<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請において、原子炉施設の安全評価の妥当性について判断する際の基礎が「安全評価審査指針」に示されている。この指針の中で「運転時の異常な過渡変化」に関する評価は、原子炉施設の寿命期間中に予想される機器の単一の故障もしくは誤動作または運転員の単一の誤操作、およびこれらと類似の頻度で発生すると予想される外乱によって生ずる異常な状態に至る事象を対象とし、原子炉施設が制御されずに放置されると、炉心あるいは原子炉冷却材圧力バウンダリに過度の損傷をもたらす可能性のある事象が選定されている。その中から代表的な三つの例、すなわち、原子炉冷却材流量の部分喪失事象、原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き事象、および主給水流量の喪失事象の解析評価結果について述べ、原子炉施設の安全設計の妥当性をどのように確認しているかを示す。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請において、原子炉施設の安全評価の妥当性について判断する際の基礎が「安全評価審査指針」に示されている。この指針の中で「運転時の異常な過渡変化」に関する評価は、原子炉の運転中において、原子炉施設の寿命期間中に予想される機器の単一の故障もしくは誤動作または運転員の単一の誤操作、およびこれらと類似の頻度で発生すると予想される外乱によって生ずる異常な状態に至る事象を対象とし、原子炉施設が制御されずに放置されると、炉心あるいは原子炉冷却材圧力バウンダリに過度の損傷をもたらす可能性のある事象が選定され、具体的には以下に示す異常な状態を生じさせる可能性のある事象としている。
(1)炉心内の反応度または出力分布の異常な変化
(2)炉心内の熱発生または熱除去の異常な変化
(3)原子炉冷却材圧力または原子炉冷却材保有量の異常な変化
(4)その他原子炉施設の設計により必要と認められる事象
 以上の事象が生じた場合、炉心は損傷に至ることなく、かつ、原子炉施設は通常運転に復帰できる状態で事象が収束される設計であることの確認が求められ、その判断基準は以下のとおりである。
(1)最小限界熱流束比(DNBR;Departure from Nuclear Boiling Ratio)または最小限界出力比が許容限界値以上であること。
(2)燃料被覆管は機械的に破損しないこと。
(3)燃料エンタルピーは許容限界値以下であること。
(4)原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の1.1倍以下であること。
 以下に3ループPWR発電所における代表的な事例三つの解析、評価を示す。
1.原子炉冷却材(一次冷却材)流量の部分喪失
 この過度変化事象では、原子炉の出力運転中に一次冷却材ポンプの1台の故障等により、炉心の冷却材流量が減少する事象を想定する。この事象に対して何ら対策もせずこの状態を放置したとすれば、燃料からの除熱が不十分となり燃料が損傷を被る事態となる。実際にはこの事象に対して、一次冷却材ポンプにはフライホイールを設けて慣性を大きくし、電源喪失の時でも一次冷却材の急速な流量低下を防ぎ、また、「一次冷却材流量低」などの発信により原子炉を自動停止する対策が採られている。
 解析評価結果を図1に示す。一次冷却材ポンプの停止後、炉心流量は徐々に低下し、これにより「一次冷却材流量低」が発信され原子炉は自動停止し、原子炉出力が急減する。原子炉圧力は一次冷却材流量低下で最初はわずかに上昇するが原子炉停止による出力急減で徐々に低下していく。最小DNBRも最低で約2.21であり判断基準(1.42以上)に十分余裕がある。以上の経過で燃料と原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が保たれている。
2.原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き
 この過度変化事象では、原子炉起動時に、制御棒駆動系の故障、誤操作等により制御棒が連続的に引き抜かれ、原子炉出力が上昇する事象を想定する。この事象では添加反応度が1ドルを超えるので「反応度投入事象評価指針」の事象に分類される。添加反応度が1ドルを超えると中性子束が急上昇するが、燃料ドップラー係数による負のフィードバック効果によって中性子束の急上昇は抑制される。この事象に対し何ら対策が講じられなければ、制御棒の引き抜きが続き原子炉出力が増大し続けるため、燃料は破損にいたる事態となる。実際にはこの事象に対して、制御棒クラスタ引き抜き機構は磁気ジャック式とし、引き抜き最高速度をコイルの磁気シーケンスの速度で制限し、また、「出力領域中性子束高(低設定)」などの発信により原子炉を自動停止する対策が採られている。
 解析評価結果を図2に示す。制御棒クラスタのバンク引き抜きにより中性子束が急上昇すると「出力領域中性子束高(低設定)」が発信され原子炉は自動停止する。このときの制御棒落下(炉心挿入)までは燃料ドップラー係数の負のフィードバック効果により原子炉出力が抑制される。その後の原子炉停止により未臨界となる。燃料エンタルピーは最大約343kJ/kg・UO2(81.9kcal/kg・UO2)に達するが、許容設計限界(170kcal/kg・UO2)に達してないので、燃料の健全性は保たれている。原子炉起動時の事象なので二次冷却系は無負荷なので一次系からの除熱が不十分となって原子炉圧力は上昇するが、原子炉停止により徐々に低下していき、この過渡事象は収束する。
3.主給水流量の喪失
 この過度変化事象では、原子炉の出力運転中に、主給水ポンプ、復水ポンプまたは給水制御系の故障等により、すべての蒸気発生器への給水が停止し、原子炉からの除熱能力が低下する事象を想定する。この事象に対し何ら対策が講じられなければ、原子炉圧力が上昇し、この状態が進めば加圧器の逃し弁が開き、さらに安全弁が開いて一次冷却材が流出する事態となる。実際にはこの事象に対して、「蒸気発生器水位異常低」、「原子炉圧力高」などの発信により、原子炉を自動停止し、電動補助給水ポンプの自動起動により蒸気発生器へ給水する対策が採られている。
 解析評価結果を図3図4に示す。原子炉は「原子炉圧力高」の発信により自動停止する。蒸気発生器への主給水停止は、蒸気発生器の水位を急速に低下させ蒸気発生器による除熱量が減る。その結果一次冷却材の温度が上昇し体積も膨張するので、加圧器水位が上昇する。原子炉圧力は原子炉停止直後に最大となるが加圧器安全弁の作動により最大17.4MPaにとどまる(解析では加圧器のスプレイ弁と逃がし弁の作動による圧力抑制効果を無視)。原子炉停止後60秒後に電動補助給水ポンプが作動し、蒸気発生器の水位が徐々に回復するので一次冷却材の温度と原子炉圧力が徐々に低下し、この過渡事象は収束する。原子炉圧力は十分安全な範囲に保たれ、また、加圧器保有水量の最大は加圧器容積の約78%であり満水になることはない。
<図/表>
図1 一次冷却材流量の部分喪失事象の解析評価結果
図1  一次冷却材流量の部分喪失事象の解析評価結果
図2 原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き事象の解析評価結果
図2  原子炉起動時における制御棒の異常な引き抜き事象の解析評価結果
図3 主給水流量の喪失事象−原子炉圧力と一次冷却材平均温度の解析評価結果
図3  主給水流量の喪失事象−原子炉圧力と一次冷却材平均温度の解析評価結果
図4 主給水流量の喪失事象−蒸気発生器水位と加圧器保有水量の解析評価結果
図4  主給水流量の喪失事象−蒸気発生器水位と加圧器保有水量の解析評価結果

<関連タイトル>
事故の発生防止 (02-02-05-02)
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの原子炉保護設備 (02-04-07-01)
PWRの工学的安全施設作動設備 (02-04-07-02)
事故(PWRの場合) (02-04-13-02)
重大事故(PWRの場合) (02-04-13-03)
仮想事故(PWRの場合) (02-04-13-04)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会実務テキスト編集委員会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、原子力安全研究協会(平成20月9月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、火力原子力発電技術協会(平成14年6月)
(3)原子力安全委員会:発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定、 一部改訂 平成13年3月29日)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ