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<概要>
 工学的安全施設は、一次冷却系設備および主蒸気・給水設備等の原子炉施設の破損、故障等に起因して、原子炉内の燃料が破損し放射性物質放散の可能性がある場合には、これらを防止または抑制し、発電所周辺の一般公衆および発電所従業員の安全を確保する施設である。工学的安全施設は、非常用炉心冷却設備(ECCS)、原子炉格納施設、格納容器スプレイ設備およびアニュラス空気浄化設備で構成されている。
 これらの設備は動的機器の単一故障または静的機器の単一故障のいずれかを仮定しても所定の安全機能を果しうるよう多重性を有している。また、外部電源喪失時にはディーゼル発電機が作動し所定の安全機能を果たす。工学的安全施設の主要部分は試験および検査が定期的に行える設計となっている。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 工学的安全施設の主要な設備(PWR)の説明図を図1に示す。工学的安全施設は、一次冷却系設備および主蒸気・給水設備等の原子炉施設の破損、故障等に起因して、原子炉容器内の燃料が著しく破損し、その結果大量の放射性物質の環境への放散の可能性がある場合には、これらを防止または抑制する施設であり、非常用炉心冷却設備、原子炉格納施設、格納容器スプレイ設備およびアニュラス空気浄化設備で構成されている。
1.非常用炉心冷却設備(ECCS)
 非常用炉心冷却設備(PWR)系統の説明図を図2に示す。この設備は、蓄圧注入系、高圧注入系、低圧注入系および燃料取替用水タンクで構成されている。一次冷却材喪失事故(LOCA)等が発生した場合には、原子炉容器内の燃料から除熱する機能が喪失するので、燃料の破損およびこれにともなって放射性物質が環境へ放散する可能性が生じる。このような場合には、非常用炉心冷却設備の働きで緊急に炉心にホウ酸水(ホウ酸:中性子吸収剤)が注水され炉心が冷却されるので、燃料および燃料被覆管の損傷が防止され、かつ、燃料被覆管のジルコニウムと水の反応(水素発生)を十分小さな量に抑えることができる。またホウ酸水が炉心に注水されるので、原子炉の停止に必要な負の反応度が添加される。
 蓄圧注入系は蓄圧タンク(ホウ酸水)、逆止弁などで構成されている。一次冷却材の喪失などで、一次冷却系の圧力が蓄圧タンクの保持圧力以下に低下すると、逆止弁が自動的に開き(外部電源等の駆動源は必要としない)、ホウ酸水が炉心に注入される。
 高圧注入系は、高圧注入ポンプ、配管、弁類などで構成されている。一次冷却材喪失事故が発生した場合には、「非常用炉心冷却設備作動」信号が発せられて、高圧注入系の弁が開き高圧注入ポンプが起動し、燃料取替用水タンクのホウ酸水が炉心に注入される。燃料取替用水タンクの水位が低くなると、水源を格納容器再循環サンプに切替えて注水が継続され、再循環モードに移行する。ポンプ電動機はおのおの独立した2系統の非常用母線に接続されており、外部電源喪失時にはディーゼル発電機が起動し給電する。
 低圧注入系は、余熱除去ポンプおよび余熱除去冷却器などから構成されている。「非常用炉心冷却設備作動」信号により起動し、燃料取替用水タンクのホウ酸水が炉心に注入される。燃料取替用水タンクの水位が低くなると、水源を格納容器再循環サンプに切替えて注水が継続され再循環モードに移行する。ポンプ電動機はおのおの独立した2系統の非常用母線に接続されており、外部電源喪失時にはディーゼル発電機から給電される。
2.原子炉格納施設
 例として、プレストレストコンクリート製の原子炉格納施設(PWR)構造の説明図を図3に示す。原子炉格納施設は、原子炉格納容器(RCV)、アニュラス部、およびその付属設備で構成されている。一次冷却材喪失事故時には、高温高圧の一次冷却材が放射性物質とともに原子炉格納容器内に放出される。このとき原子炉格納施設は、圧力障壁となって大量のエネルギーの放出に耐え、かつ放射性物質の最終障壁(原子炉格納容器バウンダリ)を形成して、放射性物質の環境への放散を抑制して、発電所周辺の一般公衆および発電所従業員の安全を確保する。原子炉格納容器は、格納容器スプレイ設備のスプレイ注水とあいまって、事故時に想定される原子炉格納容器内の圧力と温度を抑制し、かつ、所定の漏洩率を超えることのないように設計されている。
3.格納容器スプレイ設備
 原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統の説明図を図4に示す。この設備は格納容器スプレイポンプ、格納容器スプレイ冷却器、ヨウ素除去薬品タンク等で構成されている。一次冷却材喪失事故時には、苛性ソーダ(ヨウ素除去薬剤)を含むホウ酸水を原子炉格納容器内にスプレイし、原子炉格納容器内のピーク圧力を最高使用圧力以下に抑制し、その後大気圧に減圧するとともに、原子炉格納容器内の放射性ヨウ素が除去される。
 格納容器スプレイ設備は、「格納容器スプレイ作動」信号が発せられると、格納容器スプレイ冷却器出口弁が開いて格納容器スプレイポンプが起動し、ヨウ素除去薬注入弁が開く。格納容器スプレイポンプの電動機はおのおの独立した非常用母線に接続しており、外部電源喪失時にはディーゼル発電機より給電される。水源は燃料取替用水タンクから取るが、水位が低くなると水源を格納容器再循環サンプに切替えて注水が継続され再循環モードに移行する。
4.アニュラス空気浄化設備
 アニュラス空気浄化設備(PWR)系統の説明図を図5に示す。この設備はアニュラス空気浄化ファン、アニュラス空気浄化フィルタユニット(ヨウ素除去フィルタ)などで構成される。一次冷却材喪失事故時には、アニュラス部を負圧に保ちながら、原子炉格納容器からアニュラス部に漏洩した空気を浄化再循環し、環境に放出される放射性物質濃度を減少させる。
 この設備は、「非常用炉心冷却設備作動」信号が発せられると、アニュラス空気浄化ファンを起動し、アニュラス部の負圧達成を図る。負圧達成後はアニュラス戻り弁を開とし全量放出弁を閉じ循環運転に自動で切替わり、一部を少量放出弁から放出する。
<図/表>
図1 工学的安全施設の主要な設備(PWR)説明図
図1  工学的安全施設の主要な設備(PWR)説明図
図2 非常用炉心冷却設備(PWR)系統説明図
図2  非常用炉心冷却設備(PWR)系統説明図
図3 原子炉格納施設(PWR)構造説明図
図3  原子炉格納施設(PWR)構造説明図
図4 原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統説明図
図4  原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統説明図
図5 アニュラス空気浄化設備(PWR)系統説明図
図5  アニュラス空気浄化設備(PWR)系統説明図

<関連タイトル>
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
PWR原子炉容器 (02-04-03-01)
PWRの原子炉保護設備 (02-04-07-01)
PWRの工学的安全施設作動設備 (02-04-07-02)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会 実務テキスト編集委員会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂3版)、原子力安全研究協会(平成20年9月)
(2)原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版原子力安全委員会指針集、大成出版(2008年3月)
(3)関西電力:敦賀発電所原子炉設置許可申請書(昭和55年8月)
(4)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、火力原子力発電技術協会(平成14年6月)
(5)日本原子力発電:敦賀発電所原子炉設置許可申請書(昭和55年8月)
(6)電気事業連合会:「原子力・エネルギー」図面集 2008年版(2008年4月)、p.91
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