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<概要>
 発電用軽水型原子炉施設に対しては「安全評価審査指針」によって原子炉施設の安全設計の妥当性の確認が求められている。「安全評価審査指針」の中で「事故」については、「運転時の異常な過渡変化」を超える異常な状態であって、発生する頻度はまれであるが、発生した場合には原子炉施設からの放射性物質の放出の可能性があり、原子炉安全性を評価する観点から想定する必要のある事象が選ばれている。その中で代表的な二つの例、すなわち、一次冷却材主配管破断によって炉心冷却能力が喪失する一次冷却材喪失事故(LOCA)および蒸気発生器の伝熱管1本が破断して環境へ放射性物質が放出される蒸気発生器伝熱管破損事故(SGTR)の解析評価結果について述べ、原子炉施設の安全設計の妥当性がどのように確認されているかを示す。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている「発電用軽水型原子炉施設の安全設計に関する審査指針」等について見直しや追加が行われる可能性がある。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 「事故」は「運転時の異常な過渡変化」を超える異常な状態であって、発生する頻度はまれであるが、発生した場合は原子炉施設からの放射能物質の放出の可能性がある事象とされている。この事故事象の発生によっても、炉心の溶融あるいは著しい損傷に至ることなく、かつ周辺への放射性物質の放出をある限度内にとどめ得ることを確認することが基本である。評価すべき事故事象として、事故が発生した場合における工学的安全施設等の主として事故の影響を緩和する系に属する構築物、系統及び機器の設計の妥当性を確認する見地から、以下が想定されている。
(1)一次冷却材の喪失又は炉心冷却状態の著しい変化
(2)反応度の異常な投入又は原子炉出力の急激な変化
(3)環境への放射性物質の異常な放出
(4)原子炉格納容器内圧力、雰囲気等の異常な変化
 以下に4ループPWRにおける代表的な事例二つ、すなわち、上記(1)と(4)の想定事象である一次冷却材喪失事故、および(3)の想定事象である蒸気発生器伝熱管破損事故の解析評価結果を示す。
1.一次冷却材喪失事故(LOCA)
 一次冷却材喪失事故のうちもっとも厳しい事象として、定格出力運転中における一次冷却材ポンプ出口側の配管(内径約79cm)が破断し、一次冷却材が原子炉から喪失して、原子炉格納容器内が高温蒸気で加圧される事象を想定する。この場合、何も対策が講じられなければ一次冷却材が流出してしまい、燃料は著しく損傷してしまうことになる。実際には以下のような対策がとられ事故は終息する。
・一次系圧力の低下にともない蓄圧タンクのホウ酸水が原子炉内に注入される。
・「原子炉圧力低と加圧器水位低の一致」などの発信により非常用炉心冷却設備(ECCS)が作動し燃料取替用水タンクのホウ酸水が原子炉内に注入される。
・安全保護回路の発信により原子炉を自動停止させる。
 この事故の判断基準としては、炉心は著しい損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であること、燃料被覆の温度の最高値が1200℃以下であること、原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力が最高使用圧力以下であること、が適用される。
 一次冷却材喪失事故の解析評価結果(炉心圧力)を図1に、解析評価結果(炉心水位)を図2に、解析評価結果(燃料被覆管温度)を図3に、および解析評価結果(原子炉格納容器健全性評価)を図4に示す。
 一次冷却材ポンプ出口配管の破断が起きると、原子炉圧力は急速に低下し原子炉格納容器内圧力が急上昇する。約2秒後に安全保護回路(「原子炉圧力低」または「原子炉格納容器圧力高」による「非常用炉心冷却設備作動」の発信による「原子炉トリップ」)により、原子炉が自動停止し、非常用電源であるディーゼル発電機が起動する。炉心部は二相流の状態となり圧力はゆるやかに低下する。破断発生約16秒後に原子炉圧力は蓄圧注入系の保持圧力41.2kg/cm2G(4.0MPa)以下となり自動的にホウ酸水が注水される。破断発生約26秒後に原子炉圧力は原子炉格納容器内圧力とほぼ等しくなってブローダウンが終了し、蓄圧タンクからの注水は原子炉の下部プレナムに溜まり始める。ディーゼル発電機の電圧確立後、高圧注入系と低圧注入系により破断発生約34秒後から注水される。破断発生約37秒後に炉心水位は炉心燃料の下端に達するが、以後炉心で発生する蒸気と蒸気に巻き込まれた水滴の混合流によって炉心は冷却される。燃料被覆管温度は最高値に達しても1200℃を下回る。蒸気発生器を回って原子炉格納容器へ放出されるエネルギーの効果による原子炉格納容器内の圧力は最高使用圧力4.0kg/cm2G(3.9kPa)を下回る。その後も注水が続き、やがて格納容器再循環サンプにたまった冷却水は余熱除去ポンプにより再循環され(再循環モードの確立)、炉心の長期にわたる冷却が行われる。また、アニュラス空気浄化装置の作動により原子炉格納容器からの放射性物質の放出量は小さく、周辺の公衆に対して著しい放射線被ばくのリスクを与えることはない。
2.蒸気発生器伝熱管破損事故(SGTR)
 定格出力運転中に蒸気発生器伝熱管1本(内径約2cm)が破断し、一次冷却材が蒸気発生器二次側へ流出し、主蒸気逃がし弁及び主蒸気安全弁から大気へ放出される事象を想定する。破損側蒸気発生器の隔離は運転員が操作する等により事故は終結する。この事故の判断基準としては、周辺の公衆に対し著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと、が適用される。
 蒸気発生器伝熱管破損事故の解析評価結果を図5に示す。蒸気発生器4基のうち1基の伝熱管1本が瞬時に完全破断し、一次冷却材が二次系へ流出するとする。これに伴い、加圧器水位及び原子炉圧力が低下し、安全保護回路(「過大温度ΔT高原子炉トリップ」の信号)により事故発生の約5分後に原子炉は自動停止する。原子炉停止後、一次冷却系の減圧及び二次系への一次冷却材の流出による安全保護回路(「原子炉圧力低」の信号による「非常用炉心冷却設備作動信号」の発信)により、蓄圧注入系、高圧注入系、低圧注入系が作動してホウ酸水を炉心に注入する。原子炉圧力が高い間は圧力差に応じた流出速度で一次冷却材が二次系へ流出する。運転員が事故発生20分後に健全側の主蒸気逃がし弁を開くので一次系の除熱が行われる。さらに事故発生25分後の加圧器逃がし弁の開操作で原子炉圧力が低下して、一次冷却材の流出量が減少し、事故発生30分後の原子炉圧力が二次系圧力以下となって、二次系への流出が止まる。
 事故発生時の一次冷却材中の核分裂成生物は、燃料被覆管ギャップにある核分裂成生物が設計上想定した燃料被覆管欠陥率で通常運転中一次冷却材中に放出されていたものとする。また蒸気発生器を隔離するまでの間に一次系から二次系へ流出した一次冷却材の量(最大約45トン)が大気に放出され、さらに蒸気発生器の隔離後も、二次系弁からの蒸気漏洩により二次系圧力が隔離後24時間で直線的に大気圧に達するまで大気に放出された(大気中に放出された全蒸気量は約25トン)と仮定する。これらの仮定の下で行われた被ばく評価の結果、敷地境界外の実効線量当量で、甲状腺(小児)被ばく線量が12mSvであり、外部γ線による全身被ばくが約1.5mSvであるので、周辺公衆に与える放射線被ばくのリスクは十分に小さいと評価される。
(前回更新:1999年3月)
<図/表>
図1 一次冷却材喪失事故の解析評価結果(炉心圧力)
図1  一次冷却材喪失事故の解析評価結果(炉心圧力)
図2 一次冷却材喪失事故の解析評価結果(炉心水位)
図2  一次冷却材喪失事故の解析評価結果(炉心水位)
図3 一次冷却材喪失事故の解析評価結果(燃料被覆管温度)
図3  一次冷却材喪失事故の解析評価結果(燃料被覆管温度)
図4 一次冷却材喪失事故の解析評価結果(原子炉格納容器健全性評価)
図4  一次冷却材喪失事故の解析評価結果(原子炉格納容器健全性評価)
図5 蒸気発生器伝熱管破損事故の解析評価結果
図5  蒸気発生器伝熱管破損事故の解析評価結果

<関連タイトル>
事故の拡大防止 (02-02-05-03)
単一故障基準 (02-02-05-04)
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの工学的安全施設 (02-04-04-01)
PWRの原子炉保護設備 (02-04-07-01)
運転時の異常な過渡変化(PWRの場合) (02-04-13-01)
重大事故(PWRの場合) (02-04-13-03)
仮想事故(PWRの場合) (02-04-13-04)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会実務テキスト編集委員会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)、原子力安全研究協会(平成20月9月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、火力原子力発電技術協会(平成14年6月)
(3)原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(4)日本原子力発電:敦賀発電所原子炉設置変更許可申請書、(昭和55年8月)
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