<本文>
再処理施設の安全対策は極めて厳重で、例えば「立地条件」の設定に当たっては立地評価事故を想定し、施設と公衆居住区域との適切な隔離距離の判断に供している。また施設の「閉込め機能」については、主要機器をセル構造のなかに格納することにより
放射能の逸散を防いでいる。「
臨界管理」については取扱い物質(
ウラン、
プルトニウム等)の形状、容量、質量、濃度を規定し、常に最小臨界制限値未満の状態を保持するとともに、たとえ従業員が誤操作したとしても臨界防止できるよう適切な対策を講じている。「地震対策」については発電用原子炉に適用される耐震設計審査指針に準拠し、耐震設計上の重要度分類を設けて万全を期している。「
放射性廃棄物対策」については、特にプロセス廃気と高レベル放射性廃液の処理に高いプライオリティを与えている。
1.廃棄物処理の観点からの再処理工程の改善
再処理プロセスを発生廃棄物の処理・処分の立場から考察すれば、なお改善を期待する部分がある。また発生廃棄物の措置についても安全技術のうえで開発を必要とする分野がある。
(a) 再処理工程は、プロセス廃棄物および2次廃棄物の発生量ができるだけ小さなものであることが望ましい。例えば、プルトニウムの原子価変換(還元)に薬剤を使わない「塩フリー」プロセスの採用などが期待される。
(b) 環境に影響を与えやすいトリチウム(
3H )、ヨウ素(
129I 、
131I )、炭素(
14C)などは、できるだけ再処理プラント内に留めておくか、または積極的に回収(除去)し、問題点を極力減らしておくことが望ましい。例えば、トリチウムの場合、海洋への放出を相当程度抑制できる「水リサイクル・プロセス」を主工程に付設しておくことも効果があろう。
(c) プルトニウムの逸散(廃棄物中へのまぎれ込み)が極力抑制されたプロセスが開発されることが望ましい。たとえベータ・ガンマ放射能の小さな廃棄物であっても、一定量のアルファ放射体の取込みによって、TRU廃棄物に分類されてしまう恐れがある(TRU廃棄物の処分法はまだ確定していないが、
深地層処分など、その取扱いが面倒となる可能性あり)。高レベル廃液に対する群分離技術の開発も有意義である。
2.再処理プロセス廃液の処理技術の開発(
表1 参照)
表1に再処理プロセス廃液の主要なものである高レベル廃液、中レベル廃液、含トリチウム廃液、スラッジ廃液それに有機廃液に対する処理技術(回収・前処理・減容→固化)の開発段階を示す。最大の課題は高レベル廃液の濃縮・固化であり、さらにその最終処分技術の成否が再処理の操業を将来的に支配する重要因子となっている。廃液濃縮のための蒸溜缶(蒸発缶)としては、すでに常圧式のものが開発されているが、日本原燃では様々の利点から減圧缶の採用を計画している。なお同表からわかるように、廃液の固化技術としては、高レベル廃液に対する
ガラス固化、中レベル廃液およびスラッジ・有機廃液に対するセメントおよびアスファルト固化技術が、それぞれほぼ確立されている。まだ研究開発の段階にある含トリチウム廃液の処理については、回収トリチウムの処分問題とともに、今後に残された重要なテーマである。
(1) トリチウム回収技術の開発(
図1 参照)
このトリチウム回収問題に対して現在までに2つの提案がある。それを
図1を使って説明する。
(a)
ボロキシデーション法(voloxidation method ):本法は、使用済UO
2 燃料を高温酸化してU
3O
8とし、ついでU
3O
8を還元して再びUO
2 に戻すプロセスを何回か繰り返すことにより、体積変化(相変化)に起因する解砕を促す方法である。つまり、燃料の解砕により、内部に閉じ込められていたトリチウムを気体として放出させ、それを回収しようというものである。本法は、、
使用済燃料の溶解以前に適用されるため、もし酸化−還元の繰り返し工程中に全量のトリチウムが放出・回収されたならば、トリチウムは再処理の以後の工程(湿式系)に移行することはない。しかしながら、放出トリチウムの割合が期待したほど大きくないこと、高温条件が必要であることなどの難点によって、実用化の道のりは遠いと考えられている。
(b) 水リサイクル法(Trilex process):本法は、湿式によるトリチウム回収(プラント内でのリサイクル)技術である。トリチウムは再処理の共除染(共抽出)工程で、若干量ではあるが溶媒(
TBP)側へも移行してしまう。溶媒側にはウランとプルトニウムが抽出されているので、トリチウムがそれら重要物質を汚染していることになる。したがって、除染工程より下流側にあるウラン精製工程ならびにプルトニウム精製工程に、トリチウムがまぎれ込んでしまうのである。このことは、溶媒を使用するピューレックス再処理法を採用する限り、トリチウムが、再処理のほぼ全工程、すなわち共除染(共抽出)、U ・Pu分離、U 精製、Pu精製、溶媒回収、廃棄物処理各工程にわたって拡散してしまう(従来法だと回避不能)ことを意味している。そこで、共除染装置に隣接して、「溶媒中のトリチウムを水相側に放出させるためのトリチウム洗浄装置」を付設する。。溶媒中のトリチウムを水相側に移行させる方法としては、溶媒を軽水(あるいは稀硝酸)で洗ってやる方法が最も軽便かつ効果的である。現在までの試験結果によると、この「水洗法」で、共除染工程から下流側へのトリチウム移行を相当程度阻止しうる見通しが得られている。しかし、トータル・システムとしてこの「水リサイクル法」に全く問題がないわけではない。その理由は、水相側に移行させられたトリチウムは共除染工程の上流側にリサイクルされるので、時間とともに、使用済燃料溶解−共除染間のトリチウム濃度が増大していく。したがって、直ちに、そのあいだのトリチウム含有水相を取り出し、トリチウムのみを回収してやらなければならない。水相からのトリチウム回収は軽水とトリチウム水との分離、言い換えれば軽水素とトリチウムとの同位体分離にほかならない。適用が考えられる方法としては電解法、蒸溜法などあるが、再処理システムのなかに経済的にそれらを取り込めるか否か、なお検討が必要である。
(2) 廃溶媒(TBP) の処理技術の開発(
図2 参照)
湿式再処理では、ほとんどあらゆる工程で溶媒(TBP) が使われている。放射線下ではその性質(抽出能力)が低下するほか、長期間の使用による劣化(構造変化)も回避できない。そこで、無能化した溶媒を除去し、処理する技術開発が進められている(TBP を長期間廃液中に放置しておくことは、安全確保のうえから問題が多い)。各種の処理法が試みられているが、それらのうち、「酸化分解法」の基本プロセスを
図2に示す。本法はTBP に過酸化水素を反応させ、それをリン酸と二酸化炭素とに分解するものであり、TBP 焼却法などより2次廃棄物が減量するというメリットがある。
(3) 再処理プロセスと廃棄物対策に寄与する研究開発課題(
図3 参照)
再処理プロセスを発生廃棄物の処理の立場から考察すれば、なお改善を期待する課題が残されている。再処理技術そのものの高度化と関連させて、
図3に重要な開発課題を示す。
3.再処理プロセス廃気の処理技術の開発(
表2 参照)
再処理から廃棄物処理に至る殆どあらゆる工程から放射性オフガスが発生する。そのうち主要な発生源は使用済燃料の溶解工程である。
表2は各種オフガスに対する処理技術の開発状況を示したものである。
(a) ヨウ素については、特に
129Iの
半減期(ベータ壊変)が1,570 万年と極めて長く、将来にわたり影響が残される心配も拭えないので、その回収・除去は重要な課題の一つとされている。現状では、アルカリ洗浄技術(ヨウ素の水相への吸収)が主役となっているが、洗浄廃液の固化と固化体の長期安定性を十分に確証しておく必要がある。
(b) クリプトンについては、深冷分離法の適用が、実際に動燃(現日本原子力研究開発機構)再処理工場でも試みられている。本法は、再処理オフガスを一旦液化し、各成分の揮発度の差を利用してクリプトンを分離するものである。分離されたクリプトンはシリンダー(ボンベ)中に詰められ保管される。現状は、ここまで止りである。放射性クリプトン(
85Kr はベータ壊変、その半減期は 10.73年)の放射能が十分に減衰するまでシリンダー中にそのまま保存しておくのか、それとも何らかの手段を講じてそれを固定(固化または金属中への封入など)するのか、まだ方針が定まっていない。
(c) トリチウムについても、最終的な固定技術が未完成である。多くの場合、トリチウムは水の形態で挙動するので、生体への取組みを完全に防止するよう、厳重な措置が必要である。この要求は、核融合時代の到来への布石でもある。すでに述べた再処理「水リサイクル法」でも、また「
核融合炉燃料サイクル」の場合でも、トリチウムの同位体分離が不可欠である。コンパクトで効率的、かつプラント・システムとの整合性の高い同位体分離技術の実現が強く望まれる。
4.TRU廃棄物の処理技術の開発
再処理プロセスで発生するTRU廃棄物の中で最もプルトニウム含有量の大きなものは「高レベル放射性廃液」である。続いて、被覆管廃材である
ハル(hull)などの固形物も若干量のプルトニウムを付着している。また廃溶媒や溶媒再生廃液に分配したプルトニウムも微量であるが無視できない。従って、TRU廃棄物処理処分の分野における研究課題としては、それらの発生源の特定、発生量の確認、TRU廃棄物の低減に有効な再処理プロセスの技術開発、TRU廃棄物からのプルトニウムなどアルファ核種の回収、固体廃棄物の減容に効果のある焼却法や酸消化法(アルファ核種で汚染されたゴム有機物質等に強酸を加えそれらを分解。残渣の容積は基の廃棄物体積の1/10から1/30。残渣からの超ウラン元素の回収率が高い)の開発、超ウラン元素含有量の間接測定法の研究などをとり上げることができよう。さらに、長期間保管(貯蔵)基準や最終処分法の策定なども重要な課題となろう。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理プロセスと安全性についての基本的考え方 (11-02-04-01)
再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源 (11-02-04-02)
再処理施設の安全規制の概要 (11-02-04-05)
<参考文献>
原子力安全委員会編(1989):原子力安全白書(平成元年版)
原子力委員会編(1989):原子力白書(平成元年版)
原子力安全局監修(1989):原子力安全委員会安全審査指針集(改訂5版)
下川純一:日本原子力事業NAIG特報、1987年9月号