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<概要>
 従来の保障措置では、計量管理を主たる手段とし、封じ込め/監視を補助的手段としている。計量管理では、転用探知に係わる量的目標値、適時性目標値、探知確率等の技術的目標値を満たす必要があり、まずこのための技術開発が行われた。また、これらの技術的目標値は、固定値であるため、大型の施設になる程、その達成は容易でなくなる。このため、施設毎にその特徴に合った技術開発が必要であった。一方、封じ込め/監視手段は、知識の連続性を保証することができるので、これを核燃料物質を扱う施設または工程に適用すれば、計量のための再測定を避けることができ、効率化をもたらす。このため、封じ込め/監視手段の開発が行われた。近年、保障措置の一層の強化・効率化を図るため、在来技術を改良する他に、種々の新技術が検討開発され、順次導入されてきている。この中には、開発中の技術、さらに改良を必要とする技術も含まれている。
<更新年月>
2006年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 従来の保障措置では、計量管理を主たる手段とし、封じ込め/監視を補助的手段としている。計量管理では、転用探知に係わる量的目標値、適時性目標値、探知確率等の技術的目標値を満たす必要があり、まずこのための技術開発が行われた。また、これらの技術的目標値は、固定値であるため、原子力活動が拡大し、施設が大型化してくると、その達成は容易でなくなる。このため、施設毎にその特徴に合った技術開発が必要であった。一方、封じ込め/監視手段は、知識の連続性を保証することができるので、これを核燃料物質を扱う施設または工程に適用すれば、計量のための再測定を避けることができ、効率化をもたらす。このため、封じ込め/監視手段の開発が行われた。これら、計量管理および封じ込め/監視のための技術は、保障措置の有効性を一層高め、一層効率的にするため、現在も改良が続けられている。
 1991年のイラクの秘密核開発プログラムの発覚と1993年の北朝鮮のIAEA(International Atomic Energy Agency:国際原子力機関)特別査察の拒否を契機として、未申告原子力活動を含む全ての原子力活動に対し、保障措置の一層の強化・効率化を図ることが必要となった。このための方策が種々検討され、導入されてきている。この中には、開発中の技術、さらに改良を必要とする技術も含まれている。
 このように、原子力活動の進展、保障措置を巡る動向に対応して、保障措置のための種々の技術開発が進められてきた。以下に、その概要を述べる。
2.計量管理技術
 計量管理では、施設者は、物質収支区域(MBA:Material Balance Area)への入量、MBAからの出量および物質収支期間(MBP:Material Balance Period)の期首および期末における在庫を計量し、物質収支を計算して在庫差(MUF:Materials Unaccounted For)を求めこれを評価する。これに対して査察者は、施設者の計量について無作為(ランダム)に試料を収去して独自の計量を行い、施設者の計量値との差を統計的に評価するとともに、この差に基づいてMUFの評価を行う。ここで、査察者の行う計量は、転用シナリオを考慮して、大量欠損の探知を目的とした非破壊分析(NDA:Non−Destructive Assay)による多数の試料の大雑把な測定、部分欠損の探知を目的としたNDAによる中程度の数の試料の精度のよい測定、およびバイアス欠損の探知を目的とした破壊分析(DA:Destructive Assay)による少数の試料の精度のよい測定の3種類がある。計量技術としてはNDAとDAの二種類である。
 まず重点的に開発されたのは、計量の基本となるDA技術である。これは、試料中のウランまたはプルトニウムの含有率、ウラン235の全ウランに占める割合等を化学的に分析し、測定する技術で、ウランまたはプルトニウムの化学的性質を用いてこれらの元素の量を量定したり、既知の同位体を一定量添加した試料を質量分析して、これら元素の同位体比を求める。DA技術の特長は、正確で精度の高い計量を行うことができることである。しかし、その反面、試料を採取してこれを保障措置分析所に運んで分析することから、結果が得られるまでに時間がかかるという欠点がある。また、燃料集合体のようにDAが不可能であったり、スクラップや廃棄物のように代表的試料を得ることが極めて困難な形態の核物質もある。このため、核物質の大量欠損および部分欠損を探知するためのNDA技術の開発が必要となり、そのための技術開発が行われてきている。NDA技術の開発では、核物質から自発的に放出される、または放射線照射を受けることによって放出されるα線、β線、γ線X線中性子線を単独で、あるいは2つ以上の放射線を組み合わせて、測定する等の方法が開発されている。NDA技術の特徴は、現場で、比較的短時間に、結果が得られることである。また、近年、査察官非立会でNDA測定を行う技術が開発され、実用化されてきている。
 施設に特有な技術の開発例を以下に述べる。
(1)濃縮施設
 濃縮施設では、カスケード区域において高濃縮ウランが生産されていないことをモニタする必要がある。このため、ヘッダー配管に取り付けるNDA装置が開発され、そこを通過する濃縮ウランの濃縮度が常時測定されてきた。この場合、UF6ガスの流量および配管へのウランの付着の問題にも対処することが必要であった。
(2)低濃縮ウラン燃料加工施設
 低濃縮ウラン燃料加工施設では、加工施設内の核物質の流れを検認するために中間査察が年に数回実施されてきた。これを改善するため、メールボックスを使用して流れの計量データを申告する制度を伴う短期通告無作為査察(SNRI:Short Notice Random Inspection)が開発され、実用化された。
(3)原子炉施設
 原子炉施設では、燃料集合体中の核物質量を検認する必要がある。このため、中性子等の放射線を検出測定するNDA装置が開発された。また、使用済み燃料については、チェレンコフ光を測定する装置等が開発された。
(4)再処理施設
 再処理施設では、硝酸溶液を扱うため、溶液容積の測定が必要である。このため、溶液貯槽の校正を行い、液位と容積との間の関係式を求める。操業時には、この関係式と液位表示値とから容積を求める。液位表示には、液面と液面下の定点との間の圧力差を用いており、これを精度よく測定するための精緻な技術が開発されている。
 再処理施設のバルク取扱区域では、計量管理法としてニア・リアルタイム計量管理(NRTA:Near Real Time Materials Accountancy)が適用される。NRTAでは、流れの計量の他に、工程内在庫を操業を継続しながら定期的に計量または推定することが必要である。このため、蒸発缶等工程内の核物質量を推定する技術が開発されている。
 大型再処理施設の場合には、計量管理だけでは核物質の分割転用に対して十分な探知能力がないので、追加措置が必要となる。このため、溶液モニタリングを併用することが検討されている。
(5)プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料加工施設
 原子力機構(旧・サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))のMOX燃料加工施設では、大量の核物質の滞留(ホールドアップ)が発生し、問題となったことから、ホールドアップの発生しにくい設備に改良するとともに、発生したホールドアップを精度よく測定するためのNDA装置が開発された。
3.封じ込め/監視技術(C/S技術)
 封じ込め/監視技術の内、封印については、メタルシール、ペーパーシールがまず実用化された。繰り返し検認が要求され、封印の長期使用を可能にする電子式のVACOSSシール、多数本光ファイバーの光学パターンを利用するCOBRAシールとその検認器、超音波により間隙をモニターする超音波シール等、多種多様なシールとその検認器が開発されてきた。監視については、光学カメラが利用され、撮影のタイミング(トリガ方式)、記録媒体(フィルム、VTR等の磁気媒体)および映像レビューのための装置について開発が行われ、現在はディジタル化の方向にある。また、レーザーを用いるもの、音響を監視するもの、熱を感知するもの、金属の通過を検知する金属検知器、放射線をモニターするもの等、各種の用途に応じた装置が開発されている。
 原子力機構(旧・原研(現日本原子力研究開発機構))の高速臨界集合体(FCA:Fast Critical Assembly)施設では、金属形状のプルトニウムおよび高濃縮ウランを接近可能な炉心に大量に装荷するため、当初、NDAによる検認を隔週に行う必要があり、これによる放射線被ばくが問題となった。これを改善するため、炉室全体に封じ込め/監視技術を適用することとし、ポータルモニタおよびペネトレーションモニタを組み合わせた総合的C/S(Containment and Surveillance)システムが開発された。
4.保障措置の強化・効率化技術
 保障措置の強化・効率化技術としては、従来の保障措置を一層改良する技術および制度、新たに保障措置の目的となった未申告核物質および未申告原子力活動がないことを保証するための技術および制度ならびに両者に役立つ技術および制度がある。この主なものについて述べる。
(1)環境サンプリング(Environmental Sampling)
 原子力活動を行えば周辺の環境に何らかの影響を与える。環境サンプリングは、環境に極微量に漏洩する核物質に着目して、水、土壌、空気、植物、塵埃等の環境試料を採取してこの中に含まれるバルク状またはパーティクル状の核物質の種類、組成等を分析して、どのような原子力活動が行われているかを調べる技術である。極めて微量の核物質を対象とすることから、実験室環境からの影響あるいは試料間での相互の影響を避けるため、一般にクリーンルームで分析が行われる。バルク分析技術およびパーティクル分析技術があり、また、クリーンルームの管理上、一定濃度以上の試料を持ち込まないためのスクリーニング技術がある。これらの技術は、核兵器国で開発された技術が中心となっており、パーティクル分析技術の一つであるフィッショントラック法のように未公開の技術もある。日本等の非核兵器国でも分析技術の開発が進められている。
(2)遠隔監視(Remote Monitoring)
 査察官が現場に出かけて査察活動を行う労力および経費を省くため、シール、カメラ等による封じ込め・監視の情報を暗号化し、通信衛星あるいは公衆回線を用いて、IAEA本部またはIAEA地域事務所に遠隔伝送し監視する方法である。現在、日本でも軽水炉の監視業務にこの方法を適用する試験が実施されている。しかし、通信費が高い国の場合には必ずしも経費節減につながらないと言われている。また、類似の技術であるが専用回線を用いるため暗号化を必要としない技術として、監視の他にNDA測定、C/Sの健全性確認等を査察官非立会いで実施し、その結果を施設の近くの査察官事務所等に伝送する方法も試験され、実用化されている。
(3)無通告査察
 無通告査察とは、査察を無通告(直前通告)で実施することにより、転用への抑止効果を持たせる方法である。実施手続きの開発、有効性の評価等が必要である。
(4)核物質の国内計量管理制度SSAC(State’s System of Accounting for and Control of Nuclear Material)の活用
 現在すでに実現している査察用機器のわが国とIAEAの共同利用等の他、国とIAEAの査察官が査察業務を分担する方法(ニューパートナーシップアプローチとしてEURATOMとIAEAとの間で実用化)、国が行う査察活動の結果をIAEAが監査する方法等の技術が検討されている。(注)EURATOM(European Atomic Energy Community:欧州原子力共同体)
(5)衛星監視画像の利用
 未申告活動の探知のために衛星監視画像を利用する研究が進められている。可視光の他に赤外光を併用する方法、画像データの処理方法等の技術が開発されている。
(前回更新:2001年3月)
<関連タイトル>
核兵器の不拡散等をめぐる国際情勢(〜1998年) (13-05-01-03)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
軽水炉を対象とする保障措置 (13-05-02-08)
研究炉と臨界実験装置を対象とする保障措置 (13-05-02-11)
転換施設および燃料加工施設を対象とする保障措置 (13-05-02-12)
ウラン濃縮施設を対象とする保障措置 (13-05-02-13)
再処理施設を対象とする保障措置 (13-05-02-14)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)

<参考文献>
(1)IAEA/SG/INF/1、IAEA保障措置用語集
(2)IAEA/SG/INF/3、IAEA保障措置−核物質の国内計量管理制度の指針−
(3)IAEA/SG/INF/5、IAEA保障措置−保障措置技術および測定装置−
(4)IAEA/SG/INF/6、IAEA保障措置−核燃料サイクル施設における実施−
(5)IAEA保障措置技術開発支援計画(JASPAS)
(6)核物質管理学会ジャーナル、年次大会プロシーディングス、日本支部年次大会論文集、ESARDAブリティン、シンポジウム・プロシーディングス、IAEAシンポジウム・プロシーディングス
(7)(財)核物質管理センター開発部(編):核物質管理ハンドブック 1995年版、保障措置・核物質防護
(8)(財)核物質管理センター:保障措置セミナー資料集
(9)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース
(10)原子炉等規制法
(11)国際規制物資の使用に関する規則
(12)核兵器の不拡散に関する条約第3条1および4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定(略して、「日、IAEA保障措置協定」)並びに当該協定への追加議定書
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