<本文>
1.設立の経緯および目的
原子力委員会は、昭和38年(1963年)6月に「国産動力炉開発の進め方について」を決定した。さらに、在来炉の導入と新型炉の開発、核燃料サイクルの確立など全体の構想についての総合的な検討を開始し、昭和41年(1966年)5月に「動力炉開発の基本方針」を策定した。
一方、政府が提出した「動力炉・核燃料事業団法(動燃事業団法)」は、第55回特別国会(昭和42年2月)で全会一致をもって可決され、同年7月に公布された。
これにより、エネルギー政策上重要な将来の国民生活や産業活動を支えるエネルギーの確保するために、新型動力炉の自主開発とわが国の実情にあった核燃料サイクルを確立する研究開発が、国のプロジェクトとして、政府はもとより学会、産業界等国の総力を結集して強力に推進することとなり、昭和42年(1967年)10月に、その中核機関として特殊法人動力炉・核燃料開発事業団(「動燃」:Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation、PNC)が設立された。
なお、設立にあたって、原子燃料公社の業務も新型動力炉開発の目的に密接に関連することから、原子燃料公社を解散し、その組織と業務を動燃が継承することとなった。
動燃(現サイクル機構)は、
原子力基本法および動燃事業団法に基づき、平和の目的に限り、新型動力炉(高速増殖炉および新型転換炉)に関する自主的な開発、核燃料物質の生産、再処理および保有並びに核原料物質の探鉱、採鉱および選鉱を計画的かつ効率的に行い、原子力の開発および利用の促進に寄与することを目的としている。
動燃(現サイクル機構)の役割は、平成6年(1994年)6月に改定された「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」の中で、下記の研究開発を推進することが示されている。
(1)国のプロジェクトとして高速増殖炉等の開発、使用済燃料再処理技術の開発、高レベル放射性廃棄物の処分の研究開発等
(2)実用化を見通した高速増殖炉固有の技術の研究開発、将来社会のニーズを考慮した先進的核燃料リサイクル技術の研究開発等
(3)事業化が具体化しつつあるものについては、民間との連携協力の下で技術移転、技術協力
2.組織と業務
動燃(現サイクル機構)は、
図1に示すように、本社および7つの事業所で構成している。
本社は、総務、人事、財務、業務、安全管理、核物質管理等の管理業務の総括、動力炉開発、核燃料サイクル技術開発、環境技術開発等の研究開発の企画と総括、核燃料施設計画業務の総括および国際協力、技術協力などの業務を所掌している。
東海事業所では、使用済燃料再処理工場の運転、再処理関連の技術開発、プルトニウム燃料の開発と製造、新型濃縮技術開発、高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術開発、高速増殖炉燃料リサイクル技術開発などの幅広い業務を進めている。
大洗工学センターでは、高速実験炉「常陽」の運転、大型試験施設を用いて高速増殖炉のプラント工学、安全工学、機器・材料、燃料・材料照射試験などの研究開発を実施している。また、
核種消滅処理技術、新材料、人工知能等の基礎・基盤技術開発を進めている。
人形峠事業所(現人形峠環境技術センター)では、遠心分離法による
ウラン濃縮原型プラントの運転、ウランの
製錬・転換の技術開発を進めている。
東濃地科学センターでは、高レベル放射性廃棄物の
地層処分技術の基盤となる地層科学の研究を実施している。また、ウラン探鉱・探査技術の研究開発および海外技術者の養成を行なっている。
新型転換炉ふげん発電所は、新型転換炉原型炉「ふげん」を運転を行っている。
高速増殖炉もんじゅ建設所は、高速増殖原型炉「もんじゅ」の建設を進めている。
敦賀事務所では、福井県の敦賀地区に設置されている新型転換炉ふげん発電所と高速増殖炉もんじゅ建設所に係わる総務、労務および環境安全業務の総括している。
3.主な研究開発状況の概要
3.1 核燃料の確保と軽水炉使用済燃料再処理に関する研究開発
(a)ウラン資源の安定確保のため、精選した地域での探鉱活動、探査技術・探鉱技術の開発および資源情報収集・解析を進めている。
(b)遠心法ウラン濃縮の原型プラントの順調な安定運転を行っている。また、新素材高性能遠心機の開発も進めている。
(c)東海再処理工場の安定運転による商業用軽水型発電所からの使用済ウラン燃料の再処理を実施している。また、軽水炉用の
ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料と高燃焼度使用済燃料の再処理の実証などの技術開発を進めている。なお、日本原燃(株)が建設を進めている六ヶ所村の再処理工場の建設、運転等に技術協力を行っている。
(d)高速増殖炉の使用済燃料再処理技術開発のため、工学規模のリサイクル機器試験施設の建設を進めている。
3.2 新型動力炉開発とプルトニウム利用に係わる研究開発
(a)高速増殖原型炉「もんじゅ」(電気出力280MWe)は、昭和60年10月の着工以来順調に建設を進め、平成5年1月より性能試験を開始し、同年10月より炉心燃料集合体の装荷を行い、平成6年(1994年)4月5日に初臨界を達成した。平成7年8月には、初発電を行い出力試験を開始したが、同年12月8日に2次主冷却系でナトリウムの漏えい事故が発生し、性能試験を中断している。
(b)高速実験炉「常陽」は、昭和58年(1983年)8月から照射用炉心(MK-2炉心、熱出力100MW)での定格運転を行なっている。また、高性能燃料の開発を目的に、高速中性子束化と照射場の拡大など照射性能の向上を図るための「常陽」高度化(MK-3、熱出力140MW)計画を進めている。
(c)高速増殖炉(FBR)の大型化と高性能化ならびに安全性、信頼性および経済性の向上などに係わる高温構造システム、高温構造設計手法、炉心やプラントの安全性、炉心・燃料設計法、高性能燃料など基盤的・革新的な研究開発を推進している。
(d)新型転換炉原型炉「ふげん」(電気出力165MWe)は、昭和54年(1979年)3月20日の本格運転開始以来、着実に運転経験を蓄積し、新型転換炉(
ATR)の性能、信頼性の実証、運転保守技術の確立およびそれらの高度化を図ってきている。しかし、電源開発(株)の新型転換炉実証炉計画が中止になったことから、今後は、安全・安定運転を継続し、プルトニウム利用計画の実現に寄与することとしている。「ふげん」は5年後に閉鎖れることになっている。
今後は、動燃が従来行ってきた海外ウラン採鉱、ウラン濃縮技術開発および新型転換炉の研究開発については、民間活動への移行ないし廃止が原子力委員会1998年2月6日の決定により、検討されている。
(e)プルトニウム燃料の加工
新型転換炉および高速増殖炉用の
MOX燃料の製造を通して、プルトニウムの取り扱い技術、プルトニウム燃料製造技術開発を進めている。
(f)先進的核燃料サイクル技術開発
経済性に向上、核不拡散の強化、環境保全性を念頭において、高速炉技術体系における先進的核燃料リサイクルの成立の可能性を追求している。
3.3 放射性廃棄物処理・処分に関する研究開発
(a)高レベル放射性廃棄物のガラス固化処理技術開発施設の開発運転を行っている。また、ガラス溶融炉解体技術、高減容処理技術などの開発を進めている。
(b)地層処分の研究開発については、性能評価研究を中心に、併せて処分技術開発および地質環境条件の調査研究や地層科学研究を進めている。
(c)
超ウラン元素(
TRU)核種を含む廃棄物の発生量の低減と減容安定化処理技術、廃棄物の地層処分の研究を進めている。
3.4 基礎・基盤技術開発
分子レーザー法ウラン濃縮技術、核種分離・消滅処理技術および新材料、人工知能、計算科学等の基礎・基盤技術の開発を進めている。
3.5 核不拡散技術等に係わる研究開発
(a)米国エネルギー省(DOE)と共同で、「常陽」を用いた遠隔監視技術の実証試験や透明性の概念研究を進め、核不拡散分野の技術の向上を図っている。
(b)DOEなどとの間で、遠隔制御非破壊測定技術、
封じ込め/監視システムの真正性評価技術およびMOX燃料の利用炉における燃料の流れの検証技術の開発を進めている。
(c)国際原子力機関(
IAEA)と分析技術の改善・向上、近実時間計量管理システムの開発などを進めている。
3.6 国際協力
動力炉、核燃料サイクル、廃棄物など幅広い分野について、各国の関係機関と国際協力を積極的に進めている。DOEとの保障措置技術開発協力協定、廃棄物管理協力協定、英国原子力公社、フランス原子力庁と先端技術協力協定、日欧高速炉協力協定などに基づく共同研究、情報交換、専門家会議などを行っている。
4.動燃の改革に関する主な動き
高速増殖原型炉「もんじゅ」で平成7年(1995年)12月8日に発生した2次主冷却系のナトリウム漏えい事故および平成9年(1997年)3月11日に発生した東海事業所アスファルト固化処理施設の火災事故・爆発事故を契機に、科学技術庁(現文部科学省)は、動燃改革検討委員会を設置し、動燃の体質および組織、体制などをの改革に関する調査、検討を進めている。
平成9年7月7日、科学技術庁(現文部科学省)は、経営の刷新、事業の整理、安全確保の機能強化および社会に開かれた体制作りの4項目を盛り込んだ改革案を作成した。改革検討委員会は、この改革案を審議し、同年7月30日に動燃(現サイクル機構)の事業を整理・縮小し、新しい特殊法人に移行させる
図2に示される内容を盛り込んだ報告書をまとめた。これを受けて、科学技術庁(現文部科学省)は、新法人設立作業部会を設置し、作業を進めるとともに、実施手順などを地元と協議の上、動燃事業団法の改正作業に着手することとしている。
動燃も平成9年4月11日に経営改革本部設置し、体質や危機管理を含めた組織の分析、原子力開発における役割の再検討を行い自らの改革方針の明確化を図っていた。結局、平成10年10月1日に核燃料サイクル開発機構(「サイクル機構」・Japan Nuclear Cycle Development Agency,JNC)として発足し、本社を茨城県東海村に置くことになった。組織図を
図3に示す。
<図/表>
<関連タイトル>
高速実験炉「常陽」と運転・保守経験 (03-01-06-02)
高速実験炉「常陽」における研究開発 (03-01-06-03)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)
動燃/サイクル機構における高速増殖炉研究開発 (03-01-06-06)
新型転換炉の研究開発 (03-02-06-04)
原型炉「ふげん」 (03-04-02-09)
人形峠のウラン濃縮施設 (04-05-02-01)
東海再処理工場 (04-07-03-06)
動力炉・核燃料開発事業団(PNC)の活動 (13-02-01-13)
<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団(編):第29回 報告と講演の会 予稿集、動力炉・核燃料開発事業団(平成8年9月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団企画部(編):動力炉・核燃料開発事業団平成7年度年報、動力炉・核燃料開発事業団企画部(平成8年9月)
(3)動燃二十年史編集委員会(編):動燃20年史、動力炉・核燃料開発事業団(1988年10月)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 平成8年版、日本原子力産業会議(平成8年10月)
(5)総務庁行政監察局(編):原子力関係特殊法人の現状と課題、大蔵省印刷局(平成元年12月)
(6)動力炉・核燃料開発事業団 広報室(編):社内報 どうねん No.7、動力炉・核燃料開発事業団 広報室(1997年7月)
(7)朝日新聞社:動燃整理・縮小へ報告書、朝日新聞、平成9年7月30日夕刊1面
(8)日本原子力産業会議:サイクル開発機構組織体制固まる、原産新聞 第1957号(1998.10.1)
(9)核燃料サイクル開発機構インターネットホームページ,
(10)原子力委員会(編):原子力白書 平成10年版、大蔵省印刷局(1998.3.31)