<大項目> 原子力発電
<中項目> 軽水炉(PWR型)原子力発電所
<小項目> 安全解析・安全評価
<タイトル>
仮想事故(PWRの場合) (02-04-13-04)

<概要>
 原子炉設置に先立って行う安全審査の際、その立地条件の適否を判断するため、「原子炉立地審査指針」では、重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故を「仮想事故」といい、その発生を仮想しても周辺の公衆に著しい放射障害を与えないよう求めている。
 PWR発電所の場合は、仮想事故として、重大事故と同種の原子炉冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故が選定されていて、評価条件は重大事故の場合より大幅に厳しいものが仮定されている。ここでは、これらの解析評価結果の概要を示す。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている「原子炉立地審査指針」等について見直しや追加が行われる可能性がある。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
 原子炉の立地条件の適否は1964年に原子力委員会が決定した「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」(平成元年一部改訂)(以下「原子炉立地審査指針」という)によって審査される。なお、科学的合理性に基づく最新の知見を取り入れる観点から、国内外の状況を踏まえて、本指針及び関連指針類の改定等について、現在検討が進められている。
 この指針では重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故、例えば重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちいくつかが作動しないと仮定し、それに相当する核分裂生成物の放散を仮想する事故(仮想事故)の発生を仮定しても、原子炉施設の敷地周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを要求している。なお、仮想事故の選定に当っては、炉心の核分裂生成物の多重防壁の全てが無条件に機能しないと仮定すると、離隔距離は事実上原子炉出力のみによって定まってしまうことになり、その他の重要な因子は無視されることになる。このような仮定は必須な仮定には当らない。この目標を達成するためには少なくとも原子炉から「ある距離の範囲」は非居住区域に、その外側の地帯は低人口地帯であることを求めている。「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、低人口地帯境界の最高被ばく地点における線量は「甲状腺(成人)に対して3Sv、全身に対して0.25Sv」と定められている。また、原子炉施設の敷地が人口密集地帯からある距離だけ離れていることを求めており、判断のめやすとして「集団線量に関する外国の例(例えば2万人Sv)」を参考にすることが記述されている。
 PWR発電所の場合、仮想事故として重大事故と同種の原子炉冷却材喪失事故(以下「一次冷却材喪失事故」という)及び蒸気発生器伝熱管破損事故を選定し評価している。
(1)一次冷却材喪失事故
 評価を行う際の主な想定は次のとおりである。
 ・原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蓄積量に対して、希ガス100%、よう素50%の割合とする。
 ・判断基準は、「原子炉立地審査指針」による。
 ・その他の条件は重大事故の場合とほぼ同様である。
 一次冷却材喪失事故が発生したとしても燃料棒の破損が多数生じることはないと考えられるが、ここではそれに相当する核分裂生成物が放出されるとする。
 原子炉格納容器内の圧力は、高温高圧の1次冷却水の流出により一時的に大気圧以上に上昇し、核分裂生成物を含む蒸気の漏えいの原因となる。原子炉格納容器内に放出された核分裂生成物はわずかずつ30日間原子炉格納容器からアニュラスに漏れ出るものとする。漏れ出た核分裂生成物の大部分のよう素はアニュラス空気浄化設備のフィルタで除去される。

〔事故結果の解析例〕
<核分裂成生物の放出量>
 核分裂生成物の大気中への放出量の計算は次の仮定に基づいて行う。
核分裂生成物の種類よう素希ガス
炉内の蓄積量約 6.29E18 Bq約 4.07E19 Bq
原子炉格納容器内へ放出される割合50%100%
原子炉格納容器からアニュラスへの漏えい率1日目 0.15%/日
2〜30日 0.075%/日
1日目 0.15%/日
2〜30日 0.075%/日
フィルタのよう素除去効率90%

 なお、よう素及び希ガスが大気中に放出されるまでの過程を図1図2に示す。
 計算した核分裂成生物の大気中への放出量は次のとおりである。
核分裂生成物の種類よう素希ガス
大気への放出量約 7.03E13 Bq約 5.92E15 Bq

<線量の評価>
 線量は、発電用原子炉施設の安全解析に関する「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(以下「気象指針」という)に基づいて計算する。発電所敷地境界の外における最大の被ばく線量は次のとおりである(表1表3参照)。
  甲状腺(成人)被ばく線量     約 0.15 Sv
  外部γ線による全身被ばく線量   約 0.01 Sv
  全身被ばく線量の積算値(将来人口に対して)  約690人Sv
 これらの被ばく線量は、めやす線量の甲状腺(成人)に対して3Sv、全身に対して0.25Sv、全身被ばく線量の積算値を2万人Svに対して十分下回るものである。
(2)蒸気発生器伝熱管破損事故
 評価を行う際に主な想定は次のとおりである。
 ・設計上想定した欠陥を有する燃料棒中のギャップに存在する希ガス及びよう素が事故発生直後1次冷却系に追加放出されるものとする。
 ・その他の条件は重大事故の場合とほぼ同様である。
 蒸気発生器を隔離した後は、健全側蒸気発生器を使って一次冷却系及び二次系の減圧が行なわれるが、仮想事故ではこの減圧効果を無視して、隔離した蒸気発生器の二次側からの蒸気の漏えいが30日間続くものとする。

〔事故結果の解析例〕
<核分裂生成物の放出量>
 核分裂生成物の大気中への放出量の計算は次の仮定に基づいて行う。

よう素希ガス
一次冷却材中の量2.11E13 Bq4.07E14 Bq
原子炉格納容器内へ放出される割合50%100%
一次冷却材への追加放出に寄与すると仮定した量6.29E14 Bq 8.51E15 Bq

 なお、よう素及び希ガスが大気中に放出されるまでの過程を図3図4に示す。
 計算した核分裂成生物の大気中への放出量は次のとおりである。
核分裂生成物の種類よう素希ガス
大気への放出量2.04E12 Bq

<線量の評価>
 核分裂生成物は主蒸気逃がし弁と主蒸気安全弁の双方、またはいずれかの排気管出口を通して放出されるが、評価上地表面から放出されるとする。被ばく線量は発電用原子炉施設の安全解析に関する「気象指針」に基づいて計算する。発電所敷地境界の外における最大の被ばく線量は次のとおりである。(表2表3参照)
  甲状腺(成人)被ばく線量   約 0.19 Sv
  全身被ばく線量        約 0.013 Sv
  全身被ばく線量の積算値(将来人口に対して)  約240人Sv
 これらの被ばく線量は、めやす線量の甲状腺(成人)に対して3Sv、全身に対して0.25Sv、全身線量の積算値2万人Svに対して十分下回るものである。
<図/表>
表1 一次冷却材喪失事故時の線量(仮想事故)
表2 蒸気発生器伝熱管破損事故時の線量(仮想事故)
表3 全身線量の積算値(仮想事故)(2025年の人口)
図1 一次冷却材喪失事故(仮想事故)時のよう素の大気放出過程概要
図2 一次冷却材喪失事故(仮想事故)時の希ガスの大気放出過程概要
図3 蒸気発生器伝熱管破損事故(仮想事故)時のよう素の大気放出過程概要
図4 蒸気発生器伝熱管破損事故(仮想事故)時の希ガスの大気放出過程概要

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
原子力発電プラント(PWR)の制御 (02-04-06-01)
PWRの原子炉保護設備 (02-04-07-01)
事故(PWRの場合) (02-04-13-02)
重大事故(PWRの場合) (02-04-13-03)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、(平成2年6月)
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし、(平成20年9月)
(3)日本原子力発電:敦賀発電所原子炉設置変更許可申請書、(昭和55年8月)
(4)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(5)原子力安全委員会:発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(平成2年8月30日決定、平成13年3月29日一部改定)、付録I、付録II
(6)原子力安全委員会事務局:立地指針等検討小委員会における検討について(平成21年4月27日)(立小委第1-1-3号)
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