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<概要>
 オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)とは、原子力施設の緊急事態時において、事故が発生した敷地(オンサイト)から離れた外部(オフサイト)で現地の応急対策をとるための拠点施設のことである。この設置は、平成12年(2000年)6月に施行された「原子力災害対策特別措置法(法律156号)」で規定され、原子力施設で緊急事態が発生した際には、国、都道府県、市町村及び事業者の防災対策関係者が集合して、「原子力災害合同対策協議会」を組織し、連携の取れた応急対策を講じていく拠点となるものである。
 しかしながら、東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故においては、その本来の機能を十分に発揮できたとは言えず、その反省と教訓を反映する形で各種の検討が進められ、平成24年(2012年)9月19日に発足した新たな規制行政組織である原子力規制委員会の下で具体的な見直しが進められているところである。
<更新年月>
2014年01月   

<本文>
1.オフサイトセンター整備の経緯
 平成7年(1995年)の旧動燃もんじゅナトリウム漏えい事故、平成9年(1997年)の旧動燃東海再処理施設アスファルト固化施設火災爆発事故等を契機に、わが国の原子力防災対策の実効性向上が検討される中で、国、地方自治体、事業者が一堂に会する対策本部としての「オフサイトセンター構想」が提言されていた。この提言から間もない平成11年(1999年)9月30日に発生した(株)ジェー・シー・オーウラン加工施設の臨界事故において、わが国で初めて住民避難等の防災対策が実施された。これを教訓として、平成11年(1999年)12月17日に「原子力災害対策特別措置法」(以下、「原災法」)が成立、平成12年(2000年)6月16日に施行され、この中で緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター、OFCとも略記)の設置が義務づけられ、原子力発電所、核燃料再処理工場、燃料加工施設、研究用原子炉など主要な原子力施設(オンサイト)のある地域の22箇所に施設が整備された。オフサイトセンターの備えるべき要件は、平成12年4月施行の原災法施行規則(平成20年3月最終改定)で12項目が定められ、この中に「代替オフサイトセンター」の設置も規定されている。
 しかしながら、平成13年(2011年)3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴い発災した福島第一原発事故においては、施設より5kmの位置にあった大熊町の福島県オフサイトセンター、及び南相馬市の「代替オフサイトセンター」は防護、通信、維持管理などの機能が不十分なものとなり、福島市にある福島県庁に早々の撤退を余儀なくされ、また宮城県女川町のオフサイトセンターは津波によって流失するなど、その本来の機能を発揮できなかった。震災直後よりその反省と教訓を反映する形での設置基準や指揮連絡系統等について、オフサイトとオンサイトの役割分担の見直しを含めた各種の検討が進められ(参考文献(1)、(2)、(6)、(7)参照)、現在も原子力規制委員会が見直しを続けている。
2.オフサイトセンターの役割・機能
 オフサイトセンターは、原子力施設で緊急事態が発生した場合に、国の「原子力災害現地対策本部」や都道府県及び市町村の「災害対策本部」などが「原子力災害合同対策協議会」を組織し、情報を共有しながら連携のとれた応急対策を講じていくことを目的として、総理大臣により予め指定された原子力防災の拠点施設である(表1図1)。オフサイトセンターには原災法第30条に基づく国の防災専門官が常駐し、平常時から、(a)各原子力施設の状況、(b)モニタリング情報、(c)医療関係情報、(d)住民の避難計画及び屋内避難計画などを把握し、防災資料の管理、通信機器等(2011年3月の震災後、大幅に増強された)のメンテナンス等を行うとともに、自治体や事業者の防災体制に助言を与え、緊急時にはオフサイトセンターで中心になって活動する。図2には、緊急時の初動対応体制におけるオフサイトセンターの役割及び他の諸機関との事故事態進展に伴う危機管理体制の移行を示す。
 原子力施設の事故事態は、(I)警戒事態、(II)施設敷地緊急事態、(III)全面緊急事態、に区分され、その進展に応じて初動対応が行われる。オフサイトセンターも各種の準備・連絡確認に始まり、(II)では、「緊急時モニタリングセンター図3)」の立ち上げ、環境副大臣等の受入れと「原子力事故現地対策本部」の立ち上げ、原子力地域安全総括官・省庁、都道府県、市町村の職員、事業者等の受入れと「現地事故対策連絡会議」の開催を行う。一方、原子力規制委員会・原子力規制庁(以下「規制庁」)では事業者の中枢に設置される「事態即応センター」に緊急対策官、規制委員会委員等を派遣するほか、施設内(オンサイト)の「緊急時対策所」に保安検査官を、「後方支援拠点」に職員を派遣するなど、事故収束のための拠点と体制の整備を図ることが決められた。さらに、万一、大量の放射性物質が異常に放出されるような(III)全面緊急事態に至った場合には、内閣総理大臣による原子力災害の緊急事態宣言を受け、オフサイトセンター内に「原子力災害合同対策協議会」が設置され、情報の共有と意思の統一を図りながら、原子力関係機関に対して緊急時対応策の指示・指揮・監督が迅速かつ的確に実施される手はずになっている。この「原子力災害合同対策協議会」の下には実務を担当する各種の機能班、すなわち、統括・情報管理(総括班)、広報活動(広報班)、放射線影響評価・予測(放射線班)、事故状況の把握(プラント班)、実動省庁との連絡調整(実動対処班)、住民避難・救助活動の調整(住民安全班)、被災者の医療活動の調整(医療班)、オフサイトセンター管理(運営支援班)が設置され(図4)、原子力防災要員の派遣や防災資機材の貸与とともに、(a)情報の収集・伝達、(b)避難・屋内退避の勧告または指示、(c)被災者の救難・救助・保護、(d)施設等の整備・点検と応急の復旧、(e)犯罪の予防、交通規制など災害地域の社会秩序の維持、(f)緊急輸送の確保、(g)食料・医療品等の確保、(h)住民の被ばく線量測定や汚染除去等の応急措置、(i)災害の拡大防止措置等の応急対応、などが行われる。
 これらの応急対応は、放射線医学総合研究所、日本原子力研究開発機構、電気事業者等からなる専門的支援機関や原子力事業者の防災組織が支援し、災害警備・救助は警察機関、消火・救助・救急活動は消防機関や海上保安庁が担当する。また、内閣総理大臣から派遣要請があった場合には自衛隊が出動する(図5)。さらに、オフサイトセンターでは住民に対して放射線量の情報を公表するとともに、あらかじめ定められたPAZ、UPZ、PPA域に住む住民への避難・退避・防護、特にヨウ素剤の服用・配布などの具体的指示は、関連部署と連携をとりつつ都道府県・市町村が主体となって地域防災計画に基づいて対処する。なお、オフサイトセンターは原子力災害の事後対策の拠点でもある。
 他方、日本原子力研究開発機構の原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)が茨城県と福井県(福井支所)に整備されており、原子力災害発生時には国、県、市町村、原子力事業者及び防災関係機関などに対し、技術的助言を行うための専門家の活動拠点となる。
 また、中央官庁では内閣総理大臣を本部長とする「原子力災害対策本部」及び原子力規制委員会が、オフサイトセンター内の「原子力災害現地対策本部」と密接に連携しながら緊急事態の対応にあたる。
 さらに、これらの活動を支援するシステムとして、テレビ会議システム、常時稼働の緊急時対策支援システム(ERSS)、気象情報システム、緊急時迅速放射線影響予測システム(SPEEDI)等が整備(一部拡充中)されており、これらの支援システムは、専用回線で規制庁東京本部にある緊急時対応センターERCと各オフサイトセンターを結び、オンラインで情報を授受できる。
3.オフサイトセンターのさらなる整備計画(表1参照)
・平成24年3月現在、PAZ内(半径5km以内)にあるオフサイトセンター(泊、志賀、伊方、浜岡サイト)は、今後移転する。志賀OFCは9km離れた西山台地区に、浜岡OFCは20km離れた静岡空港に、ここ1、2年の間に移転する。(参考文献(8))
・青森県の六ヶ所OFCの移転、及び新設候補の「むつ地区のOFC」「大間地区のOFC」については、対象となる施設の運用状況、建設状況、許認可の状況に応じて、順次計画が明らかになる。
・福島県については、被災した大熊町オフサイトセンターはこれを廃止し、東京電力福島第一サイト用として南相馬市に、同第二サイト用として楢葉町に、平成27年12月を目途に新設する。それまでは、現状の暫定施設を使用する。
・現在の女川オフサイトセンターは暫定であり、仙台市の消防学校跡に計画中である。
・これらは今後、建物・設備の完成を見た後、順次必要な手続を経て、正式に運用開始となる。
・茨城県オフサイトセンターには保安検査官事務所の分室を置き、事務所は東海村舟石川に移動する(平成23年9月実施済み)。
(前回更新:2008年12月)
<図/表>
表1 緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)施設設置情報一覧
表1  緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)施設設置情報一覧
図1 緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の所在地図
図1  緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の所在地図
図2 事故事態の推移と対応組織の連携
図2  事故事態の推移と対応組織の連携
図3 現地(オフサイトセンター)での緊急時モニタリング
図3  現地(オフサイトセンター)での緊急時モニタリング
図4 オフサイトセンター内の活動機能組織
図4  オフサイトセンター内の活動機能組織
図5 住民の避難・救助・救命に係わる活動形態
図5  住民の避難・救助・救命に係わる活動形態

<関連タイトル>
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
原子力防災のための訓練 (10-06-01-08)
原子力緊急時支援・研修センター (10-06-01-10)

<参考文献>
(1)原子力安全保安院:オフサイトセンターに関する基本的な考え方について−取りまとめ−(平成24年8月)
(2)原子力規制委員会:原子力災害対策指針(平成24年10月31日)、

(3)原子力災害対策マニュアル(本編):
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/pdf/taisaku_manual.pdf
(4)原子力災害対策マニュアル(輸送編):
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/dai01/siryou3-2.pdf
(5)法令データ提供システム:原子力災害対策特別措置法(平成11年12月17日法律第156号)
(6)原子力安全・保安院:原子力防災に関する改善事項について(平成24年4月)、
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/pdf/120412-5.pdf
(7)内閣府:オフサイトセンター等に係わる設備等の要件に関するガイドライン(平成24年9月)
(8)2014年度予算案(閣議決定)原子力発電施設等緊急時安全対策交付金:平成24年12月24日:財務省、http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2014/index.htm
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