<本文>
1. 新型転換炉と燃料の特徴
新型転換炉(ATR;Advanced Thermal Reactor)は我が国独自の炉として
高速増殖炉と共にナショナルプロジェクトとして開発したものであり、
減速材として重水を用いるため軽水炉より低い濃縮度で燃料を効率良く燃焼制御することが可能な省資源型の発電炉である。燃料の種類による炉への影響が比較的少ない特性があるので、MOX燃料でも微濃縮ウラン燃料でも自由に装荷することが可能で、軽水炉でMOX燃料を使用する場合のように配置や制御棒等について配慮することが不要である。
ATRは重水減速沸騰軽水冷却炉で圧力管型であるため、燃料集合体は断面が円形になっている。このほか重水減速炉には、英国のSGHWRやカナダのCANDU-BLWなどがあるが、MOX燃料をATRのように多数使用している例は無い。ATR燃料は、軽水炉用MOX燃料と比較すると、ややプルトニウム富化度が低いが、燃料の製造法は殆ど同様である。集合体内での出力平坦化を図るため、中性子密度が低くなる内側の
燃料棒のプルトニウム富化度を高めている。
2. 新型転換炉原型炉「ふげん」燃料の構造と仕様
「ふげん」のMOX燃料は、
図1 に示すように燃料棒28本を内層 4本、中層 8本、外層16本と同心円状に配列し、上下にそれぞれ上部タイプレート及び下部タイプレートを置いて中間は12個のスペーサーで燃料棒を適正な間隔に保持して、燃料集合体としている。燃料集合体の主要仕様を
表1 に示し、燃料棒及び集合体の概略図を
図1に示す。また、計画は中止されたが、「ふげん」に次ぐ新型転換炉実証炉の燃料として開発された36本型燃料集合体の主要仕様も
表1に示す。
3. 「ふげん」燃料の製造
燃料加工の方法は、PuO
2粉末とUO
2 粉末を混合し、プレス成型した後、焼結して
ペレットを製造し、被覆管に充填して燃料棒を作り、それらを組み上げて燃料集合体としている。この燃料加工の方法は、高速増殖炉や軽水炉用のMOX燃料と殆ど同様である。ペレット形状は、
BWRに用いられているチャンファーと
PWRに用いられている
ディッシュの両者を採用した形状をしている。
図2 に「ふげん」MOX燃料の製造フローシートを示す。
PuO
2粉末とUO
2 粉末の混合には、Vブレンダーによる予備混合を行った後、ボールミルでよく摩砕混合して混合酸化物粉末を作る2段混合法が用いられている。このため、プルトニウムスポットの発生頻度が低く抑えられている。同様な2段混合法は、最近、ベルギーやフランスなどでも、軽水炉用のMOX燃料の製造に用いられている。
混合酸化物粉末を潤滑材と混合し、成形に適した粒度にした後、プレスで金型成形してグリーンペレットとする。これを、800℃で予備焼結して潤滑剤を蒸発分解した後、1650℃で2時間焼結する。焼結したペレットは、全数を径選別機で合否判定し、径が大きめのものは、無心研削機で円筒側面を高精度で研削し寸法公差範囲に収める。高速炉燃料の場合と異なりプルトニウム富化度が低いので、ウラン燃料と同様に通常の水を使用する無心研削が行われている。
出来上がったペレットは、各種の分析・検査を行った後、官庁検査を受験し、合格したものが次の製造工程である燃料棒加工工程に回される。
ペレットは、片側を端栓溶接された被覆管に押棒により自動充填される。この際、被覆管端部がペレットに接触して汚染し溶接と共に固定汚染になるのを防ぐため、管口マスクと称する極薄のロート状のものを管端部に装着する対策を採っている。
ペレット挿入後、残った片側の管端に端栓を取付け、TIG溶接により密封溶接して燃料棒とする。この後、密封線源化した燃料棒表面を丁寧に
除染した後、
グローブボックスから取り出す。次いで、表面汚染・外観・寸法・曲がり・溶接部の
X線 透過試験等の各種非破壊検査を行った後、官庁検査を受験し、合格したものが次の製造工程である燃料集合体組立工程に回される。
燃料集合体組立は、上下タイプレート及び12個のスペーサーを予め自動組立装置の所定の位置に固定しておくと、後は燃料棒の富化度別の配置を含めて燃料棒が自動的に挿入されて、燃料集合体が完成する。集合体は曲がりや捩じれ等の検査を行い、洗浄して官庁の使用前検査を受けて合格した後、原子炉サイトに出荷される。
<図/表>
<関連タイトル>
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
高速増殖炉の燃料設計 (03-01-02-06)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
高速増殖炉燃料の実例(原型炉「もんじゅ」用燃料) (04-09-02-05)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(平成2年6月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技 術協会(昭和61年)
(3)M. Benedict, T.H. Pigford, H.W. Levi: Nuclear Chemical Engineering” 2nd ed. McGraw-Hill(1981)
(4)動燃事業団:核燃料サイクル特集−MOX燃料の開発、動燃技報、No.59(1986年9月)
(5)上村勝一郎:重水炉(新型転換炉)燃料の研究開発状況、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.241-256