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<概要>
 再処理施設における放射性廃棄物発生の特徴は、全工程を通して発生源が散在していること、大部分の1次廃棄物は酸性の廃液であること、高レベル放射性廃液やTRU廃棄物 等で代表される特有な廃棄物が発生すること、原子力発電所の場合と異なり中レベル放射性廃棄物が多量に産み出されること、などである。したがって、各種の廃棄物の発生源を特定し、適切な対策を講じることによって従業員ならびに公衆に与える放射線被曝を可能な限り低減させることが求められている。気体廃棄物の大部分は再処理プロセスの前処理工程で、液体廃棄物の大部分は抽出分離工程で発生する。また固体廃棄物の主なものは被覆管廃材のほか、高レベル廃液固化したガラス固化体である。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 核燃料サイクルのなかで、再処理プロセスは多様な放射性廃棄物の発生源である。これらのどの廃棄物についても適切な措置が施され、それによって従業員及び一般公衆の受ける放射線被曝が合理的に可能な限り(ALARA)低減されている必要がある。そのためには、再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源(Source term) を特定し、十分な対策を講じておかなければならない。

1.湿式再処理法の基本フローの概要
 湿式再処理法(ピューレックス法)の基本フローは、東海工場の場合 図1 に示すように「前処理工程」、「抽出分離工程」と「精製工程」から構成されている。さらに抽出分離工程以後は、第1、第2及び第3サイクルのように区分されている。この再処理法の基本は、使用済燃料の硝酸溶解によって造り出された「U・Pu・FP 混合水溶液」に、抽出溶媒(りん酸トリブチル、TBP)を繰り返し接触させることにより、混在していた3物質(U・Pu・FP)を相互に分離するプロセスである。その過程で、ウランとプルトニウムは水溶液相と溶媒相の間を往来する。再処理では硝酸やTBPのほかに、ドデカン(炭化水素系化合物でTBPの稀釈剤)、ヒドラジン(Puの原子価調整時に使用)など各種の薬剤が使われる。また使用済TBPや硝酸の回収もはかられている。このように再処理プロセスでは多種の化学物質が使用されているので、それらもプロセス廃棄物の組成の中に含まれている。

2.再処理施設における放射性廃棄物発生の特徴は、次の通りである。
 ・全工程を通して発生源が散在していること。
 ・気体、液体及び固体廃棄物が発生するが、大部分の1次廃棄物は酸性の廃液であること。
 ・高レベル放射性廃棄物、TRU(超ウラン元素)含有廃棄物(略してTRU廃棄物)、トリチウム廃棄物で代表される特有な廃棄物が発生すること。
 ・廃溶媒で代表される特有な薬剤廃棄物が発生すること。
 ・原子力発電所の場合と異なり中レベル放射性廃棄物が排出されること(ただし、わが国の法令ではまだ中レベル放射性廃棄物の分類はない)。

3.再処理プロセスにおける放射性廃棄物の放出源
(1) 再処理に伴う主要廃棄物の発生源
  図2 に再処理全工程から発生する主要廃棄物の種類とそれらの発生源を示す。
 (a) まず「気体廃棄物」の大部分は使用済燃料の「剪断」及び「硝酸溶解」のステップで発生し、その核種はトリチウム(3H) 、希ガス(主に85Kr )、ヨウ素129I,131I)等である。一部のオフガスは「転換」のステップ「Pu(NO34 → Pu02等」や「脱硝」のステップでも発生する。このようなオフガスは、その放射能レベルが放出基準未満の場合には、環境に放出される。特に問題となるヨウ素核種に対してはアルカリ洗浄(含ヨウ素の洗浄廃液のセメント固化)や銀吸着(ヨウ化銀吸着体のセメント固化)等の処理を施す。
 トリチウムと希ガス(85Kr等)については、可能な限りシステム内に閉じ込めておく研究開発が進められている。前者については、トリチウム気体の吸着のほか、酸素との結合によるトリチウム水への転化、後者については深冷分離法や膜透過法によるクリンプトン気体の分離回収(ボンベ中への貯蔵)などが計画(一部実施)されている。しかし、回収された3H,85K,129I 等の「最終処分法」は未定である。
 (b) 「液体廃棄物」の大部分は「抽出残液」、「溶媒洗浄廃液」、「廃溶媒」等であり、それらは再処理の主工程、すなわち抽出分離工程及び精製工程で発生する。その放射能レベルは“高、中、低”とすべての範囲にわたっており、他にトリチウム廃液の発生も特徴的である。それら廃液の殆どすべては濃縮・固化されるのが通常である。
 「高レベル放射性廃液」は抽出分離工程の第1サイクル・第1段階で発生する。高レベル放射性廃棄物の定義は必ずしも明確でないが、少なくとも再処理プロセスに結び付けて考えると、「大部分のFP(ベータ・ガンマ線放射能)と若干量のアクチニド元素(主としてアルファ線放射能)を含み、長期にわたって発生熱対策が必要な廃棄物」と表現することができよう。高レベル廃液は圧倒的に高い放射能を持つので(処理された使用済燃料中の放射能の90%以上を含む。ただしその容積は大変小さい)、数年間貯槽中で冷却し、その後においてガラス等を用いて固化する。得られた「ガラス固化体」は40〜50年間地上施設で中間貯蔵された後、数百メートル以深の安定地層中に定置され、安全の確認を経て埋蔵(処分)される。
 (c) 「固体廃棄物」の代表は燃料棒被覆管廃材等の残渣(ハル、hull)や損耗機器(機材)である。勿論、放射性廃液の固化物も二次的固体廃棄物である。通常、ハルには微量ではあるがプルトニウムが付着しているので、いわゆるTRU廃棄物の一種と見倣すこともできる。
 「TRU廃棄物」を処分を前提として、高レベル廃棄物の範囲に入れるべきか、中・低レベル廃棄物の中に含めるべきか、必ずしも見解が統一されていない。わが国では「高レベル廃棄物に準じる処分」との指針が示されているのに対し、イギリス等では中レベル廃棄物の範疇に含めているのが実状である。いずれにしても留意すべき廃棄物であることには変わりはない。
(2) 抽出分離工程からの液体廃棄物発生と処理フロー
  図3 に再処理プロセスの「抽出分離工程」から発生する放射性液体廃棄物(主として廃液)の移行経路を示す。再処理主工程では各種の塩やTBP抽出溶媒が使われ、更に抽出溶媒洗浄用のドデカン等も利用される。また使用されたTBPは強い放射線を受けて損傷(劣化)し、そのまま使用すると抽出(除染)効率に悪影響がでてくる。そこで、アルカリ(Na2 CO3 )洗浄によって有効溶媒のみを回収し、それをリサイクル(再利用)する。この主工程から発生する廃棄物は、同図の右端に記したような「酸性あるいは含塩の高・中・低レベル放射性廃液」であり、程度の差こそあれ、若干量(または極微量)のTRU (アルファ放射体)を含んでいる。
   図4 は、前図で示されたプロセス廃液(廃溶媒も)のほか、低レベルの一般廃液や極低レベル廃液に対する「処理」の流れをまとめたものである。多くの場合、廃液は固化、貯蔵される。
(3) 環境への放射能放出と線量評価
 再処理工場からの放射能放出量とその線量評価(推定)を 表1 に示す。
 再処理工場から環境へ放出される放射性物質は、気体にあってはクリプトン、ヨウ素、トリチウム各核種、また液体にあってはトリチウムが主なものである。いずれの場合も放出基準が満足されていなければならないが、周辺公衆に与える被曝線量を可能な限り小さくするよう(ALARA)、種々の対策例えば、クリプトンについては排気からそれを回収し施設内に貯蔵しておくとか(貯蔵期間中の放射能減衰を意図)、排水中のトリチウムについてはプラント内でのリサイクルをはかるとか、環境保全への技術開発が進められている。

(注)「軽水炉」の場合には平常時における公衆の被曝低減に対する一定の目標値、例えば年間0.05mSv が定められており、「再処理施設」の場合にも、これが準用されている。
<図/表>
表1 再処理工場からの放射能放出量とその線量評価(推定)
表1  再処理工場からの放射能放出量とその線量評価(推定)
図1 湿式再処理法(ピューレックス法)の基本フローの概要
図1  湿式再処理法(ピューレックス法)の基本フローの概要
図2 再処理に伴う主要廃棄物の種類と発生源
図2  再処理に伴う主要廃棄物の種類と発生源
図3 再処理工場の「抽出分離工程」からの放射性液体廃棄物の発生
図3  再処理工場の「抽出分離工程」からの放射性液体廃棄物の発生
図4 再処理で発生した放射性液体の処理フロー
図4  再処理で発生した放射性液体の処理フロー

<関連タイトル>
再処理の概要 (04-07-01-01)
再処理廃棄物の特性 (04-07-02-05)
再処理プロセスと安全性についての基本的考え方 (11-02-04-01)
再処理プロセス廃棄物の安全技術の概要 (11-02-04-04)
再処理施設の安全規制の概要 (11-02-04-05)

<参考文献>
(1) 原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成6年版、大蔵省印刷局(1995年3月)
(2) 原子力委員会(編):原子力白書 平成7年版、大蔵省印刷局(1996年2月)
(3) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):原子力安全委員会安全審査 指針集 改訂8版、大成出版(1994年10月)
(4) 下川純一:日本原子力事業NAIG特報、1987年 9月号
(5) 石森編:原子炉工学講座4(燃料・材料)、培風館、(1972年)
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