<本文>
1.沸騰水型炉(BWR)原子力発電所の全体構成
沸騰水型炉(BWR)プラントの基本仕様を
表1に、沸騰水型炉(BWR)原子力発電のしくみを
図1に、沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要を
図2に示す。沸騰水型炉(BWR)では、直接サイクル強制循環形式が標準となっている。この強制循環サイクルは、直接沸騰サイクルに再循環ループを設け、炉心内の冷却材流速を大きくして出力密度を上げるとともに、再循環流量を変えることにより原子炉出力を制御できるようにしたものである。炉心で発生した蒸気はタービンに送られた後、復水器で凝縮され、給水加熱器、
給水ポンプを通して原子炉に戻される。沸騰水型炉では、炉内で発生した蒸気を直接タービンに送るので、蒸気発生器が不要であるなど構成が単純であるとともに、原子炉圧力と蒸気圧力がほぼ同じ(約6.9MPa[gage](70kg/cm2G))なので、原子炉容器は比較的低い圧力で設計できる。一方タービンへ送られる蒸気は放射性物質を含んでいるので、タービン側の機器でも放射線遮へいおよび点検時除染が必要である。
2.炉心
沸騰水型炉(BWR)の炉心配置図を
図3に、
燃料集合体の構造を
図4に示す。1100MWe級では、熱エネルギー(3293MW)を発生する炉心の大きさは有効高さ約3.7m、等価直径約4.8mで、その出力密度は約50kW/リットルである。
2.1 燃料料集合体
燃料棒を四角格子の束(例:8×8)に組み、上下に冷却材の通過するタイプレートを取り付けたものを燃料集合体という。BWRでは燃料集合体にジルカロイ製のチャンネルボックスをかぶせ冷却材流路を同一集合体内に制限している。1100MWe級の炉心には764体の燃料集合体が装荷されている。
燃料集合体を構成する燃料棒には、
ウランを酸化物(UO2)としこれをペレット状に焼き固め、さらに
ジルコニウム合金の
燃料被覆管に封入したものが使用される。ウランを酸化物にして焼き固めたのは、融点が金属よりも高く高温に耐えられるためである。燃料被覆管には、ジルコニウムの熱中性子吸収断面積が0.18バーンと小さく、これに少量の錫、鉄、ニッケル、クロムを加えた合金が熱水中での耐食性の優れていることに着目して開発されたジルカロイ−2が使用されている。UO2ペレットは燃焼中被覆管を内側から押し広げ、また
核分裂生成物はジルカロイ−2の腐食環境をつくる。このような状況下でPCI(Pellet−Cladding Interaction)により燃料被覆管は
応力腐食割れを起こすおそれがあり、各種の対策がとられている。
2.2
制御棒
燃料には平均ウラン235濃縮度約3%の濃縮ウランが使用されていて、この濃縮度が、燃焼の継続、ボイドの発生、
核分裂に伴って生成し中性子に対して吸収作用をもつキセノン(Xe)やサマリウム(Sm)に対応するために、必要な
余剰反応度を確保する。この余剰反応度を制御する制御棒には、熱中性子吸収断面積が750バーンと大きいホウ素(B)が用いられている。BWRの制御棒にはステンレス鋼製の細管にB4C粉末を充填し、この細管を並べて制御板を形成し、この板を十字に組合せたものが用いられている。1100MWe級炉心には185体の制御棒が使用されている。また、制御棒挿入不能の場合には水溶性中性子吸収材のホウ酸水が注水される。
3.原子炉容器
原子炉容器内構造を
図5に示す。1100MWe級の原子炉容器は内高約22m、内径約6.4mにも達する。鋼材には主として強度上の理由から低合金鋼にステンレス鋼を内張りして用いる。運転中に中性子照射を受けるため照射
脆化に対する抵抗力を持つことも要求される。最近の鋼材は鋼材中の銅およびリンが低減されており中性子照射脆化に対する抵抗力は十分高いことが確認されている。鋼材の脆化の度合は監視試験片をあらかじめ原子炉容器内に挿入しておき、これを定期的に取り出して
シャルピー衝撃試験によって評価されている。原子炉冷却水系の配管材料は破断事故を防ぐため特に靭性(ねばり気)の高いものであることが要求されており、炭素含有量を低くしたステンレス鋼が応力腐食割れに対して耐性が強いことから広く用いられている。
4.冷却材再循環ポンプ
BWRの再循環ポンプ構成を
図6に示す。この原子炉冷却材再循環ポンプは流量約9,700t/hの片吸込みのたて形単段うず巻式ポンプで駆動電動機に直結されている。インペラ上部のポンプケーシング内の水潤滑水中軸受が円周方向の力を受け、ポンプのスラストは電動機のスラスト軸受が受けている。軸シールには二段のメカニカルシールが用いられ、コントロールリーケージ方式により各段のシールの受けもつ圧力を半々に保っている。シール部を通過した原子炉冷却水は
格納容器内のサンプに流入する。
5.主蒸気タービン系統
BWRプラントの主蒸気タービン系統図を
図7に示す。原子炉および原子炉冷却系設備は高温高圧の蒸気をタービンに供給するシステムであり、発電プラントにおいて原子力蒸気供給システム(NSSS:Nuclear Steam Supply System)と呼ばれている。BWRがタービンに供給する蒸気はタービン入口で約282℃、約6.6MPa[gage](66.8kg/cm2G)の高い熱エネルギーを持っている。タービンを駆動し発電機にエネルギーを与えた蒸気はタービンより排気されたのち復水器に入り、ここで海水が通っている多数の細管の表面で冷却されて水になり(復水)、給水加熱器を経て給水ポンプで原子炉に戻される。復水器で蒸気を冷却した海水は温排水となって海へ排水される。タービンが蒸気のエネルギーを回転運動に変換する効率は理論的にタービンに入る蒸気温度と復水器に排気される蒸気温度の差によって決まる。BWRでは火力プラントと同じような高温蒸気(550〜600℃)を供給できないので、熱効率は火力プラントのそれより若干低くなる。発電プラント全体の熱効率は、例えば電気出力1100MWeの発電所では原子炉が供給する熱エネルギーが3,290MWであるので、33.4%となる。
タービンに主蒸気を供給するための主蒸気管は原子炉容器に直接接続されている。主蒸気管破断時の蒸気(原子炉冷却材)の放出を防ぐため、格納容器の内側、外側にそれぞれ主蒸気隔離弁を設けている。弁形式はY形玉形弁で閉鎖信号を受けてバネの力で数秒以内に全閉する。
6.原子炉格納容器
BWRの原子炉格納容器は圧力抑制方式を採用しておりドライウェルと圧力抑制室より構成されている(
図2参照)。圧力抑制室には十分な冷却水を保有し、冷却材喪失事故時にドライウェル内に放出された蒸気は、ベント管を通して圧力抑制室のこの冷却水中に放出され凝縮される。格納容器の大きさは圧力上昇の抑制など安全上の要求のほか原子炉系機器の配置、据付、保守に要するスペースを確保するように決められている。冷却材喪失事故時、緊急の炉心冷却に必要な非常用炉心冷却設備(ECCS)などは格納容器の外側の原子炉建屋に設置されている。
7.中央制御室
BWRのプラント制御構成を
図8に示す。原子力蒸気供給システムの温度、圧力、流量、水位などのプロセス量はもとより炉心の中性子束レベル、機器の運転・待機状態および環境の放射線レベルなどの測定値はすべて中央制御室に集められている。各系統の運転制御のための制御盤が設置されており、操作スイッチ、制御装置、状態表示および警報が整然と配置されている。
これらは、運転員が系統の状態を正確に把握し適切な操作が行えるよう
マンマシンインターフェースを考慮して設計されている。プラント全体の主要な測定値が計算機に入力されており、運転制御に必要なプラントの状態が制御盤上のCRTに表示される。また計算機は発電所の起動・停止操作を系統的に管理制御するなどの運転支援にも活用されている。
(前回更新:2000年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
沸騰水型原子炉(BWR) (02-01-01-01)
放射性廃棄物処理(BWRの場合) (02-02-03-03)
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
BWR原子炉容器 (02-03-03-01)
BWRの工学的安全施設 (02-03-04-01)
原子力発電プラント(BWR)の制御 (02-03-06-01)
BWRの原子炉保護設備 (02-03-07-01)
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
ABWR燃料 (04-06-03-03)
<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック2006年版(2006年7月)
(2)(財)日本原子力文化振興財団(編、刊):原子力の基礎講座3、原子力発電と動力用原子炉(改訂3版)(1984年3月)
(3)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)(平成14年6月)
(4)東京電力(株):福島第二原子力発電所原子炉設置変更許可申請書−本文および添付書類(昭和53年8月)
(5)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)(1992年10月)
(6)火力原子力発電技術協会(編):ポンプ、火力及び原子力発電所に使用されるポンプ(改訂版)(昭和63年10月)
(7)東京電力(株):柏崎刈羽原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(平成4年10月)
(8)資源エネルギー庁公益事業部(編):’98原子力発電−その必要性と安全性、(財)日本原子力文化振興財団(1998年3月)
(9)資源エネルギー庁原子力発電課(編):原子力発電便覧1997年版、電力新報社(1997年)
(10)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007年版、5−2(2007年2月)p.80、電気事業連合会:、2/41
(11)火力原子力発電技術協会(編):原子炉講座(昭和54年3月)