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<概要>
 放射性廃棄物の処理処分に関し、わが国(日本)では原子力委員会及び原子力安全委員会が国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会ICRP)などの国際的な動向を踏まえ、種々の課題を鋭意検討してきた。その結果、原子炉施設から発生する低レベル放射性廃棄物の処理処分については、安全規制の基本的考え方や放射能濃度上限値等の基準及び関係法令を整備し、安全審査の基本的考え方も設定され、一部埋設事業が実施されている。一方、核燃料サイクル関連施設等から発生する放射性廃棄物の処理処分については、原子力委員会において、処理処分の基本的考え方が取りまとめられたところであり、これを受けて、現在、原子力安全委員会において、安全規制等の検討が鋭意進められている。
 なお、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄については、国際的な動向を踏まえて、わが国においても当面実施する予定はない。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「低レベル放射性廃棄物の処分に関する安全規制」については、原子力規制委員会が法制化をさらに進めていくこととなっている。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 放射性物質放射線の取扱施設(または設備)から多種多様な放射性廃棄物が発生(排出)する。その処理処分のシナリオや規制の基準(考え方)について、国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会(ICRP)等で検討され、1980年代半ばから放射性固体廃棄物の処理処分に関する幾つかの勧告が提出されている。各国がこの勧告に沿い規制体系に取り込むか否かについては各国の国情を踏まえて決定することとしている。わが国の場合は、諸外国の動向を踏まえ、IAEA(上級者声明)やICRPの勧告(Pub.26、パリ声明、Pub.46、Pub.60、Pub.81等)の取り込みについて、その都度検討している状況である。
 わが国の場合、原子力施設等から発生する放射性廃棄物は、制度化(法規制)において、高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に分類し、低レベル放射性廃棄物は、発生源や核種濃度特性に応じて、放射能レベルの極めて低いもの、比較的低いもの、比較的高いもの等に細分類され、順次処分方策等が検討されている。
 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)が2007年6月に改正され、「第五章の二 廃棄の事業に関する規制」において、廃棄の事業は高レベル放射性廃棄物を対象にした第一種廃棄物埋設の事業と低レベル放射性廃棄物を対象にした第二種廃棄物埋設の事業に区分された。第二種廃棄物埋設では、放射能濃度に応じて浅地中処分ピット処分トレンチ処分)及び余裕深度処分が対象となる。
1.放射性廃棄物の処分に係る検討状況
 わが国においては、原子力安全委員会が安全規制の基本的考え方の検討、具体的基準の検討を行い、それに基づいた法律、規則等が整備されている。
 検討対象となる放射性廃棄物は、まず、高レベル放射性廃棄物とそれ以外(低レベル放射性廃棄物)に分類し、低レベル放射性廃棄物の中で、さらに発生源や必要に応じて核種濃度特性も勘案して細分類されている。
 処分方策や具体的基準の結果によっては、さらに細分化される可能性もあるが、現時点(2011年末)での低レベル放射性廃棄物(クリアランスされた廃棄物を含む)の分類、それらに対する原子力安全委員会の検討状況と制度化整備の状況を整理し、表1-1表1-2及び表1-3に示す。
2.処理処分の責任体制
 放射性廃棄物の処理処分については、その適切かつ確実な実行を保証するため、原則として「発生者の責任」とされている。この原則は、1986年5月、国会において「原子炉等規制法」の一部が改正(廃棄事業者の認可関係)されるに先立ち、原子力委員会によって呈示された基本的条件である。放射性廃棄物の集中的処理処分が合理的かつ効率的である場合には、専任の廃棄業者の介在が許されるが、処理処分に必要な経費は発生者の負担とされる。また、国は、安全基準・指針の整備を含め、所要の規制を行うこととなっている。
3.浅地中処分における安全性について
 ICRP Publ.103では、浅地中処分における安全指標である線量拘束値として300μSv/年を勧告している。この勧告に対し、原子力安全委員会からの報告「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的な考え方(平成19年7月、中間報告)」のなかのまとめにおいて、概ね次のように記述されている。
 「余裕深度処分する放射性廃棄物を含む低レベル放射性廃棄物の埋設に係る安全評価の考え方についての検討では、原子力安全委員会においてすでにその適用が妥当とされている「リスク論的考え方」を参考にした。検討の結果、想定するシナリオを、基本シナリオ、変動シナリオ、人為・稀頻度事象シナリオに分類しつつ、それぞれに対応する評価結果の判断の「めやす」について、ICRPの勧告等を参考に、10μSv/年、300μSv/年、10mSv/年から100mSv/年と設定することが適当であるとの結論を得た。ただし、本検討で参考としたICRP によって示された値については、現在ICRPで進められている新勧告の策定においても議論されていることから、今後、線量の規準を規制の具体的なルールとして定めるにあたっては、最新の知見を考慮して行うことが適当である。本検討結果を踏まえ、引き続き、昭和63年に決定した「安全審査の基本的考え方」について、必要な改訂に関わる審議を行うこととする。」
4.低レベル放射性廃棄物の陸地処分における区分値(濃度上限値)
 原子炉施設から発生する「低レベル放射性廃棄物」は、その放射性核種濃度に応じて、放射能レベルの「比較的高いもの」、「比較的低いもの」、「極めて低いもの」の各廃棄物に区分されている。その他に放射性物質として取扱う必要のない廃棄物(クリアランスレベル以下、汚染の可能性のないもの)も発生する。低レベル放射性廃棄物の埋設事業の申請に対しては、埋設施設形態に応じて埋設の事業許可申請が可能な濃度上限値が定められている。
 当該上限値は、原子力安全委員会放射性廃棄物基準専門部会が廃棄物の特性に応じて順次検討してきた。これらの検討結果を踏まえ、余裕深度処分の事業に該当する第二種廃棄物埋設の放射性物質及びその放射能濃度上限値が、2007年6月の「原子炉等規制法」の改正に伴う「原子炉等規制法施行令」の第四章第三十一条(政令で定める放射性物質の種類等)に定められた。また、ピット処分及びトレンチ処分の第二種廃棄物埋設事業に該当する放射性物質及びその放射能濃度上限値について「核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則」(昭和六三年一月十三日総理府令第一号)の第一条の二第2項第四号及び五号のそれぞれ別表第一及び別表第二に定められた。表2にトレンチ、ピット及び余裕深度処分の各処分における重要核種の濃度上限値を一覧にして、示す。
 被ばく線量評価は、廃棄物の核種濃度に応じて、人工バリアを伴う埋設施設(ピット処分)と人工バリアを伴わない埋設施設(トレンチ処分)及び一般的な地下利用に対して十分余裕を持った深度(50〜100m)への埋設施設(余裕深度処分)に対して実施しているが、各々の施設形態に対して被ばく評価の対象としたシナリオを図1図2に示す。
5.低レベル放射性廃棄物の陸地処分に係る段階管理
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分においては、同廃棄物中に含まれる放射性核種濃度が時間の経過に伴って減衰することから、最終的に人間環境への影響が十分軽減されるまでの間、以下に示すように核種濃度レベルに対応して管理の内容を軽減できる段階管理を規定している( 図3参照)。
 各段階における管理の具体的な内容は、「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」について(平成22年8月9日、原子力安全委員会決定)の解説において、埋設処分する放射性固体廃棄物の形態、放射性固体廃棄物中に含まれる放射性物質の種類及び放射能濃度、人工構築物の設置の有無、埋設深度等に応じて異なり、それぞれ主に以下に示すようなものであると記述されている。
(1)余裕深度処分を行う場合
 1)埋め戻しまでの段階
 人工バリアにより放射性物質が人工バリアの外へ漏出することを防止するとともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する必要がある段階をいう。
 この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するとともに、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
 また、廃棄物埋設地に設けた人工バリアから放射性物質が漏出していないことを放射性物質の漏出等の監視によって確認するとともに、人工バリアが設計どおりに建設・施工されていること等を確認する。
 万一、漏出あるいは人工バリアに異常が認められた場合には、その補修等所要の措置を講じる。
 なお、埋め戻しまでの段階とは、坑道の埋め戻しが完了するまでの期間をいう。
 2)埋め戻し後の段階
 人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階をいう。
 この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該区域での計画外の掘削等の特定行為の禁止又は制約を行う。
 また、廃棄物埋設地から漏出し、生活環境に移行する放射性物質の濃度等を地下水の測定の実施等により監視する。
(2)ピット処分を行う場合(図4参照)
 1)第1段階
 人工バリアにより放射性物質が人工バリアの外へ漏出することを防止するとともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する必要がある段階をいう。
 この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するとともに、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
 また、廃棄物埋設地に設けた人工バリアから放射性物質が漏出していないことを放射性物質の漏出等の監視によって確認するとともに、万一、漏出が認められた場合には、その補修等所要の措置を講じる。
 2)第2段階
 人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の人工バリアからの漏出及び生活環境への移行を監視する必要がある段階をいう。
 この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するとともに、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
 また、廃棄物埋設地から漏出し、生活環境に移行する放射性物質の濃度等を地下水の測定の実施等により監視する。
 3)第3段階
 主として天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階をいう。
 この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該区域での農耕作業等の特定行為の禁止又は制約を行う。
(3)トレンチ処分を行う場合
 1)埋設段階
 放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の廃棄物埋設地から生活環境への移行を監視する必要がある段階をいう。
 この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するとともに、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
 また、廃棄物埋設地から生活環境に移行する放射性物質の濃度等を地下水の測定の実施等により監視する。なお、埋設段階とは、埋設作業開始時から覆土が安定するまでの期間をいう。
 2)保全段階
 天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階をいう。
 この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該区域での農耕作業等の特定行為の禁止又は制約を行う。
 したがって、管理期間内に係る廃棄物埋設施設の安全性の評価は以上に述べたような段階管理の内容に応じて、また、廃棄物埋設地の設備は時間の経過に伴ってその機能が低下することを考慮して、実施する必要がある。
6.事業許可と操業に伴う手続き
 低レベル放射性廃棄物の埋設事業は管理期間が数百年にも及ぶことから、事業許可の審査を含めて種々の手続きが必要である。
 廃棄物埋設事業の事業許可申請から事業廃止までの流れを、図5に示す。
(前回更新:2001年11月)
<図/表>
表1-1 国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(1/3)
表1-1  国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(1/3)
表1-2 国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(2/3)
表1-2  国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(2/3)
表1-3 国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(3/3)
表1-3  国による放射性廃棄物の処分方策の検討及び制度化の現状(3/3)
表2 浅地中処分および余裕深度処分の濃度上限値一覧
表2  浅地中処分および余裕深度処分の濃度上限値一覧
図1 人工バリアを伴う埋設施設における被ばく評価シナリオ
図1  人工バリアを伴う埋設施設における被ばく評価シナリオ
図2 人工バリアを伴わない埋設施設における被ばく評価シナリオ
図2  人工バリアを伴わない埋設施設における被ばく評価シナリオ
図3 低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制の考え方(段階管理の考え方)
図3  低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制の考え方(段階管理の考え方)
図4 浅地中処分(ピット処分)における段階管理の考え方の一例
図4  浅地中処分(ピット処分)における段階管理の考え方の一例
図5 廃棄物埋設事業の事業許可申請から事業廃止までの流れ
図5  廃棄物埋設事業の事業許可申請から事業廃止までの流れ

<関連タイトル>
わが国における放射性廃棄物処理処分の規制と責任 (05-01-01-06)
わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯 (05-01-03-03)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
廃棄物管理施設の安全性の評価の考え方について (11-02-05-03)
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(第1期および第2期埋設安全審査を踏まえて) (11-02-05-05)
処分を前提とする放射性廃棄物の区分(放射能基準) (11-03-04-01)
低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について (11-03-04-08)

<参考文献>
(1)原子力規制関係法令研究会:「2010年 原子力規制関係法令集」大成出版社、(2010年9月)
(2)原子力安全委員会:原子力安全委員会安全審査指針集、

(3)原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について(平成10年5月28日)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/backend/sonota/sonota04/siryo1.htm
(4)原子力安全委員会:低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る濃度上限値について(平成19年年5月21日)、

(5)火力原子力発電技術協会(編):「やさしい原子力発電、放射性廃棄物の処理・処分」火力原子力発電技術協会、Vol.40 No.12 p.307(1989)
(6)ICRP:Radiation Protection Principles for the Disposal of Solid Radioactive Waste (Pub.46), Annals of the ICRP, 15 (4), (1985)
(7)ICRP:Recommendations of the International Commission on Radiological Protection, Adopted by the Commission on November 1990 (Pub.60), Annals of the ICRP, 21 (1-3), (1991)
(8)ICRP Publication 103:“The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection”「国際放射線防護委員会の2007年勧告」(2007)、
http://www.icrp.org/docs/ICRP_Publication_103-Annals_of_the_ICRP_37(2-4)-Free_extract.pdf
(9)総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 第34回廃棄物安全小委員会:配布資料3「放射性廃棄物処分等の安全規制に係る国内の検討状況」平成20年7月3日、

(10)原子力安全委員会:「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」平成19年7月12日、

(11)総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 廃棄物安全小委員会:「低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分に係る安全規制について(中間報告)」平成19年3月20日
(12)原子力安全委員会:平成21年版原子力安全白書、

(13)文部科学省 放射線審議会事務局:日本における放射性廃棄物の埋設処分の概要について(平成21年1月13日)、

(14)総理府:核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則(昭和六十三年一月十三日総理府令第一号)
(15)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)
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