〜50%)、被覆管の中に残っているものと共に溶解装置へ送られる。ギャグ、剪断刃の作動は油圧シリンダ(〜 250t)を用い、毎分3〜5回の割合で行う。1基当りの処理量は〜約5t(使用済燃料)/日である。剪断工程の制御は、剪断燃料を受取る溶解系の状況との整合を考えた自動制御方式で行われる。
剪断時には、燃料粉塵、少量のクリプトン、
ヨウ素等を含むオフガスが発生する。溶解系と組合わせて、適切なオフガス処理系が設備される。
動燃東海工場の剪断機の説明図を
図3 に示す。
(b) 燃料集合体端末部の処理
燃料集合体の上、下端末部金具(タイプレートまたはノズルと呼ばれる)については、イ)剪断の前に鋸等で切離し廃棄物とする、ロ)剪断機で切離し、取り出し装置で取り出し廃棄物とする、ハ)剪断機で切離し、そのまま溶解槽へ送るなどの方式がある。
(c) 集合体剪断方式の利点
燃料集合体のまま剪断する方式の利点は、集合体を燃料棒まで
解体しないので、機械的前処理の工数を著しく削減できることにある。また、次の溶解工程から廃棄物として取出される被覆材は、すでに寸法が縮少されているので取扱いが容易になる。
(d) 剪断機の保守
剪断刃は摩耗するので、ある頻度で新しい刃と交換する必要がある。また、機械部分の損耗や再調整も考えておかねばならない。これらの理由で剪断機や関連機器はすべて遠隔的に保守できる必要があり、実用装置ではできるだけ短時間に遠隔保守を行えるよう、いろいろな設計上の工夫がなされている。
(3) 燃料溶解工程
燃料の溶解は、加熱された硝酸によって溶解槽の中で行われる。
ウランについて化学式を硝酸濃度等の反応条件別に
表1 に例示する。
実際の条件では、表示の反応が部分的に生起すると考えられるので、溶解工程のオフガスは窒素、酸化窒素類、酸素、および若干の揮発性
FP等の混合物であり、ウランは溶解液中で6価の原子価をもっている。一方、プルトニウムは4価および6価として、ネプツニウムは5価又は6価として溶解液中に溶解する。
(a) 不溶解残渣
大部分のFPは溶解するが、モリブデン、テクニチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム等の元素の一部は、単体または合金状等の不溶解固体粒子として溶解液中に分散して存在する。これを不溶解残渣という。ルテニウムの一部は4酸化ルテニウムとしてオフガス中に揮発することがある。
(b) 溶解時のヨウ素の挙動
溶解液中のヨウ素は、ヨウ化物、ヨウ素酸塩、元素状ヨウ素、有機ヨウ素(ヨウ化メチル等)等の形態をとることができるが、その大部分はオフガス中に揮発する。
(c) ヨウ素の追出し
溶解時にヨウ素はできるだけオフガス中に追出し、溶解槽オフガス処理工程で吸着剤等に固定することが行われている。溶解液とともに下流へ送って、ヨウ素を広く工程内に分布させると回収が面倒になるからである。溶解槽で大部分のヨウ素は揮発するが、追出しを徹底するため溶解槽の後にヨウ素追出し槽を設け、酸化窒素ガスを吹込むことがある。
(d) 回分式溶解
燃料溶解には、回分式と連続式の2つの方式がある。
回分式とは一定量の剪断燃料を溶解槽に装荷し、硝酸を加えて燃料部分を溶解し、溶解終了後溶解液は他の受槽に移し、溶解しない被覆材の切片(
ハルという)を別途取出すという操作を1回の単位として、これを繰返すという方式である。
回分式溶解槽の例として、動燃東海工場のものを
図4 に示す。
(e) 回分式溶解の利点
回分式では、溶解時間を燃料の特性に合わせて調節することが容易なので、少量、多種の使用済燃料の処理や溶解特性にばらつきのある燃料の処理には適している。溶解の進行状況は、クリプトンガスの発生状況や溶解液の比重変化で知ることができる。回分式溶解装置では、硝酸に接する部位に可動部が少いので設計し易い。
(f) 連続式溶解
連続式溶解とは、上記の一連の動作を1つの溶解装置の中で連続的に行えるように工夫されたものである。溶解槽の中では常時溶解が進行しているが、剪断燃料の供給、溶解液の取出し、ハルの取出しなどは、連続的又は間欠的に行えるようになっている。連続式の溶解装置には各種の型式があるが、フランスで開発された回転バスケット式溶解槽を
図5 、
図6 に示す。
(g) 連続式溶解の利点
溶解が連続的に行われているので処理効率が良いほかに、酸化窒素が発生し続けているため溶解液中に亜硝酸が常に存在するので、イ) プルトニウムを4価に維持できる(プルトニウムの抽出を保証)、ロ) 四酸化ルテニウムの還元によりルテニウムの揮発が抑制できる、ハ)ヨウ素をオフガス中に追出し易い、ニ)溶解槽の腐食を抑制できるなどの効果が期待できる。
(h) ハルの処理
ハル(Hull、溶け残った被覆材の殻)は、回分式では溶解終了後、溶解槽内で硝酸洗浄してからバスケットで取出す。この洗浄硝酸液は次回の溶解に使用するのが通例である。連続式では、専用に設置されたハル洗浄器で連続的に洗浄するのが通例である。ハルには洗浄後も核燃料物質やFPがわずかながら付着している。また不溶解残渣やスペーサの断片等が混じり、スペーサの材質によっては放射化生成物(
60Co、
55Fe等)を含むので、遮蔽能力のある貯蔵施設に隔離保管する。
ハルは、ジルコニウムの細片が酸化により発火することがあることに留意して、適当の容量のドラム缶の中に水浸しておく。
セメント固化することも行われている。最終的な処分のためのハルの減容および適切な固定化の研究も行われている。
(4) 清澄工程
燃料を溶解した直後の溶解槽溶液中には、かなりの量の不溶解残渣、ハル等の細片、
クラッドの不溶解部分等が混入している。固形物は次の工程の計量、溶媒抽出工程に悪影響があるので、これらを分離する必要がある。これを行う工程を清澄工程という。不溶解残渣の量は燃料燃焼度の増大に伴って増加する。清澄装置として実用されている方式に、遠心分離と濾過がある。それぞれの概念図を
図7 、
図8 に例示する。
遠心分離方式には、回転ボウルが下向きのものと上向きのものがある。いずれも高放射性の物質を取り扱うので、遠隔除染、保守ができるように設計されている。濾過装置ではフィルタの目詰り対策が必要である。パルスフィルタではフィルターの洗浄を処理液にパルスをかけて連続的に行うようになっているが、フィルターの寿命は比較的短いので遠隔的に交換できるように設計されている。
(5) 計量工程
溶解液は清澄工程で清浄化された後、容量測定を精度よく行えるように設計された計量槽に送り、硝酸濃度を調整し、十分攪拌して温度を一定にした上で、複数個の分析用の試料(サンプル)を採取して分析所へ送る。分析値と液の容量から計量槽中の核燃料物質の量を精度よく知ることができる。この工程で、これまで使用済燃料集合体毎の内蔵量として燃焼度等から計算により推計していた核燃料物質の量を、直接捉えることができるわけである。
<図/表>
<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
使用済燃料の受入、貯蔵 (04-07-02-01)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
気体廃棄物の処理 (04-07-02-06)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(2)動燃技報、 No.55(1989年5月)
(3)Proceeding Vol.2 of International Conference on Nuclear Fuel Reprocessing & Waste Management(1987,8/23-27)in Paris,SFEN
(4)住谷寛ほか:再処理工場開発の現状−六ケ所再処理工場施設の概要と安全性を探る−、原子力工業、38(10)、10-32(1992)