<本文>
はじめに
米国ブッシュ政権はエネルギー政策を最優先課題の一つに位置付けており、2001年5月に「国家エネルギー政策」(NEP:National Energy Policy)を発表した。このNEPを基に、IEA(
国際エネルギー機関)は米国のエネルギー政策のレビューを2002年に実施した。ここでは、IEAのレビュー報告書<参考文献>(1)に基づき、エネルギー効率に関するレビューの結果をまとめた。
1.エネルギー需要
米国は1999年に14億7600万トン(石油換算)のエネルギーを消費した(
表1-1 、
表1-2 )。このうち77.8%は石炭、石油、天然ガスで賄われている。石炭の大部分は発電部門で消費され、得られた電力はビルや産業部門で使われている。石油の大部分は運輸部門で消費されている。天然ガスについては、民生部門と産業部門でほぼ同量が消費されており、少量が発電部門で消費されている。
1.1 産業部門
産業部門は1999年にエネルギー消費量全体の29%を占めており、石油が主要なエネルギーである。製造業は約1900万人を雇用し、経済的財貨の90%以上を生産する。過去10年間に米国の経済成長の30%近くを達成している。
単位生産額当りのエネルギー消費量(エネルギー消費原単位)は、
図1 に示すように、1972年から1980年代半ばまでの期間に大きく減少した。この減少の3分の2はエネルギー効率の改善によるものであり、残りはエネルギー多消費産業から他の産業への移行によるものである。1986年から1991年にかけて、エネルギー集約的製品の生産増加、電力消費の増加、実質エネルギー価格の低下によって、エネルギー消費原単位は増加した。しかし、1990年代には産業の生産額は50%増加したが、エネルギー消費の増加は12%に留まり、エネルギー消費原単位はかなり低下した。
産業部門のエネルギー消費は比較的少数の業種、主要素材生産と資源採掘産業に集中している。9業種、すなわち、石油精製、化学製品、林業製品、農業、鉄鋼、鉱業、アルミニウム、金属鋳造、ガラス加工業だけで産業部門のエネルギー消費の約3分の2を占めている。これらの産業にとっては、操業コストと最終製品コストの多くの部分がエネルギー利用と廃棄物処分に関係するものとなっている。
1.2 運輸部門
運輸部門の1999年のエネルギー消費量は全消費量の40.7%に相当する。石油はこの部門の消費する燃料の97%に相当する。運輸部門における燃料の燃焼は地表のオゾン、都市のスモッグの生成に寄与する
大気汚染物質の約半分、米国の二酸化炭素排出量の約3分の2を占めている(
表1-1、
表1-2参照)。
輸送形態別にみると、運輸部門の全エネルギー消費のうち高速道路車輛が76%、航空機が9%、船舶が5%、一般道路車輛が3%、鉄道が2%を占めている。1990年以来、主として旅客用の乗用車及び軽トラックの消費エネルギーは年間1.8%の割合で増加し、1999年に800万
バレル/日に達した。貨物と商用旅客を輸送するトラックとバスで消費されるエネルギーは年率2.4%で増加し、1999年には200万バレル/日に達した。
1994年(完全な統計データのある最後の年)には、約8500万世帯が少なくとも一台の車輛を所有、または利用可能であった。同年に、1億5700万台の家庭用車輛が1.8兆マイルを旅行し、910億米国ガロン(3445億リットル)のガソリンを消費した。これらの数字は人口増加とともに増加しつづけている。
乗用車、軽トラック(バンとスポーツ用車両)、トラックを含むすべてのタイプの車輛の燃費はこの10年間頭打ち状態にある。乗用車と軽トラックの場合には、CAFE(Corporate Average Fuel Economy:団体平均燃費)基準が1980年代初頭以降強化されておらず、また燃料価格を通じて効率改善が促進されていないことがその原因となっている(
図2 、
図3 及び
図4 )。
1.3 民生部門
家庭及び業務部門は1999年にエネルギー全体の約30%(
表1-1、
表1-2)、電力の3分の2以上を消費した。人口増加と経済成長によってより多くの、より大きな、そしてより完備された住宅が建設され、その結果、この部門のエネルギー消費は増大した。
1997年には一世帯当たりの平均エネルギー消費は石油換算2.55トンであった。家庭のエネルギー消費の構成を用途別にみると、暖房が51%、機器が26.5%(1993年の23.4%からコンピュータ等の機器の普及で劇的に増加)、給湯が18.7%、空調が4.1%(需要は増加したが空調機器の効率改善のため1993年の4.5%から減少)である。暖房と給湯の主要なエネルギー源は天然ガスであり、5300万世帯(全体の半分以上)の主要熱源となっている。電気は2900万世帯の主要熱源となっている。空調用にはほとんど電気が使われている。
1970年代及び1980年代の大半の期間、住宅部門の省エネルギー率は最終消費部門の中で最も大きく、一世帯当たりのエネルギー消費量は3分の1以上減少した(
図5 参照)。1979年の第二次石油ショックの直後に一世帯当たりのエネルギー消費量は急減し、石油換算で1978年の3.5トンから1979年に3.2トン、さらに1982年には2.6トンまで減少した。その後は変動を繰り返しており、1990年には減少したが1993年には増加し、1997年には再び減少して2.55トンになっている。効率の改善は続いているが、世帯数の増加、一人当たり床面積の増大、大型エネルギー消費機器の普及等の増加要因がこれを上回っている。
2.エネルギー効率と省エネ政策
米国NEPは連邦政府の役割を以下のように概説している。
・消費者の購入するエネルギー利用に関する迅速かつ正確な情報の提供
・エネルギー効率の優れた製品に対する基準の設定
・企業が効率の高い製品を開発するよう奨励すること
・「エネルギースタープログラム」のようなプログラムを維持すること
・効率と節約を改善する技術を研究すること
大統領は産業界、消費者、連邦、州、地方政府の連携した努力によって米国経済のエネルギー原単位を改善するよう、エネルギー省長官に指示した。
2.1 産業部門
産業技術局は2020年までに産業部門の年間エネルギー消費を石油換算2億5200万トン減少させることを目指している。主な手段は以下のとおりである。
・エネルギー集約的で環境に影響の多い産業に焦点を当てる。
・産業のビジョン(長期目標、最も重要な将来ニーズ)を創る。
・研究開発と実証に対する戦略的道筋(技術ロードマップ等)を構築する。
・戦略的な研究開発及び実証プロジェクトに協力して投資する。
2.2 輸送部門
輸送技術局は、石油需要を減少させ、大気汚染物質の排出を減少させ、
温室効果ガスの排出を減少させ、かつ運輸産業が国内及び世界市場において強力な競争的地位を保持できるような、新型車両技術及び新燃料を開発・使用することを支援している。
米国NEPは次のことを勧告している。
・新しいCAFE基準を確立すること、並びに新車の平均燃費を向上させるような市場的政策手段を考えること
・混雑緩和技術のレビューと推進
・燃料効率の良い車両への税額控除、及び2002年から2007年の期間における新型ハイブリッド燃料電池車の購入に対する暫定的な効率ベースの所得税控除
2.3 家庭・業務部門
この部門は建設、運営、維持産業に細分化されているため、エネルギー効率の改善には特別の取り組みを必要とする。建築技術・州及び共同体プログラム局は、この取り組みを進めるために、産業、州、地方政府と共同で研究開発及び実施のプログラムを運営している。
米国NEPは、この部門のエネルギー効率改善のために、市場の改革、基準作成、教育、低所得層への支援など方法をバランスよく活用することを勧告している。主な勧告内容は以下のとおりである。
・「エネルギースタープログラム」を学校、商店、健康管理施設、家庭まで拡張
・「エネルギースターラベルプログラム」の対象製品、機器、サービスを拡張
・エネルギー効率に関する市民教育プログラムを強化
・効率基準プログラムの支援、効率基準の強化によって、機器のエネルギー効率の改善
・技術的に可能で経済性がある機器の追加などにより、機器の基準の範囲を拡張
2.4 効率の基準
1987年の機器省エネルギー法(National Appliance Energy Conservation Act)はエネルギー効率の基準を設定し、対象製品のレビューのスケジュールを決めている。民生用製品には冷蔵庫、冷凍庫、エアコン、衣類洗濯機、衣類乾燥機、及び他の幾つかの機器が含まれている。1992年のエネルギー政策法(Energy Policy Act)は業務用及び産業用機器に関するミニマム基準を設定した。
住宅用機器の大部分と業務用及び産業用機器の多くに関するエネルギー基準はエネルギー省が監督している。エネルギー省は2000年に業務用と産業用の蛍光灯についての改定基準を、また、2001年には衣類洗濯機、住居用給湯機、業務用機器等の改訂基準を公表した。衣類洗濯機に対しては2004年までに22%、2007年までに35%のエネルギー消費量削減を要求している。
2.5 連邦エネルギー管理プログラム
連邦政府は、単一のエネルギー消費者としては最大である。1999年に連邦政府は米国の全エネルギーの1.1%を消費した。連邦エネルギー管理プログラムは、エネルギー効率を高め、水の節約と再生型エネルギーの利用を促進し、また連邦のビル、施設の操業にかかるコストを管理して、連邦政府のエネルギー消費のコストと環境影響を低減しようとするものである。各部局の長はエネルギー使用の節約を指示されている。
2.6 電力エネルギー効率と節約
電力部門は米国で最大の直接的なエネルギー消費者であり、1996年に一次エネルギー全体の36%を消費している。米国NEPは以下の勧告をしている。
・最終利用に近接して発電する
分散型電源を含め、送電の信頼性に関する研究と開発
・熱電併給プロジェクトの利用を進める対策
・熱電併給プロジェクトに対する償却期間の短縮または投資に対する税額控除の提供
3.論評
3.1 エネルギー効率だけで十分か
エネルギー効率は米国NEPでは、エネルギー供給を拡大する一つの重要な代替案とされているが、増大するエネルギー需要を扱うには不十分である。
エネルギー効率に関する政策は現在のところ具体的な枠組みが欠落している。この政策は産業界、消費者、及び政府があらゆるレベルで連携することを想定しているが、これを達成するためのメカニズムを提案していない。
3.2 統計の質の向上
信頼性の高い統計を維持することが、適切な政策の立案のための基本的な条件である。EIAのエネルギー消費量調査は予算削減の影響を強く受けており、調査のサンプルサイズが減少したり、調査が廃止された事例がある。
3.3 政策の遂行を支援する基盤の整備
エネルギー省は建築物のエネルギーコードと基準を州が採用するのを支援している。家庭と業務用の建築物はエネルギーの17%を消費しており、この支援は重要である。新型建築物は既存のものに比べて最大40%の省エネが可能であるが、建築物のエネルギーコードは利用者や施行者にとってきわめて複雑である。連邦政府は財政的、技術的にエネルギーコードの遵守を支援している。
3.4 CAFE基準の効果
より強力なCAFE基準は経済的、環境的利益に加えて、石油消費の減少による重要なエネルギー安全保障上の利益をもたらすものである。
石油の需要は経済活動とこれに関連する輸送需要によって誘発される。1970年代と80年代に石炭火力と原子力の利用、及び輸送車両に対するCAFE基準の適用で石油の消費は大幅に減少した。その後20年間、燃費基準はあまり変更されていない。石油需要の増加を抑制するためには、燃費基準の強化、または燃費の高い車両の利用が必要である。
<図/表>
<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(2)エネルギーと環境 (01-07-06-02)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(4)電力 (01-07-06-04)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(5)再生可能燃料および非在来型燃料 (01-07-06-05)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(6)原子力 (01-07-06-06)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(7)石油、ガスおよび石炭 (01-07-06-07)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(8)エネルギー研究開発 (01-07-06-08)
<参考文献>
(1) Energy Policy of IEA Countries−The United States− 2002 Review,OECD/IEA,2002
(2) National Energy Policy−Reliable, Affordable, and Environmentally Sound Energy for America’s Future (May 2001):
(3) Annual Energy Outlook 2002,DOE/EIA 0383(2002),Dec 2001:
http://www.eia.doe.gov/oiaf/aeo/pdf/0383(2002).pdf