<本文>
原子炉の立地条件の適否は1964年に
原子力委員会が決定した「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」(平成元年一部改訂)(以下「原子炉立地審査指針」という)によって審査される。なお、科学的合理性に基づく最新の知見を取り入れる観点から、国内外の状況を踏まえて、本指針及び関連指針類の改定等について、現在検討が進められている。
この指針では、原子炉施設の敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる「重大な事故」の発生を仮定しても、敷地周辺の公衆に放射線障害を与えないことを求めており、この目標を達成するためには、少なくとも原子炉から「ある距離の範囲」は非居住区域であることを要求している。同指針には「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、敷地境界の最高被ばく地点における
線量は、重大事故においては「
甲状腺(小児)に対して1.5Sv、全身に対して0.25Sv」を定めている。
PWR発電所の場合、重大事故には敷地周辺公衆との離隔を評価する観点から、技術的にみて合理的に最大と考えられる
核分裂生成物の放出を想定する事故として、原子炉冷却材喪失事故(以下「一次冷却材喪失事故」という)及び蒸気発生器伝熱管破損事故を評価している。
(1)一次冷却材喪失事故
一次系配管の中で最大の一次冷却材低温側配管が瞬時に破断することを想定して
安全評価を行う。
評価を行う際の主な想定は次のとおりである。
・
原子炉格納容器内に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蓄積量に対して、
希ガス2%、よう素1%の割合とする。
・希ガス及びよう素については、原子炉格納容器からの漏えいを考慮するものとする。漏えい率は設計値に余裕を見込んだ値を使用する。
・アニュラス空気浄化設備及び安全補機室空気浄化設備のフィルタのよう素除去効率は、設計値に余裕を見込んだ値を使用する。
・環境に放出された核分裂生成物の拡散は、「発電用原子炉施設の安全解析に関する
気象指針」(以下「気象指針」という)に従って評価する。
・判断基準は、「原子炉立地審査指針」による。
一次冷却材主配管のような大口径、厚肉の配管の完全破断は、実際上起こらないと考えられる。また、一次冷却材喪失事故が発生したとしても非常用炉心冷却設備(
ECCS)の作動等により
燃料被覆管の健全性が大きく損なわれることはないと考えられる。しかしながら、ここでは、全燃料被覆管に損傷が生じるものと仮定し、その結果、燃料ペレットと燃料被覆管の隙間にある核分裂生成物の全てが原子炉格納容器内に放出されるものとする。
原子炉格納容器内の圧力は、高温・高圧の一次冷却材の流出により一時的に大気圧以上に上昇する。原子炉格納容器内に放出された核分裂生成物はわずかづつ原子炉格納容器からアニュラスへ漏れ出るものとする。漏れ出た核分裂生成物の大部分はアニュラス空気浄化系のフィルタで除去される。
〔事故結果の解析例〕
<核分裂生成物の放出量>
核分裂生成物の大気中への放出量の計算は次の仮定に基づいて行う。
核分裂生成物の種類 | よう素 | 希ガス |
炉内の蓄積量 | 約 6.29E18 Bq | 約 4.07E19 Bq |
原子炉格納容器内へ放出される割合 | 1% | 2% |
原子炉格納容器からアニュラスへの漏えい率 | 1日目 0.15%/日
2〜30日 0.075%/日 | 1日目 0.15%/日
2〜30日 0.075%/日 |
フィルタのよう素除去効率 | 90% | − |
なお、よう素及び希ガスが大気中に放出されるまでの過程を
図1、
図2に示す。
計算した核分裂生成物の大気中への放出量は次のとおりである。
核分裂生成物の種類 | よう素 | 希ガス |
大気への放出量 | 約 1.4E12 Bq | 約 1.15E14 Bq |
<線量の評価>
線量は「気象指針」に基づいて計算する。発電所敷地境界の外における最大の
被ばく線量は次のとおりである(
表1参照)。
甲状腺(小児)線量 約 0.012 Sv
全身被ばく線量 約 0.0002 Sv
これらの被ばく線量は、
めやす線量の甲状腺(小児)に対して1.5Sv、全身に対して0.25Svを十分に下回るものである。
(2)蒸気発生器伝熱管破損
評価を行う際の主な想定は次のとおりである。
・一次冷却材中の核分裂生成物の濃度は、設計上想定した燃料被覆管欠陥率を用いて計算された値とする。
・この欠陥を有する燃料棒中のギャップに存在する希ガス及びよう素が原子炉の圧力低下割合に比例して追加放出されるものと仮定する。
・蒸気発生器が隔離されるまでの間、
放射性物質の二次系への流出がつづく。
・環境に放出された核分裂生成物の拡散は「気象指針」に従って評価する。
・判断基準は「原子炉立地審査指針」による。
蒸気発生器伝熱管1本が瞬時に完全破断したと仮定した場合、一次冷却系圧力が低下し、「過大温度ΔT高原子炉トリップ」信号で原子炉は自動停止するとともに、タービン発電機も停止する。「原子炉圧力低」信号により非常用炉心冷却設備も作動する。外部電源が有効である場合、タービン発電機の停止後はタービンバイパス弁が作動するが、ここでは外部電源が使用できない場合を想定し、主蒸気逃がし弁と主蒸気安全弁の双方、またはいずれかが作動するとする。
非常用炉心冷却設備(ECCS)及び補助給水による炉心の冷却及び減圧が進んで、原子炉(一次系)圧力が破損側蒸気発生器の蒸気(二次系)圧力を下回り、主蒸気安全弁の設定圧力以下になれば破損側蒸気発生器は隔離される(二次系への流出は止まる)。この間約30分を要し、2次側に流出する一次冷却材量は約50トン、また2次側から大気中に放出される蒸気量は約30トンである。隔離した後では放出されないが、安全評価上は1日間漏えいが続くものとする。
〔事故結果の解析例〕
<核分裂生成物の放出量>
核分裂生成物の大気中への放出量の計算は次の仮定に基づいて行う。
| よう素 | 希ガス |
一次冷却材中の量 | 2.11E13 Bq | 4.07E14 Bq |
一次冷却材への追加放出に寄与すると仮定した量 | 6.29E14 Bq | 8.51E15 Bq |
なお、よう素及び希ガスが大気中に放出されるまでの過程を
図3、
図4に示す。
計算した核分裂生成物の大気中への放出量は次のとおりである。
核分裂生成物の種類 | よう素 | 希ガス |
大気への放出量 | 4.44E14 Bq |
<線量の評価>
核分裂生成物は主蒸気逃がし弁と主蒸気安全弁の双方、またはいずれかの排気管出口を通して放出されるが、評価上地表面から放出されるとする。被ばく線量は「気象指針」に基づいて計算する。発電所敷地境界の外における最大の被ばく線量は次のとおりである(
表2参照)。
甲状腺(小児)線量 約 0.13 Sv
全身被ばく線量 約 0.0028 Sv
これらの被ばく線量は、めやす線量の甲状腺(小児)に対して1.5Sv、全身に対して0.25Svを十分に下回るものである。
<図/表>
<関連タイトル>
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの原子炉保護設備 (02-04-07-01)
運転時の異常な過渡変化(PWRの場合) (02-04-13-01)
事故(PWRの場合) (02-04-13-02)
仮想事故(PWRの場合) (02-04-13-04)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、(平成2年6月)
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし、(平成20年9月)
(3)日本原子力発電:敦賀発電所原子炉設置変更許可申請書、(昭和55年8月)
(4)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(5)原子力安全委員会:発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(平成2年8月30日決定、平成13年3月29日一部改定)、付録I、付録II
(6)原子力安全委員会事務局:立地指針等検討小委員会における検討について(平成21年4月27日)(立小委第1−1−3号)