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<概要>
 原子力は、莫大なエネルギーを発電等に利用する。また、放射線は種々の分野で広く利用されている。その利用目的と方法は各国の技術・社会基盤と方針に依り異なる。日本の原子力の開発・利用は平和利用が大方針であり、国際協力には核兵器不拡散(核不拡散)が根底にある。そこで、原子力の平和利用に関する国際協力を、資源開発・確保、技術支援、先進的な研究開発、安全研究、保障措置・核不拡散、核セキュリティ(保安)及び規制情報交換に関する国際協力に分けた。さらにそれを多国間協力及び二国間協力に分けて概説する。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.国際協力の目的
 原子力には、莫大なエネルギー利用とともに種々の分野での放射線利用がある。その利用目的と方法は各国の技術社会基盤と方針に依り異なる。
 日本の原子力の開発・利用は平和利用が大方針である(原子力基本法)。そのため、資源を確保し、安全と利用技術の向上を図り、核兵器の不拡散(核不拡散)及び核セキュリティー(保安)を確保する国際協力がある。協力形態は、国際機関を中心にした協力、多国間の協力及び二国間の協力等に分けられ協力項目は異なる。表1に、協力形態と協力項目別に相手国や国際機関を示す。
 協力相手と協力の場から見ると、アジアの開発途上国等との協力は、相手国の技術基盤の整備、社会経済基盤の向上等につながる。アジア原子力協力フォーラム(FNCA)、国際原子力機関の地域協力協定(IAEA-RCA)、そのほか二国間協力等がある。先進国との協力は、研究開発の促進が目的であり、保障措置の基に情報交換、役務、人員の交流などがある。多くの協力は原子力協定を傘にする。また、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)等での協力は、世界の原子力平和利用、保障措置、技術と経済の向上、環境保全等に重点が置かれている。
2.国際協力の主要な課題
 表1の協力項目別に概観する。
2.1 資源開発・確保と原子力協定
 世界的なエネルギー資源の消費増大、環境保全と原子力発電の増大によりウラン資源の確保は、特に資源小国である日本にとって大きな課題である。表2-1表2-2表2-3に示す、米、英、仏、EU、露、中国等との原子力協定はウラン資源の確保が重点のひとつである。
 2010年には燃料資源の確保に向けてカザフスタン、ウズベキスタン及びモンゴルとの協力が進められ、カザフスタンとは署名に至っている。ウズベキスタンとは、2007年に石油天然ガス・金属鉱物資源機構やウズベキスタン地質鉱物資源国家委員会とウラン等の鉱物資源分野における協力基本合意書が調印された。モンゴルとは、2009年に、日本の資源エネルギー庁とモンゴル原子力エネルギー庁との間で、ウラン資源開発、情報交換等に関する協力文書に署名されている。
2.2 技術支援と技術協力
 アジア等の開発途上国との協力は、放射線利用、人材育成、原子力発電の導入基盤の育成等が中心である。日本の原子力利用は、生活に役立つ平和利用であり、そのため保障措置、核兵器の不拡散、さらに安全と核セキュリティの協力は重要な課題である。
 表2に示す原子力協定を結んだ国々とは、ウラン鉱の探査、燃料技術、再処理技術、原子炉技術、放射性廃棄物の処理・処分技術、保障措置等の技術協力がある。
 表3にアジア地域における多国間協力を示す。多国間にまたがるアジア原子力協力フォーラム(FNCA)及びIAEA地域協力協定(RCA)がある。IAEA/RCAでは、日本は放射線の工業利用、防護、医療利用等で中心的な役割を果たしている。
 アジア地域の原子力発電導入の機運の高まりから、2007年以降はASEAN+3、ASEAN+6等の枠組みで協力が増えている。アジア原子力安全ネットワーク(IAEA/ANSN)は、IAEAの活動の一つで東南アジア、太平洋地域及び極東の諸国における原子力安全の確保が目的でありFNCAとも協力している。原子力発電を導入しようとしている国々を対象に、経済産業省資源エネルギー庁、原子力安全・保安院などは様々な活動を展開している。(注:原子力安全・保安院は2012年9月18日に廃止され、原子力規制委員会の事務局として2012年9月19日に発足した原子力規制庁がその役割を継承している。)
2.3 研究開発
 原子力技術や放射線利用技術の研究・開発には、大きな資金、時間、人材等が必要である。また、原子力利用の研究・開発の課題は共通することが多く、欧米等の先進国と協力しその成果を挙げるとともに相互の理解を深めることも必要である。表2に示す原子力協定を結んだ国々との協力は大きな役割を果たしている。
 原子力利用の発展のため、表4に示す新しい核燃料サイクル技術の開発や、IAEA、OECD/NEAが中心の多国間協力がある。また、日米間には新しい技術のエネルギーシステムの研究・開発協力がある。
2.4 安全研究
 原子力利用は莫大なエネルギーを得ることが出来る。放射線利用は医療、工業、農業、科学等に不可欠な技術である。一方、その安全管理を誤ると、施設、地域、国境を越えて社会と人々に多くの弊害をもたらすことがある。それ故に、原子力と放射線を利用する国々は、積極的に安全に関する研究開発の成果を公開・共有し、国際的な原子力利用の安全性向上を図っている。
 表1の「規制情報交換」の欄は、規制情報を公開検討している原子力先進国を示す。
 表3の多国間協力は、アジア諸国等に原子力の安全技術や利用技術の普及を図る活動である。
 表5に、原子力・放射線の安全利用技術に関する多国間協力を示す。中心機関は国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、国際連合等である。日本は、条約を締結し夫々の活動に積極的に参加している。表6は、安全に関する二国間協力の近況で、原子力先進国と多くの情報交換、研究協力がある。
 表7に、原子力の安全利用に関する国際研修を示し、主にアジア諸国が対象である。
2.5 保障措置・核不拡散
 表8に核不拡散に関する国際協力を示す。原子力の平和利用は日本の大方針であり、核軍縮の外交を進め、核兵器不拡散条約(NPT)に参加している。同条約の2009年の締約国は190ヵ国である。また、1996年には核軍縮を進める包括的核実験禁止条約CTBT)を批准しているが、インド、パキスタン、北朝鮮、中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル、米国は批准していない。さらにインド、パキスタン、北朝鮮は未署名なのが現状である。しかし、ウィーンの国際データセンターを中心に世界中に核実験の監視観測所網が整備されつつある。
 なお、日本は核物質の核兵器への転用の無いことを示すため、IAEAと保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質を保障措置の下においている(包括的保障措置)。また、高度な分析技術の開発・実用を通じてIAEAの保障措置の技術開発を支援している。
2.6 核セキュリティ(保安)
 表9に示すように、日本は核テロ対策に積極的に参加している。
 核テロの可能性は早くから検討され、国連は1979年に「核物質防護条約」を採択し、日本は1988年に批准・参加している。この条約では、国際輸送中の核物質防護に必要な措置を当事者に義務づけている。
 1991年のソ連崩壊の際には、ソ連にあった核兵器や核物質が不法に持ち出される懸念があった。さらに、2001年の米国の同時多発テロから核テロの危機感が高まり、2005年には国連で「核テロリズム防止条約」が採択され、2006年には米・露により「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」が提案された。
 IAEAは、2002〜13年の第一次〜第三次活動計画「核物質、原子力施設防護」を策定し、「放射線源の輸出入ガイダンス」、「核セキュリティシリーズ文書の整備」、「放射性物質の輸送セキュリティの実施指針の策定」等を進め、「核物質テロ行為防止特別基金」を設立した。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 日本の原子力利用・開発の主な国際協力
表1  日本の原子力利用・開発の主な国際協力
表2-1 原子力協定、発効(1/2)
表2-1  原子力協定、発効(1/2)
表2-2 原子力協定、発効(2/2)
表2-2  原子力協定、発効(2/2)
表2-3 原子力協定、署名済
表2-3  原子力協定、署名済
表3 アジア地域の放射線と原子力の利用に関する多国間協力
表3  アジア地域の放射線と原子力の利用に関する多国間協力
表4 原子力利用推進に関する協力
表4  原子力利用推進に関する協力
表5 原子力の安全に関する多国間協力
表5  原子力の安全に関する多国間協力
表6 原子力の安全に関する二国間協力
表6  原子力の安全に関する二国間協力
表7 原子力の安全に関する研修
表7  原子力の安全に関する研修
表8 核不拡散に関する協力
表8  核不拡散に関する協力
表9 原子力の核テロリズム等に対抗する多国間協力
表9  原子力の核テロリズム等に対抗する多国間協力

<関連タイトル>
日米原子力協定 (13-04-02-01)
日仏原子力協定 (13-04-02-03)
日加原子力協定 (13-04-02-04)
日豪原子力協定 (13-04-02-05)
日露原子力協定 (13-04-02-07)
原子力規制情報交換等の日米、日仏間の取決め (13-04-02-09)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
経済協力開発機構(OECD)原子力機関(NEA) (13-01-01-10)
IAEAの保障措置 (13-01-01-05)

<参考文献>
(1)原子力委員会、平成21年版原子力白書、第5章 国際的取組の推進、p.152-183
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2009/5.pdf
(2)原子力安全委員会、平成21年版原子力安全白書、第7章 原子力安全に関する国際的な取組、p.134-152
(3)外務省、日本の原子力外交概要(平成22年1月)、1.総論、

(4)外務省、日本の原子力外交概要(平成22年1月)、2.我が国の原子力外交—原子力の平和利用の推進 
(5) 日本原子力産業協会、我が国の2国間原子力協力協定の現状(2010年11月)、
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/bilateral-nuclear-cooperation.pdf
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