<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会が昭和62年にまとめた標題の中間報告は、低レベル放射性廃棄物浅地中処分に対する「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」(昭和60年)を補完するものとして策定され、浅地中埋設できる廃棄体の放射能濃度上限値について提言を行っている。この提言で示された廃棄体中の主要核種の上限値はそのまま法令に採り入れられ(昭和62年3月)、浅地中処分による埋設事業の安全規制に寄与してきた。その後、この上限値を超える放射性廃棄物の処分に関する検討が進み、低レベル放射性廃棄物を地下数十メートル以深の深度に埋設する「余裕深度埋設」や高レベル放射性廃棄物地層処分を含む廃棄物埋設事業に関する法令の整備に並行して、現在は新たな基準値が「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成19年)として提言されている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている埋設処分の安全規制に関する考え方と基準値については、原子力規制委員会によって再検討が行われる可能性もある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 原子力安全委員会・放射性廃棄物安全規制専門部会は、昭和60年(1985年)10月、「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」と題する報告書(以下「基本的考え方」という)をとりまとめたが、原子力安全委員会はその内容を妥当と認め、同年10月24日にこれを原子力委員会決定事項とした。この「基本的考え方」は、低レベル固体廃棄物の陸地処分に当っての「安全確保のシナリオ(第1段階から第4段階までの経時的な段階管理方式)」を提示しているほか、「陸地処分できる低レベル固体廃棄物の放射能濃度上限値」の決定、ならびに「極低レベル放射性固体廃棄物」および「無拘束(規制免除)廃棄物」の設定を勧告している。
 上記専門部会はさらに、「基本的考え方」に関する作業とほぼ並行して進めてきた検討の結果をまとめ、標題の「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について」と題する中間報告(昭和61年12月)(以下「61年基準値報告書」という)を発表した。この報告書は、特に「陸地処分(浅地中処分)できる低レベル固体廃棄物の放射能濃度上限値」について提言を行ったものであるが、極低レベル固体廃棄物と無拘束廃棄物のそれぞれの限界値については言及していない(表1-1および表1-2参照)。
 「放射能濃度上限値」についての提言は、昭和61年5月の通常国会において「廃棄の事業の創設等」を内容とする原子炉等規制法の改正法が成立したことに伴い、法令のなかに採り入れられた(原子炉等規制法51条の2、同法施行令第13条の9項、昭和62年3月公布)。
 その後、原子炉施設の解体などに伴って発生する放射性コンクリート廃棄物の浅地中処分を対象とした第2次中間報告(平成4年)、および非固型化金属等廃棄物(コンクリート以外の原子炉施設解体廃棄物で容器に固型化しないもの)を対象とした第3次中間報告(平成12年)が発表された。さらに、放射能レベルがこれまの上限値より高い低レベル放射性廃棄物を地下数十メートル以深の深度に埋設する「余裕深度埋設」や、再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物の「深地層処分」についての検討が進められ、これに基づいて平成19年6月に原子炉等規制法が改正された。この改正により、高レベル廃棄物の埋設事業が「第1種廃棄物埋設」として、また、「余裕深度埋設」を含めた低レベル廃棄物埋設事業が「第2種廃棄物埋設」として認められるようになった。
 これに伴い、原子炉等規制法施行令では上述の低レベル固体廃棄物の放射能濃度上限値の記載が削除され、代わりに「第1種廃棄物埋設」の対象となる放射性物質の放射能濃度が定められた。他方、低レベル固体廃棄物の放射能濃度に関する新たな基準値が、原子力安全委員会により「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成19年5月)として提言されている。(表2-1および表2-2参照)なお、低レベル放射性廃棄物の処分方策、実施に至った主な経緯については、ATOMICAデータ「わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯(05-01-03-03)」に解説されている。
 このように、「61年基準値報告書」は基準値そのものは現在では変わっているものの、「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について」の報告の出発点となるものであり、以下にその要旨を示す。
1.低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分に係る「被ばく管理を必要としない線量」について
(1)段階的管理:低レベル放射性固体廃棄物の処分方法としては、浅地中に埋設し放射能が十分に減衰するまでの間、放射能レベルに応じた段階的管理を行う方法が適当である。
(2)規制除外:段階的管理は、「基本的考え方」にあるように、基本的には4つの段階が考えられるが、その最終段階(第4段階)については、埋設された放射性廃棄物により一般公衆の受けるおそれのある被ばく線量が被ばく管理の観点からは処分場を管理することを必要としない低い線量となることを基準として判断する。
(3)社会的リスクと線量:ICRP、IAEA等の国際機関や諸外国の機関から、各種の報告書等が公表されているが、それらの中に次のような考え方が示されている。一般の社会通念として、個人の日常の行動の決定に際して、その行動に伴うリスクが非常に小さければ、そのリスクを考慮していないという意味で無視できる程小さいリスクのレベルがあり、このリスク・レベルに相当する個人に対する年実効線量は100マイクロシーベルト(10ミリレム)のオーダーである。
2.浅地中処分可能な低レベル放射性固体廃棄物の「放射能濃度の上限値」について
2.1 特定の処分場において浅地中処分できる低レベル放射性固体廃棄物の濃度制限の必要性
(1)放射能の制限:安全確保のために、廃棄体、ピット等に一定の要件が課せられるのと同時に、浅地中処分できる放射性廃棄物の放射能レベル、すなわち、放射能濃度に対しても上限を設ける必要がある。
(2)放射能濃度上限値と被ばく線量評価:「濃度上限値」は、具体的な処分場所の自然条件のデータ(地質、水文、地勢、気候等について実測や観測で得られたデータ)、計画された処分方法、処分量、管理期間等を基に、一定の安全評価の考え方に従って、処分されるべき廃棄物の放射性核種に起因する被ばく線量を評価した上で個々の処分場ごとに決めるのが妥当である。「管理期間内」では各段階ごとに想定される被ばく経路について公衆被ばく線量評価を行い、現行法令規制値(500ミリレム)を超えないことを確認するとともに、ALARAの考え方に基づき、被ばく線量をできる限り低減させる。一方、「管理期間終了後」については、処分場を管理する必要のないほど線量が低下していることを確認する。
2.2 廃棄物埋設事業の許可申請を行うことができる放射性廃棄物の放射能濃度の上限値
 原子炉等規制法の改正により、放射性廃棄物を「埋設の方法」により最終的に処分する事業を行おうとする場合、「廃棄物埋設の事業の許可」を要することとなっており、同法に規定する政令で、その許可申請を行うことができる放射性廃棄物の範囲を定めることとなっている。この範囲の「上限の濃度値」を超える放射性廃棄物は埋設が許されないこととなるが、この上限値は以下に述べる考え方で設定することが適当である。なお、この範囲の「下限の濃度値」を下回るものは、もはや放射性廃棄物としての特殊性を考慮しなくてもよいものとして埋設事業の許可は必要がないこととなる。この値は、いわゆる規制免除値(無拘束限界値)であり、その具体的な放射能濃度の数値等については、今後の検討課題とする。
(1)埋設事業の対象となる放射性廃棄物:政令で定める範囲は、当面、原子炉施設から発生し、容器に固形化された放射性固体廃棄物のうち浅地中処分の対象とすべきものだけについて設定するのが適切である。これ以外の低レベル放射性固体物廃棄物については今後の検討によって判断する。
(2)TRU廃棄物の除外:再処理工場において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物および再処理工場、プルトニウム燃料加工工場等において発生するTRU核種を多く含む廃棄物については、現在、処分方法に関する技術開発が進められている段階であることに鑑み、政令で定める放射性廃棄物の範囲としては、これらを含めないこととするのが妥当である。
(3)政令で定める上限値の設定に当っての考慮:浅地中処分法により処分される場合を想定し、被ばく経路については、IAEAが規制除外濃度の導出のために用いている被ばく経路(これらの被ばく経路は米国、仏国で採用されているものと同様)を採用する(表1-1表1-2参照)。また線量評価の際に採用するパラメータの値は、わが国の自然条件等を考慮して適切に選択する。また、線量評価に当たって目標とする被ばく線量は、前述の個人線量年間100マイクロシーベルトを更に低くした年間10マイクロシーベルト(1ミリレム)とし、放射能濃度の低減を期待する期間は、フランスにおける浅地中処分の管理期間(300年)を参考とする。
(4)埋設可能な放射能濃度上限値:上限値の設定に当たっては、原子炉施設から発生する廃棄物に含まれる放射性核種の組成は廃棄物によって大きく変わらないと考えられるため、この組成を考慮に入れた上、放射線防護の観点から重要な代表的核種について定めておくことが実際的である。以上に述べた設定の考え方に従い計算した結果に基づいて、原子炉施設から発生し、容器に固形化された廃棄物に関する「上限値」を次のように設定することを提案する。
60Co:300 Ci/t(11.1 TBq/t)、90Sr;2 Ci/t(74 GBq/t)、137Cs:30 Ci/t(1.11 TBq/t)、63Ni:30 Ci/t(1.11 TBq/t)、14C:1 Ci/t(37 GBq/t)、アルファ線放射物:0.03 Ci/t(1.11 GBq/t)
<図/表>
表1-1 埋設事業の許可に必要な放射性廃棄物の放射能濃度上限値設定の前提条件となる処分方法、被曝経路等
表1-1  埋設事業の許可に必要な放射性廃棄物の放射能濃度上限値設定の前提条件となる処分方法、被曝経路等
表1-2 埋設事業の許可に必要な放射性廃棄物の放射能濃度上限値設定の前提条件となる処分方法、被曝経路等
表1-2  埋設事業の許可に必要な放射性廃棄物の放射能濃度上限値設定の前提条件となる処分方法、被曝経路等
表2-1 浅地中処分に係る放射能濃度上限値の推奨値
表2-1  浅地中処分に係る放射能濃度上限値の推奨値
表2-2 余裕深度処分に係る放射能濃度上限値の推奨値
表2-2  余裕深度処分に係る放射能濃度上限値の推奨値

<関連タイトル>
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(制度化の観点から) (11-02-05-02)
処分を前提とする放射性廃棄物の区分(放射能基準) (11-03-04-01)
低レベル放射性固体廃棄物の処分に対する安全規制(許認可要件) (11-03-04-02)
放射性廃棄物としての規制免除についての考え方 (11-03-04-04)
放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方 (11-03-04-06)
低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について (11-03-04-07)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書(平成元年版)、大蔵省印刷局(1989年)
(2)原子力委員会(編):原子力白書(平成元年版)、大蔵省印刷局(1989年)
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力安全委員会 安全審査指針集(改訂5版)、大成出版社(1989年)
(4)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):原子力安全委員会 指針集(改訂12版)、大成出版社(2008年)
(5)原子力規制関係法令研究会(編著):原子力規制関係法令集 2008年版、大成出版社(2008年)
(6)原子力安全委員会:低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について(平成19年5月21日)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ