<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 高速増殖炉
<小項目> 高速増殖炉の構造と特徴
<タイトル>
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)

<概要>
 高速増殖炉における蒸気発生器は、2次系ナトリウムを熱源としてナトリウムと水(水蒸気)の熱交換を効率よく行なうための最も重要な機器である。蒸気発生器には一体貫流ユニット型、貫流式分離型、モジュール型等の型式があり、その構造には、ヘリカルコイル型と直管型の2種類が考えられている。高速増殖原型炉「もんじゅ」の場合は、蒸発器と過熱器とを備えた貫流式分離型であり、その構造はヘリカルコイル型(らせん状の伝熱管)、材料は蒸発器にはクロムとモリブデンを含有しているフェライト鋼、過熱器にはステンレス鋼を用いている。蒸気発生器の安全対策には特に留意している。例えば伝熱管が万一破損して、ナトリウム中に冷却水が大きくリークしナトリウム−水反応が発生したとしても、ナトリウム−水反応生成物収納設備が設けられており、蒸気発生器はもちろん、高速増殖炉プラントの安全性も確保される。
<更新年月>
2010年12月   

<本文>
 高速増殖炉の蒸気発生器は、2次冷却系のナトリウム(胴側)と水(伝熱管内)とが熱交換し、高温、高圧の過熱蒸気を発生させ、この蒸気でタービンを回転して発電するという高速増殖炉プラント冷却系の中で重要な機器である。高速増殖原型炉「もんじゅ」の場合の主冷却系の概要図を図1に示す。
 蒸気発生器は化学プラントの熱交換器及び加圧水型軽水炉プラントの蒸気発生器などと原理的に類似しており、とくに変わったものではないが、ナトリウムからの熱によって水蒸気を発生する機器であるので、それに伴う各種の課題がある。蒸気発生器は20〜30年の耐用年数を想定して設計されている。
1.蒸気発生器の形式
 蒸気を発生させる過程には、水の予熱、蒸発、過熱の三段階がある。これらを一つの蒸気発生器で行なうのが一体貫流ユニット型である。これに対して、予熱と蒸気の発生を蒸発器で行ない、過熱を過熱器で行なう貫流式分離型がある。また、比較的小容量の蒸発器、過熱器、再熱器などを多数並べて必要な容量を確保しようとする方法があり、これをモジュール型と呼んでいる。一体貫流ユニット型としては「スーパーフェニックス」、貫流式分離型としては「もんじゅ」、モジュール型としては「フェニックス」などの採用例がある。「もんじゅ」の蒸発器を図2、過熱器を図3に示す。
 一体貫流ユニット型の蒸気発生器は、全体として製作コストは低く、配置上それが占める空間も少なくてすむという利点がある反面、一つの蒸気発生器としてみると、内部が複雑で故障の際の修理が容易でなく、修理のためのプラント停止日数も多くなるという欠点もある。さらに一つの蒸気発生器で蒸発過熱まで行なわれるので、水中の不純物が濃縮されるなどの問題があり、厳しい水の純度管理が要求される。
 モジュール型の蒸気発生器は、故障その他によって蒸気発生器を停止する必要がある場合に、残りの健全な蒸気発生器による部分負荷運転が可能である。また、プラントを停止して修理する場合でも故障した蒸気発生器だけの修理で足りるので、プラント停止期間が少なくてすむなどの利点がある。しかし一体貫流ユニット型に比べて、系統としての蒸気発生器全体が複雑になり、一般に製作コストは高くなる。さらに各部の接続その他も複雑になり、故障の確率は増加するものと考えられる。
 このように両者には一長一短があるが、実証炉クラスについては経済性がよい一体貫流ユニット型に開発目標がしぼられつつある。
 なお、還流式分離型は一体貫流ユニット型の欠点を緩和するものである。
2.蒸気発生器の構造
 蒸気発生器の構造を選定するうえで最も配慮すべき点の一つは、シェル(容器胴体)と伝熱管との熱膨張差により構造物にかかる応力をいかに低減するかであり、このためヘリカルコイル型、直管型などが考えられている。
 ヘリカルコイル型(ら旋状)伝熱管は伝熱管がスプリング状で、また上部と下部に曲がり部があるため、熱膨張差を吸収できる。またコンパクト化が可能であり、1基当たりの出力を大きくできるため、「もんじゅ」、西ドイツの原型炉「SNR-300」、フランスの実証炉「スーパーフェニックス」などで採用されている。
 直管型は工作が容易だが、管の熱膨張吸収対策として、一部直管を曲げる方法などがある。直管型はモジュール方式の蒸気発生器に多く用いられる。
 現在、日本原子力研究開発機構においてFBRの実用化を目指すFaCTプロジェクト (Fast Reactor Cycle System Technology Development Project)が進められている。ここでは、蒸気発生器の単基出力大容量化を考慮し、安全性と資産保護性向上の観点から、直管2重伝熱管蒸気発生器の開発が行われてている。
 3.蒸気発生器の材料
 蒸気発生器の運転温度は、一般にナトリウム入口温度500℃〜600℃、蒸気出口温度450℃〜550℃くらいのものが多い。「もんじゅ」の場合、蒸発器のナトリウム入口温度は約469℃、過熱器のナトリウム入口温度は約505℃、蒸気出口温度は約487℃である。この程度の温度のナトリウムにはステンレス鋼が適しているが、ステンレス鋼を水−蒸気系に用いると、塩素及び水酸化ナトリウムなどの存在による応力腐食(塩化物応力腐食という)を生じるので、この点ではあまり好ましい材料ではない。このためステンレス鋼を用いる場合には、酸素及び塩素濃度は0.1ppm以下にする必要がある。特に貫流型の蒸気発生器の場合には微量の塩素でも濃縮される可能性があるので、注意が必要である。従って応力腐食がほとんどなく使用実績の多い21/4Cr-1Moフェライト鋼が伝熱管に用いられることもある。
 「もんじゅ」の場合、蒸発器は胴体及び伝熱管とも水側の応力腐食割れへの耐性を考慮して、フェライト系低合金鋼(STBA24等:21/4Cr-1Mo鋼)が用いられ、過熱器に水蒸気環境での適合性と耐熱性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼SUS321が用いられている。
4.ナトリウム−水反応
 高速増殖炉の蒸気発生器は、伝熱管の内側を高圧の水・蒸気、胴側を常圧のナトリウムが流れる。ナトリウムは極めて活性が強く、特に水とは激しく化学反応を起こすため、万一、伝熱管に欠陥があって水とナトリウムが接触すると反応して水素ガスなどの反応生成物と熱と圧力を発生する。この現象を「ナトリウム−水反応」と呼んでいる。
 「もんじゅ」では実験や解析による検討を行い、最初に1本が破断し、その影響で3本が同時に破断するという充分に大きなリークを設計基準にとり、その場合にも配管などの健全性がそこなわれないように設計されている。
5.ナトリウム−水反応生成物収納設備
 蒸気発生器の伝熱管が万一破断して大量の水が噴出すると、「大リーク」の「ナトリウム−水反応」が起こり、ほぼ瞬間的に大量の水素ガスなどの反応生成物の発生による大きなパルス状の圧力が発生し、蒸気発生器内部やポンプ、中間熱交換器などに音響波動的に伝わる。これらの圧力及び反応生成物を安全に解放、放出するため、蒸気発生器にはその設計圧力より低い圧力で破れる圧力開放板が設けられており、水素ガスなどの反応生成物を安全に回収する「ナトリウム・水反応生成物収納設備」と呼ばれる設備がついている。
 「もんじゅ」の「ナトリウム・水反応生成物収納設備」は、図4に示すように、圧力開放板、反応生成物収納容器、配管などから構成されている。蒸気発生器内の圧力が上昇すると圧力開放板が破れ、水素ガスと一緒にナトリウムや固体ないし液体状の反応生成物は、内部が窒素ガス雰囲気に維持された反応生成物収納容器(図5)に回収される。
 反応生成物収納容器内に回収された反応生成物の分離は次のとおり行われる。(1)反応生成物が入口ノズルから収納容器に流入すると、本体胴と分離シュラウドの間を旋回しながら下降し、重い液体成分や固体成分は、遠心力で分離されて容器の底部に落下して捕集される。(2)軽い水素ガスは方向転換して分離シュラウドの内側を上昇する。(3)水素ガスと一緒に運ばれる微細なナトリウムは、上部のミストセパレータによって捕集され、水素ガスだけが収納容器から放出される。
 放出された水素ガスは点火器で燃焼処理され大気中に放出される。したがって、大気中に放出されるのは水蒸気だけである。
 1次冷却系のナトリウムと異なり、2次冷却系のナトリウムは放射化されていないので、反応生成物も放射能を有しておらず、たとえ水蒸気を放出したとしても放射能は含まれていない。
<図/表>
図1 「もんじゅ」の主冷却系概要図
図2 「もんじゅ」の蒸発器
図3 「もんじゅ」の過熱器
図4 ナトリウム・水反応生成物収納設備系統図
図5 ナトリウム・水反応生成物収納容器

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<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
高速増殖炉の構造材料 (03-01-02-15)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)
蒸気発生器(ナトリウム−水)に関する研究 (06-01-02-04)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)久保田淳:高速増殖炉工学基礎講座 機器(その3)、原子力工業 Vol.37、No.7(1991)
(3)動力炉・核燃料開発事業団 動力炉開発部門編:動き出した高速増殖原型炉 −もんじゅ− その歩み、現状と今後の展開、原子力工業 Vol.40、No.6(1994)
(4)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(5)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所 原子炉設置許可申請書(昭和55年12月)
(6)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧 1999年版、電力新報社(1999年10月)
(7)原子力安全・保安院:高速増殖原型炉「もんじゅ」について(独立行政法人日本原子力研究開発機構作成資料)平成19年8月
(8)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖原型炉もんじゅ設計・建設・試運転の軌跡
(9)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖原型炉もんじゅ設計・建設・試運転、2次冷却系
(10)日本原子力研究開発機構:森下 正樹 高速増殖炉システムに係る革新技術の研究開発の進捗、高速増殖炉サイクル実用化研究開発FaCTプロジェクト中間報告会、2009年8月
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