<大項目> 国際協力・原子力関連機関
<中項目> わが国の原子力関連機関
<小項目> 政府関連機関
<タイトル>
放射線影響協会・放射線疫学調査センター (13-02-01-25)

<概要>
 1960年(昭和35年)に(財)放射線影響協会が設立された。1977年(昭和52年)に、原子炉等規制法関係の被ばく線量登録管理制度が発足し、また1984年(昭和59年)には、放射線障害防止法関係の被ばく線量登録管理制度が発足し、放射線作業の従事者の被ばく記録が放影協の「放射線従事者中央登録センター」で管理されることになった。1990年(平成2年)、旧科学技術庁は、「放射線従事者中央登録センター」の記録を利用する「原子力発電施設等放射線業務従事者に係わる疫学的調査」を放影協に委託し、放影協は、「放射線疫学調査センター」を設置して対応した。その後、2009年度(平成21年度)まで、第I〜第IV期の放射線疫学調査が進められ、2010年度(平成22年度)には第V期放射線疫学調査が5年計画で開始された。第I期〜IV期までの調査からは、低線量域の放射線が悪性新生物による死亡率に影響を及ぼしている明確な証拠は認められなかった。その間、旧ソ連の「セミパラチンスク地域周辺住民等健康影響調査(2001〜2008年)」も織り込まれた。放影協は、2004年に「国際情報調査室」を設け、放射線疫学等の動向を調査し文献等の収集・解析を続けている。疫学調査報告書や文献調査の成果は、出版物やインターネットで公表されている。
<更新年月>
2011年12月   

<本文>
1.沿革(表1参照)
 日本の原爆被害者の治療と救済の中で、電離放射線が人の健康に与える影響は継続して調査・検討され、その成果は既に広く世界に知られている。しかし低線量被ばくの影響は、当時の被災地の状況・環境、被ばく状況、被ばく線量等から明らかに出来なかった。1965年(昭和40年)に日本原子力発電株式会社の東海発電所(茨城県東海村)の1号炉が臨界になり、日本の原子力発電時代が始まった。原子力発電所等で働く作業者の低線量被ばくの影響が検討課題になり、その疫学的調査が必要になってきた。
 こうした社会変化の中で、1960年(昭和35年)に(財)放射線影響協会(以下「放影協」と略称する。)が設立された。当初は、原子力や放射線の利用を促進するため、放射線の生物や環境への影響に関する知識の普及、その調査研究等が主な事業であった。1977年(昭和52年)には、原子炉等規制法関係の被ばく線量登録管理制度が発足し、放影協に「放射線従事者中央登録センター」が設置された。これまで発電会社等に保管されていた放射線作業者の被ばく記録等は、ここに管理されるようになった。1984年(昭和59年)には、放射線障害防止法関係の被ばく線量登録管理制度が発足し、その被ばく記録等もここで一元管理されることになった。
 1990年(平成2年)、旧科学技術庁は、放影協に設置された「放射線従事者中央登録センター」の記録が低線量被ばく影響の疫学的調査に有効であるとして、電源開発促進対策特別会計委託事業、「原子力発電施設等放射線業務従事者に係わる疫学的調査」を委託した。放影協は「放射線疫学調査センター」を設置し、第I期放射線疫学調査が開始された。その後、2009年度まで、第I〜第IV期の放射線疫学調査が進められ、2010年度(平成22年度)には第V期放射線疫学調査が開始された。その間、電源開発促進対策特別会計委託事業、旧ソ連の「セミパラチンスク地域周辺住民等健康影響調査(2001〜2008年)」も織り込まれた。また、放影協は、2004年(平成16年)に「国際情報調査室」を設け、放射線疫学等の動向を調査し文献等の収集・解析を開始した。
2.放射線疫学調査の方法と体制
2.1 調査方法
 図1に示すように本調査は、「放射線従事者中央登録センター」の記録と被ばく者の生死及び死因の調査から始まる。対象者の被ばく累積線量は、登録センターの線量記録から得る。死亡者の死因は、厚生労働省の人口動態調査死亡票と照合して知る。そして、死因と被ばく線量の関係を統計学的に解析する。統計学的解析では、死因別に死亡率を一般の日本人と比較し累積線量と死因・死亡率の関連を調べる。図2に第IV期の調査対象者20.4万人の累積線量分布を示す。調査対象者の71%は10mSv以下であり、100mSvを超えるのは約3%である。
2.2 検討体制
 統計学的解析の結果について、1)調査の偏り、2)交絡因子の影響、3)調査結果の整合性、4)医学的・生物学的な妥当性等の観点から評価する。調査結果の解析・評価は、外部の疫学、放射線疫学、統計学等の専門家、学識経験者等が委員の「解析検討委員会」と「評価委員会」による(図3)。
3.放射線疫学調査の成果
 本調査の目的は、低線量放射線の被ばく者にどんな病気がどんな頻度で発生するかの調査であり、特に悪性新生物(ガン)発生への影響を明らかにすることである。
3.1 第I期疫学調査の成果
 調査の方法、解析方法及び成果の概要を表2に示す。本調査の結果から以下のことが分かった。1)低線量の放射線被ばくが健康、特にガンの発生に影響するとの証拠は認められなかった。2)白血病や消化器系器官、肝臓、肺等の悪性新生物の発生数と被ばく線量の間に有意な関連は認められなかった。3)すい臓ガンとの間に有意性があったが放射線被ばくと関連付けるには、交絡因子の影響を検討する必要がある。
3.2 第II期疫学調査の成果
 調査の成果の概要を表3に示す。調査結果は以下の様である。1)全悪性新生物による死亡率は、一般の日本人男性平均値と比べ増加は認められない。2)一部の消化器官の悪性新生物と累積線量との有意性には、交絡因子等の検討が必要であり、低線量被ばくが悪性新生物による死亡率に影響しているとは認められない。3)信頼性の向上には、長期観察、継続調査、交絡因子等の検討が必要である。
3.3 第III期疫学調査の成果
 調査の成果の概要を表4に示す。調査結果から以下のことが分かった。1)外部比較では、全悪性新生物や白血病の死亡率は日本人男性との間に有意性は認められなかったが、肝臓、肺の悪性新生物の死亡率が有意に高い。2)内部比較では、白血病を除き全悪性新生物による死亡率は累積線量とともに増加する傾向が認められた。また、食道、肝臓の悪性新生物が累積線量とともに増加する傾向が認められた。3)信頼性の向上には、長期観察、継続調査、交絡因子等の検討が必要である。
3.4 第IV期疫学調査の成果
 調査の概要を表5に示す。調査から、1)慢性リンパ性白血病を除く白血病の死亡率は、日本人男性死亡率との有意差はない。累積線量と死亡率との関連も認められない。2)白血病を除く全悪性新生物による死亡率は、外部比較では日本人男性の死亡率より有意に高く、また内部比較では累積線量との有意な関連が認められるが、非喫煙者の悪性新生物による死亡率に累積線量との関連が認められない。3)生活習慣等による影響(交絡因子)の検討が必要、等が判った。
 第I期〜IV期までの調査からは、低線量域の放射線が悪性新生物による死亡率に影響を及ぼしている明確な証拠は認められなかった。
3.5 第V期疫学調査の計画(2010〜2014年)
 この計画では以下の事柄に注意する。1)これまでの調査対象者の生死追跡調査に加え、ガンに関する情報の活用法を検討する。2)過去の生活習慣や生死追跡調査からガンの要因になる生活習慣による交絡因子の検討を深める。3)諸外国の情報も利用してデータベースを構築し本調査に利用する。
3.6 交絡因子の調査成果
 第II期及び第III期調査の中に交絡因子の調査が加えられた。
(1)第II期調査の第一次交絡因子の調査
 この調査では、生活習慣に関する情報を収集し、累積線量群別、年齢階層別の交絡因子の集団特性を検討した。対象にした生活習慣は、喫煙、飲酒、喫茶、特定の業務暦、医療被ばく等である。回答者は約23%であり、回答者の喫煙と累積線量、飲酒と累積線量の関連を検討した。
(2)第III期調査の第二次交絡因子の調査
 この調査では、信頼性を高めるため調査対象者の回答を増やす必要があり、40歳以上の男性を調査し約62%の回答を得た。回答の検討結果から、喫煙者は累積線量が高い傾向がある、飲酒と累積線量に関連は無い等が明らかになった。これらの結果から、放射線以外の要因の影響を調整できると期待される。
3.7 セミパラチンスク地域周辺住民等健康影響調査の成果(2001〜2008年)
 国連の1998年(平成10年)の総会でカザフスタン支援の決議があり、日本は医療を中心に支援を進めることとなった。旧科学技術庁は、カザフスタンのセミパラチンスク原爆実験場の汚染による住民の健康影響の可能性について1999〜2000年に予備調査し、2001〜2008年に本調査となった。調査ではカザフスタンの国立原子力センター(NNC)と協力し、住民の居住歴、生死等のデータベースの構築、調査対象者の抽出、被ばく線量の算出、被ばくと死因の解析等を経て2008年に終了した。カザフスタンのNNCは、さらに継続調査する方針である。
4.出版物等
 放射線疫学調査センターの調査研究の成果には以下のようなものがあり、出版物やインターネットで公開されている。
(1)放影協ニュース、(2)放射線疫学調査の報告書(第I〜IV期)、(3)セミパラチンスク地域周辺住民等健康影響調査の報告書、(4)文献情報レビュー、(5)シンポジウム報告書など
(前回更新:2005年10月)
<図/表>
表1 放射線疫学調査センターの沿革
表2 第I期調査の成果
表3 第II期調査の成果
表4 第III期調査の成果
表5 第IV期調査の成果
図1 疫学的調査の方法
図2 第IV期の対象被ばく者20.4万人の累積線量
図3 放射線影響協会の調査検討体制

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<関連タイトル>
放射線のリスク評価 (09-02-03-06)
米国ハンフォード原子力施設従事者の疫学調査 (09-03-01-02)
日本の放射線技師の疫学調査 (09-03-01-03)
放射線影響協会(REA) (13-02-01-24)
放射線影響協会・放射線従事者中央登録センター (13-02-01-26)
放射線影響研究所 (13-02-01-27)

<参考文献>
(1)放射線影響協会・放射線疫学調査センター、ホームページ、
http://www.rea.or.jp/ire/
(2)放射線疫学調査センター、疫学調査報告書(第I〜IV)
http://www.rea.or.jp/ire/houkoku
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