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<概要>
 軽水炉を我が国において定着化させ、安定した運転を維持しうるよう努めることが極めて重要な課題であることから、昭和50年度に自主技術による軽水炉の信頼性、稼動率の向上、作業者の被ばく放射線量の低減等を目指した軽水炉改良標準化計画が官民一体となりスタートした。
 第1次改良標準化計画が昭和50年度から昭和52年度まで、第2次改良標準化計画が昭和53年度から昭和55年度まで実施され、引き続き昭和56年度から昭和60年度にかけて第3次改良標準化計画が実施された。第3次改良標準化計画では、これまで実施してきた第1次及び第2次改良標準プラントをベースとして、機器、システムはもちろん、炉心を含む原子炉本体に至るまで自主技術を基本とした日本型軽水炉の確立を図ったものである。この計画では、(1) 新型軽水炉の開発、(2) 従来型軽水炉の改良・標準化、(3) 耐震設計の標準化及び (4) 経済性の向上策について検討が実施され、成果は現在運転中、建設中及び建設準備中の軽水炉に反映されている。
<更新年月>
2010年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力発電を推進するに当たっては、軽水炉を我が国において定着化させ、安定した運転を維持しうるよう努めることが極めて重要な課題であることから、昭和50年度に通産省に原子力発電設備改良標準化調査委員会及び原子力発電機器標準化調査委員会が設置され、官民一体となり自主技術による軽水炉の信頼性、稼動率の向上、作業者の被ばく放射線量の低減等を目指した軽水炉の改良標準化計画がスタートした。
 第1次改良標準化計画が昭和50年度から昭和52年度まで、第2次改良標準化計画が昭和53年度から昭和55年度まで実施され、現在運転中のプラントに、その成果が反映されている(「ATOMICA第一次および第二次改良標準化(02-08-02-01)」を参照)。
 昭和56年度から開始された第3次改良標準化計画は、これまで実施してきた第1次、2次改良標準プラントをベースとして機器・システムはもちろん、炉心を含む原子炉本体に至るまで自主技術を基本とした日本型軽水炉の確立を図ることとし、二つの世代の軽水炉(新型軽水炉、従来型軽水炉)に対して、それぞれの技術的特質に十分留意して検討が進められ昭和60年度に終了した。
 この計画では、新型軽水炉(ABWR、APWR)ワーキンググループ、従来型軽水炉改良・標準化ワーキンググループ、標準化ワーキンググループ及び軽水炉改良標準化耐震設計調査実施委員会が検討を実施した。
1.開発目標とその計画
 開発目標として、(1) 信頼性の向上、(2) 稼動率の向上、(3) 運転性の向上、(4) 被ばくの低減、(5) 立地効率の向上及び (6) リードタイムの短縮化を掲げ、目標の達成を目指して表1に示す計画により実施した。なお、この計画のほかに、昭和58年度から経済性向上策としてプラント全体の標準化及び設計の合理化・適正化の目標を掲げた。
2.新型軽水炉(改良型軽水炉)の開発
 新型軽水炉ワーキンググループでは、新たな技術開発により (1) 安全性・信頼性の向上、(2) 稼動率の向上、(3) 被ばくの低減、(4) 放射性廃棄物の低減、(5) 運転性の向上、(6) 経済性の向上、(7) 立地の効率化、(8) ウラン資源の有効利用 及び (9) 設置許可に係る仕様の標準化を進めることを目的として検討を実施した。
 具体的な目標として、安全性・信頼性は従来型軽水炉以上、稼動率は80〜90%、作業員の被ばく量は0.5〜1.0人・Sv/炉・年、放射性廃棄物は100〜200本ドラム缶/炉・年、発電コストは従来型軽水炉に対し10%程度低減等を達成することとした。
 検討の成果として、BWRではABWR改良型BWR)、PWRではAPWR(改良型PWR)としてまとめられた(表2参照)。ABWRは東京電力の柏崎刈羽発電所6号機及び7号機、中部電力の浜岡発電所5号機、北陸電力の志賀発電所2号機の4プラントが運転中であり、中国電力の島根発電所3号機、電源開発の大間発電所の2プラントが建設中、東京電力の東通発電所1号機が平成22年12月に着工予定である。また、APWRは日本原子力発電の敦賀発電所3号機及び4号機が平成22年10月に着工予定である。
3.従来型軽水炉の改良・標準化
 従来型軽水炉について第3次改良標準化では、第1次及び第2次改良標準化に引き続き、更に一層の改良を図ることを目的にして、(1) 定期検査に関する改良、(2) 放射性廃棄物処理改良標準化、(3) 建設工法に関する改良、(4) 運転・計装に関する改良、(5) 工認標準化の5項目について検討を実施した。検討の成果を表3に、また具体的な改良項目の内容を、BWRについて表4に、PWRについて表5に示す。
4.耐震設計の標準化
 実際の原子炉施設の耐震性に係わる設計、評価法は、そのサイト毎の自然条件を考慮せねばならず、確とした標準化を図ることは難しい性格のものであるが、ある程度の制限条件があっても標準的方法が設定できれば、設計あるいは評価の双方にとって有用である。
 このような観点から、第3次改良標準化では第1次及び第2次改良標準化の成果並びに最新の技術知見を取り入れて、重要度が高く、かつ、標準化の観点から効果的な項目について検討を実施した。検討の成果を表6に示す。
5.経済性向上策
 原子力発電高度化懇談会における原子力発電の経済性向上策に関する報告書を受け、このうち
  1)標準化の拡大
  2)設計の合理化・適正化
について以下の方針により実施した。
5.1 標準化の拡大
 これまでの標準化は、炉心まわりを中心に進められてきたが、標準化をプラント全体に拡大した「標準プラント」を策定することとし、110万kW級の原子力発電プラントをベースに各系統についての標準化の制約因子を再評価し、経済性向上につながる標準化の拡大策の検討を実施した。
5.2 設計の合理化・適正化
 運転実績・試験及び研究の成果、新技術の開発等の国内外の情報により得られた知見を分析・評価し、設計余裕を有する項目を選定し、これまで蓄積された試験結果及び運転経験から得られた新知見や実績を踏まえ、法令・基準等の適用の関連、合理化による経済的評価及び合理化・適正化方策について検討を実施した。
 これらの検討の成果を表7に示す。
6.改良標準化のまとめ
 昭和50年度より始められた軽水炉の改良標準化計画は、3次にわたり実施され、昭和60年度に終了した。これらの改良標準化で得られた成果(表8参照)は、運転中、建設中及び建設準備中の軽水炉に反映されている。
<図/表>
表1 開発目標を達成するための計画
表1  開発目標を達成するための計画
表2 新型軽水炉の開発に関する成果の概要
表2  新型軽水炉の開発に関する成果の概要
表3 従来型軽水炉の改良・標準化に関する成果の概要
表3  従来型軽水炉の改良・標準化に関する成果の概要
表4 従来型軽水炉の改良項目(BWR)
表4  従来型軽水炉の改良項目(BWR)
表5 従来型軽水炉の改良項目(PWR)
表5  従来型軽水炉の改良項目(PWR)
表6 耐震設計の標準化に関する成果の概要
表6  耐震設計の標準化に関する成果の概要
表7 経済性向上策に関する成果の概要
表7  経済性向上策に関する成果の概要
表8 軽水炉の改良標準化の主な成果
表8  軽水炉の改良標準化の主な成果

<関連タイトル>
第一次および第二次改良標準化 (02-08-02-01)
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)
日本の原子力発電開発の歴史 (16-03-04-01)

<参考文献>
(1)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電(課):1999年版 原子力発電便覧、電力新報社(1999年10月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、平成2年6月
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、平成20年9月
(4)原子力安全委員会:原子力安全年報 昭和61年版 2-8-3 その他
(5)原子力安全委員会:原子力安全年報 平成元年版 2-8-3 軽水炉改良標準化の推進、

(6)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック 2009年版、p.192
(7)経済産業省:平成22年度電力供給計画の概要について(平成22年3月31日)、

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