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<概要>
 IEAは米国ブッシュ政権が2001年に発表した「国家エネルギー政策」に基づいて米国のエネルギー政策のレビューを実施した。このうち石油、ガスおよび石炭に関するレビュー結果をまとめた。
 米国は世界最大の石油輸入国であり、輸入依存度は高まりつつある。国内には石油と天然ガスの有望な資源があるが、主として環境上の観点から探査と採掘が厳しく規制されている。環境に配慮しつつ規制を見直していくことが望まれる。石油精製の設備余裕はほとんどなくなっているため、整合的な環境基準の導入、新規投資の障壁を減らす等の政策が必要とされる。天然ガスは、現在のところ供給安定性が高いが、発電用を中心とした今後の需要増大に備えて資源探査と開発規制の見直し、国際的なパイプライン建設を促すような政策が望まれる。石炭の消費は環境規制への対応から伸び悩んでいるが、まだ発電の半分以上は石炭に依存しており、環境規制を満足するための新技術も開発、実用化されてきている。環境排出をさらに大幅に低減する技術開発も行われているが、これらを導入するためには環境保全に優遇策を与える政策措置が必要である。
<更新年月>
2002年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
米国ブッシュ政権はエネルギー政策を再優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IEA(国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、石油、ガスおよび石炭に関するレビューの結果をまとめた。
1.石油
1.1 石油産業の構造
 米国石油産業は少数のきわめて大きな会社(メジャーズ)と7000を超える小規模な独立会社で構成されている。メジャーズは、大規模資源発見の可能性が残されている地域に注目し、米国内の2つの地域およびメキシコ湾の深海部とアラスカのノースロープでの探査に取り組んでいる。独立生産者は、1986年の石油価格下落後に増大した。石油と天然ガスの生産シェアは、1998年、メジャーズが54%、公的機関と取引のある独立生産者等が19%、民間の独立生産者が27%であった。
1.2 探査と生産
 1999年末時点で、米国の原油確認埋蔵量は217.65億バレルであった。過去数年にわたって、埋蔵量の数値は安定に推移してきたが、1986年の価格下落を受けて探査活動が大幅に低下したために、1985年時点の埋蔵量に比べると21%小さい。「米国地質調査」はアラスカに21億バレル規模の石油資源を推定しており、探査活動が始められている。
 米国は、サウジアラビアに次ぐ世界第2の産油国であり、2000年には平均日量810万バレルを生産したが、1970年代早期の1130万バレルに比べて減少している。水平掘削のような技術革新がなければ、生産量の落ち込みはもっと大きかったと思われる。米国エネルギー政策では 表1 に示す勧告を行っている。
1.3 石油貿易
 米国は世界最大の石油輸入国である。原油および石油製品の輸入量は2000年に平均日量1146万バレルに達した。これは、1995年比で30%、1985年比で126%の増加である。輸出は1995年比で10%、1985年比で30%の増加に留まったので、輸出を控除した正味輸入量でみると、1995年比で32%、1985年比で143%の増加になっている。
 石油供給の輸入依存度は高まっており、石油製品の最終需要に対する正味輸入量の比率は1985年の27%から1995年に45%、2000年には53%にまで上昇した。2000年の石油輸入の79%を原油が占めている。全体の60%をカナダ、メキシコ、ベネズエラおよびサウジアラビアの4か国から輸入している( 表2 )。
1.4 精製能力
 精製能力の合計は近年大きく変化していないが、環境規制が厳しくなる中で水素化分解、水素化精製、アルキル化プロセス、異性化プロセスの設備規模が増大してきた。原油常圧蒸留の能力は1995年から2000年の間に7%増大した( 表3 )。
1.5 消費
 米国の石油消費は2000年に過去最高の日量1970万バレルを記録し、1995年比で11%、1985年比で26%の増大となった( 表4図1 )。このうち、自動車用ガソリンの消費量が過去最高の水準850万バレルに達し、1995年比で9%、1985年比で24%増大した。しかし、石油製品全体に占めるガソリンの割合は43%で、1995年および1985年の44%から変化していない。これは、ジェット燃料、LPガスなどの他の製品需要も伸びているためである。
1.6 価格と課税
 幾つかの州は、競争に反する行動を制限するために、石油会社が販売店を直接経営することを禁止し、代わりに独立した経営者に販売店をリースすることを要求する法制度を導入した。また、幾つかの州では原価割れ販売を禁止したり、販売店のセルフ化を禁止して価格の低減を妨げている。
 1997年に連邦消費税が引き上げられ、自動車用ガソリンは4.86セント/L、軽油は6.45セントとなった。2000年7月時点で州の平均税率はガソリン5.26セント/L、軽油5.34セントである。2001年第3四半期における無鉛ガソリンの平均税率は10.2セント/Lで、販売価格の22.6%を占めている。
1.7 緊急時対応
 緊急時対応プログラムの中心は戦略的石油備蓄からの供給である。2000年央の備蓄量は正味輸入量の120日分と推定され、IEAが要求する90日分を上回っている。緊急時には日量で最大410万バレルの原油を供給することができる。米国では民間会社には備蓄義務がない。市場は緊急時に石油の増産を促す働きをするだろうが、増産能力は限られていると思われる。天然ガスへの転換が行われて、天然ガス生産量が増大する可能性はある。
 米国エネルギー政策は、石油供給に係る緊急事態に対する米国の対応能力を強化するために、非IEAメンバー国も戦略的石油備蓄をもつように促すこと、戦略的石油備蓄は石油価格を管理するためのものではない点を再確認することを勧告している。
2. 天然ガス
2.1 産業構造
 天然ガス生産業は24の大規模生産者と約7000の独立生産者で構成されている。民間の所有比率が高く、上流から下流に至る垂直方向の統合はほとんどない。生産、輸送、分配は通常別々の事業者によって行われるが、例外として少数の大規模分配業者は輸送パイプラインを所有している。分配部門には公的事業者が存在するが、ガスの全販売量の7%を占めるだけである。
2.2 探査と生産
 陸地における天然ガスの探査と生産は州によって規制されており、各州は鉱区権利金(ロイヤルティ)の設定、採掘許可に関する政策と規制方針の整備を行っている。こうした規制方針は、石油、天然ガスを産出する州で構成する委員会で調整される。海域での探査と生産に関する規制は連邦政府が行っている。
 2000年における操業中の天然ガス掘削リグの数は平均720本で、1999年の平均よりも45%増大している。新規ガス田の完成により2000年の生産量は18.99兆立方フィート(0.5%増)となった。
 米国エネルギー政策は、アラスカから他の48州へのパイプラインの建設、パイプラインの安全性改善のための法制化を支援すること、パイプラインの安全性向上とパイプライン敷設許可の促進に引き続き努めること、複数州にまたがるパイプラインプロジェクトの承認に関わる規制プロセスの改善を考慮することを勧告している。
2.3 天然ガス貿易
 米国は1999年に供給量の15%に当たる3.8兆立方フィートの天然ガスを輸入した。その94%は、カナダからパイプラインを経由して輸入したものである。液化天然ガスLNG)の輸入量は2000年に2260億立方フィートであり、1999年比で38%増大した。主な輸入元はトリニダードトバコ、アルジェリアおよびカタールである。
2.4 規制
 州間のパイプラインは連邦エネルギー規制委員会によって規制されている。この委員会は、利用料金、新規パイプラインの建設等の調整にあたるとともに、ガス供給業者が制約なくパイプラインを利用できることを保証している。現在では約260の独立事業者が供給・輸送事業に参入しており、約140の会社が所有するパイプラインの総延長は28万5千マイルに及ぶ。ガスの分配は各州の公益事業委員会によって規制されている。
2.5 価格
 生産と販売に関する規制緩和は天然ガス利用者に大きな恩恵をもたらした。産業用では、千立方フィート当たりの実質価格が1983年の6ドルから1999年には3ドルに半減した。民生用価格は約3分の1低下した。この価格低減によって、ガスの需要は1984年の16兆立方フィートから1999年には23兆立方フィートに増大した。2000年央から2001年央にかけて、生産の横ばい、需要の増大、在庫の減少などで価格が急上昇したが、その後は生産量の増大、産業用消費の減退、気象要因などの影響で下がりつつある。
2.6 需要
 1990年代には平均年率1.6%で需要が増大してきたが、2000年には前年比4.3%の大きな伸びとなり、これが上記価格上昇の主な原因となった( 図2 )。需要の増加は特に発電部門で著しく、1996年から2000年の期間に平均年率11%で増大した。価格上昇が産業部門の需要に大きく影響したため、2001年9月時点の見通しでは、2001年の消費量は前年比1.3%減と予想されている。
2.7 貯蔵
 天然ガスの貯蔵は、貯蔵コストが需要のピーク時とオフピーク時の天然ガス価格差以下の場合にのみ意味がある。充填時期であるオフピーク時の価格が高いと貯蔵量が減少する。2000年の充填時期には高価格であったために貯蔵量が減少したが、その後需要が急増する中で在庫不足から需給が逼迫し、価格が高騰する要因の一つとなった。最近ではガスの在庫水準は持ち直してきている。
3.石炭
3.1 産業構造
 米国の石炭産業は完全に民営化されている。炭坑の数は1990年の3430から1995年には2104に減少し、こうした事業整理の傾向はまだ続いている。無煙炭の生産量は1971年の5.01億トンから1998年には9.36億トンのピークに達し、その後1999年に9.16億トン、2000年に8.99億トンと減少してきた。主要な石炭層は六か所あり、1997年時点で実証された埋蔵量は4607億トン、このうち回収可能と推定される埋蔵量は2497億トンである( 表5 )。1990年に改正された大気浄化法に基づく環境規制により、今後は西部地域から産出される低硫黄石炭の生産が増大すると予想されている。石炭の輸送には主として鉄道が用いられ、米国における鉄道貨物輸送量の40%を石炭が占めている。
3.2 消費
 石炭の大部分は発電に用いられており、産業等での消費は小さく、長期にわたって減少傾向にある( 図3 )。石炭火力は発電全体の50%以上を占めている。近年では高効率、低資本費で、環境排出が少なく、また短時間で起動できる天然ガス火力が増大しつつあるが、最近の天然ガス価格の高騰で石炭火力がまた見直されている。生産性の向上で石炭の価格は2020年までの期間に年率1.3%で低下すると予想されており、エネルギー情報管理局(EIA)の見通しでも石炭消費量は1999年の9.81億トンから2020年には13.65億トンへ26%増大することが予測されている。
 米国エネルギー政策では、クリーンな石炭技術研究のため今後の10年間に20億ドル投資すること、技術の研究開発に対する現在の税額控除制度を無期限に延長すること、環境技術の改善を促進するとともに、石炭火力発電に関係する確実な規制策を打ち出すよう、勧告している。
3.3 石炭貿易
 無煙炭の輸出量は1990年に9590万トンでピークに達し、1996年には8300万トン、2000年には5300万トンに減少した。IEAは輸出量が2020年まで5600万トンで推移すると予測している。コークス製造用の原料炭が輸出の中心であったが、その比率は1990年の60%から2000年には43%まで低下した。最大の輸出先はカナダである。なお、石炭の輸入量は輸出量に比べてきわめて小さい。
4.論評
4.1 石油
 米国内の最も有望な地域(アラスカの陸域と海域、メキシコ湾および最西部)の多くで石油の探査と生産が制限され、特に有望なアラスカの陸域とカリフォルニアの海域は永年にわたって石油と天然ガスの探査が禁止されてきた。こうした制限は自然環境を保護するためのものであり、環境に対して責任が取れる方法で探査と生産が可能であることが社会的に認められる必要がある。
4.2 天然ガス
 供給安定性に関しては、輸入元(輸出先)のカナダが安定した供給源であり、残りの大部分は国内供給であることから大きな懸念はないが、最近の価格上昇は、急増する需要への対応という点で不安を与えている。有望資源地域であるロッキー山脈とメキシコ湾の開発は現在厳しく制限されているが、環境保全を図りつつこれらを開発できるか否かが鍵となる。
<図/表>
表1 米国エネルギー政策における石油と天然ガスの推進策
表1  米国エネルギー政策における石油と天然ガスの推進策
表2 米国の原油と石油製品の輸入量
表2  米国の原油と石油製品の輸入量
表3 米国の石油精製能力
表3  米国の石油精製能力
表4 米国の石油製品供給量
表4  米国の石油製品供給量
表5 米国の石炭資源(2000年)
表5  米国の石炭資源(2000年)
図1 米国における石油の部門別最終消費量(1973年〜2020年)
図1  米国における石油の部門別最終消費量(1973年〜2020年)
図2 米国における天然ガスの部門別最終消費量(1973年〜2020年)
図2  米国における天然ガスの部門別最終消費量(1973年〜2020年)
図3 米国における石炭の部門別最終消費量の実績(1973年〜1999年)
図3  米国における石炭の部門別最終消費量の実績(1973年〜1999年)

<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(2)エネルギーと環境 (01-07-06-02)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(3)エネルギー効率 (01-07-06-03)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(6)原子力 (01-07-06-06)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)
アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権) (14-04-01-28)

<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries−The United States− 2002 Review,OECD/IEA,2002
(2) Energy Balances of OECD Countries, IEA/OECD Paris,2001
(3) Energy Prices and Taxes,IEA/OECD Paris,2001
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