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<概要>
 国際原子力機関(IAEA)の保障措置とは、NPT(兵器不拡散条約)、IAEA憲章等の核兵器不拡散に関する枠組の中で、非核兵器国において原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置への転用防止のため、IAEAが当該国の原子力活動に対し適用する検認制度をいう。IAEAの保障措置は、NPTの規定によるもの、任意にIAEAと協定を結ぶものなどにより実施されている。保障措置協定の締結国は日本を含む147ヶ国である。イラクや北朝鮮の核疑惑を契機に、保障措置強化のための「IAEA追加議定書」が1997年に決まった。追加議定書の締結国は2005年6月現在、日本を含む67ヵ国+ユーラトムである。IAEAでは最近の核不拡散問題を憂えて、ウラン濃縮及び再処理の国際管理構想を提案している。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の目的は、世界の平和と繁栄のために原子力の貢献を促進し、原子力が軍事転用されないために保障措置を実施することである。このため、IAEAの活動は原子力の平和利用の奨励・援助に関する分野と平和利用を担保するための保障措置の分野に大別される。
 原子力の平和利用を担保するための保障措置については、IAEA憲章において、IAEAを通じて核物質または設備が供給されている場合には、二国間の原子力協定の当事国が要請したときおよびいずれかの国が自発的に要請したときの保障措置の適用を定めており、これに基づいてIAEAと関係国との間に保障措置協定が締結されている。また1970年3月に発効した「核兵器不拡散条約」(NPT:Treaty on the Non−Proliferation of Nuclear Weapons、「核不拡散条約」とも呼ばれる)では、非核兵器国としての加入国に対し、全ての核物質や軍事転用の可能性のある資材をカバーする保障措置協定のIAとの締結を義務付けている。その結果、日本を含む多くの国がこのNPT保障措置協定を締結している。
1. IAEA憲章が定める保障措置
  IAEAは原子力の軍事転用を防止するための保障措置制度を確立しており、次のことを 行う権利を与えられている(憲章第12条)。
1) 設備および施設の設計を検討し承認すること。
2) 保健上、安全上の措置の遵守を要求すること。
3) 核原料物質および特殊核分裂性物質に関する操作記録の保持、提出を要求すること。4) 経過報告を要求し、受領すること。
5) 照射済燃料の再処理方法を承認し、回収されまた副産物として生産された特殊核 分裂性物質の余分のものを、IAEAに寄託するように要求すること。
6) 違反の有無決定のために査察員を派遣し、違反が存在し、要請された是正措置を執ら なかった場合には、一定の制裁を加えること。
2. 保障措置協定の実施状況
 IAEAの保障措置協定は、以下に示すように、NPTに基づくもの、任意にIAEAと協定を結ぶものなどで実施されている。
2.1 包括的保障措置協定(INFCIRC/153−type agreement)
 NPT締約国である非核兵器国またはトラテロルコ条約締約国がIAEAとの間で締結するもので、当該国の平和的な原子力活動に係るすべての核物質を対象とした保障措置協定である。「NPTに基づく保障措置協定」と「トラテロルコ条約」に基づく保障措置協定」があり、「フルスコープ保障措置協定」または「INFCIRC/153型保障措置協定」とも呼ばれている。2005年6月16日現在NPTに基づく保障措置協定の締結国は日本を含む147ヶ国で、日本は1977年12月に発効している。
2.2 個別の保障措置協定(INFCIRC/66/Rev.2−type agreement)
 二国間原子力協定等に基づき、核物質または原子力資機材を受領するNPT非締約国がIAEAとの間で締結するもので、当該二国間で移転された核物質または原子力資機材のみを対象とした保障措置協定である。「三者間保障措置協定(または保障措置移管協定)」あるいは「一方的受諾協定」と呼ばれるものがこれに該当し、「INFCIRC/66型保障措置協定」とも呼ばれている。
2.3 その他の保障措置協定
イ)自発的協定(voluntary offer agreement)
 核兵器国が自発的にIAEA保障措置の適用を受けるために、IAEAとの間で締結する協定。核兵器保有5ヵ国(米、英、露、中、仏)は全て締結済みである。
ロ)計画協定(project agreement)
 IAEAにより又はIAEAを通じて供給される核物質、原子力資機材等を受領する国が、当該物質に対して保障措置を適用するために、IAEAの間で締結する協定。
ハ)二者間協定(bilateral agreement)
 NPT非締約国に対し包括的な(フルスコープ)保障措置を適用するために、当該国とIAEAとの間で締結する協定。
3. イラクの協定義務違反・北朝鮮の締結不履行と保障措置の強化
 イラクのNPTおよび保障措置協定の義務違反あるいは核兵器開発疑惑(1991年)、北朝鮮の保障措置協定の締結不履行問題(1992年)等に端を発し、IAEAの保障措置制度の整備・強化に対する関心が高まり、1991年9月の第35回通常総会において、より効果的なものにするための強化策を講じる旨の決議が採択された。その後、特別査察の活用、設計情報の早期提出、 核物質等の輸出入に関する普遍的通報、核兵器国における保障措置の適用拡大、および有意量の見直し、に関し審議検討され、これら保障措置強化策を実現するために新たな法的枠組が「IAEA追加議定書」が作成された。
4. IAEA追加議定書(Additional Protocol)
4.1 概要
 IAEA追加議定書とは、IAEAと保障措置協定締結国との間で追加的に締結される保障措置強化のための議定書である。イラクや北朝鮮の核疑惑を契機に、IAEA保障措置強化の検討(「93+2」計画とも呼ばれる)が行われ、その結果、強化策として現行の法的権限(包括的保障措置協定に規定された権利義務)を超える権限を含む「追加議定書」が導入された。モデルとなる議定書(INFCIRC/540(corrected))は1997(平成9年)年にIAEA特別理事会で採択された。
4.2 内容
「追加議定書」を締結した国に対しIAEAには、これまでの保障措置協定よりも広範な保障措置活動を行う権限を与えられる。具体的には、未申告の施設や活動による核物質の兵器転用を検知するため、直前の通告による追加的な査察(いわゆる「抜き打ち」査察)、原子力活動確認のための環境サンプリングの実施といった、包括的保障措置協定では認められていなかった活動を行うことができる。
 しかしながらIAEAの予算を増加させないようにとの理事会からの要請を受け、IAEAの権利と義務を満足するため利用可能な資源を活用して最大限の効果と効率を達成するため、包括的保障措置協定と追加議定書に基づく新しい保障措置との最適な組み合わせ「統合保障措置」が規定された。これにより保障措置活動の強化と合理化(査察の回数は減る)が可能となった。すなわち未申告の核物質および原子力活動が存在しないこと、および保有する全ての核物質が保障措置下にあって平和的に利用されていることをIAEAが確認することであるが、日本の原子力発電所、研究炉等に対し2004年に世界に先駆けて統合保障措置が実施された。
4.3 締約国及び署名国
 2005年6月16日現在、追加議定書の締結国は日本を含む67ヵ国(以下のとおり)+ユーラトムである。
 日本、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、ブルキナファソ、カナダ、チリ、中国、クロアチア、キューバ、キプロス、コンゴ民主共和国、チェコ、デンマーク、エクアドル、エルサルバドル、フィンランド、フランス、グルジア、ドイツ、ガーナ、ギリシャ、バチカン、ハンガリー、アイスランド、インドネシア、アイルランド、イタリア、ジャマイカ、ジョルダン、クウェート、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マダガスカル、マリ、マーシャル諸島、モナコ、モンゴル、オランダ、ニュージーランド、ニカラグア、ノルウェー、パラオ、パナマ、パラグアイ、ペルー、ポーランド、ポルトガル、韓国、ルーマニア、セイシェル、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、タジキスタン、タンザニア、トルコ、英国、ウルグアイ、ウズベキスタン。
 なお、2005年6月16日現在、署名国は上記67ヶ国を含む98ヶ国+ユーラトムである。日本は1998年12月4日に署名、1999年12月16日に発効(上記67ヶ国の8番目)。イラン及びリビアは追加議定書を署名しているが未締結で、暫定実施を行っている。
5. 最近の核不拡散問題
 2002年10月北朝鮮が米国に対しウラン濃縮計画認めことから北朝鮮の核問題が再燃し、同年12月のIAEA査察官退去、2003年1月北朝鮮のNPT脱退宣言を経て2003年12月以来KEDOの活動が凍結された。2003年2月IAEAが保障措協定違反を国連安保理への報告を決議したが、現在六者会合で事態が推移している。2002年8月にイランのウラン濃縮・再処理施設の建設が発覚しIAEAにより保障措置協定違反が認定されたが、イランは原子力平和利用だから当然の権利と主張し続けている。2003年12月リビアは自発的に核兵器計画の廃棄を決定し、IAEAの査察を受けることになった。イランとリビアに対して核関連技術と資機材を調達する核の闇市場が判明しそれにパキスタンのカーン博士(パキスタンの原爆の父)が関連を認めた。米国ブッシュ大統領とインドのシン首相が2005年7月の共同声明の中で米国・インド第二次原子力協力協定の早期締結を目指しているが、核兵器を保有しNPTを批准していないインドにNPTの規程する非核兵器国と同等の権利を付与することは、NPTの形骸化となり、パキスタン、イスラエル、イラン、北朝鮮にも誤った認識を与える可能性もあり、問題視されている。
6. エルバラダイIAEA事務局長の国際核管理構想
 IAEAでは最近の核不拡散問題を憂えて核兵器に用い得る核物質を製造する技術であるウラン濃縮及び再処理の活動等を多国間管理の下で行うとともに、使用済燃料放射性廃棄物の管理・処分も国際的に行うことを骨子とする国際核管理構想を検討しており、国際管理までは濃縮・再処理施設の建設を5年間凍結することをエルバラダイIAEA事務局長が提案している。
<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
保障措置の強化・効率化方策 (13-05-02-18)
包括的保障措置協定の追加議定書 (13-05-02-20)
統合保障措置 (13-05-02-21)
北朝鮮の原子力研究センター (14-02-02-01)
イランの原子力開発と原子力施設 (14-07-01-01)
イラクの原子力開発と原子力施設 (14-07-02-01)

<参考文献>
(1) 外務省:国際原子力機関(IAEA)の概要((2005年6))
(2) 外務省:IAEA保障措置協定(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/kyoutei.html(2005年6月))
(3) 外務省:IAEA保追加議定書(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/gitei.html(2005年6月))
(4) 外務省:日本の原子力外交概要(原子力の平和利用の推進と核不拡散体制の強化)((2005年9月))
(5) 小山謹二:核兵器廃絶の道は閉ざされるのかー米印原子力協力協定の及ぼす影響、財団法人日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター((2005年12月28日))
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