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<概要>
 IEAは米国ブッシュ政権が2001年に発表した「国家エネルギー政策」に基づいて米国のエネルギー政策のレビューを実施した。このうち政策の概観に関するレビューの結果をまとめた。
 国家エネルギー政策の核心は適切な国内エネルギーの供給とその基盤を確保することである。この中では、省エネルギー、環境保全、再生可能エネルギー開発のオプション、さらに地球規模の連帯によって、集団的なエネルギー安全保障を強化することについても言及している。米国のエネルギー行政はエネルギー省が総括し、他の省が分担するほか、独自の政策を持つ各州が補完するようになっている。2020年の見通しでは、エネルギー生産が、需要に追いつかなくなるので、連邦領土内及び大陸棚でのエネルギー資源の探査、天然ガス、原子力への投資が必要になるという。また、パイプライン、送電線への投資も必要としている。レビューチームによると、この段階ではこの政策は、まだ提案であって2002年上下院議員選挙の後に結論が得られるのではないかとしている。また新技術をうまく展開できるか、疑問を呈している。
<更新年月>
2002年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
はじめに
 米国ブッシュ政権はエネルギー政策を最優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IEA(国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、政策の概観に関するレビューの結果をまとめた。
1.政策の目的
 2001年5月に国家エネルギー政策(以下NEP)が公表された。NEPの核心は適切な国内エネルギーの供給とその基盤を確保することであり、新しい発電所、石油精製施設及びガスや電力の輸送網への大規模な投資が必要としている。
 NEPはまた、省エネルギー、環境保全、再生可能エネルギー開発のオプションについても言及している。たとえば、低所得世帯用の節約プログラムへの支出倍増、機器の効率基準と再生可能エネルギーの税額控除の拡張、低燃費車普及のための新規優遇税制などの勧告、並びに、車輛の団体平均燃費(CAFE:Corporate Average Fuel Economy)を改善する強力な基準の考案などを勧告している。
 NEPは、さらに地球規模の連帯によって集団的なエネルギー安全保障を強化するよう勧告している。 提案された対策には、供給源の多様化とOECD 及びIEAとの協力を継続することも含まれている。後者は、適切な石油備蓄の確保、包括的なかつ迅速な世界石油データ報告システムの開発、及び世界中のエネルギー投資に対する透明性の高い規則と手続きを実施するために提案されたものである。
2.エネルギー行政
 エネルギー省(DOE)が、連邦のエネルギー政策とプログラムを管轄している。省の業務は以下のオフィスで遂行されている。
 エネルギー効率と再生可能エネルギー
 化石エネルギー
 原子力エネルギー
 科学と技術
 民間の放射性廃棄物管理
 科学
 政策と国際関係
 独立の行政官を長とし、省の一部であるEIA(Energy Information Administration:エネルギー情報管理局)はデータを収集し、分析している。
 連邦政府、及び独自のエネルギー政策とプログラムを持つ州政府が、責任を分担している。州政府のエネルギー政策は州ごとにかなり異なっている。
 州間のガス及び電気の市場(パイプラインと配電網)は連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulation Commission)によって規制されている。この委員会は名目上はエネルギー省の一部であるが、任命された委員と専門の職員によって独立に行動している。州政府は地方のガス及び配電会社によって課せられる小売料金、及び販売権を持つ地域内にある電気事業者によって運営される発電施設の投資回収率を規制する。
 エネルギー政策に関して大きな役割を持つ他の省と機関は、以下のとおりである。
 国務省:国際エネルギー問題を主導する。
 内務省:連邦領土内及び大陸棚の鉱物資源の探査と開発を規制する。
 法務省:独占禁止法を侵害しないようエネルギー産業を監視する。
 環境保護庁:エネルギー分野に対し、環境基準を設定する。
 運輸省:運輸部門の業務の中の一つとして、車両の燃費基準を設定する。
 財務省:エネルギー産業に影響する税制度を管轄する。
 原子力規制委員会:原子力プラントの建設と運転の許可を管轄する。
3.エネルギーの需給
  図1図2図3図4図5 及び 図6 に、米国における一次エネルギー生産、一次エネルギー供給、最終エネルギー消費、産業部門の最終エネルギー消費、民生部門の最終エネルギー消費、運輸部門の最終エネルギー消費の推移(実績と見通し)を、それぞれ示す。
3.1 一次エネルギー供給
 エネルギー供給は化石燃料からの供給が多い。石油と天然ガスで一次エネルギー供給の約3分の2を占め、残りの大部分は石炭である。エネルギーの輸入は一次供給の約4分の1であり、石油が大部分で天然ガスがそれに次ぐ。水力を含む再生可能エネルギーは、一次エネルギー供給の5.4%で、水力を除くと4.3%である。一次エネルギー供給の見通しでは、石油と天然ガスの伸びが予想される。石炭は構成比の減少が予測されている。再生可能エネルギーは小さな寄与に留まる( 表1-1表1-2 参照)。
3.2 エネルギーの最終消費
 1999年度の最終エネルギー消費は 石油換算14億7600万トンで1998年度比3.1%の伸びである。GDPの伸び3.6%よりはやや小さい。消費の伸びは1999年度に著しく回復した。1999年度の石油消費は最終エネルギー消費の54.3%、天然ガスは21.6%、電力は19.5%、石炭は1.9%であった。発電の51.8%は石炭、19.9%が原子力、15.7%が天然ガスである。
 運輸部門は全エネルギー消費の40.7%を占める主要な消費部門となっている。1998年度から3.3%増加し、1990年度に比べて19.7%伸びている。1999年度の産業部門は28.7%のシェアである。1998年度から3.2%、1990年度に比べて12.2%の伸びとなっている( 表2-1表2-2 参照)。
4.2020年までの見通し
 EIAは、2001年度エネルギー見通しで次の条件設定をしている。
実質GDPは、2000年度から2020年度までに年率3%で増加する。一方、一次エネルギー供給の対GDP原単位(energy intensity)は年率1.5%減少し、二酸化炭素排出量は年率1.4%から1.5%増加する。
・低成長ケースと高成長ケースでは、GDPがそれぞれ年率2.4%、3.4%成長すると仮定する。
・2020年の世界の1バーレル(約159リットル)当たりの石油価格は、2000年ドル価格表示で1999年度17.60US$に比較し、参考ケースで24.68US$、低価格ケースで17.64US$、高価格ケースで30.58US$と予測している。
・2020年の国内天然ガスの井戸元価格は、参考ケースで3.26US$/千立方フィート、低価格ケースで2.94US$/千立方フィート、高価格ケースで3.65US$/千立方フィートと予測する。
 国内の原油生産は年率0.2%の割合で5600万バレル/日まで減少する。増大する需要を賄うために、輸入によって調達される石油製品の割合は1999年度の51%から、2020年度の63%に増加する。石油生産への誘因を高めるか、輸送部門の燃料効率を改善する対策を講じれば輸入比率を減少させることができよう。
 電力生産では、化石燃料が引き続き主役を務めると予測されている。しかし、石炭火力のシェアは1999年の51%から、2020年の45%に減少する。天然ガス火力は15%から32%に増加する。これは、電力産業の構造改革によって資本費の小さい高効率のガス火力技術が有利となることを前提としている。もう一つの重要な前提は、もし設備の運転コストが新規設備の発電コストよりも高ければ、原子力プラントは30年〜50年後には廃棄されるということである。この結果、2020年までに、9.7GWの設備容量が廃棄されることになる。
 電力需要は伸び続けており、幾らかの設備容量は廃棄されるので、新規の発電設備及び送配電設備に対する相当な需要があると予測されている。今後20年間に300MW級発電所1300基が必要と予想されている。
5.論評
5.1 結論はどうなるか?
 NEPは、エネルギー政策に関する議論の枠組みを設定しているが、結論は当分決定されないであろう。
 NEPはエネルギー安全保障に焦点を当てて、一連の政策を提案している。エネルギー政策の多くの分野をカバーしているが、大部分は、国内のエネルギー生産を鼓舞する対策である。需要側の対策の役割は十分認識されているが、これらの議論から導き出される勧告は供給側の場合ほどには確たる焦点がない。需要側で、強力な行動が必要な最も重要な分野は、輸送とビルにおけるエネルギー利用である。
 今後20年間に、エネルギー消費が生産を超え、輸入への依存が高まると予想される。これに対する対策として、連邦領土内での探査、原子力の利用を挙げており、エネルギーの生産、輸送システムへの投資を必要と考えている。しかしNEPは、安全保障の改善にも役立つエネルギーの効率については、あまり重点を置いていない。安全保障は、エネルギー貿易を改善することによって、また政治的緊張を緩和することによっても大いに改善される。
 エネルギー環境問題にもかなりの注意が払われている。米国は、気候変動枠組み条約の加盟国として、炭素排出量の削減を約束している。しかし、京都議定書への参加を止めてから排出量の削減目標はない。したがって、多くの提案は排出量削減に影響があるとは思われるが、削減目標がなければ、経済成長とともに排出量は増加するであろう。炭素排出に対する米国の一国主義的アプローチの発現に対して、米国の政策と京都アプローチ支持者の政策の歩み寄りの余地もある。
 現段階においては、NEPはブッシュ政権による一連の提案の一つに過ぎないと考えられる。米国の政治システムでは、政策報告書の議会審議の過程で大きく変わることが予想される。現政権の提案でなく、現政策報告書に十分反映されていない重要なエネルギー環境上の提案も議会で検討されている。結果は、政党のバランスによって決まるので、不確定要素が多い。2002年の上下院議員選挙が重要な影響を持つであろう。
5.2 新技術展開の方策は?
 エネルギー政策の焦点は、引き続き新技術の開発と自由市場の運営することにある。しかし、この新技術の利用をどのような手段で促進しようとしているのかが不明である。これらの中には、原子力、また重要ではあるが需要に応えるに十分でない再生可能エネルギー、輸送用の新燃料と新型エンジン、環境保全のための新型クリーン石炭技術など多くの分野の技術がある。
 多くの資金と国立研究機関によって、これら新技術の開発は支えられている。そして、これらの技術の利用に大きな期待がかかっている。しかし、これらの技術のコストが従来技術より安くなく、市場が炭素削減の価値を反映する仕組みを持っていない中で、どのような手段で新技術の利用を促すのか明らかでない。
 エネルギー市場の自由化もまた、NEPの課題の一つである。カリフォルニアの電力供給危機によって、市場の設計と規制の双方に欠点が露呈したが、問題は解決可能であり、経験から学ばねばならないことは明白である。
5.3 世界に適用できるのか?
 NEPは、他の諸国のモデルとして、また国際経済のあらゆる局面で米国経済の影響があるゆえに、大変重要な影響を持っている。
 新しいエネルギー政策は、世界全体のエネルギー政策及びエネルギー環境政策に影響するであろう。この政策が、エネルギー安全保障に焦点を当てていること、連邦政府の政策的介入とリーダーシップを提案していることは妥当であると考えられる。しかし、政策全体を通じて、次の事項に疑問が残されている。
・エネルギー安全保障を確立する手段としては、国内の生産より、エネルギー貿易に適切なウエイトを置くべきこと。
・多くの政策的問題を市場で解決するためにエネルギー価格設定、税制、排出権取り引きなどの経済的手段を利用すべきこと。
・エネルギー市場に強力な価格シグナルが存在しない状況下で、環境保全や省エネルギーのための新技術が、低コストで適切な時期に利用できると期待していることの現実性。
<図/表>
表1-1 米国の一次エネルギー供給の見通し(1/2)
表1-1  米国の一次エネルギー供給の見通し(1/2)
表1-2 米国の一次エネルギー供給の見通し(2/2)
表1-2  米国の一次エネルギー供給の見通し(2/2)
表2-1 米国の最終エネルギー消費の見通し(1/2)
表2-1  米国の最終エネルギー消費の見通し(1/2)
表2-2 米国の最終エネルギー消費の見通し(2/2)
表2-2  米国の最終エネルギー消費の見通し(2/2)
図1 米国の一次エネルギー生産の推移
図1  米国の一次エネルギー生産の推移
図2 米国の一次エネルギー供給の推移
図2  米国の一次エネルギー供給の推移
図3 米国の最終エネルギー消費の推移
図3  米国の最終エネルギー消費の推移
図4 米国の産業部門の最終エネルギー消費の推移
図4  米国の産業部門の最終エネルギー消費の推移
図5 米国の民生部門の最終エネルギー消費の推移
図5  米国の民生部門の最終エネルギー消費の推移
図6 米国の運輸部門の最終エネルギー消費の推移
図6  米国の運輸部門の最終エネルギー消費の推移

<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(2)エネルギーと環境 (01-07-06-02)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(3)エネルギー効率 (01-07-06-03)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(6)原子力 (01-07-06-06)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(7)石油、ガスおよび石炭 (01-07-06-07)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)

<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries-The United States- 2002 Review,OECD/IEA,2002
(2) National Energy Policy-Reliable, Affordable, and Environmentally Sound Energy for America’s Future (May 2001):
(3) Annual Energy Outlook 2002,DOE/EIA 0383(2002),Dec 2001:http://www.eia.doe.gov/oiaf/aeo/pdf/0383(2002).pdf
(4) Energy Balances of OECD Countries 1999-2000,OECD/IEA 2002 edition
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