<本文>
東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に原子力災害対策特別措置法(原災法)が改定され、新たに発足した原子力規制委員会が改定原災法の規定に従って、原子力災害対策指針(以下、指針)を定めた。この指針は原子力災害対策として、オンサイト(事業者施設とその敷地内)とそれを取り巻くオフサイト(周辺地域)の関係者・関係機関が実施すべきことを示している。本稿ではオフサイトにおける平常時の対応(準備段階)としての原子力災害予防対策の内容について解説する。なお、異常事態発生時に事故進展シナリオに対応してオンサイトで採るべき措置については、ATOMICAデータ「
原子力施設等による災害の対策について(原子力災害対策指針−その1)(11-03-06-04)」にまとめた。また、本稿の中で東電福島第一原子力発電所の事故における事前準備と運用時の反省から直接的に導かれた対応策に関しては、※印を付して示している。
1.オフサイトにおける対応策
1.1 原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲と対策
放射性物質が敷地外に放出された場合には、限られた時間を有効に活用し、周辺住民等の被ばくを低減するための防護措置を短期間に効率良く行うことが肝要であり、このためには、
図1に示すようにあらかじめ施設の特性等を踏まえた異常事態の発生を想定し、その影響の及ぶ可能性のある地理的な範囲を定めておくことが望ましい。この範囲は、技術的見地から十分な余裕を確保しつつ防災対策が重点的に実施できるものでなければならず、福島第一原子力発電所事故の反省に立ち、従来の防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ:Emergency Planning Zone)に代えて、
IAEAの推奨する「予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone)」、「緊急時防護措置を準備する区域「UPZ:Urgent Protective action Planning Zone)」、「
プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA:Plume Protection Planning Area)」の概念が導入された。
具体的に、発電炉では、
PAZは敷地よりおおよそ半径5km以内、
UPZはおおよそ半径5km〜30kmの範囲、PPAはUPZ外とした。再処理施設や試験研究炉、その他の施設については更なる検討が進められているが、現状は
表1に示すように定められている。そして、
放射線モニタリングの結果を合わせた状況判断に基づき、それぞれの範囲の住民に対し、初期対応段階では放射線による
確定的影響を回避し、
確率的影響のリスクを小さくするための適切な防護措置の指示や提言を行い、放射線障害の発生を最小限に食い止めるよう措置が講じられる。
これらの指示や提言を行う際の判断基準にはIAEAベースの「運用上の介入レベル(OIL:Operational Intervention Level)」が適用され、具体的には、わが国では
表2の概要に示すように、
OIL1「避難基準」、OIL2「一時移転基準」、「飲食物のスクリーニング基準」、OIL4「
除染基準」、OIL6「飲食物摂取制限基準」を規定している。
1.2 緊急時モニタリングの実施
敷地外に放出される放射性物質の種類と量は、施設に存在する核物質の形態や事故後の処置及び経過時間によって変わるが、種類としてはクリプトンやキセノン等の放射性希ガス、揮発性の
放射性ヨウ素、
放射性セシウム、
ウラン、
プルトニウムなどを含む微粒子(以下、
エアロゾル)である。特殊な場合としては、臨界状態の発生によって
中性子線が施設外へ直接放出される場合もある。
原子力施設において、放射性物質又は放射線の異常な放出に備える環境モニタリングを「緊急時モニタリング」といい、これは原子力緊急事態の発生時に迅速に測定を行う「初期のモニタリング」と周辺環境に対する全般的影響を評価する「中期のモニタリング」、及び「復旧期モニタリング」から成る。これらの測定結果は、「観測可能な指標に基づく意思決定」に供するため迅速に公表されねばならない。(
図2参照)
(i)初期モニタリング:特に迅速さが求められる初期対応段階で実施するもので、国、地方公共団体及び原子力事業者(関係者)は、
EALの警戒事態(AL)から緊急時モニタリングの実施準備を開始する。施設敷地緊急事態(SE)において、国は緊急時モニタリングセンターを
オフサイトセンター内に立ち上げ、本センターの指揮の下、関係者は速やかに緊急時モニタリングを開始する。その結果はOILに照らし合わせて防護措置に関する判断等に用いられる。
(ii)中期モニタリング:より広い範囲が対象となる中期対応段階において実施され、積算線量並びに環境中に放出された人体への被ばく評価に必要となる放射性物質が対象となる。その結果は各種防護措置の実施・解除の判断、周辺環境に対する全般的影響の評価・確認、人体の被ばく評価、住民等の被ばく線量の推定などに用いられる。
(iii)復旧期モニタリング:発災後の復旧に向けた環境放射線モニタリングは、事故の収束後も実施する。
1.3 緊急時に実施する防護措置策
(1)緊急時における防護措置とOIL
放射線被ばくの形態は、体外から放射線を受ける
外部被ばく、及び吸入・経口摂取等によって体内に取り込んだ放射性物質による
内部被ばくがある。放射線被ばくの低減化措置には、気密性の高い場所へ移動する、退避する、放出源から遠ざかる、摂取制限対策を講じる等がある。
図3に示すように、災害の規模と進展具合に応じて、どの範囲の住民にどのタイミングで、以下の1)〜8)の指示や勧告(参考文献8)を出すかが極めて重要で、措置の実効性はこの点にかかっている。指針に示されたOILと防護措置の詳細は、
表3(参考文献5)を参照のこと。
1)避難及び一時移転の実施
「避難」は当該地点から速やかに離れること、「一時移転」は日常生活での無用の被ばくを避けるため一定期間のうちに離れることを意味し、
・PAZでは、全面緊急事態宣言で、すべての住民等は即時に避難を実施。
・UPZでは、原子力施設の状況に応じて、段階的に避難することも必要。OIL1を超える区域では数時間以内に避難を実施する。OIL2を超える区域では1日以内を目途に一時移転を実施する。
・UPZ外では、OIL1及びOIL2を超える地域では、避難や一時移転を実施する。
※避難中に要介護者約50名の死者(3月中)を出した福島第一原子力発電所事故の反省点として、避難を確実・スムーズに行えるよう、また再移転とならないような避難場所の事前指定、災害時要介護者の避難に対する慎重な配慮(一般の住民よりも早期の避難、健康リスクが高まる場合は屋内退避を優先する)を求めている。
2)屋内退避の実施
屋内退避は、放射性物質の吸入抑制や中性子線及びガンマ線を遮へい出来るので被ばく低減の大きい防護措置である。屋内退避は、国等からの避難の指示を待機する場合や、避難又は一時移転の実施が困難な場合に指示される。
・PAZでは、全面緊急事態に至った時点で、避難よりも屋内退避が優先される場合がある。
・UPZでは、段階的な避難や基準OILに基づく防護措置を実施するまでは屋内退避を原則実施する。
・UPZ外においては、事態の進展等に応じて屋内退避を行う必要があるため、全面緊急事態の時点で、住民等に注意喚起を行う。その期間が長期にわたる可能性があるときは避難への切替えもありうる。
3)安定
ヨウ素剤の予防服用
放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐには、安定ヨウ素剤を服用する必要がある(医学的には、被ばくの1時間前の服用が最も効果が高いとされている(参考文献9))。安定ヨウ素剤は地方公共団体により必要な数が備蓄・事前配布されている。原則、
図4に示すように原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、原子力災害対策本部または地方公共団体が指示する。
安定ヨウ素剤の服用の方法は、以下のとおりである。(参考文献10、11)
・PAZでは、全面緊急事態(GE)宣言で直ちに服用。ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、乳幼児、乳幼児の保護者等については、施設敷地緊急事態において、優先的に避難する。
・PAZ外では、全面緊急事態(SE)に至った後に、原子力施設の状況や空間放射線量率等に応じて、安定ヨウ素剤の配布・服用が決められる。
4)緊急被ばく医療の実施
現地には、予め指定された医療総括責任者を置き、原子力災害時には、緊急時モニタリング結果等の情報を得て、汚染や被ばくの可能性のある傷病者に対して、予め整備した医療体制に基づいて、初期対応段階における医療処置を円滑に行い、患者の搬送先等を適切に指示する。
5)汚染スクリーニング及び除染の実施
スクリーニングによる避難者の汚染程度の把握は、内部被ばくの抑制及び皮膚被ばくの低減、汚染の拡大防止のためには不可欠であり、医療行為を円滑に行うためにも必要である。なお、避難及び一時移転の住民等については、その移動先において汚染スクリーニングを行い、基準値を超えた場合には除染を行う。汚染スクリーニングの種類を
表4に示す(参考文献12)。
6)飲食物の摂取制限の実施
飲食物の摂取制限は、経口摂取による内部被ばくの低減を図る防護措置であり、飲食物中の放射性核種濃度の測定値が一定以上となった場合に、その飲食物の摂取を制限する。具体的には、空間放射線量率がOIL2に該当する地域を特定し、一時移転の措置を講じるとともに、当該地域の地域生産物の摂取を制限する。また、飲食物の放射性核種濃度測定結果が得られた段階では、OIL6の結果に基づき、飲食物の摂取制限が判断される。
飲食物の摂取制限実施の流れは、原子力規制委員会が、a)飲食物中の放射性核種濃度の測定を行うべき地域を指定、b)当該地域における摂取制限の内容を提示、c)原子力災害対策本部を通じて地方公共団体に伝達、d)地方公共団体が住民等へ周知する。
7)防災業務関係者の防護措置の実施
防災業務関係者については、安全の範囲内で、ある程度の被ばくが予想されることを踏まえた防護措置が必要である。防災業務関係者の放射線防護に係る指標は、放射線業務従事者に対する線量限度を参考とするが、防災活動に係る被ばく線量をできる限り少なくする努力が必要である。
8)各種防護措置の解除
各種の防護措置の解除に当たっては、当該措置が設定された際の基準、さらに解除した後の状況を踏まえ、あるいは新たに策定される基準を下回ることを基本的な条件とする。
※放射性物質又は放射線の放出が終了したとしても影響を受けた区域は汚染されている可能性があり、汚染物が影響を受けていない区域に搬出される可能性があることから、関連する地方公共団体との協議を行い、適切な管理や除染措置等を講じる配慮をしなければならない。
1.4 発災後の復旧に向けた対応の実施
被災後の汚染環境下での対応が関係者間で共有された中長期的ビジョンに基づいてなされるべきで、復旧へ向けた取り組みの配慮とその必要性について、災害対策の指針として、下記1)〜5)の項目について言及している。
1)環境放射線モニタリングの継時変化の把握とデータの一元管理
2)個人の被ばく線量のトレースとその結果に基づく措置の実施(参考文献13)
3)放射線被ばくによる健康影響のみならずメンタル面に配慮した健康管理の必要性(参考文献14)
4)住民復帰のための効果的除染措置の計画と、物心共の支援の提供の必要性(参考文献15)
5)緊急時被ばく状況・現存被ばく状況(残留放射性物質による低いレベルの環境状況)・計画的被ばく状況(参考文献16)への移行の考え方と取扱いについては今後の課題であること
※これらは、現に福島県を中心とした地域で現在進行中の項目であり、試行錯誤を伴いながらも現地で経験し、会得したことを指針として盛り込むことになろう。
2.「原子力災害予防対策」準備段階における対策
2.1 組織体制の確立及びソフト面の整備
(1)緊急時における住民等への情報提供体制
緊急時において、施設近隣の住民への指示や施設の異常事態に関する情報が迅速かつ正確に、そして分かりやすく伝達されるような体制を平時から構築しておく必要がある(このための一つの施策が、EALやOILの導入でもある)。具体的には、地域防災計画(原子力災害対策編)等における、情報伝達に関する責任者及び実施者の決定はもちろん、市町村区の責任者をあらかじめ特定し、情報が迅速かつ正確にくまなく伝達されるような仕組みを構築することは必須である。その上で、緊急時の通報連絡体制、緊急時モニタリング等の結果の解釈の仕方、住民等の避難経路・場所、医療機関の場所、防災活動の手順等を整理し、情報の伝達に必要な機器も整備しなければならない。また、緊急時に交わされる用語の普遍化、平易化と報道機関等との協力体制も重要である。
(2)緊急時モニタリングの体制整備
※福島第一原子力発電所事故では、地震と津波により、事業者及び県のモニターはほぼ壊滅状態となり、また放射能拡散予測計算コード
SPEEDIの予測機能が活用できず、防護措置の実施判断材料と住民と環境への放射線影響の評価材料の提供が極めて不十分であった。(参考文献17、18、19)この反省に立ち、指針では従来のような拡散計算コードへの過度の依存を止め、放射線の実測値をベースにした判断を重視とする。そのためにも、固定式モニターの設置数増大とその電源設備の独立化や移動式(航空機、モニタリングカー、艦船、可搬型設置等)の導入を図っている。
平成25年1月30日に公表された指針の補足参考資料(参考文献20)では、OIL1やOIL2に基づく防護措置の実施の判断のためのモニタリングを迅速に実施するため、地域に特有の気候及び地形を考慮に入れたうえでの放射性物質の拡散の傾向等を参考に、測定地点を事前に定め、防護措置の実施方策と関連づけておく必要性を示している。
(3)安定ヨウ素剤予防服用の体制整備
(i)安定ヨウ素剤の予防服用について
放射性ヨウ素は、身体に取り込まれると、甲状腺に集積して内部被ばくし、数年〜十数年後に甲状腺がん等を発生させる可能性がある。この対策として、安定ヨウ素剤を予め服用することで影響を低減できる。このため、地方公共団体等は必要な場合に適切なタイミングで住民が安定ヨウ素剤を服用できるように準備する必要がある。また、副作用の可能性もあることから、可能なかぎり医療関係者の指示を尊重して実施すべきである。
※福島第一原子力発電所事故の反省として、今後はヨウ素剤の事前配布が認められ、また旧指針における「40歳以上の場合には服用不要」の項目は廃止された。タイミングよく服用を促すための情報伝達と、服用に際しての医学上、精神上のリスクについての教育・広報も整備されねばならない。
そこで、安定ヨウ素剤の配布と服用のための体制整備に関して次の点を留意する必要がある。
・服用の目的や効果とともに副作用や禁忌者等に関する注意点等については事前に周知する。
・地方公共団体は、副作用の発生に備えて事前に周辺医療機関に受入の協力を依頼するとともに、体調異常者の緊急搬送等の医療体制の整備も行う。
・地方公共団体は、原子力災害に備え、十分な量の安定ヨウ素剤を購入し、公共施設(庁舎、保健所、医療施設、学校等)で管理する。(ii)で示すように、一部は住民に事前配布し、他は避難の際に学校や公民館等で配布する等の配布手続きを定める。
(ii)ヨウ素剤の事前配布のための準備について(PAZ内)
PAZにおいては、地方公共団体が事前に住民に対し安定ヨウ素剤を配布する。
・地方公共団体は、事前配布のために住民への説明会を開催し、原則として医師(補助として薬剤師)により、安定ヨウ素剤の効果、服用手順、保管方法、服用時期、特に禁忌者やアレルギーを有する者に対し生じ得る健康被害、副作用、過剰服用による影響等の留意点等を説明し、それらを記載した説明書とともに安定ヨウ素剤を配布する。
・地方公共団体は、配布や代理受領に際しては、他の者に譲り渡さないよう指示するとともに、調査票等への回答や問診の実施等を通じて禁忌者やアレルギーの有無等の事前把握に努める。
・地方公共団体は、紛失等により安定ヨウ素剤を即時に服用できない住民や一時滞在者等に対して追加配布できるよう予備の安定ヨウ素剤を備蓄する。また、追加配布方法等について説明会等を通じて説明する。
・地方公共団体は、転出者又は転入者があった場合は速やかに安定ヨウ素剤を回収又は配布する。また、安定ヨウ素剤の更新時期の管理方法と期限切れ製剤の確実な回収方法を定めおく。
(iii)UPZ、
PPAでのヨウ素剤配布準備について
PAZ外においては、全面緊急事態に至った場合、プラント状況や空間放射線量率等に応じて、避難等の防護措置を講じることとなる。そのため、PAZ外の住民が避難等と併せて安定ヨウ素剤の服用が可能となる体制を整備する必要がある。この場合も、安定ヨウ素剤の配布・服用は、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合を除き、原則として医療関係者が関与して行うべきであり、また地方公共団体が安定ヨウ素剤の事前配布を必要と判断する場合(例えばEALの設定内容に応じてPAZ内と同様に予防的な即時避難を実施する可能性のある特定の地域、さらに避難の際に学校や公民館等の配布場所で安定ヨウ素剤を受け取ることが困難と想定される地域等)には、PAZ外であっても前述のPAZ内の住民への事前配布する手順を採用することができる。
※福島第一原子力発電所事故では、プルームが幾つかの塊になって四散し、折からの雨のため各地にホットスポットを作りながら移動した。プルーム通過時に影響を受ける地域(PPA)とその程度、及び安定ヨウ素剤の投与の判断基準、屋内退避等の防護措置との併用のあり方等については、今後の課題である。
(4)被ばく医療体制の整備
国及び地方公共団体は、次の役割を担う医療機関等を組み込んだ被ばく医療体制を整備する必要がある。即ち、原子力災害においては、被ばくや汚染の可能性等を考慮し、医療のコントロールを行い、被災者や障害者等に適切な医療行為を迅速に行うことが必要となる。
そのためには、その地域に配する各医療機関等が各々の役割(トリアージ、救急処置、汚染検査、スクリーニング指導、簡易除染、防護指導、健康相談、救護所・避難所等への医療関係者の派遣、隣接地方公共団体の救急・災害医療機関との連携等)を担うことが必要である。
効果的な被ばく医療の実施体制の在り方としては、
・原子力災害下での医療機関の広域連携体制の確立と指揮系統の整備・確認(
図5参照)。
・受入れ医療機関の役割、各医療機関相互の通信手段、搬送手段等について確認しておく。
・地域の医療事情に詳しい者を現地の医療総括責任者(災害時には、被ばく医療関係者の支援を受けつつ、多数の傷病者の搬送先の指示等の対応に当たる責務を担う)として指名する。
・被ばく医療専門の医師が遠隔から指示することが可能な機能を整備する。
・甲状腺スクリーニングの詳細な測定には専門知識や甲状腺モニターや
ホールボディカウンタ等の機器管理を必要とするため、それが可能な施設などをあらかじめ特定し、当該施設との連携体制を整備しておくこと。また長期の健康管理に備え、測定結果を蓄積し、管理できる体制を整備しておく。
加えて、被ばく医療の体制に組み込まれた医療機関等は、
表5に示す体制整備と教育・研修・訓練に関する事柄が求められている。
※また指針では避難所等でのスペースの確保と簡易除染用資材の準備を、さらには詳細な測定が可能な施設等との連携体制を整備しておくことの必要性を指摘している。
2.2 ハードウェアの整備・充実
ここでいうハードウェアとは、施設建物、資機材(放射線モニター、通信機器、運搬機材、物的資料等を含む。)である。
(1)オフサイトセンター(OFC)等の整備
実用発電用原子炉のオフサイトセンターについては、PAZ及びUPZを踏まえ、地方公共団体等の意見を反映し、緊密に連携できる地点に立地すること、放射線防護対策を講じること、火急時に迅速な立ち上げのための体制を整備すること、厳しい状況下でも機能が維持できるよう代替施設の確保や通信経路の複線化等の施策が必要である。また、平時から、防災資料の管理、通信機器等のメンテナンス等を行うとともに、原子力防災専門官を含む防災関係者の定期的な連絡会や防災訓練により緊密な連絡調整を図っておく必要がある。
なお、実用発電用原子炉以外のオフサイトセンターについては、当面は現在のオフサイトセンターを活用するが、今後、さらに検討する。
(2)諸設備の整備
原子力災害対策を適切に行うためには、所要の物的資源を整備しなければならない。具体的には、目に見えない放射線の量を様々な局面で計測する設備や機器、広範囲に及ぶ放射線の影響を各種データから解析し避難等の判断に資する計算機システム、状況や措置に関する情報を地域住民、関係機関、原子力事業者の間で迅速かつ正確に共有するための情報インフラ等である。これらの設備や機器等の整備に当たっては、地震等の自然災害への頑健性を配慮しなければならない。
また、放射線の影響下で作業するための防護資機材の整備が必要である。特に、汚染地域で救急活動を実施しなければならない防災業務関係者等の防護装備の整備(※そのための十分な数量)が必要である。
さらに、汚染や被ばくの可能性のある傷病者や避難者に対応するための救急・災害医療のための設備、資機材等については、住民の生命及び身体の安全を確保する観点から、多数の被災者に対して迅速に措置を施す必要があり、このためには、a)災害時の連絡網(更新確認)、b)強靱なネットワークシステム(画像転送可)、c)複合災害を考慮した情報網及び情報連絡設備、の整備を行う必要がある。
なお、一般的な災害対策と同様に、避難のための道路の整備、輸送手段の確保、避難所等の整備なども必要となる。
※さらに、避難場所については一時的な退避場所として活用可能な施設等には放射線防護対策を講じておくことを挙げている。
(3)防災関係資料の整備
原子力災害対策を円滑かつ有効に実施するため、関係機関はそれぞれの業務に関する防災計画等を有していなければならない。
※福島第一原子力発電所事故の反省点より、地域防災計画(原子力災害対策編)の作成に当たっては、気密性の高い建屋の特定と準備、避難に切り替わった際の避難先及び経路の確保等について検討し、あらかじめ関係者に情報提供しておく必要がある。
また、国、地方公共団体、原子力事業者等の関係機関においては、予め定められたそれぞれの場所に原子力災害対策のために必要とされる資料、即ち、a)組織体制に関する資料、b)社会環境に関する資料、c)放射性物質又は放射線の影響推定に関する資料等を常備しておく必要がある。いずれの資料も、水没や電源喪失の影響を受けない媒体と閲覧手段を用いつつ保存し、常に最新のものに更新しておくことが不可欠であり、そのための仕組みを構築しておく必要がある。
2.3 周辺住民への情報提供
原子力防災に関して、平常時から周辺住民等へ以下の情報提供を行う必要がある。
1)放射性物質及び放射線の特性、2)当該原子力事業所の概要、3)原子力災害とその特殊性、4)原子力災害発生時における防災対策の内容(ヨウ素剤の配付、避難手順等)。また、緊急時においては、オフサイトセンターが情報の集約や整理を行い、周辺住民、報道関係者等に提供する仕組み等を確立する必要がある。特に、避難手順に関しては、
表6に示す事項を日頃からしっかりと認識してもらうための意見交換と広報活動も重要である。
緊急時の情報提供に際しては、災害時要援護者や一時滞在者等に対する配慮が必須であることも福島第一原子力発電所事故の経験から学んだ教訓である。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
緊急時の医療活動 (10-06-01-07)
原子力防災のための訓練 (10-06-01-08)
オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設) (10-06-01-09)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年9月改定) (10-07-01-11)
緊急時モニタリングの体制と実施方法(2013年改正) (11-03-06-03)
TMI事故時の避難措置 (02-07-04-03)
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
チェルノブイル事故による健康影響 (09-03-01-06)
原子力施設等による災害の対策について(原子力災害対策指針−その1) (11-03-06-04)
<参考文献>
(1)「原子力施設等の防災対策について」原子力安全委員会:昭和55年6月(最終改訂 平成22年8月)、
(2)「原子力災害対策指針の主なポイント」原子力規制庁、平成25年9月
(3)原子力災害対策指針、平成24年10月31日、(平成25年2月27日、平成25年6月5日、平成25年9月5日にそれぞれ全部改正):原子力規制委員会、
(4)「平成25年2月の原子力災害対策指針改定における防護措置の実施の判断基準(OIL:運用上の介入レベル)の設定の考え方」補足資料、平成25年3月、
(5)「レベル3PSA手法による防護措置の被ばく低減効果の分析」日本原子力研究開発機構安全研究センター:第2回原子力災害事前対策等に関する検討チーム 資料1、平成24年11月30日
(6)「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」(医療関係者用):原子力規制委員会、平成25年2月4日、
(7)「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」(地方公共団体用):原子力規制委員会、平成25年2月4日、
(8)「原子力災害時のスクリーニング」緊急被ばく医療のホームページ、
(9)関係省庁が講じている取組:資料2、p35、
(10)原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会、原子力災害時におけるメンタルヘルス対策のあり方について(2002年10月)、
(11)除染の加速化・円滑化のための施策−除染情報サイト−、環境省、
http://josen.env.go.jp/about/efforts/acceleration.html
(12)国際協力 環境の再生に向けた除染に関する国際シンポジウム:平成23年10月26日
(13)国会・政府・民間の事故調査委員会報告書におけるSPEEDIに関する記載箇所(国会;[3.4.2] [3.6.1]、政府;[p261,p428]、民間;[p5-6])
(14)緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)調査;平成26年度概算予算請求、P4
(15)原子力発電施設等緊急時安全対策交付金、
(16)「緊急時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」平成26年1月29日、原子力規制庁、