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<概要>
 IEAは米国ブッシュ政権が2001年に発表した「国家エネルギー政策」に基づいて米国のエネルギー政策のレビューを実施した。このうちエネルギーと環境に関するレビューの結果をまとめた。
 米国でも、局地的汚染物質と全地球的汚染物質の放出によって、エネルギー部門は環境に影響を与えている。連邦政府は、エネルギー利用の環境影響を緩和すべく、多くの基準や要件を設定している。政府が行っている環境関連の勧告は、省エネルギー、非化石燃料資源、局地的汚染、輸送機関、クリーンエネルギー技術の研究開発、技術の海外展開等に関するものである。局地的汚染物質のうち、二酸化硫黄に関しては許容量取引システムが整備され、国際的な温室効果ガスの排出取引システムのモデルとなっている。窒素酸化物に関しても同様の取組がある。米国は世界最大の温室効果ガスの排出国であるが、京都議定書からは離脱した。クリーンエネルギー技術開発に力を入れて、技術の展開に期待するのであろうか。一国主義的な技術開発と国内措置によって、二酸化炭素排出抑制の問題を乗り切ろうとしているように見える。
<更新年月>
2002年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
はじめに
 米国ブッシュ政権はエネルギー政策を最優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IEA(国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、エネルギーと環境に関するレビューの結果をまとめた。
 他の諸国と同様に米国においても、エネルギーの探査、生産、流通による地域影響とともに、局地的汚染物質と全地球的汚染物質の放出を通じて、エネルギー部門は環境に影響を与えている。連邦政府は、エネルギー利用の環境影響を緩和すべく、エネルギー効率基準や排出量制限などを含む多くの基準や要件を設定している。連邦レベルの決定は、時によっては州の政策によって補完される。州は環境面からの理由で自動車用燃料基準を設定し、また燃料税を徴収することができる。最近の2〜3年、各州は温室効果ガスの排出を低減する対策も採っている。
1.国家エネルギー政策
 国家エネルギー政策には、今日までの環境関連の取り組みとは別に、エネルギー利用の環境影響を低減するための多くの勧告が盛り込まれている。政府は、これまでの対策の結果として、2000年時点で2億4200万トン(全排出量の2.7%)の二酸化炭素が削減されたと推定している。環境関係の勧告は以下のとおりである。
・省エネルギー:エネルギースタープログラム(ATOMICA「省エネルギーにおける国際協力」<01-06-02-03>参照)の拡大、エネルギー効率基準の引き上げ、エネルギー効率に関する教育計画の拡大、過去に実施したプログラムに関する予算と成果のレビュー、熱電併給の利用の奨励。
・非化石燃量資源:税額控除による再生可能エネルギーの推進、再生可能エネルギー生産を増やすための連邦の土地利用、再生可能エネルギーの研究成果のレビュー、政府と民間の連携、原子力の推進。
・局地的及び地域的汚染:発電に伴う窒素酸化物、硫黄酸化物及び水銀の排出低減の法制化。いわゆる3汚染物質法案は、1990年の改正大気浄化法の下での二酸化硫黄のケース、及び幾つかの州における二酸化窒素のケースのように、排出削減目標と排出許容量とを組み合わせたものである。
・輸送機関:団体平均燃費(CAFE:Corporate Average Fuel Economy)基準のレビュー、ハイブリッド車または燃料電池車の購入に対する税額控除、燃料電池、知的輸送システム、交通混雑緩和システムの研究、排出量と燃費を低減するためのプログラム。
・クリーンエネルギー技術の研究開発:「米国気候変動技術イニシアティブ」は技術研究を評価し、民間と政府の連携を強化し、改良型クリーン技術の実証プロジェクトを勧告し、温室効果ガス排出量の測定と監視を改良し、基礎研究を強化するための指針を提供している。
・海外でのクリーンエネルギー技術利用の推進:私企業がクリーンエネルギー技術を世界市場に供給しやすくするために、クリーンエネルギー技術輸出ワーキンググループが設立された。
 国家エネルギー政策は、北極国立野生生物保護区での石油及びガス探査などの増加する国内エネルギー探査、並びにエネルギー供給の環境影響に関する討論を促している。
2.局地的汚染物質
 1990年改正大気浄化法に基づき、二酸化硫黄と二酸化窒素の排出を削減するための酸性雨プログラムが導入された。この中で構築された米国の二酸化硫黄排出量取引システムは、国際的な温室効果ガスの排出量取引システムの一つのモデルとして進められてきた。
2.1 二酸化硫黄
 大気浄化法は、2000年以前と以後の2段階の取り組みを通じて、二酸化硫黄の排出を1980年水準より1000万トン減少させるよう電力会社に要求している。排出許容量は現実の排出量に基づき決定され、余剰が出た場合には売買、取引可能である。発電所は相互間で排出許容量の取引が自由にでき、またシステム外の誰でも許容量を売買、取引できる。このプログラムは環境保護庁によって管理されている。排出許容量の価格は仲買会社によって公開されている。環境保護庁は毎年全許容量の3%を競売にかけている。
 第1段階では、石炭火力を主とする110の発電会社の263発電所が対象となった。その最終年の1999年には、排出量が目標水準より29%低く、排出許容量の未使用分は将来に繰り越された。第2段階は2000年に開始され、排出削減目標が強化されるとともに、より小規模な発電所、よりクリーンな発電所、及びすべての新規発電所も対象に含められた。第2段階の全体の上限は二酸化硫黄895万トンである。排出許容量の価格は予想よりはるかに安く、現在のところトン当り200US$である。
2.2 窒素酸化物
 大気浄化法により、石炭火力発電を中心に窒素酸化物200万トンの削減が要請されている。全排出量に対して上限制約が設けられている。この削減目標は排出低減技術の利用を根拠にしているが、その技術の利用は強制されてはいない。発電会社は2あるいは3発電所の排出量を平均してもよく、また、勧告された技術を使ってもなお目標に達しない場合には排出制限の緩和を申請することが可能である。第一段階で対象となった発電所の1999年の排出量は、1990年水準より43%低く、目標水準よりも18%低かった。排出量全体では、1990年水準より32%低かった。
3.温室効果ガス
 米国は世界最大の温室効果ガス排出国である。1999年の排出量は二酸化炭素(CO2)換算で67億トンであり、1990年水準より11.7%高い。エネルギーの採掘、生産と利用が温室効果ガス排出量の85.4%を占め、その大部分は燃料の燃焼によるCO2である。世界全体のエネルギー起源のCO2排出量に占める米国のシェアは、1990年の23%から1999年には24%に増加した。
 燃料の燃焼によるCO2排出は1990年から1999年の間に15.2%増加した。OECDでは10.3%の増加、世界全体では8.9%の増加である。一人当たりでも同様の傾向を示し、米国は5.5%の増加、OECDでは3.2%の増加、世界全体では4.2%の増加である。米国の経済成長率が他の諸国よりも高いことがこの原因となっている。米国のGDP 当たりのCO2排出量はOECDよりも急速に低下している( 図1 )。この低下は、各部門のエネルギー消費量の減少よりも、経済構造の変化によるものである。しかし、米国経済は現在もなお他のIEA諸国よりも炭素集約的であり、OECD諸国の中で一人当たり炭素排出量が最も高水準にある。
 CO2排出量の増加分のうち、62%は電力、35%は運輸(輸送)部門によるものである( 図2 )。発電は相変わらず火力中心で、特に石炭が発電量の50%以上を占めている。今後は天然ガスがシェアを伸ばすと予測されており、特別な政策的手段を講じない限り、原子力、水力、新再生可能エネルギーが中期的にこの構図を変えることはないと思われる。最も増加の著しい再生可能エネルギー資源は風力で、1990年以来年率8%、1998年から1999年の1年間に32%増加したが、現在のところ全電力供給の0.1%を占めるに過ぎない( 表1 )。
 道路交通のCO2排出量は1990年以来24%増加した。1990年の総排出量の5.6%相当が増加したことになる。乗用車と軽トラックの平均燃費は、1985年の25マイル/ガロン(10.4リットル/100km)と比較して、1999年は23.8マイル/ガロン(9.9リットル/100km)に減少した。しかし、車両数の増加、安いガソリン価格、旅行距離の増加が燃費改善の効果をうち消して、石油消費量とCO2排出量が増加している。IEA諸国の新車の燃費の推移を 図3 に示す。
 製造業と建設業の直接的なCO2排出量は1990年以来10%減少した。しかし産業部門の電力消費量は同じ時期に27%上昇し、産業部門の直接排出の一部が電力部門にシフトした形となっている。各化石燃料のCO2排出量への寄与は過去10年間概ね一定で推移してきており、石炭、石油、天然ガスがそれぞれ38%、40%、22%である( 図4 )。
 要約すれば、米国のCO2排出量の増加速度が他のOECD諸国よりも大きいのは、エネルギーサービス(輸送、暖房と冷房、産業部門の生産)の急速な増加、及び炭素集約的な電源構成(最終消費のエネルギー原単位の低減によって部分的に相殺されているが)によるものである。EIAは、発電の石炭依存度が2000年の52%から2020年には44%に低下するにもかかわらず、現在の政策の下では、2020年の化石燃料からのCO2排出量は1990年よりも54%高くなると予測している。
4.論評
4.1 排出抑制目標を定めないで良いだろうか。
 米国は技術開発に大きな努力をしているが、国連の気候変動枠組条約の目標を達成すべく明確な行動をとる必要がある。京都議定書からは離脱したが、気候変動枠組条約及び温室効果ガスの濃度を安定化する目標にはまだ参加している。この長期的目標を達成するためには、政策的介入が必要である。米国の排出が増加しつづけるならば、国際的な努力をもってしても地球気候の安定化を達成することはほとんど不可能である。
 米国科学アカデミーは、政府の委託で気候変動の科学的知見のレビューを実施し、以下の点を確認している。「・・観測された温暖化が事実であるということは一般的に合意されている・・。これが、人間活動の結果として予想される変化と一致しているか否かは、前提条件の置き方に依存している。」この記述から、米国EIAは温暖化が人間活動に起因するものか否かについて、米国科学アカデミーは結論に達しなかったと考えている。しかし、2001年の内閣レベルの米国気候変動政策のレビューは気候科学及び温室効果ガスの長期的低減を進める技術開発を研究の主要分野と定め、米国気候変動技術イニシアティブが生まれた。これにより、長期の技術開発、並びに気候に優しい技術及び実践を奨励する国際的取り組みが強化された。
 米国の政策は、他のIEA諸国が進めているエネルギー価格、税制、二酸化炭素排出制限・取引プログラムなどの市場的手段よりは、技術開発と省エネルギー対策に重点を置いている。
 現在の見通しでは、電力と輸送の需要増加によって、米国の二酸化炭素排出量は急速に増加すると予想されている。連邦のプログラムはこれまでに多くの気候に優しい技術の開発に成功してきた。しかし、エネルギー省の研究開発予算の手当はピークに達しており、今後新技術が広範に利用され、排出量が近い将来に低位の軌道に移行するとは思われない。CAFE基準の改定や新規のエネルギー機器の効率基準など、他の対策も必要である。国家エネルギー政策は原子力、再生可能エネルギー、及び効率改善の重要性を強調する反面、化石燃料供給量の増加も謳っている。石炭利用と排出抑制を両立させるためには二酸化炭素の回収・投棄が必要であるが、EIAの2020年見通しでは二酸化炭素排出量を厳しく抑制する場合でも回収・投棄技術の利用は困難とされている。したがって、発電部門の化石燃料利用は今後とも大気中の温室効果ガスの増加に寄与し続けることとなろう。二酸化炭素排出量は、新たな対策なしに現在の趨勢から急速に変わるとは思われない。
4.2 二酸化炭素以外の排出物と同程度の対策は取れないのか。
 二酸化炭素以外のエネルギー起源の排出物を削減するための市場的アプローチは賞賛に値するが、二酸化炭素に関する取り組みの先送りは、長期的にみて電力のコストを増加させる可能性がある。
 3汚染物質法案が成立すると、産業は二酸化硫黄、窒素酸化物及び水銀に対して設定された基準を満たすように、設備投資しなければならない。一方、二酸化炭素に関しては現在のところ何も決定されていない。そこで、二酸化炭素の排出水準を下げる決定が将来行われた場合には、企業は未償却の設備を廃棄するリスクに直面することになる。現段階で二酸化炭素を含めた基準を提示するか、あるいは将来的な規制値を予示することによって、こうしたリスクを回避することが望まれる。
4.3 国際協力が重要である。
 温室効果ガスの排出低減に向けての国際協力と市場的手段の導入によって、米国の排出削減コストを低減できる可能性がある。
 温室効果ガスの排出を削減するための一国主義的アプローチは、電力産業にとって京都議定書に参加するよりもコスト高となろう。議定書への参加は、国際的取引を可能にするとともに、単一部門や単一温室効果ガス(二酸化炭素)に留まらず、もっと広範囲にわたる国内取引制度を可能にするものである。これらの選択肢は米国の電力部門の削減コストを低減することに役立つであろう。
<図/表>
表1 米国のエネルギー需要(転換と損失)
表1  米国のエネルギー需要(転換と損失)
図1 米国及びIEA諸国のGDP当たりのエネルギー起源の二酸化炭素排出量
図1  米国及びIEA諸国のGDP当たりのエネルギー起源の二酸化炭素排出量
図2 米国の部門別二酸化炭素排出量(1973年〜1999年)
図2  米国の部門別二酸化炭素排出量(1973年〜1999年)
図3 IEA諸国の新車の燃費
図3  IEA諸国の新車の燃費
図4 米国の燃料別二酸化炭素排出量(1973年〜1999年)
図4  米国の燃料別二酸化炭素排出量(1973年〜1999年)

<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(3)エネルギー効率 (01-07-06-03)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(6)原子力 (01-07-06-06)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(7)石油、ガスおよび石炭 (01-07-06-07)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)

<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries−The United States−2002 Review,OECD/IEA(2002)
(2) National Energy Policy−Reliable, Affordable, and Environmentally Sound Energy for America’s Future(May 2001):
(3) Annual Energy Outlook 2002,DOE/EIA 0383(2002),Dec 2001:http://www.eia.doe.gov/oiaf/aeo/pdf/0383(2002).pdf
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