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<概要>
 原子力発電所等のある地方公共団体ではそれぞれ「原子力防災計画」を作成し、日頃から防災体制を整備している。それらの内容を防災業務関係者が充分理解し事故の際に周辺住民への指導性を確立するとともに、防災計画や防災体制が有効に機能するかどうか確認するため行われるのが「原子力防災訓練」である。
 訓練の内容としては、災害対策本部の設営、防災関係機関への緊急時通報連絡、緊急時モニタリング、住民への情報伝達(広報)などのそれぞれの項目について行われる訓練と、それらの組み合わせ、あるいは国の原子力災害対策本部及び緊急事態応急対策拠点施設に組織する原子力災害合同対策協議会の立ち上げ等を含めた総合訓練があり、地元の実情に応じて適宜行われている。
<更新年月>
2003年09月   

<本文>
 原子力発電所等のある地元の道府県や市町村は、災害対策基本法等に基づいて、原子力災害に対して地域住民の健康と安全を守るために地域防災計画の策定が義務づけられており、その防災計画において、防災訓練を行うことを定めている。そのためこれらの地方公共団体は、原子力安全委員会決定の「原子力施設等の防災対策について」(通称「防災指針」と呼ばれる)等を踏まえ、それぞれの実情に応じた「原子力防災計画」を作成し、万一の事態に備えている。
 1999年9月にJCOウラン加工工場において発生した臨界事故に対する対応への反省を踏まえて、同年12月に制定された「原子力災害対策特別措置法」(以下「原災法」という)では、国、道府県、市町村、原子力事業者等が共同で行う原子力災害についての総合的な防災訓練について、主務大臣が定める計画に基づいて行うとしており、従来から国の支援の下で道府県が行っている防災訓練に加えて、国が主体的に参加する訓練について規定している。
 さらにこの計画には、防災訓練に当たってどのような事態を想定するかを明らかにするとともに、原子力防災管理者による通報、原子力緊急事態宣言の発出、原子力災害合同対策協議会の開催等、より実践的な訓練内容とするよう定められている。
 緊急時における災害応急対策が円滑かつ有効に行われるためには、周辺住民に指示する立場にある防災業務関係者が沈着冷静に適切な対応を行うことが重要であり、周辺住民がこれらの防災業務関係者の指示を守り秩序ある行動をとれば、一般災害と同様に実効性のある措置を講じることができると考えられる。
このため日ごろから、
・ 周辺住民に対する知識の普及と啓蒙
・ 防災業務に関係する人々への教育
を行うとともに、防災訓練を実施し、その結果を評価・検討することによって防災体制の改善を図ることが必要である。
 「防災指針」では、訓練は次の順序で段階的に行うことが望ましい、としている。
(イ) 緊急時の通報連絡訓練
(ロ) 緊急時モニタリング訓練
(ハ) (イ)、(ロ)及び周辺住民に対する情報伝達等を組み合わせた訓練
(ニ) 国の支援体制を含めた各地域ごとの総合訓練
(ホ) 国による原子力災害対策本部の立ち上げ等を含めた総合合同訓練
 これらのうち(イ)の緊急時の通報連絡訓練は、原子力施設からの異常・事故情報が「原災法」に定められた通報基準にしたがって国及び地方公共団体の担当部門に迅速かつ的確に通報され、さらに消防、警察等の関連機関に速く確実に伝達できるかどうかの確認のために行われるものである。これらの通報・連絡には専用回線による電話、ファクシミリ、防災行政無線、一般回線の電話などが使われる。また、(ロ)の緊急時モニタリング訓練は、異常の通報を受けた後、施設周辺の環境放射線を測定し、そのデータを通報するまでの作業が順調に行えるよう実施されるものである。
 上記(ハ)は、(イ)、(ロ)に加えて、事故情報や対応方法を防災行政無線や広報車等により周辺住民に知らせるための訓練である。(ニ)は、地方公共団体の原子力防災に関係するすべての機関が参加して行われる総合訓練である。(ホ)は、内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に組織する原子力災害合同対策協議会の立ち上げ等を含めた総合合同訓練である。
 行政機関や指定公共機関等は、防災業務関係者が実際に応急対策等を迅速かつ確実に行うことができるよう、各種の訓練を行う必要がある。その際詳細なシナリオを事前に知らせない訓練や訓練開始日時を知らせない「抜き打ち訓練」なども行われている。
 国の総合防災訓練は平成12年以降、毎年1回実施されており、平成12年度は島根県で10月28日(土)に、平成13年度は北海道で10月27日(土)に、平成14年度は福井県で11月7日(木)に実施された。平成15年度は佐賀・長崎両県で11月26日(土)に実施される。また、原子力発電所の所在県(一部隣接県も含む)や所在市町村における訓練も年1回あるいはそれ以上が各地区ごとに実施されている。
 原子力防災訓練の実施状況等の詳細は「環境防災Nネット」で見ることができる。
 原子力発電所所在市町村における、住民広報を中心とした原子力防災訓練の進行状況の例を表1に示す。茨城県東海村で行われた原子力防災訓練の様子を図1に示す。
<図/表>
表1 原子力発電所所在市町村における防災訓練の進行(例)
表1  原子力発電所所在市町村における防災訓練の進行(例)
図1 茨城県東海村で行われた原子力防災訓練の様子
図1  茨城県東海村で行われた原子力防災訓練の様子

<関連タイトル>
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
住民への連絡・指示の方法 (10-06-01-06)
原子力施設等の防災対策について(防災指針) (11-03-06-01)

<参考文献>
(1)防災行政研究会(編):逐条解説防災対策基本法〔改訂版〕、ぎょうせい(1997年8月)
(2)原子力防災法令研究会(編著):原子力災害対策特別措置法解説、大成出版社(2000年8月)
(3)原子力安全委員会:原子力施設等の防災対策について(昭和55年6月決定、平成12年5月一部改訂)
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