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米国ブッシュ政権はエネルギー政策を再優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IAE(国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、原子力関するレビューの結果をまとめた。
1.原子力エネルギー推進政策
2001年5月に発表した米国エネルギー政策では
表1 に示す勧告を行っている。
2.原子力発電プラント
2.1 運転中のプラント
2001年末時点で104基、正味出力合計97.5GWeの発電炉が電力供給系統に接続されている。このうち103基が同年に稼働し、7480億kWh、すなわち米国電力需要の20%相当の電力を供給した。炉型別には
加圧水型炉(
PWR)が69基、
沸騰水型炉(
BWR)が35基である。原子力プラントの性能は過去20年間に改善が進んできた。2000年の平均設備利用率は88.7%であった。
2.2 新規発電プラント
最後に完成したプラントは1973年に発注されたものであり、現在新規プラントは建設されていない。例えば同種の原子炉を計画的に順次建設するなどの一定条件の下では、新規原子力プラントも経済的競争力があると考えられている。「第3世代プラス」と呼ばれる新たな設計も競争力をもつ可能性がある。
2.3 プラントのライセンス発行
原子力プラントのライセンスは独立した政府組織である原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)によって発行される。既存の大部分の原子力プラントは1970年代に完成し、40年間の運転許可を得ているために、2010〜2020年の間に運転許可が失効する。したがって、2010年から2040年へのライセンスの延長が「新規」発電設備の大きな潜在的供給源となる。最近、3か所の発電所の6基の原子炉に対して、さらに20年間の運転を認める耐用年数延長の資格が与えられた。他の申請に対しては未決定であるが、大部分のプラントは、ライセンスの再発行を受けてさらに20年間稼働するものと予想される。
2.4 原子力産業の統合
米国内の市場圧力が強まる中で、事業効率の改善を図るために原子力発電プラント所有者と運転者の戦略的な連携及び合併が進んできた。統合の結果として、幾つかの原子力プラントは売却された。18基の原子炉について所有者が変わり、海外業者に売られたものも幾つかある。米国の法制度では、米国外の会社が原子力発電に関する制御のできない事業者となることを制限している。競争と市場への参加を制限するこの制約を取り除くために、新たな法制度の導入が計画されている。
3.
核燃料サイクル
3.1 核燃料サイクルのフロントエンド
2000年には、
ウランの消費22200トンUに対して、国内生産は1456トンUであった。不足分は、輸入で賄われ、その中には主としてロシアからの軍事利用ウランも含まれている。世界のウラン市場は現在供給過剰状態にあり、供給上の
リスクはない。
米国は2000年時点で12700トンUの六フッ化ウラン(UF
6)生産能力を持っているが、同年の消費量は23200トンUであった。UF
6は核燃料製造の第一段階として、採掘されたウラン酸化物を化学変換することによって生産される。世界市場では、上記不足分を賄う十分な供給がある。
ウラン濃縮に関しては、民間企業「合衆国濃縮会社(USEC)」が所有、運転する濃縮プラントが大きな余剰生産能力(2000年の需要10600トン
SWUに対して18700トンSWU)を持っている。利用技術及びプラントは旧式でエネルギー消費量が多いので、設備の更新も考えられている。
燃料加工に関しては、国内加工業者が国内需要を賄う十分な生産能力を持っている。2000年には、生産能力3900トンUに対して、消費は2100トンUであった。燃料サイクルの中でこの分野では競争があるが、特定デザインの炉に対する燃料加工の要求もあり、競争は限定されている。
3.2 放射性廃棄物
廃止措置とプラントの運転で発生する
低レベル廃棄物は、一般に様々な州の浅地施設に処分されている。使用済燃料に関しては、
地層処分の承認と許可が得られていないために、44000トンUが米国内で貯蔵されている。これらは、一般に発電所サイトの貯蔵プールに保管されている。
使用済燃料の最終処分は、数千年間貯蔵することが承認された深地層中の貯蔵所で行われる計画である。現在候補に挙がっているのはネバダ州のヤッカマウンテン(ユッカマウンテン)である。1987年以来、その適性についての調査が進められてきた。サイト特性の調査はまもなく完了する。
エネルギー省長官がこのサイトの利用を勧告し、大統領がそれを連邦議会に勧告したときに、ネバダ州知事と同州議会が不承認の通知を連邦議会に提出する可能性があり、その場合にはネバダ州の反対を押し切るか否かの決定が必要となる。もし、このサイトが選定されたならば、貯蔵所の建設許可を求めるライセンス申請が原子力規制委員会に提出される。これが許可されれば、2010年の運転開始を目指して地上並びに地下施設が建設されることになる。(注:IEAが本レビューを作成した後に、実際にネバダ州知事から連邦議会に不承認通知が提出されたが、2002年7月に連邦議会はヤッカマウンテンに処分場を建設することを決定した)
ヤッカマウンテン計画への出費は積算で56.6億ドルである。核廃棄物基金の残高は99.66億ドルであり、発電所運転者が今後kWhあたり0.001ドルの割合で支払う追加資金と合わせれば、廃棄物を処分する十分な費用が用意されていると考えられる。
4.資金問題とアクセプタンス
4.1 原子力プラントの廃止措置
プラントの廃止措置の費用を満たすのに必要な資金はそれぞれのプラントの耐用期間にわたって用意され、原子力規制委員会と地域の公益事業委員会がこれを監督することになっている。ただし、計画・許可された耐用期間の運転を通じて必要な総額が確保されようになっているので、早期閉鎖は資金不足をもたらし、寿命延長の場合には資金が余剰となる。廃止措置の資金はサイトの
除染とライセンスの終了に必要な費用のみを賄うものである。
解体とサイトを更地に戻す費用、例えば非放射性構造物の除去と原状回復、使用済燃料の貯蔵と管理、閉鎖後の業務に要する費用などは含まれていない。使用済燃料の貯蔵と管理の資金は別途用意されている。
4.2 事故時第三者原子力賠償責任
プライス−アンダーソン法(米国原子力損害賠償法)は原子力事故に際しての賠償責任の限度額を94億ドルと規定している。この法は2002年8月に失効するが、連邦議会では現在その更新が検討されている。米国は国際的な原子力賠償の取り決めには一切参加していない。
4.3 社会的アクセプタンス
原子力産業界の「原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute、NEI)」が実施した調査によれば、1999年10月には新規原子力プラントを「将来的に」建設することを支持した米国成人は42%であったが、2001年1月に50%に、同年3月には66%に上昇した。その後、同年7月にはわずかに低下して63%となった。この傾向は地域的に共通であり、1999年10月には支持がわずか33%だった西部も、2001年7月には63%となった。
原子力プラントがすでに稼働している地域では、「電力供給のために新たな発電プラントが必要ならば」既存のサイトにプラントを増設することを成人の71%が支持している。2001年7月調査では、成人の85%がライセンスの更新を支持し、1999年10月時点の79%を上回っている。
5.論評
5.1 新規プラント建設の支援
米国エネルギー政策は原子力を推進しようとしている。副大統領とエネルギー省長官はともに原子力発電を支持してきた。しかし、このための施策として公表されたものは、原子力エネルギーへの投資を活性化するには不十分であると思われる。
原子力発電は、すでに実証された二酸化炭素を排出しない電源であり、大規模なベースロード発電に適した技術であるが、米国では、現時点の設計で造られた新規プラント(原子力)が天然ガスまたは石炭火力と経済的に競合できる可能性は小さい。したがって、化石燃料の炭素価値を考慮した政策を採用しない限り、現在の市場環境の下で新規プラントが建設される条件を見いだすことは困難である。
産業界は経済的魅力をもつ可能性のある新しいデザインを開発してきた。同種設計の複数プラントを計画的に順次建設していく提案は、新規の原子力プラントの経済性問題に対する想像力に富んだ対応策であるが、実現性があるとは思われない。
政府は、市場的手段に基づく政策を導入することによって多様な発電技術の開発を活性化することが望まれるが、この中で原子力発電が温暖化問題に有効な特性をもつことは重要である。しかし、競争的電力市場においては、原子力だけに優遇策を付与することは好ましくない。
政府が原子力産業の成長を支援するための方法としては、この他に
表2 に掲げるものが挙げられる。規制が緩和された競争的市場の下では、原子力発電の長い建設期間、高額な資本費、長い耐用年数のすべてが投資にマイナスに働くと思われる。しかし、政府としては特定エネルギーを優先する形で市場に干渉することなく、これらの不利な要素を克服できる政策を用意すべきである。この課題は米国固有のものではなく、原子力推進国に共通している。
5.2 ヤッカマウンテン
高レベル放射性廃棄物の長期処分用として稼働している貯蔵所は世界にまだない。したがって、ヤッカマウンテンプロジェクトは米国の原子力部門にとって死活的に重要であると同時に、原子力技術の今後の進展にとって幅広い戦略的な意味合いを持っている。原子力安全当局の同意の下で、このプロジェクトに関する決定が早期になされることが望まれる。高レベル廃棄物貯蔵の実現性に関する疑念に応えるためにも、もしヤッカマウンテンの整備を行わない場合には、至急他のサイトを選定し整備する必要がある。
5.3 公衆の懸念への対応
公衆の意見は今後とも原子力の将来に大きく影響するものと考えられる。
産業界の調査では、米国の公衆の意見は原子力産業の今後の発展の障害にはならないことが示されている。原子力の将来計画に関わる政策担当者にとって公衆の意見が大きな障害となっている他の諸国とは対照的である。
政府に原子力発電を推進する意思がある以上、公衆の態度に関する調査を独自に実施し、公衆が原子力発電に懸念しているとの結果が出た場合には主体的にこれに対応することが望まれる。
5.4 電力市場の変化と廃止措置に対する準備
規制市場から完全な競争市場へ変化しつつある環境の下で、プラント運転者が廃止措置を遂行するための資金的能力を確保するように保証するプロセスについては、積極的な見直しを行いつつ、維持していく必要がある。
米国の原子力発電プラントが建設された時期には、発電事業者は独占企業であり、料金は州の公益事業委員会と連邦エネルギー規制委員会によって規制されていた。発電事業者と料金を規制する委員会は廃炉費用を料金の中に組み込んでいた。電力産業の規制が緩和される中で、ライセンス保有者が原子炉の廃止措置のための十分な資金を確保しているか否か懸念が生じるケースもあり得る。1999年に原子力規制委員会は原子力発電プラントの廃止措置のための資金確保に関する規制内容を改定した。新たな規制下で、ライセンス保有者は廃炉資金の状況を2年毎に報告することが義務づけられている。
6.勧告
合衆国政府に対する勧告の一つに、高レベル放射性廃棄物の処分に関するものがある。
−米国及び世界の今後の原子力発電投資に与える影響を勘案した上で、ヤッカマウンテン貯蔵所に関する明確な決定を下すこと。
<図/表>
<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(2)エネルギーと環境 (01-07-06-02)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(3)エネルギー効率 (01-07-06-03)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(7)石油、ガスおよび石炭 (01-07-06-07)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)
原子力損害賠償に関する国際条約と諸外国の国内制度 (10-06-04-02)
アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権) (14-04-01-28)
<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries−The United States− 2002 Review,OECD/IEA,2002
(2) A Roadmap to Deploy New Nuclear Power Plants in the United States by 2010, Volume I Summary Report,USDOE,Oct. 31,2001,
(3) A Roadmap to Deploy New Nuclear Power Plants in the United States by 2010, Volume II Main Report,USDOE,Oct. 31,2001,
(4) Overview of Generation IV Technology Roadmap,USDOE,Sep. 18,2002,