<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 新しい潮流
<タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)

<概要>
 IEAは米国ブッシュ政権が2001年に発表した「国家エネルギー政策」に基づいて米国のエネルギー政策のレビューを実施した。このうちエネルギー研究開発に関するレビュー結果をまとめた。
 米国の2002年エネルギー研究開発予算は過去3年間に比べて増大したが、米国エネルギー政策に沿った形で配分が変化した。化石エネルギーと電力技術の予算が増加したのに対して、再生可能エネルギーの予算は減額となっている。エネルギー政策の目標を達成する上で、技術は中心的役割を担うものであり、研究成果の実用化を保証するメカニズムが研究プロジェクトの枠組みに組み込まれている必要がある。米国アカデミーは、多数の研究プログラムのレビューを行い、民間部門が技術開発の成果を利用する誘因(優遇策)を付与することが、研究プログラムの成功に不可欠であることなどを指摘した。今後の研究プログラムの実施に関しては、目標の明確な設定、研究の進捗を明確に評価するための性能目標及びマイルストーン(達成度)の設定、新技術の実用化のための政策的枠組みを最初からプロジェクトに組み込んでおくこと、潜在的に有益なプロジェクトへの予算手当の決定に際しては外部効果を考慮すること等の原則に則ることが重要である。
<更新年月>
2002年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
米国ブッシュ政権はエネルギー政策を再優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IEA(国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、エネルギー研究開発に関するレビューの結果をまとめた。
1.予算手当の実績
 エネルギー研究開発と実証の予算は過去数年間安定して推移してきた。2002年予算は、それまでの3年間よりも総額では増加したが、支出の優先順位は若干変化した( 表1 )。
・化石エネルギー予算は1999年から2002年の間に大雑把に倍増(クリーンな石炭技術の開発が再度重点化したため)
・定置型燃料電池や超電導送電技術などの電力技術開発への重点的手当を継続
・横断的なエネルギー科学及び先端的計算技術の予算は2001年及び2002年に大幅増額
2.研究プログラムと優先順位
2.1 エネルギー効率及び燃料利用
(a)産業技術
 「将来の産業プログラム(The Industry of the Future Program)」をもとに、エネルギー多消費産業を特定し、産業部門の目標を設定し、また政府と民間の投資及び連携のロードマップを作成した。ロードマップは9つのエネルギー多消費産業に対して、重点的に取り組むべき課題を設定している( 表2 )。
(b)輸送技術
 1994年に開始した「新世代自動車パートナーシップ」は、2004年目標として大量生産可能で、燃費80マイル/ガロンの5人乗りセダンの開発を掲げている。本プログラム及び輸送部門の他の目標を支援する研究として、次の3つのプログラムがある。
・自動車技術プログラム:ハイブリッドエンジン、燃料電池、新型燃焼装置、電気自動車を含む
・燃料利用プログラム:燃料効率を向上し環境排出を低減して性能基準を満足できる新たな燃料の開発(燃料電池用のメタノール、エタノール、天然ガスからの液体燃料等の研究も含む)
・技術普及プログラム:代替燃料、先進技術を利用した自動車の利用を加速化する。
(c)建築技術
 「建築技術プログラム」は、照明、暖冷房、冷蔵、電気機器、建築物、デザインの各分野の研究を進めるための幅広い活動を目指している。
2.2 石油とガス
 石油と天然ガスの「探査及び生産プログラム」には以下の活動が含まれている。
・先進的掘削、完成、増進システム:掘削、完成、増進技術に焦点(地上運転技術の効率改善も含む)
・先進的診断・イメージングシステム:石油資源の規模と賦存状態をより明確に明らかにするための技術と手法に焦点
・油田の効率向上プロセス:既知の油田から既存技術で生産できない炭化水素を回収するための手法の開発と実証
・計画と分析:炭化水素資源の規模、供給と利用の傾向、産業活動、研究開発ニーズに関する正確なデータ提供によるプログラム支援
2.3 天然ガス
 上記の「探査及び生産プログラム」に加えて、次の分野で研究が行われている。
・ガスハイドレート:ハイドレート資源周辺の在来石油・天然ガスの回収、ハイドレートからのガスの経済的生産に焦点
・基盤整備:パイプラインとガス貯蔵の信頼性向上
・効果的な環境保護:ガス施設からの大気への排出の検出と制御、環境基準に適合した水処理、汚染した土壌の回復、自然放射能を含む廃棄物の処分、油田・ガス田廃棄物の管理方法に焦点
2.4 石炭
 石炭プログラムでは、石炭火力発電所からの二酸化硫黄、窒素酸化物、二酸化炭素、粒子状物質を削減する費用効果の優れた方法を追求している。「ビジョン21」と呼ばれる究極の目標は、無排出の石炭火力発電所を建設することである。
(a)先進的発電技術
 主要な開発項目は以下のとおりである。
・低環境排出ボイラシステム:微粉炭ボイラに新型燃焼システムと革新的な排ガス浄化システムを採用
・先進的燃焼システム:流動床燃焼システムを超臨界蒸気サイクル、ガス化・燃焼ハイブリッドシステム、高温熱交換器などと結合
・石炭ガス化複合サイクル発電:先進的ガス化技術、膜による空気分離、先進的ガス精製技術を開発中
 環境排出低減に向けての取り組みは以下のとおりである。
・高度排出制御装置:排ガスから99%の二酸化硫黄、95%の窒素酸化物を除去
・有害物質排出制御:水銀を中心とした排出量調査、排出メカニズムの検討、先進的技術による微量有害物質除去方法の開発
・微粒子物質(直径2.5ミクロン以下):大気モニタリング、排出量調査、制御技術開発
・固体廃棄物管理:有効利用法の検討
(b)クリーン石炭技術プログラム
 開発の重点を、先進的発電システム、環境排出制御装置、産業利用技術(鉄鋼生産等の改良)及び発電用、輸送用の燃料製造に置いている。1986年に始まり38件のプロジェクトを推進して、実用石炭技術を開発してきた。現在までの主要な成果は以下のとおり。
・2200MWeを超える発電設備容量:5基の流動床燃焼システム、4基のガス化複合サイクルシステム、2基の先進燃焼/ヒートエンジンシステム
・排出制御装置:7基の窒素酸化物排出制御システム、5基の二酸化硫黄排出制御システム、6基の窒素酸化物・二酸化硫黄排出制御システム
・産業技術:5つのプロジェクトで製鉄用コークスの40%を石炭に置換、直接製鉄プロセスを発電と統合、セメント製造用キルンからの排出と廃棄物を低減等
・燃料利用:発電及び産業ボイラ用の高エネルギー密度固体燃料の生産プロジェクト、新メタノール生産プロセス実証プロジェクト、ボイラでの石炭利用特性を予測する計算ソフトウェアの実証プロジェクト
(c)クリーン石炭火力イニシアティブ
 今後数十年にわたって利用可能な先進石炭技術の開発を重点とし、民間部門が費用の50%以上を負担しながら政府−産業界の共同プログラムとして推進する。
(d)炭素投棄
 二酸化炭素の回収方法と経済的に再利用または投棄する方法を検討する。
(e)クリーン石炭燃料プログラム
 以下の3つのプログラムで石炭を液体燃料及び化学製品に転換する効率的な技術が開発されている。
・単一プロセスによる直接液化:転換プロセスで水素添加し、石油と同質の燃料を生産
・間接液化:ガス化炉で石炭をガスにした後に、液体燃料を製造
・高度な液化法:生物プロセス、アルコール製造用2段階合成ガス発酵プロセス等の利用
(f)先進的石炭研究
 すべての化石燃料技術に関連する横断的技術の研究が行われており、研究対象には石炭利用の科学、材料、計算科学、計測及び診断、石炭の生物学的処理が含まれている。
2.5 再生可能エネルギー
(a)風力エネルギー
 「応用研究プログラム」には、風力ハイブリッドシステム(遠隔地、孤島、小規模系統用)の研究、風況マップの改訂、野鳥生息数への影響を最小化する研究、先進的機器・システムの試験、先進システムに関する公募研究が含まれている。「タービン研究プログラム」は、発電コスト2.5セント/kWhを達成可能な実用規模(500kW〜2MW)タービンの設計、製作、試験を目指した次世代タービンの開発を重点に置いている。「小型風力タービンプロジェクト」は産業界の小型風力タービン(6〜40kW)の開発を支援している。
(b)太陽エネルギー
 3件のプログラムがあり、これらが多数のサブプログラムを支援している。
・「太陽光発電プログラム」:材料と装置に関する基礎的研究、性能、安全性、コストを評価するシステム工学試験、規格及び基準の作成を行う。
・「集光型太陽熱発電プログラム」:先進的な機器及びシステムの研究、新型コンバーターの開発、先進制御技術、分析ツール、実地データ、技術開発ロードマップに関する取り組みを行う。
・「ビル用太陽熱技術プログラム」:長寿命の高分子材料の開発と試験を行っており、低コスト太陽熱温水器の開発とその地域的利用範囲を拡大する方策の検討を進めている。
(c)地熱エネルギー
 「地熱エネルギープログラム」:地熱エネルギー利用の技術的、制度的及び環境面からの課題を摘出し、解決することを重点に置いている。地熱資源探査のための科学研究、掘削技術低減のための技術開発、熱電併給システムなどの多様な利用方法に関する評価研究と小型システムの開発試験が行われている。
(d)バイオマスエネルギー
 「バイオ発電プログラム」:熱化学変換、システム開発及び原料生産に関わっており、システム開発では、石炭との混焼システムの評価を行っている。
(e)水素
 「水素研究プログラム」は、費用対効果の優れた水素製造・貯蔵技術及び統合システムの開発を促進、支援することを目指している。中核研究プログラムとして、化石燃料及びバイオマス利用の水素製造プロセスのコスト低減を目指した熱プロセス研究、生物化学的な水分解を狙った光電気プロセス研究、安全で低コストの貯蔵システムの開発と実証を目指した貯蔵研究及び規格と基準の整備にあたる利用研究が行われている。
2.6 原子力
(a)核分裂と燃料サイクル
 2000年1月に始まった「第4世代原子力エネルギーシステムイニシアティブ」は、その後「第4世代国際フォーラム」の下での国際プログラムへと発展した。その目的は、2030年までに商業的利用が可能で、経済性、安全性、核拡散抵抗性、及び廃棄物低減などの観点から優れた1つまたはそれ以上の原子力エネルギーシステムを開発することにある。小型のモジュール型原子炉とガス炉の開発も含まれている。
 「原子力エネルギープラント最適化プログラム」は、政府と産業界の共同プログラムであり、原子力発電所を耐用期間にわたって最適運転する上での諸課題に対応することを目的としている。寿命延長に伴う材料及び機器の劣化問題などが研究対象となっている。
(b)核融合
 核融合プラズマを閉じこめる2つの主要な方法−電磁場閉じこめとレーザーまたは粒子ビームによる慣性閉じこめ−に関連する研究が行われている。「核融合エネルギー科学諮問委員会」によるレビュー「核融合エネルギー科学プログラム内の優先順位とバランス」が1999年9月に公開され、これに基づいて研究目標が設定された。
3.論評
 米国のエネルギー政策の目標を達成する上で、技術は中心的役割を担う。研究成果の実用化を保証するメカニズムが研究プロジェクトの枠組みに組み込まれている必要がある。 米国アカデミーは、エネルギー効率と化石燃料に関する多数の研究プログラムのレビューを行い、民間部門が技術開発の成果を利用する誘因(優遇策)を付与することが、研究プログラムの成功に不可欠であることを指摘している。また、重要な技術進歩に貢献した事例として輸送と化石燃料のプログラムを挙げ、これらのプログラムは「商業化を支援する経済的または政策的インセンティブの支援があれば」大きな利益を生み出し得るまでに技術を進歩させたと述べている。
<図/表>
表1 米国のエネルギー研究開発予算
表2 米国エネルギー多消費産業の利用効率向上に向けての取り組み

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(2)エネルギーと環境 (01-07-06-02)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(3)エネルギー効率 (01-07-06-03)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(6)原子力 (01-07-06-06)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(7)石油、ガスおよび石炭 (01-07-06-07)
アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権) (14-04-01-28)
第4世代原子炉 (07-02-01-10)
米国DOEのNERI関連研究計画 (07-02-01-09)

<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries−The United States−2002 Review, OECD/IEA,2002
(2) Energy Research at DOE: Was it Worth IT ? National Academies (National Academy of Science, National Academy of Engineering,Institute of Medicine,National Research Council),July 2001
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