<本文>
1.経緯
アイゼンハワー米国大統領(当時)が1953年の国連総会での演説「原子力平和利用(Atoms for Peace)」を契機に、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)の設立気運が高まった。1954年に国連でIAEA憲章草案が練られ、1956年にIAEA憲章の採択会議で採択された。1957年、IAEAが発足し、第一回総会には59ヵ国が出席した。2011年の加盟国は151ヵ国である。なお、北朝鮮は1994年7月に脱退し復帰していない。
IAEAは国連の専門機関ではないが、国連の通常総会や安全保障理事会へ年次報告等を提出するなど、国連とは密接な関係を有している。
2.目的と権限
(1)IAEAの目的
目的は、加盟国の原子力の平和利用の促進と、原子力の軍事転用の防止である。
(2)IAEAの権限
(イ)平和利用のため、原子力の研究・開発及び実用化を奨励し、必要な活動を行う。
(ロ)平和利用のため、開発途上地域の必要性に合わせ、物資、役務、施設等を提供する。
(ハ)平和利用のため、それに関する科学・技術上の情報交換を進める。
(ニ)平和利用のため、科学者と専門家の相互訪問及び訓練を進める。
(ホ)平和利用のため、国連機関等と協力し、人々の安全上の基準を設定する。
(ヘ)軍事転用の防止のため、保障措置を設定・実施する。
3.組織
図1にIAEAの組織を示す。本部はウィーンにある。そのほか、ニューヨークとジュネーブに駐在員事務所があり、東京とトロントに保障措置事務所がある。
(1)総会(General Conference)
総会は、全加盟国の代表で構成され、年1回9月に本部で開催される。総会では、選定理事国の選出(半数改選)、加盟の承認、加盟国の特権免除の停止、予算の承認、国連に対する報告、財政、事務局長の任命・承認等の議案が検討・決定される。議案の決定には、出席する加盟国の1/2の賛成を要するが、予算等の重要事項には2/3以上の賛成を要する。
(2)理事会(Board of Governors)
理事会は、IAEAの任務を遂行する権限を有し、IAEAの実質的な意思決定機関である。理事会の決定は、出席する理事国の1/2の賛成を要するが、予算等の重要事項には2/3以上の賛成を要する。理事会は、本部において3月、6月、9月の総会前後の2回及び11月の年5回開催される。議長の任期は一年。
表1は、2011-12年の理事国を示す。
理事会は、6月の理事会において原子力技術の先進加盟国として指定される指定理事国(日本を含むG8等の原子力先進国)及び総会で選出する選定理事国の計35理事国で構成される。
(3)事務局(Secretariat)
IAEAの職員の長は事務局長で任期4年、2009年7月から天野 之弥氏が務める。事務局には事務次長6名がいる。事務次長は、6局(管理運営、原子力エネルギー、保障措置、技術協力、原子力科学・応用及び原子力安全・セキュリティ)を分担する。職員数は約2,300名。
2005年、IAEAとエルバラダイ事務局長(当時)は、原子力平和利用と保障措置に関する貢献が認められ、ノーベル平和賞を受賞した。
4.財政
IAEAの会計年度は、1月1日〜12月31日。予算は、通常予算、技術協力基金及び特別拠出金に大別される。
表2に2010年度予算を示す。
(1)通常予算(Regular Budget)
表2に示すように、2010年の通常予算は約3.2億ユーロ。主に人件費、会議費、情報配布費、保障措置実施費等である。財源は加盟国の分担金。この分担金は、国連加盟国の分担率に準じた基本分担率に基づき、保障措置予算に対する負担額を調整し毎年の総会決議で決まる。
(2)技術協力基金(Technical Assistance and Cooperation Fund)
IAEAの技術協力活動のための経費で、通常予算の基本分担率に基づき、加盟国の拠出目標額が毎年の総会決議により定められる。2010年の予算額は、8500万ドル。
(3)特別拠出金(Voluntary Contribution in Support of Extrabudgetary Activities)
原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(
RCA)、技術協力、原子力安全、原子力広報等の個別プロジェクトのために加盟国等が任意に拠出する。
5.事業
事業は、原子力の平和利用に関する活動と、その軍事転用を防止する保障措置の活動に大別される。
(1)原子力の平和的利用に関する活動
原子力発電、非原子力発電、開発途上国に対する技術協力活動及びその利用の安全・保安に係る分野に大別される。
(イ)原子力発電分野:この分野では、技術情報の交換、コスト及び環境への影響等に関して、原子力発電と他の発電技術の比較検討から加盟国のエネルギー政策の企画、決定、評価のための技術的な支援、原子力発電の新規導入に対する支援、さらに、
核拡散抵抗性の高い次世代原子力炉に関する研究・開発等を進める。
(ロ)非原子力発電分野:保健、水資源、鉱工業、食品、農業、環境等の分野における
放射線利用の促進、海洋環境調査等の活動がある。
(ハ)原子力安全分野:安全対策では、原子炉施設に関する安全基準をはじめ各種の安全基準・指針の作成及び普及に貢献している。また、
国際原子力安全条約、
核物質防護条約、早期通報条約、相互援助条約、及び放射性廃棄物等安全条約はIAEAが事務局である(
表3)。
(ニ)核保安(セキュリティ)分野:IAEAは、「放射線源の安全に関する行動規範」に加え、2001年の米国同時多発テロ事件以降には、2003年の理事会で承認された「放射線源の安全と核保安に関する行動規範」により、放射線源の輸出入に関する通報・承諾の制度化を進めている。
2002年IAEA理事会において、核テロ対策を支援する
核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野から構成される第一次〜第三次活動計画(〜2009)が承認されている。国連の「核によるテロリズムの防止に関する条約」の発効をうけ、2005年にIAEAは既存の「核物質防護条約」の強化に関する改正を採択した。
(ホ)技術協力:IAEAの技術協力の主要な活動は技術協力基金に依る。活動プログラムは、技術協力を必要とする加盟国とIAEA事務局とで調整し理事会の承認を経る。プログラムの多くは非原子力発電分野である。また、途上国の要請に応え、モデルプロジェクトを中心に、研修生の受入、トレーニングコースの開催、専門家の派遣等の事業を拡大している。
(2)保障措置
(イ)包括的保障措置協定:IAEA憲章では、IAEAが提供した核物質等が軍事目的に利用されないため保障措置を設定している。また、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)は、核兵器を持たない締約国がすべての核物質を対象にIAEAと包括的保障措置協定を締結するよう義務付けており、IAEAの保障措置システムは更に強化された。NPT締約国は190ヵ国。包括的保障措置協定締結国は日本を含め2010年で164ヵ国である。
(ロ)追加議定書:イラクと北朝鮮の包括的保障措置協定違反を機に、1993年IAEAは保障措置制度を強化し効率化するため「93+2計画」に着手し、IAEAに新たな権限を与える追加議定書が理事会で採択され、2010年には128ヵ国が署名。日本を含め96ヵ国で発効した。
(ハ)統合保障措置:IAEAは、包括的保障措置協定と追加議定書の締約国で核物質の軍事転用や未申告の原子力活動がないと「結論」された国に対して、保障措置を合理化した「統合保障措置」を適用する。日本は2004年に適用された。
6.2012-2017年計画(Medium Term Strategy)
2012-2017年の中期計画は、以下の6項目に重点が置かれている、(1)新規原子力利用・開発への援助、(2)核科学・技術と利用の強化、(3)核の安全と保安の向上、(4)技術援助の効率化、(5)IAEAの保障措置と検証の強化、及び(6)効率的、革新的な管理と戦略的計画の立案。
(前回更新:2006年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
IAEAによる開発途上国等への技術支援・協力 (13-01-01-01)
IAEAによる国際基本安全基準等の策定(BSSとINES) (13-01-01-02)
IAEAのアジア・太平洋地域協力協定(RCA) (13-03-02-02)
IAEAの保障措置 (13-01-01-05)
放射性廃棄物処分における国際協力 (05-01-03-24)
原子力安全条約(原子力の安全に関する条約:Convention on Nuclear Safety) (13-03-01-08)
核物質防護条約 (13-04-01-02)
IAEAにおける原子力防災対策 (10-06-02-04)
<参考文献>
(1)外務省、国際原子力機関(IAEA)の概要、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/iaea_g.html
(2)国際原子力機関(IAEA)ホームページ、About the IAEA、
http://www.iaea.org/About/
(3)IAEA, Medium Term Strategy,